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連載コラム

「モバイルウォレット」がNFCの次に狙う市場は?

[ 2012年7月18日 ]

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 最近、「Google Wallet」「ISIS Mobile Wallet」「V.me by Visa」など、NFC搭載スマートフォンに対応するアプリケーションソフトが「モバイルウォレット」と銘打たれて、続々と登場しています。その状況は、山本さんの記事「乱立するNFCケータイ向け「Wallet」、普及の鍵を握るのは?」にも詳しい解説がありますが、その後、少しだけ市場に注目すべき動きがありましたので、今回はその続編をお送りしたいと思います。

MasterCardのアプリでVisaの決済?

 さる5月、決済カードの国際ブランドであるマスターカード社(MasterCard)から、NFC搭載スマートフォンに対応するウォレットサービスとして『PayPass Wallet(ペイパス・ウォレット)』が発表になりました。マスターカードの非接触IC決済として非常に有名なPayPassですが、今回のウォレットサービスで注目すべき点は"MasterCard以外のブランドによるカード決済にも対応する"というところではないでしょうか。

「このウォレットは、オープンであり、消費者は、American Express、Discover、Visa、あるいは他のブランドのクレジットカード、デビットカード、およびプリペイドカードのどれでも利用することができます。」(マスターカード・ワールドワイドの2012年5月17日付けプレスリリース文より)

 「MasterCardのアプリケーションなのに、Visaカードの決済が利用できるって??」。頭の中に「?」マークがたくさん浮かんでしまった方、それが正しい反応だと思います。どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。
 実は、このPayPass Wallet。そのネーミングから、実店舗の読み取り端末(リーダライタ)にスマートフォンをかざして使う、いわゆる非接触IC決済だけに利用できるサービスと考えてしまいがちですが、実店舗での利用に加えて、ネットショッピングなどオンラインの決済もサポートしています(MasterCardではこの両機能を「PayPass Contactless」および「PayPass Online」と呼び、区別しています)。
 その際、PayPass Walletには先にコメントを引用した、他のブランドを含めたカードの情報、および商品の発送先情報などをあらかじめ登録しておくことができ、少ない手順で購入手続きを済ませることができることがうたわれています。
 このように、少なくとも「PayPass Online」では、MasterCardのアプリケーションでありながらVisaやAmexのカードが使えるという面白い状況が生まれることになりそうです。MasterCardでは2012年10月以降、米国、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの国々でサービスを開始する予定としています。


「PayPass Online」の紹介ページ
(出典:MasterCardのWebページ http://www.paypass.com/online/index.html

ウォレットは「ショッピングカート」のようなもの?

 ところでこの新しいウォレットサービス、突如彗星のごとく現れたかに見えますが、どこかで見たような気がしませんか? 筆者はインターネット決済などで利用するショッピングカート機能とこのウォレットサービスが非常に近しい関係にあると考えています。
 アマゾンや楽天でよく買い物をする方でしたら、取引の都度、クレジットカードの番号などを入力することはしないのではないでしょうか。最近ではそもそも初めての買い物からして、カード情報の登録を含め、まずはそのショッピングサイトでの会員登録が必要なところが一般的になっています。
 住所、氏名などの個人情報とともに、支払いに使用するクレジットカード情報などを登録すると、それに紐付いた会員IDとパスワードがサイトから発行されます。そして、以後の買い物の際にはそれらの単純なログイン情報のみを入力すれば、毎回個人情報やカード番号などの決済情報を入力することなしに買い物を完了できる便利な仕組みとして定着しています。
 このショッピングカート機能とウォレットサービスのオンライン決済機能は、ほぼ同じものと考えることができます。
 しかしその提供主体は、ショッピングカートであればショッピングサイト自身や、アマゾンや楽天といったECモールの運営事業者、またスマートフォン向けアプリの配信サイトであればGoogle(Google Play)といったサイト運営事業者が担うのが普通でした。一方のMasterCardやVisaのようなカードのブランド会社は、それらショッピングカートの運営事業者にとっては1つの「登録先」に過ぎませんでした。
 その構図が崩れ始めた印象的な出来事が、「PayPal」の登場です。PayPalはまさしく、このショッピングカート機能を特定のショッピングサイトから切り離し、さまざまな場面で汎用的に利用できるようにしたものでした。こうなるともはや、PayPalは、少なくともショッピングサイト側から見れば、決済事業者そのものに映りました。
 決済ブランドの軒先を借りながら、自らも決済事業者としてサービス提供する姿に、ブランド会社は当然大きな戸惑いを覚えたに違いありません。そして今回の『PayPass Wallet』の発表は、ある意味ではPayPalに対するMasterCardからの正式回答と言えるのかもしれません。
(なお、国際ブランドのVisaも、ほぼ同様のコンセプトで、NFCとオンライン決済に両対応するデジタルウォレットサービスとして『V.me by Visa』を展開しています)

日本では誰がウォレットを提供し、どれが生き残るのか

 世界最大の検索サイト事業者(Google Wallet)、モバイル通信事業者による合弁会社(ISIS Mobile Wallet)、決済カードのブランド会社(PayPass Wallet、V.me by Visa)・・・過去1年のうちに続々と登場したモバイルウォレットの提供事業者の顔触れは、まさしく"戦国時代"という言葉を彷彿とさせてくれます。
 そしてそのモバイルウォレットの適用範囲が、単にNFCだけではなく、前述のようにオンライン決済を含んで展開しつつあることから、市場の裾野の広がりを大きく予感させます。さらにモバイルウォレットには、いま皆さんのお財布(ウォレット)の中に入っているポイントカードやクーポン券のようなものまで、すべて集約されていく可能性を秘めています。
 そんな視点からモバイルウォレットの日本でのサービス提供の姿を考えてみると、クレジットカード会社、銀行、電子マネー事業者、モバイル通信事業者、ECモール運営事業者、ポイントカード専門会社、クーポン発行会社などなど、本当にさまざまな事業者に参入の可能性が開けているように感じます。
 日本では果たしてどのような事業者がどのような戦略でモバイルウォレットを展開していくのでしょうか。まもなくその火ぶたが切られようとしています。
 ・・ロンドンオリンピック以上に目が離せないのは、筆者だけでしょうか。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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