連載コラム

「NFC & Smart WORLD」開幕に向けて

[ 2014年2月19日 ]

 NFC & Smart WORLDを目前に控えた今回は、あらためてNFCの背景を振り返りながら、状況や今後の方向性を考えてみたいと思います。

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

話題は少ないが導入は着実に進む

 一昨年ごろからようやくNFCの導入が世界的にも動き出しました。国内でもpayWave/PayPassの発行が始まり、通信キャリア各社のスマホにNFCが搭載されるようになりました。
 しかし、本命ともいえるiPhoneになかなかNFCが搭載されない事や、これまでICカードが大前提だった電子マネーが磁気カード方式に先祖返り(注1)する現象や、磁気カードリーダー(ドングル)をスマホに付けて、にわか仕立ての決済端末に仕立てる「スマホ決済」など、NFCの推進に逆行するような動きも見られます。
 フェリカの交通乗車券やIC型電子マネーの導入は一巡しており、「NFC付きスマホをかざして決済できるようになるのはいつ?」と心待ちにする人もいるかもしれません。残念ながらそのような傾向は、具体的には見えにくい状況にあるようです。
 足元を良く見れば、実はNFCの導入は着実に進んでいるのです。昨年マスターカードが国内に41万台のPayPass対応決済端末を導入すると発表、一昨年から通信キャリア、クレジットカード会社などが相次いでpayWave/PayPassの導入を発表し、昨年からサービスが始まっています。
 しかし、決済サービスでのNFCの導入には店舗端末の置換えなどのインフラ整備を伴うため時間がかかり、利用者が「どこでも使える」と思えるレベルに至るまでは、少なくとも5~10年以上はかかります。誰もが導入の進展を実感できるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。2000年初頭に始まった、フェリカ採用の交通乗車券や各種電子マネーサービスも、主要なコンビニ、スーパーに導入されるまでには10年の歳月を要しています。

(注1)イズミヤグループ(「miyoka」)、ユニーグループ(「ユニコ」)などで、ICカード方式ではなく、磁気カードによる電子マネーを発行

決済サービス以外での利用に期待、しかし現実は...

 家電、医療、車など、NFCの応用範囲は広いと言われていますが、実際にその導入はまだまだです。フェリカを見ても、過半数のケータイにフェリカが搭載された現在でも、家電、医療、車での利用例は限定的です。これがNFCになって大きく変わるのでしょうか。
 住民基本台帳カードや運転免許証、パスポートなどでは、国際標準規格のType B方式が採用され、これまでのフェリカでは対応ができないことから、新しいNFC付きスマホが注目されています。NFC付スマホにはリーダー機能が搭載されるため、運転免許証を読み取って簡易な本人確認に利用するなどの利用方法も検討されています。
 ポスターや街中に安価なタグを貼り付け、NFC付きスマホをかざして情報やクーポンなどを配信するサービスも試みられています。NFC付きスマホを車のダッシュボードに置き、スマホとカーナビを連携させるような機能を望む声もあります。
 NFCはフェリカにくらべて広い範囲での利用が想定されていることから、さまざまな検討が進んでいながら、現状決済以外のサービスでの利用はまだまだという感じが否めないのも事実です。ここは、今後進む検討や開発に期待したいと思います。

今後の課題はニーズの多様化にどう対応するか

 話題を決済サービスに戻します。先にも述べた、マスターカードが今後3年間で最大41万台の決済端末でPayPassを利用可能にするという発表は、実現すればそれなりの規模といえるでしょう。しかし、だからといって誰もがNFCスマホを使って決済するようになったり、全ての決済端末がNFCに対応したりする、とまで考えるのは少々無理があると思います。
 まず利用者の視点で見てみましょう。現時点でクレジットカード(payWave/PayPassを含む)のほとんどがプラスチックカードです。NFCが搭載されたスマホは現状アンドロイド方式などに限られ、その利用者であれば申請してアプリをダウンロードすれば利用可能です。しかし、日本はNFCに対応しないiPhoneのシェアが高い事や、設定の難しさもあり、だれでも利用できるサービスとは言えません。現時点でスマホ版payWave/PayPassの利用は、一部の関係者や趣味的な試みに限られるでしょう。
 交通乗車券や従来のフェリカ方式の電子マネーも当分のあいだフェリカ方式のまま継続し、Edyのようにケータイ利用者が過半数というサービス以外では、当面はプラスチックカードが利用されることになりそうです。
 2002年からフェリカ方式の「おサイフケータイ」が始まり、多くの事業者が経験したことは、「思ったほどケータイを利用してもらえない」という現実です。一部の事業者からはスマホ対応にあまり積極的でない声を聴きますが、このような体験にもとづくものかもしれません。
 しかし、私が教える大学生などの若年層を見れば、その状況もやがて変わるだろうと楽観したくなってきます。彼らは完全なスマホ世代(スマホネイティブ)であり、便利なサービスであれば、面倒と思われるアプリダウンロードの労もいとわないのです。逆にネットで申し込めず店頭に出向かなければならないことこそストレスに感じるようです。

 次に、NFCによる決済サービスを受け入れる小売店の立場を考えてみましょう。
 NFCに対応するといっても、NFC一つで事足りるわけではなく、従来の環境にNFCを追加対応しなければならない点が厄介です。店舗に置く決済端末はあらゆる方式に対応する必要があります。現存する方式だけでも、
・磁気カード/クレジットカード
・磁気カード/ポイントカード
・ICカード(接触型)/クレジットカード
・ICカード(フェリカ)/電子マネー
・バーコード/クーポン
・バーコード/スマホアプリによるポイントカードなど
などがあり、さらに、
・NFC(Type A/B)/クレジットカード
・NFC(Type A/B)/クーポンなど各種サービス
が加わるわけです。

 これからの小売店は、多種多様化した支払手段や方式にどう対応するか、という大きな課題に向き合わなければなりません。今、カード決済を受入れている典型的な小売店では、お客様は現金、あるいはプラスチックカード(磁気あるいは接触型ICカード)を選んで支払うわけです。電子マネーに対応する店であれば、おサイフケータイ(フェリカ)の利用はできますが、「NFC版PayPassで支払いたい」というお客様については、丁重にお断りして他の支払方法をお願いするしかありません。小売店にとって、お客様が選ぶ支払手段が増えることは厄介で、ともすればお客様を怒らせるなどのトラブルを生じかねない悩ましい課題です。
 一方、物を売る立場で考えれば、お客様が持ち込んだ支払手段が使えないことにより、販売チャンスを逃すことは避けたいところです。問題は、今はまだ特殊といえる「NFCスマホで支払いたい!」というお客様が今後どれだけ増えるかということです。ただし、数は少なくてもそういうお客様を逃さないために様々な方式に対応する、という戦略もあるでしょう。一言でいえばニーズの多様化への柔軟な対応です。

 視点をクレジットカード会社に変えても同じことが言えます。
 「世界中の全ての決済端末がNFCに対応する」という神話があり、NFCへの対応の検討が始まった2006年ごろには、その前提で事業計画を立てた人も少なくはないと思います。
 この考え方には一定の合理性があります。クレジットカードはもともと紙だったものが、磁気情報を記録したプラスチックカードに変わり、世界中の加盟店に決済端末が置かれました。そのような歴史になぞらえれば、今後ある程度の歳月をかけて全ての決済端末にNFCを実装する、というシナリオもまったくありえないことではないのです。
 しかし、現実的にその費用を誰が負担し、世界中の決済事業者がどのように協力して「端末置換事業」を成功させるのか、という点については明確な答えが出ていません。
 2001年に世界的に導入が始まったEMVでは、世界中の金融機関やクレジットカード会社が協力して導入を進めました。結果的にEUでは10年かけて導入を終わらせましたが、日本やアメリカなどはクレジットカード会社や小売店の協力が得られず、12年たった現在も導入半ばという状況です。
 NFCの導入ではEMV以上の協力体制が確立できるのでしょうか。その答えを模索するうちに、技術の進歩のほうが早く、NFCそのものが陳腐化してしまう可能性も否定できません。そう考えると、その実現性は5年程度の期間である程度のめどが立たない限り難しい、と考えざるをえないでしょう。現時点では厳しいというのが私の観測です。
 実際に、今ではその神話を信じる人は少なく、クレジットカード会社の方などは、あらかたプラスチックカードを配っておけば大丈夫、という認識に立ち戻っているのではないかと思います。
 しかし、それでも今後は「スマホで支払いたい」というお客様は増えると思います。そのようなお客様を「特殊」扱いにして封印するのも選択肢ではありますが、一方で「ニーズの多様化」と真摯に受け止め、対応していくべきとする考え方もあるはずです。その選択にはクレジットカード会社が大いに悩むところではないでしょうか。

 いずれにせよ、今では全ての決済端末がNFCに対応する、という王道シナリオではなく、ニーズの多様化にどう対応するべきか、というダイバーシティ戦略に変わってきたと考えるべきでしょう。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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