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連載コラム

国内でもいよいよ発行開始、 NFC化で注目される「PayPass」「payWave」とは

[ 2012年11月6日 ]

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

 NFCでは幅広い用途が検討されていますが、なかでも決済サービスは最も注目されるところです。NFCスマホにお財布機能を提供する「ワレット」も増えています。ワレットはNFCスマホに決済アプリをダウンロードするための、ひな形アプリともいえるものですが、アメリカのGoogle Wallet、ISIS Mobile Wallet、MCX Mobile walletなどに加え、イギリスのQuick Tap、韓国のOlleh Touch、フランスのCityziなど、例を挙げればきりがないほど種類が増えました。
 このワレットすべてに共通する点は、お財布機能の実現のためにビザ(Visa)のpayWave、またはマスターカード(MasterCard)のPayPassが必須であることです。ワレットについては最近さまざまな媒体で紹介される機会が増えましたので、今回はpayWave/PayPassについて述べたいと思います。

ワレットとpayWave/PayPassの関係

 ワレットとpayWave/PayPassの関係は、ワレットが決済、乗車券、クーポンなどのひな形アプリであるのに対し、payWave/PayPassはワレット上で機能する決済アプリの一つという位置づけです。ワレットは、それぞれのサービス事業者や管理団体が提供しますが、payWave/PayPassはベースとなる決済アプリをビザ、マスターカードが提供し、銀行やクレジットカード会社(イシュアー)が利用可能な状態に設定(パーソナライズ)する、という分担が一般的です。

payWave/PayPassとは

 payWave/PayPassは、それぞれビザ、マスターカードがサポートする非接触ICカード(Type A、B方式)を使った決済サービスです。「かざす」点に変わりはありませんが、導入の検討が始まった2002年頃はプラスチックカードを前提とし、「(本物の)財布からカードを出さずに支払うことができるカード」として開発されました。これは日本でSuicaやEdyがプラスチックカードでサービスが始まった当初の宣伝文句によく似ています。それが現在のNFCスマホ上のワレットに搭載されることでNFCスマホでの利用が可能となるわけです。
 payWave(当時はVisa Waveと呼ばれた)、PayPassは、まずクレジットカードの磁気テープに記録されるカード番号などのデータを、そのままType A、B方式の非接触ICカードに書き込む方式で実験的に開始しました。店舗に専用リーダーを置き、非接触ICカードの情報を読み取った後は、磁気カードと全く同じ処理を行っていました。そのため、非接触ICカードでありながらオンライン処理による取引承認(オーソリゼーション)が必要でした。
 その後、決済用の接触型ICカード(EMV仕様)に統合することが検討され、結果的に接触型と非接触の両方の処理が可能な、デュアルインターフェースカード方式のICカードを利用するように改められました。この方式は接触型のEMV仕様に備わる「オフライン承認」機能を応用することで実現されました。オフライン承認機能とは、一定の回数や金額の範囲に限定して、オーソリゼーションを行わずにICチップ自ら取引を承認する機能です。これによってEMC仕様に近いセキュリティ要件を満たしながら、非接触ICチップでも取引が可能となったのです。
 NFCのワレットには、こうして設計された非接触ICカード用のアプリケーションを、モバイル用に改良した仕様のアプリが使われます。

payWave/PayPassに対応する加盟店のリーダー(読み取り端末)

payWave、PayPassはクレジットカード?

 少し専門的な話が続きましたが、ここからは違った面から両者を見ていきたいと思います。payWave/PayPassはそもそもビザ、マスターカードが提供する国際決済カードのネットワークを通じて処理されるので、加盟店のリーダー(読み取り端末)はともかくとして、背後の決済ネットワークや清算システムは、従来のプラスチックカードと全く同等に扱われます。
 日本で発行される従来のビザ、マスターカードはほとんどがマンスリークリア(毎月の一回払い)方式のクレジットカードです。そのため、従来のイシュアーがpayWave/PayPassを発行する場合、これまでのシステムやサービスをベースにpayWave/PayPassを提供することになるため、その多くはクレジットカード(後払い式)として発行されるであろうと予想されます。そのため日本におけるpayWave/PayPassは、当面はフェリカ(FeliCa)用の後払い型サービス(iD、クイックペイ、スマートプラス)の発展バージョン、という位置づけが自然なのかもしれません。

海外のpayWave、PayPassはデビットカード

 ところで、日本でビザ、マスターカードの決済カードといえばマンスリークリア方式のクレジットカードがほとんどです。しかし欧米では半分がデビットカード(プリペイドも含む)、残りのほとんどがリボルビング専用クレジットカード(リボ)となっています。日本で普及するマンスリークリア方式は海外では少数派、国によっては全く存在しないところもあります。
 クレジット、デビットなどの支払方法は、イシュアーと利用者間の規約に基づいて決められます。利用者への請求処理や清算はイシュアーが行っており、ビザやマスターカードが提供する決済システムで特別な処理を行っているわけではありません。ビザやマスターカードの決済システム(ネットワーク)は、クレジットカードに限定せずデビット、プリペイド、リボなど、あらゆる決済方法のカードを区別なく処理するように設計されています。
 そこで、デビットカードが過半数という海外で今後発行されるpayWave/PayPassはどうなるのでしょうか? おそらく、多くはデビットカードになるでしょう。海外のイシュアーはほとんどが銀行で、発行するカードの過半数はデビットカードです。payWave/PayPassを新たに発行する場合も、同じカード発行、管理システムを用いるため、海外で今後発行されるpayWave/PayPassの多くがデビットカードになるだろうと、筆者は予測します。

今後はプリペイド方式も普及

 最近、海外では銀行口座が不要なプリペイド方式のビザ、マスターカード(プラスチックカード)が急増しています。もともと贈答用や銀行口座を持たない出稼ぎ労働者に給与を支払うためのカードとしてサービスが始まったものですが、最近ではこの方式のカードが、ウォルマートやターゲットのような大手流通業で積極的に発行(販売)されるようになりました。
 そのような状況から、今後海外ではデビット方式に次いでプリペイド方式のpayWave/PayPassも増えていくのではないかと筆者は考えています。プリペイド方式のpayWave/PayPassは言い換えれば非接触型の世界共通電子マネーです。タッチするだけで支払うという簡便性に対する最適な答えかもしれません。
 先にも述べたとおり日本のpayWave/PayPassはイシュアーがクレジットカード会社であるために、当面はその多くはクレジットカードとなることが予想されます。しかし日本でも一部のネット系銀行などでデビットカードの発行が進み、まだ数は少ないものの、プリペイド方式のビザカードも発行されるようになりました。そのため、これからはデビットカードやプリペイド方式(電子マネー)のpayWave/PayPassが増えても良いはすです。例えば日本の電子マネー事業者がpayWave/PayPassを発行すれば、世界どこでも利用できる国際電子マネーに早変わり、というわけです。

 payWave、PayPassを使った電子マネーの利用可能な店舗は日本ではまだ少ないのですが、海外では増加傾向にあり、ロンドン(イギリス)、韓国などではかなり増えました。またロンドンやトルコのようにPayPassをそのまま乗車券代わりにゲートにかざして電車に乗れるような場所もできる予定ですので、これからpayWave/PayPassの利用シーンが広がることに期待が寄せられています。

PayPassに対応した自動改札機のデモ

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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