連載コラム

第20回 「NFCカンファレンス」を終えて

[ 2012年3月29日 ]

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

 山本国際コンサルタンツの山本です。事情によりしばらく本連載への寄稿が途絶えてしまっておりましたが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 さる3月6日〜9日にかけて開催された『NFC & Smart WORLD 2012』では、「NFCカンファレンス」のモデレーターを務めさせていただきました。今回はその雑感を述べさせていただきたいと思います。(社名は敬称を略して記させていただきました)

開催3年目を迎えたNFCカンファレンス

 NFCカンファレンスは今年で3回目になります。今年はNFCの導入を進める国内3キャリア(携帯電話事業者)のセッションを中日に据え、その前後に決済サービス事業者、インフラ・プラットフォームを提供するメーカーとシステムインテグレーターなどと、全3回のセッションで完結する流れとしました。

<今年のNFCカンファレンス・プログラム>
7日 NFC決済サービスセッション
 オリエントコーポレーション(長谷川氏)、クレディセゾン(吉中氏)、
 セブン・カードサービス(磯邉氏)、ビットワレット(宮沢氏)
8日 モバイル3キャリアセッション
 NTTドコモ(市川氏)、KDDI(阪東氏)、ソフトバンクモバイル(小峰氏)
9日 プラットフォームセッション
 NTTデータ(平林氏)、エリクソン・ジャパン(木下氏)、
 オベルチュール・テクノロジーズ・ジャパン(根津氏)、電子決済研究所(多田羅氏)

 Webサイトからの事前予約は満席、当日も大勢のキャンセル待ちの行列ができるなど盛況でした。大勢の方にご聴講いただいた事は嬉しい限りで、心より感謝申し上げます。これは初開催となる『NFC & Smart WORLD』への注目度もさることながら、NFCに対する、より具体的な関心の高さを象徴するものではないでしょうか。

写真1 NFCカンファレンス会場の模様

注目すべき3つのポイント

 今年のNFCカンファレンスの流れのなかで私が注目した3つのポイントがあります。
 1つは、昨年末にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3キャリアが共同で、「モバイル非接触ICサービス普及協議会」を設立したこと。その後、今年に入ってKDDIがNFCを搭載したスマートフォン(商用モデル)を公式に発表したこと。
 そしてもう1つは、FeliCaの歴史と共に歩んだといって過言ではないEdyのビットワレット社がカンファレンスの直前にNFC(Type A)への対応を表明したことです。

<今年の注目点>
1)モバイル非接触ICサービス普及協議会の設立
2)KDDIのNFC対応スマホリリース(商用)
3)EdyのNFC対応

 モバイル非接触ICサービス普及協議会は、昨年末にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3キャリアが設立した協議会で、日本におけるモバイル非接触ICサービスのさらなる拡大を目的としています。
 国内におけるTypeA,B規格のモバイル非接触サービスの環境整備と、サービス提供者が低廉にサービスを実現できる環境整備などを目指して活動を始めています。「今後準備が整えば、クレジットカード会社などのサービス提供者にも参加していただく予定」とのことで、今後の展開が期待されるところです。しかしその一方で、「海外ではNFC推進を目的とした協議会活動が思わしい成果を上げていない例もある」など、協議会活動の難しい側面を指摘する発言もありました。モバイル非接触ICサービス普及協議会が日本におけるNFCの推進に寄与することは間違いないと直観しますが、その役割はきわめて重要ということでしょう。

写真2 8日のパネリスト(写真左から、NTTドコモ・市川氏、KDDI・阪東氏、ソフトバンクモバイル・小峰氏)

日本の代表的な電子マネー2社がNFCを語る

 すでにご存じの方も多いと思いますが、KDDIが本年1月にリリースした「GALAXY SII」は、国内で通信キャリアが正式にNFCサービスを搭載する初のスマートフォンです。1月の発表時点で14社がモバイルNFCサービスを提供予定とのことで、今後のサービス展開が期待されます。特に7日にご登壇いただいたオリエントコーポレーションとクレディセゾンは、これまでもソフトバンクモバイル、KDDIとのNFCサービストライアルに対して積極的に参加してきたメンバーでもあり、もちろん先の14社にも含まれています。
 今回、NTTドコモ、ソフトバンクから国内でのNFC対応機種リリースに関する具体的な発言はありませんでしたが、両社ともすでに韓国との共同トライアルを実施しており、今後の発表は時間の問題ではないか、という期待感がありました。
 それに加え、7日にご登壇いただいたビットワレットが、その前日にType A方式を用いたEdyの実現性を検証するトライアルを表明した、という絶妙なタイミングでもありました。
 これまでFeliCaでサービス提供をしてきた代表的な電子マネー事業者であるセブン・カードサービス、ビットワレットの2社が、NFCカンファレンスにご登壇されて、NFCについて語る意義は大きいと思います。これまでNFC化に際し、決済端末やプラスチックカードの低廉化(Type A,B規格採用により)が可能、海外との相互運用性確保、などを指摘する意見が多かったのですが、今年は、NFC対応の検討理由の一つに「海外製のスマートフォンが増えるにつれて、国内でもType A,B規格のみに対応しFeliCa非対応の機種が増える」とする発言がありました。3キャリアセッションでも全く同じ発言があり、これまでFeliCa対応が大前提であった「おサイフケータイ」に対する考え方の変化を感じました。

写真3 7日のパネリスト(写真左から、オリエントコーポレーション・長谷川氏、クレディセゾン・吉中氏、
セブン・カードサービス・磯邉氏、ビットワレット・宮沢氏、モデレーター・山本氏)

NFC化に際し、電子マネーではシンクライアントモデルを検討

 TypeA,B方式の対応を進める上で、お店にすでに設置されているFeliCaの決済端末を置き換えていくことが容易でないことはさまざまな場で議論されています。しかし、今後はNFC対応スマートフォンを決済端末として利用したり、安価なリーダー(読み取り機)をお店に置き、高度な認証を(端末側でなく)サーバー側に委ねることで、インフラコストを下げようとする動きも見られます。セブン・カードサービス、ビットワレットの両社とも同様の事情から「シンクライアント」モデルを検討中との発言があり、ビットワレットでは実際のデモまで展示していました。
 高機能で高価と思われがちなEMV対応決済端末も、実は決済端末側に多くの機能を持たせない「シンクライアント」の原則でデザインされています。そのためEMVに対応する決済端末は非接触機能が付いたものでも比較的安価で、海外では100ドル前後のものが出回っています。

プラットフォームセッションはTSMを中心に議論

NFCカンファレンスの3日目は、通信キャリアやサービス事業者のNFCサービスを支える「プラットフォーム」を中心とした議論を想定し、設定しました。NTTデータ、エリクソン、オベルチュールに加え、電子決済研究所にご登壇いただきましたが、エリクソンの木下さんがウルトラマンに登場する科学特別捜査隊(通称『科特隊』)のいでたちで登壇されるというちょっとしたハプニングもあって、楽しいセッションとなりました。
 特に各社が提供するTSM(※注)の機能については、各社異なる立場もあって進行が難しかったのですが、日本では全体のとりまとめ役のような位置づけにあるNTTデータと、具体的なソリューションを持つエリクソン、オべルチュールなどが協力してインフラ整備を進める方向、と言う微妙な発言がありました。これは日本国内でのNFCプラットフォーム整備の一つの方向性を示唆するものと受け取りました。
 ちなみに3日目は本リレーコラムのもう一人の著者である電子決済研究所の多田羅さんにもご登壇いただきました。難しい用語をわかりやすく解説していただき評判でしたので、またの機会に多田羅さんからご紹介いただければと思います。

写真4 8日のパネリスト(写真左から、NTTデータ・平林氏、エリクソンジャパン・木下氏、
オベルチュールテクノロジーズジャパン・根津氏)

※TSM=Trusted Service Manager
NFCスマートフォンにアプリ、サービスをダウンロードするための仕組み。サービス事業者や通信キャリアが信頼する第三者にアプリを委ねるため重要な位置づけを持つ。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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