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連載コラム

2014年、NFCの世界に「HCE」がやってくる!

[ 2014年1月27日 ]

 年が明け、いよいよ「NFC & Smart WORLD 2014」の開催が迫ってまいりました。
今回は、年に一度のお祭りをさらに盛り上げてくれそうな、NFCの最新キーワードをご紹介します。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

最近、NFCサービス周辺に元気がない?

 半導体(ICチップ)技術を拠り所とした無線通信技術であるNFCには、さまざまな使い方があります。
 まず、NFCを搭載したスマートフォン(以下、NFCスマートフォン)では、端末そのものが電子マネーや乗車券の機能を持った非接触ICカードと同じように使うことができます。NFCのこの機能はカードエミュレーションモード(ICカードを真似する形態)」、略してカードモードと呼ばれます。
 また、NFCスマートフォンの特定の部分に非接触ICカードやICタグを当てると、その中に書き込まれた情報を読み取ったり書き込んだりすることができ、その内容はスマートフォンの画面を通じて確認できます。この機能はリーダライタモード(ICカードを読み書きする端末の形態)」と呼ばれます。
 さらに、NFCを搭載した2台の端末、例えば2台のNFCスマートフォンを背中合わせ(背面でない場合もありますが)にすると、文字や画像などのデジタル情報を相互に交換することができます。この機能がピアトゥピア(P2P)モード(端末と端末の間で通信し合う形態)」です。
 これらの3つがNFCを代表する機能であり、活用場面に幅と深みを与えてくれていることは、本連載の読者の皆さまはよくご存じでしょう。(この時点ですでに、NFCはわかりにくい・説明しにくいという指摘もよく頂きますが)
 このうち、今回話題にしたいと思っているのは、NFCスマートフォンのカードモードです。さまざまな用途や目的のためにわざわざたくさんのICカードを持たなくても、NFCスマートフォンがあれば1台で代用できる便利さはとてもわかりやすく、使ってみたいと思わせる魅力がありますよね。日本はモバイルFeliCaによるおサイフケータイ先進国ですから、このあたりは共感いただけるのではないでしょうか?
 しかしながら、ひとたび世界に目を転じると、スマートフォンをカード代わりに擬態させようとするライバル技術が続々と名乗りを上げつつあります。
 例えば、個別の商品に貼付されたバーコード(日本でもQRコードはすっかりおなじみですね)をスマートフォンで撮影し、デジタル情報を取得した上で支払いまで進めるサービス。あるいはNFCと同じ無線通信技術であるBluetoothがベースの、より近距離での利用に向く省電力Bluetooth(Bluetooth low energy)が登場したことで、アップルやペイパルなどの事業者がこれを活用したモバイル決済サービスの導入を検討していることが報じられています。
 こうした動向の華々しさに比べて、NFCのカードモードの話題は、やや元気がないようにも映ります。

遅れてきたビッグウェーブ、その名も・・・

 しかし、実際には、日本でも昨年12月から、信販会社のオリエントコーポレーションが日本で初めてNFCスマートフォンに搭載する「Visa payWave」のサービス提供を開始したのを皮切りに、今年もいくつかの会社からNFCスマートフォンでのモバイル決済サービスが始まる予定です。NFCカードモードの本領が発揮するのはまさに今年からだと思います。
 そして、NFCカードモードの可能性をさらに広げる、ある発表が昨年10月にありました。それが「HCE」----「Host-based Card Emulation」です。
 この発表は、Android OSを開発するGoogleによりもたらされました。Googleは10月にAndroid OSのマイナーバージョンアップを行い、「Android4.4、コードネーム:KitKat」を発表しました。赤い箱のアレですね。
 今回のOSバージョンアップにより、NFCスマートフォンで利用できる機能として、新たに「Host-based Card Emulation」のサポートが追加されました。
 Host-based Card Emulationとは、一言でいうと、セキュアエレメント(以下、SE)がなくてもNFCカードモードを提供できる仕組みのことです。スマートフォンの中にあるホスト(NFCのアプリケーションを管理するプロセッサなどのCPU)が、SEに成り代わってカードをエミュレーションします(図)。

nfrt_20140127_01.jpg図 従来のセキュアエレメント(SE)を介したカードモード(左)と、HCEによるカードモード
(出典:Androidの開発者向けページ※より、著者が日本語に変更)

 これまでのNFCカードモードの考え方では、一般的に、SEは必須機能とされていました。本連載の読者はご存じだと思いますが、SEは通信キャリアにより提供されるSIMカードに格納されたり、スマートフォン本体に内蔵(埋め込み)されたり、外付けのメモリカードに内蔵(埋め込み)されることが前提となっていました。また、このSEを管理するために、TSM(Trusted Service Manager)と呼ばれる管理機構が求められ、さまざまな会社がこれらのビジネスに取り組んでいます。
 HCEを利用すると、従来のSEやTSMといった概念にとらわれる必要がなくなりますから、「NFCのカードモードを使ってみたい」と思っていらっしゃるサービス事業者にとっては、その実現手段の選択肢が広がることになります。
 筆者が昨年11月に訪れたCARTES展示会でも、「HCEへの対応については・・・」というささやき声があちこちのブースからもれ聞こえる状況になっていました。そんなわけで、技術の可能性、話題性のいずれをとっても、2014年のNFC市場の注目キーワードには、間違いなく「HCE」を挙げてよいと思います。

「Here Comes Everybody」!

 ここからはちょっとしたトリビアですので、ビジネス情報にしかご関心のない向きは無理に読み進めていただく必要はありません。
 アイルランド出身の文豪、ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)が生前最後に発表した長編小説に「フィネガンズ・ウェイク(Finnegans Wake、1939年に刊行)」という有名なタイトルがあります。その一風変わった文体ゆえに、人類史上、最も難解な小説とも評され、読破するのは不可能とまで言われるいわくつきの本です。
 実は、その小説に登場する主人公の名前が、「HCE」なんですね。
 HCEというのはもちろんイニシャルで、フルネームはハンフリー・チップデン・エアウィッカーさんと表記します。ところが、この小説の中では、本来エアウィッカーさんのイニシャルであるはずのH・C・Eが、さまざまな単語に姿を変えて、作品の舞台を飾ります。
 例えば、「Howth Castle and Environs」(ホウス城とその近郊)のように場所になってみたり、「How charmingly exquisite!」(なんて魅力に溢れているんだろう!)とか、「How Copen-hagen ended」(どのようにコペンハーゲンが終わったか)などなど、物語の至るところに登場します。
 要するに、言葉遊びの世界なんですね(笑)。
 そんなHCEの変化形の1つに、「Here Comes Everybody」(みんな、ここにやって来る)というのがあります。
 NFCでも早く、「Here Comes Everybody」のように、NFCサービスの上でHCEを使うために「世界中のみんながやって来る」日が来ることを期待してしまいます。

※画像の引用元:
http://developer.android.com/guide/topics/connectivity/nfc/hce.html

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電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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