日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 電子決済・ICカード国際情報局 > アップルペイの何がそんなにスゴイのか

連載コラム

アップルペイの何がそんなにスゴイのか

[ 2014年10月15日 ]

 2014年9月9日(米国現地時間)、ついに発表された「Apple Pay(アップルペイ)」の影響で、NFCや非接触ICサービス周辺が再び騒がしくなってきました。iPhone6やアップルペイの詳細情報はすでに各方面で大量に紹介されていますので、ここではアップルペイについて、筆者の考える画期的な点を挙げてみたいと思います。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

サービスは「Google Wallet」とほぼ同等

 「Apple Pay(アップルペイ)」とは、Apple(アップル)社が新たに発表したモバイル決済サービスの名称で、既存のクレジットカードやデビットカードなどをiPhoneのアプリ内に登録しておき、対応の読み取り端末を設置する店舗ではiPhoneをかざすだけ、インターネット上でもクリック(タップ)するだけで支払いが完了します。
 本稿執筆時点でアップルペイを利用できるのは、アップル社の販売する最新のiOSデバイス、iPhone 6/iPhone 6 Plus、およびApple Watch(アップルウォッチ)がアナウンスされています(写真1)。アップルウォッチの場合には手持ちのiPhoneとBluetooth接続した状態で使用するようになっているため、旧機種のiPhone 5、iPhone 5c、iPhone 5sでも利用可能です。

写真1 アップルペイの紹介ページ(出典:米国 Apple, Inc. ホームページから)

 サービス内容としては、2011年からGoogle社がサービス開始した「Google Wallet」とほぼ同様であり、また、日本のおサイフケータイではさらに数年前から提供されているモバイル決済サービスと比べて、驚くべきほどの技術的飛躍はありません。
 では、アップルペイがこれほどまでに注目を集めるのはなぜでしょう。それは、世界中に熱狂的なファン層を持つiPhoneが、初めてNFC/非接触決済サービスの領域に踏み出したからに他なりません。
 最後発として、満を持して市場参入を狙うアップルペイ。iPhoneユーザーのポテンシャルはともかくとして、純粋にサービス面では、何がそんなにスゴイのでしょうか? 独断と偏見により、3つのポイントを挙げてみます。

画期的ポイント1 あらためて新規にカードを発行しない

 前述の通り、アップルペイの利用にあたっては、既存のクレジットカードやデビットカードなどをiPhoneのアプリ内に登録します。登録方法も斬新で、iPhoneの内蔵カメラを使ってプラスチックカードの券面を撮影するだけ。その後、セキュリティコードの入力などを済ませると「Passbookアプリ」にカードのビジュアルが表示され、あたかもカードがiPhoneに入ってしまったような印象を与えます。重要なことは、すでにユーザーが所有している「既存のカード」を登録するだけでアップルペイの使用が可能になる点です。
 ここで身近な例として、日本のおサイフケータイを見てみましょう。ポストペイ方式の「iD」や「QUICPay」にしても、国際決済ブランドの「payWave/PayPass」にしても、あらためてWebサイトなどから新規にサービス申し込みを申請する仕組みになっています。その後、カード会社から通知される利用情報などを待っておサイフケータイにアプリを登録する流れとなっており、そうこうするうちにユーザーの「使ってみたい熱」が下がってしまいがちな面があることは否めません。
 先に挙げたGoogle Walletや、その他諸外国のNFC/非接触決済サービスでも、手持ちのカードを登録するというよりは、サービスに対応しているカードを選んで新規発行してもらい、あらためてNFCスマートフォンに登録する作りになっているものが多いようです。
 もちろん、各々さまざまなご事情はおありのこととお察ししますが、ユーザーから見ればどちらが便利かは一目瞭然ですよね。この、ユーザーの "思い立ったら吉日" をポンと後押しするのが、アップルペイだと思います。
 アップルペイのスゴさはこの点に尽きる、とまで筆者は考えています。

画期的ポイント2 生体認証を必須にしてきた

 次に注目すべきポイントは、アップルペイでの決済時にユーザーの「バイオメトリクス認証(生体認証)」を求めるようにしたことです。具体的には、アップルペイをお店で利用する際には、iPhoneのホームボタンに内蔵された指紋センサー(「Touch ID」)に指を置いた状態で、読み取り端末にかざす必要があります(写真2)。

写真2 アップルペイの利用イメージ(出典:米国 Apple, Inc. ホームページから)

 通常、このようなカード決済の場面での利用者確認には、署名(サイン)や暗証番号の入力などが採用されてきました。アップルペイではこれに、利用者の指紋という生体情報を持ち込むことで、利便性と安全性の向上を図ったように思えます。
 実は、決済とバイオメトリクスの組み合わせは、決して新しい発想ではありません。場面は違いますが、日本のATMでも、指紋や手指の静脈情報とICキャッシュカードの組み合わせを採用して、より高度なセキュリティを預金者に提供しています。クレジットカードの世界でも、生体認証の組み合わせは過去に試行されてきた経緯がありますし、日本のおサイフケータイでも、指紋センサーを搭載した機種が現実にラインアップされています。この指紋認証をおサイフケータイ機能のON/OFFと組み合わせることで、まさしく今回のアップルペイとほぼ同等の仕組みを利用することはできます。
 それに対して、アップルペイの慧眼は、生体認証を「必須」にした点ではないか、と筆者は考えています。生体認証に用いられる身体情報は、極めてプライバシー性の高い情報であり、その利用の是非に関しては人によって好き嫌いの分かれる問題でもあります。
 そこをあえて必須としたところに、アップル社の意気込みが表れているのではないでしょうか? 本稿執筆時点でサービス開始前のため、詳細は不明ですが、アップルペイの1回当たりの利用可能金額や、利用限度額にも、生体認証を必須としているためにおそらく上限は設けない(登録した元のカードの利用制限と同一)運用となるのではないでしょうか。
 もしそうなれば、他と比較しても、画期的なNFC/非接触決済サービスの登場といえます。

画期的ポイント3 アップルペイの「アクセプタンスマーク」がない

 いきなりの専門用語で恐縮ですが、「アクセプタンスマーク」とは、そのお店で使えるクレジットカードやカードブランドのロゴマークが、レジ周りやお店の入口などに貼り出されているアレのことをいいます。アップルペイ自身のロゴマークはもちろんあるようですが、発表会ではそのマークをお店に貼り出すようなコメントをしていませんでした。
 代わりに説明されたのは、「Visa、MasterCard、American Expressの3ブランドと提携している」というコメントでした。そして、利用可能場所の目印として掲出されたのが、本連載では有名な、かの「コンタクトレスマーク」です(写真3)。

写真3 アップルペイの利用可能場所を示すアイコン(出典:米国 Apple, Inc. ホームページから)

 アップルの発表会の直後にわかることなのですが、VisaもMasterCardも「アップルペイは、われわれの開発した『トークン化』技術により支えられている」と発表し、アップルペイの使えるお店は「payWave/PayPass」の加盟店と共通であることを匂わせる発言を行いました。
 しかし、それでも、事実としてわれわれがアップルの発表会で目にしたように、アップルペイの説明に「payWave/PayPass」の「ぺ」の字も、ロゴマークも出てきませんでした。これは筆者の目には衝撃でした。
 アップル社からすれば、ユーザーに意識してもらうべき決済サービスはあくまで「アップルペイ」なのであって、「payWave/PayPass」を意識してもらう必要はない。さりとて、「使わせてもらえるところはきっちりと使わせてもらいます」という態度がはっきりと表れていて、感心してしまいました。一方の国際決済ブランド側も、プラットフォーマーとして、割り切った形での提携に至った覚悟には相当のものがあったはずです。

アップルペイは、NFC飛躍に向けた最後のチャンス?

 アップルペイのサービスは今年10月、まずは米国内からスタートします。その後、おそらくは世界へとその導入範囲を広げていくのだと思われますが、特にiPhoneユーザーの多い日本でもその動向には注目が集まっています。
 一方で、世界的にみて、NFC/非接触決済サービスはまだまだうまく行っているとはいえない状況にあります。記事の冒頭で、すでに3年前に米国でサービスを始めているGoogle Walletにも触れましたが、本格普及にまでは至っていません。仮にアップルペイが躍進すれば、ユーザーの意識も変わり、NFC/非接触決済サービス全体の底上げにつながることはほぼ間違いないでしょう。その意味でも、アップルペイには業界の熱い視線が注がれています。
 それにしても、アップルペイの発表があった日本時間9月10日の未明(生中継は深夜2時から)、電子決済業界の関係者の皆さんの間では、眠い目をこすりながらこの歴史的な発表を、固唾を飲んで見守った方が多かったようです。(しかもアップルペイの発表は終わったのに、U2が出てきてまだまだ眠れない!)
 願わくば、こんなに業界をワクワクさせる発表は、ぜひ日本から出てくるような時代にしていきたいですね。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

バックナンバー

PAGE TOP