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連載コラム

CARTES 2013の会場を席巻、いま話題の「mPOS」って?

[ 2013年12月16日 ]

 年に一度、花の都パリにて開催される「CARTES(カルテ)」。カードビジネス関連では世界最大規模と言われる展示会も、今年で28回目を数えます。広大な会場に450社を超える出展企業が、所せましと自慢のソリューションを披露しました。中でも今年は、あちらこちらのブースで、ある1つのサービスがこぞって展示されていたのがとても印象的でした。そのサービスが、「mPOS」です。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

今年も140カ国から2万人以上が参加

 読者の皆さまの期待をじらすようで恐縮ですが、まずは今年のCARTESの開催結果をご報告しておきましょう。
 入場者数は2万人以上、そのうち71%がフランス以外の国からの参加者によって占められており、延べ140カ国からの参加があったそうです。出展企業は450社、その出身国は46カ国に上ります。CARTESでは、ブース展示と合わせて専門カンファレンス(セミナー)も同時開催されますが、そのセッションの数は実に120コマ!、世界中から1,676名が参加して行われました。
 会場も例年と変わらず、パリ北東部に位置し、シャルルドゴール空港からほど近いノール・ビルパントの展示会場で開催されました。

快晴に恵まれたCARTES2013の展示会場(ノール・ビルバント)

 CARTES会場の雰囲気は、日本のIT系の展示会とはかなり異なっており、華やかな音響やデモンストレーションもなく、落ち着いたものです。またブースの内容も、展示物以上に商談スペース(飲み物やスナック類の充実ぶりがまたすごい)がしっかりと用意され、一過性の宣伝というよりも、具体的な商談の場として活用しようとする出展企業の意気込みが表れているように感じました。

Gemalto、NXP、Infineonなど欧州メーカーが巨大ブースを競う、毎年恒例の会場風景

 例年、会場最前列のブースはヨーロッパの有力企業が軒を連ねるのですが、今年はそこにソニーのブースが割って入り存在感を主張していたことは、日本人参加者として大変嬉しい一幕でした。

会場最前列に出展したSONYのブースでは、香港のオクトパス向けに開発されたSIM上で動くFeliCaサービスやNFC対応デバイスなどを披露

今年は主催者企画として、NFCやバーコードの活用による「Smart Shoppingゾーン」が登場

オベルチュール社のNFC対応スマートポスター(パネル)

最新型のカード決済端末も見学し放題(Ingenico)

欧州にもスマホ決済ブームが到来?

 「今年のCARTESはどうでしたか?」。欧州視察を終えてヨーロッパから帰国すると業界関係者の皆さんから決まって聞かれるフレーズですが、なかなか一言で答えるのは難しいんです。しかし、今年は返答に困ることはありませんでした。「今年のCARTESでは『mPOS』がとても盛り上がっていました!」
 mPOS=エムポス、と読みますが、日本ではまだあまり馴染みのない言葉だと思います。かくいう筆者も現地でその呼び方を知りました。mPOSの「m」はmobileのmを指し、「POS」はカード決済を処理する端末のことを示しています。直訳すると「可搬型のカード決済端末」となりますが、これでは実際に利用されている単語の意味とは異なります。
 mPOSはさらに限定的な意味の単語として使われます。具体的には、スマートフォンやタブレットなど汎用的な機器とその上で動くアプリケーション(ソフト)を利用し、そこにクレジットカードの読み取りや暗証番号の入力が可能な装置を外付けで組み合わせることで、カード決済端末として利用できるサービスのことを指します。
 熱心な読者の皆さんは、前回の私の記事で、昨年から今年にかけて日本で盛り上がっている注目トレンドとして、「スクエア(Square)」に代表されるスマホ決済サービス(以下、スマホ決済)をご紹介したことを覚えていらっしゃいますでしょうか? そう、mPOSとは、まさしく日本でもブレイク中のスマホ決済のことを示す英単語なのです。

ヨーロッパならではのmPOSへのこだわり

 ここまで読んで、「ということは、すでに実際のサービス提供の始まっている日本のほうが、世界のmPOSよりも先を行っているということでは?」と思われた方、大変スルドイです。しかし、残念ながら、現在の日本のスマホ決済と、CARTESに出展されたmPOSとの間には、ある決定的な違いがあります。それは、「読めるカードの種類が違う」ということです。
 日本のスマホ決済を代表する、スクエア、楽天スマートペイ、コイニーといったサービスでは、いずれもカードの磁気ストライプを読み込んで決済を処理し、スマホなどの画面にサイン(署名)することで本人確認を行う仕組みです。これに対してヨーロッパのmPOSでは、カード上のICチップを読み取って決済処理を行い、「PINパッド」と呼ばれる入力装置に4桁の暗証番号を入力することで本人確認する仕組みを前提としています。(磁気ストライプの読み取りとサインの処理にも対応はしています)
 この違いは、クレジットカードやデビットカードを用いた電子決済の信頼性、安全性を重視するヨーロッパのカード発行機関(主に銀行)では、原則として、ICチップを搭載したカードでの決済処理しか認めない方針であることに端を発しています。実際、フランス、イギリスをはじめ、ヨーロッパの多くの国は、カードだけでなく、お店に置かれた決済端末の両方について、100%のICカード対応を完了しています。
 mPOSはどちらかといえば、本来、別の用途や目的で急速に普及しつつあるスマートフォンやタブレットを流用して、より気軽にカード決済の取り扱いができる環境を増やそうとする試みですが、だからといって「100%、ICカード対応」の御旗は絶対に下ろさないぞ、というのがヨーロッパの強い意気込みとして感じられます。当然、外付けする装置としては磁気ストライプのみに対応しているほうが安価に提供できるはずですが、「それはやらない」というのが業界内の暗黙の了解事項となっているわけです。

イヤフォンジャックに加えてBluetooth対応も

 そんな制約はありますが、今回のCARTESでは各社からさまざまなmPOSソリューションが披露されていました。
 スクエアのように、イヤフォンジャックに接続するタイプもありましたが、装着するとPINパッドがスマートフォンの裏面に覆いかぶさるようにセットされ、ガジェットとしてもなかなかスタイリッシュな製品がVerifoneのブースで見られました。

世界最大手の決済端末メーカーVerifoneのmPOSデバイスはイヤフォンジャック接続方式(裏面にPINパッド機能を搭載)

 しかし、会場で多く見られたのは、イヤフォンジャックで接続する端末よりも、Bluetoothを内蔵することによりスマートフォンやタブレットと無線で通信する端末でした。この方式であれば、使用時に、無理にスマートフォンとの一体感を出す必要もないため、非常に素直な造形の製品となっていました。

「payleven」ブランドのBluetooth搭載mPOS(G&Dブース)

POWA社のBluetooth搭載mPOS。その名も「mPOWA」

最後に

 来年、2014年のCARTESは11月4〜6日の日程で開催されることがすでに発表されています。私は毎回欠かさずに参加するようにしていますが、そのたび、「言葉も人種も違うのに、同じ業界で働く人たちが世界中にこんなにいる」ことを実感し、心を熱くさせてくれます。電子決済やカードの商売に関係する皆さまには、ぜひ一度、会場の熱気を直に味わってみてほしいと思います。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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