連載コラム

NFCカンファレンス(2014)を終えて

[ 2014年4月3日 ]

 3月5~7日の3日間、NFC & Smart WORLD内の特設スタジオでNFCカンファレンスが開催されました。今回はその内容についてご報告させていただきたいと思います。

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

 今年(2014年)のNFCカンファレンスのテーマは次の通りでした。

・1日目 3月6日(水) 「流通小売現場におけるNFCの活用シーン」
・2日目 3月7日(木) 「いよいよ日本上陸、NFCペイメント」
・3日目 3月8日(金) 「情報家電等におけるNFC活用の可能性」

 昨年の同カンファレンスは、「決済サービスセッション」、「モバイル3キャリアセッション」、「プラットフォームセッション」という流れで、昨年以前のカンファレンスも概ね同様でした。今年はこれまでのテーマに加え、「情報家電」が新しく加わりました。


全体的にNFCは成熟か?

 今年のNFCカンファレンスを一言で表すとすれば、「成熟」という言葉が当てはまるのではないかと感じました。成熟という言葉は、概ね良い意味でとらえることのほうが多いと思います。2日目の「いよいよ日本上陸、NFCペイメント」では、アジア諸国で大幅に進んだpayWave、PayPassの普及状況や、NTTドコモのNFCスマホにPayPassが搭載され、海外でも利用できることなどが紹介され、いよいよ始まったNFCサービスを実感できました。
 しかし、成熟は逆に「新しさに欠ける」というネガティブな言い方もできると思います。正直に申し上げて、今年のNFCカンファレンスには「新しさに欠ける」面があったことも否定できません。しかし、これもNFCの導入フェーズが一段進んだのだ、と前向きにとらえることにしたいと思います。

今年のNFCカンファレンスのポイントは?

 今年のカンファレンスを振り返って特に重要と感じた点をまとめてみます。

【ポイント1・電子マネー】
・電子マネーでは全体的にプラスチックカードでの利用が定着し、モバイル利用は減少傾向に
・今後はクラウド型など媒体にとらわれない柔軟なサービスを検討。NFCはその提供手段の一つ

【ポイント2・payWave、PayPass】
・海外でpayWave、PayPassに対応する加盟店が大幅に増えた
・NTTドコモがNFC対応スマホで、国内=iD(フェリカ)、海外=PayPass(NFC)と使い分けるサービスを開始

【ポイント3・情報家電など】
・オーディオ機器などの情報家電、自動車のカーナビ連携などで、NFCを利用したサービスが具体化
・標準化や相互運用性にはまだ課題もあり


1日目:流通小売現場におけるNFCの活用シーン

セブン・カードサービス 執行役員 電子マネー開発部担当 磯邊 俊宏 氏

楽天Edy 執行役員 最高戦略責任者 業務企画部 部長 宮沢 和正 氏

ウェブマネー 取締役 竹島 弘幸 氏

 1日目のテーマは「流通小売現場におけるNFCの活用シーン」です。
 本カンファレンスではおなじみの楽天Edy(楽天Edy 宮沢さん)、nanaco(セブン・カードサービス 磯邊さん)に加え、今年はサーバー型電子マネーである「ウェブマネー」の竹島さんにご参加いただきました。
 楽天Edyはおサイフケータイでもおなじみの電子マネーで、昨年時の紹介では「おサイフケータイ」の利用が半分程度、とモバイル利用が最も進んでいる電子マネーを印象付けました。ところが、今年は宮沢さんから思わぬ発言があって驚きました。「モバイルの利用者がすごく減った」というのです。その理由はNFCを搭載しないiPhoneの普及にあるようです。これまでEdyといえばおサイフケータイの代表的なサービスの一つでしたが、スマホの普及(とりわけiPhoneの普及)がその構図を大きく変えてしまったのです。
 これに対し、nanacoの磯邊さんの発言は、一貫して、モバイルの利用は少ないと主張されており、サービスのモバイル化にはあまり積極的でないようにもお見受けします。この磯邊さんのご発言はきわめて重要な意味を持つと思います。しかし、ご発言の要点はモバイルを否定的にとらえているということではなく、あくまで現状はプラスチックカードが中心である、という点だと思います。
 もう一つの重要なポイントは、宮沢さんと磯邊さんに共通して非接触やNFCばかりにとらわれない、柔軟な電子マネーをお考えだという事です。お二人のお話から、電子マネーをモバイルサービスと位置づけ、クラウド/ICカードなどの方式をどうするかという大きな議題に加え、サービス視点ではポイント/クーポンなどの他のサービスとの連携を強める傾向、などを強く感じました。NFCはあくまでソリューションの一つという位置づけになってきたようです。
 これに対し、ウェブマネーの竹島さんから興味深いお話がありました。「WebMoneyでも、実はNFCの実証実験をやりました」とのことで、サーバー型電子マネーであるWebMoneyでも、今後リアル(ネットではない一般の商店)での利用を広げようとする取り組みが行われていることを知ることができました。実際に、NFCではありませんがWebMoneyは現在一部の店舗(リアル店舗)での決済に利用できるようです。また、リアル店舗での利用拡大について、ウェブマネーの親会社が通信キャリアのKDDIであることなども考えれば、NFCの検討はむしろ自然な流れと受け止められます。
 また最近、通信キャリアのKDDIが発表した「au WALLET」において、ケータイ契約者に配布される非接触ICカードにウェブマネーが搭載されることも注目すべき事柄です。


2日目:いよいよ日本上陸、NFCペイメント

オリエントコーポレーション 執行役員
顧客営業推進グループ 個人金融およびクレジットカード担当 山口 朗 氏

NTTドコモ 金融ビジネス推進部 iD担当 担当部長 大戸 豊 氏

電子決済研究所 代表取締役社長 多田羅 政和 氏

 2日目のテーマは、「いよいよ日本上陸、NFCペイメント」でした。
 2日目はNFCカンファレンスではすっかりおなじみになったオリエントコーポレーションの山口さんを中心に、NTTドコモの大戸さん、電子決済研究所の多田羅さんにお話しいただきました。
 山口さんのお話で興味深かったのは、オーストラリアなどアジア各国で近年急激にpayWave/PayPassの導入が進んでいる点です。偶然、私も毎年オーストラリア(シドニー)を訪れているのですが、最後に赴いたのが昨年2月。その時点ではシドニー市内でpayWave/PayPassに対応する店は少なかったのですが、山口さんが調査渡航された昨年11月には「どこでも使えるレベル」にまで進展していたとのことで、その導入スピードの速さに驚きました。オーストラリアでの非接触対応について、山口さんは「いまどき磁気カードや接触型は時代遅れ、かざすだけの非接触が受け入れられるのは当然」と話され、今後、他の地域も含めて導入がさらに進む方向性を示唆しました。
 NTTドコモの大戸さんからは、「NFCスマホに搭載されるPayPassが海外で問題なく利用できるかどうか、NTTドコモの社員が世界各地に飛んで試した」というお話を大変興味深くお聞きしました。このような「動作チェック」は、ビザやマスターカードでも、EMVの接触型ICカードを発行し始めた頃によく行いました。実は私も日本で発行したICカードをはるばるイギリスまで持参し、現地の加盟店で買い物をして、使えることを確認したことがあります。NTTドコモによるPayPassの動作チェックでは、試験のためにマクドナルドでハンバーガーを10個買ったエピソードもあるそうで、試験の苦労が偲ばれます。そういえば私も15年前に日本のICカードをロンドンに持ち込み、試験のために気が進まないネクタイを購入したことがありました。
 このような苦労を知ると、NFCに限らず通常のクレジットカードが海外で当たり前のように使える背景には、実は大変な苦労があることがわかります。また、NFCもいよいよ「海外での動作チェック」という具体的なフェーズに入ってきたということではないでしょうか。
 多田羅さんからは、オリエントコーポレーションの発行したPayPassカードを使って、実際にロンドンバスに乗車してみた体験談や、ロンドン市内のカフェなどでも使える様子が現地の写真を交えて紹介されました。これについては本連載の別記事にも詳しく紹介されています。


3日目:情報家電等におけるNFC活用の可能性

ソニー FeliCa事業部 NFC推進室 室長 小林 秀樹 氏

デンソー 情報通信サービス開発室 担当次長 安保 正敏 氏

KDDI サービス企画本部 ライフデザインサービス企画部 NFCサービスグループ リーダー 阪東 謙一 氏

モデレータ(3日間共通) 山本国際コンサルタンツ 山本 正行

 3日目のテーマは、「情報家電等におけるNFC活用の可能性」です。情報家電や自動車、をテーマにソニーの小林さん、デンソーの安保さん、KDDIの阪東さんにご参加いただきました。KDDIの阪東さんは「ミスターNFC」ともいえる方で、NFCの技術検討当初から日本での導入を進められていたことでも有名です。
 今回、まず小林さんからスピーカーやオーディオ機器、テレビなど、一般的な情報機器にNFCが搭載され、スマホとかざすことでスマホのミュージックプレーヤーの映像や音楽を視聴する、という事例が紹介されました。確かにNFCの利用シーンとしては便利かもしれませんが、現状そのような機能に対応する機器がまだ少ないという問題があります。小林さんによれば、今後もテレビやオーディオ機器でのNFCの導入は進む、とのことでしたのでこれに期待しましょう。
 デンソーの安保さんからは、スマホとカーナビ連携のソリューションなどの説明がありました。NFCが搭載されたカーナビも今後は増えるとのことで、将来はNFCスマホにある目的地情報をカーナビにかざせば、カーナビ上の目的地が自動設定されるなど、便利な機能が提供されそうです。現状は専用の(自動車には後付け)カーナビのみが対応しているそうですが、これがビルトインカーナビへも対応が進んでいけば、さらに便利になるのではないかと感じました。
 KDDIの阪東さんからも同様のお話がありました。ダッシュボードにNFCスマホをかざす(載せる)と、自動車の設定がパーソナライズ(シートの位置設定、ミラー設定など)される、等の連携も検討中とのことで、車とスマホの連携が強まる傾向に期待が膨らみます。
 阪東さんからは、すでに新しいスマホの大半のモデルにはNFCが搭載されており、「今後、NFCは当たり前の機能になる」とのことで、着実にNFC化が進んでいる状況もご説明いただきました。
 3日目のセッションでは、正直に申し上げて、情報家電と車という具体例を見る限り、まだまだこれからという印象が拭えないと感じました。しかし、重要な点は現状のサービスの完成度ではなく、これまで決済サービスを中心に議論されてきたテーマが、情報家電や車などへと広がったことにあると思います。


「NFC+スマホ」の資産がもたらす意義は?

 3日間のカンファレンスを通じて、今年はこれまでの決済中心の話から、情報家電などより広い範囲に話題が膨らんだ点が良かったと感じました。
 しかし一方で、冒頭にも述べたとおり、先進性や新さに欠ける面は否定できなかったと思います。しかし、これはNFCが特別な技術ではなく、スマホやさまざまな機器に今後搭載されていく1つのテクノロジーとして、ある程度こなれてきた証拠ではないでしょうか。
 NFCに対応することだけで何かすばらしいことが起こる、というわけではありません。その可能性は、利用者や開発者、NFCをサービスに用いる人たちの工夫次第ということなのだと思います。
 一方で、今回は肝心の電子マネーサービスにおいて、モバイル(スマホ)があまり使われていないという実態も明らかになりました。言い換えれば、電子マネーやクレジットカードはやはり「プラスチックカードで十分」というユーザーがほとんどだということかもしれません。この傾向については、今回のNFCカンファレンス以外の場所でも同じような議論があり、決済端末のNFC化が進んだオーストラリアやイギリス、フランスでも、まだスマホやモバイルをかざして使う人は皆無といってよい状況なのです。
 この点は現実として認識すべきでしょう。しかし、これでNFCがモバイルに適合しないと判断するのは時期尚早ではないかと思います。現状はダウンロードやアプリ設定など、肝心のモバイルサービスの使い方が難しく、この点はまた改善の余地があると思います。
 一般の消費者が喜んでスマホに付いたNFCをかざして使うようになるにはまだハードルがありそうです。しかし私が大学で教えるような若い世代はスマホを普通に使いこなしており、彼らにとってモバイルアプリは当たり前のものかもしれません。そういう意味で、将来への期待感は大きいと思います。
 成熟したNFC、されどモバイルサービスは成熟せず・・・・。現状のNFCを一言で表すとするならば、こういうことでしょうか。

 今後さらに考えるべきことは、NFCそのものや、かざしてできること、などの各論ではなく、モバイルという環境に対して、NFCとスマホという資産がもたらす意義を大所高所から分析し、この資産をもっと有効に活用する業界を超えたエコシステムやサービスモデルを確立することにあるのではないでしょうか。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

バックナンバー

PAGE TOP