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連載コラム

ついにロンドンにもコンタクトレスの時代が到来!

[ 2014年11月19日 ]

 本年も、恒例の欧州視察として、11月上旬にロンドンとパリへ行ってきました。今回はロンドンでの出来事をお伝えします。

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

payWave/PayPassでロンドン地下鉄に乗りたい!

 「今年こそいよいよか・・・?」 ――。毎年この時期にロンドンを訪れる私が、淡い期待を抱き続けてきた案件があります。ロンドン交通局における「payWave/PayPass(ペイウェーブ/ペイパス)」の鉄道乗車券としての利用、がそれなのですが、これには過去何度も裏切り続けられました。開始予定の時期を迎えていたはずが、いつになっても始まらないのです。
 本コラムを以前からお読みいただいている読者の方は「すでに始まっていたのでは?」と疑問に思うかもしれません。確かに、ロンドンバスでは昨年からpayWave/PayPassに対応したカードやスマートフォンをバスの乗車口にあるリーダーにかざせば乗車できるようになりました。それだけでもNFCマニアにとっては十分嬉しいことなのですが、ロンドンに渡航する日本人にとってよりポピュラーなのは、路線が複雑で乗車が難しいバスよりも、Tube(チューブ)と呼ばれる地下鉄のほうでしょう。
 現地の金融機関などの関係者から、「地下鉄でpayWave/PayPassが使えるようになる」と初めて聞かされたのは、今から4年ほど前のことでした。ところがその後は、毎年訪れるたびにサービス開始の延期を知らされ、「一体いつになったら始まるのか?」 と、その実現性を疑い始めていたのです。もし今年も始まっていないようなら、「ロンドン交通局、地下鉄でのpayWave/PayPass受け入れを諦める!」とする記事をどこかに寄稿しようか、とまで考えていたのです。でも今年、ロンドンに来てみると、始まっているではありませんか。

写真1 Contactless has arrived!

日本のpayWave/PayPassだってロンドンで使えるはずなのに・・・

 早速、欧州視察に同行した電子決済研究所の多田羅氏などが日本から持ち込んだpayWave/PayPassに対応したICクレジットカードや、NFC搭載スマートフォン(以下、NFCスマホ)に設定したpayWaveなどを改札口でかざして試してみました。ところが、その結果は微妙なものでした。
 どういうことかというと、日本から持ち込んだICカードやNFCスマホでは、使えたり使えなかったり(通れたり通れなかったり)と、結果がまちまちだったのです。
 ロンドン交通局によれば「イギリス国内で発行されたカードは問題ないが、国外で発行されたカードの受け入れには問題がある」というやや曖昧な情報もありますが、いずれにせよ日本で発行されたpayWave/PayPassの利用は、まだ完全ではない状態でした。
 さらに残念なことに、ロンドンの街中に増えたコンタクトレス(非接触IC/NFC)対応店でも、日本で発行されたpayWave/PayPassでは使えない(決済端末が反応しない)ことがありました。
 本来はあってはならないのですが、ICカードの受け入れ開始に際しては、今回のような問題が起こりやすいのが現実です。ICチップや決済端末の互換性、設定したパラメーターの間違い、などさまざまな原因の可能性が指摘されるのですが、いずれにせよ早期の原因究明と問題解決が望まれます。

写真2 日本で発行されたPayPassカードで自動改札を通過(このカードはバッチリ通れました!)
※カード情報保護のため写真は一部加工しています

世界中での互換性実現には、入念な確認とテストが必須

 さて、私は今回の体験から15年前の出来事を思い出しました。当時私は、日本で始まったばかりの接触型ICカード、MasterCardブランドのICクレジットカードをロンドンに持ち込み、先行してロンドンで設置が始まっていた接触型のEMV端末(当時のEuropay・MasterCard・Visaが定めた金融ICカード運用に関する共通仕様)で実際にカードが使えるかどうか試していたのです。
 初回の渡航では、その結果は全敗でした。私はその後、幾度となくロンドン、そしてヨーロッパのマスターカード本部があるベルギーを訪ね、その原因を探りました。その答えはICカードのパラメーターにありました。決済端末が、特定のパラメーター設定を持つカードの取引を受け付けない作りになっていたのです。
 当時、まだ始まったばかりのEMVにはノウハウも少なく、仕様書に曖昧な記載や間違いがまだ残っていました。問題のパラメーターには、仕様書に明確に書かれていない想像の領域があり、その仕様の実装をめぐっては、決済端末側とICカード側でそれぞれ自分に都合が良い動作を想定していたのです。互換性の問題といえばそれまでですが、完璧を期すには綿密なチェックとテストが絶対に必要だと痛感させられたものです。
 今となっては、仕様書の不備はさすがに解消されたのではないかと思いますが、今回も事前にしっかりと確認とテストが行われてさえいれば、「持ってきて使えなかった」というような基本的な不具合は避けられたはずです。15年前の教訓が活かされていないことは、残念でなりません。

ロンドン・パリで暗証番号を忘れたら、そのカードは使えません

 ところで、15年前には互換性の問題で使えなかった日本発行の接触型ICカードは、今ではもちろん、まったく問題なく使えています。それどころか、イギリスやフランスなどの主なEU諸国においては、現在では接触型ICカードの利用がごく当たり前となっており、どこへ行っても「Enter your PIN code please」(あなたの暗唱番号を入力してください)という状態です。
 日本でも接触型ICカードは増えており、「暗証番号(PIN)をどうぞ」と店員さんに言われる機会が増えました。しかし、日本ではまだPINを忘れた場合の救済措置が行われており、ICカードであっても署名(サイン)によるカード利用ができるのです。ただ、これはあくまで暫定措置であることを忘れてはいけません。ロンドンやパリでPINを忘れると、カードがまったく利用できなくなりますので、渡航される予定のある方はPINをお忘れなく。

「No, This is not contactless!」

 さて、話を本題のコンタクトレスICカード、payWave/PayPassに戻しましょう。残念ながら、日本で発行されたpayWave/PayPassカードの利用にはまだ問題が残りますが、ロンドン市内のお店にはpayWave/PayPass対応済みの決済端末が著しく増えました。
 今回、私はロンドンに着いてすぐ、タブレットで使用するプリペイドデータSIMカードを買い求めたのですが、その時の店員さんの動作がイケてます。
 支払いの際、彼は何と、日本で発行された私の接触型ICクレジットカードを決済端末に「かざした」のです。しかし、私のカードはコンタクトレスに対応していないので反応するはずがありません。反応しないカードを見て彼は、「No, This is not contactless!」と首を横に振りました。しかしすぐ気を取り直して接触型のリーダーにカードを差し、そのあとはもちろん、「Enter your PIN please!」
 イギリスではクレジット/デビットカードのすべて(100%)が接触型ICカードに移行していますが、直近の3~4年でコンタクトレスのpayWave/PayPassにも対応するカードが増えました。今回ロンドンで訪ねた、Payments Council(英国決済協会)で広報を担当する Mark Bowerman氏によると、「今年になって特にコンタクトレスの利用が急増した」とのことでした。SIMカードショップの店員さんの行動も、Bowerman氏の話を聞いてうなずけました。

 遅ればせながら、ようやくロンドンにもコンタクトレスの時代が到来したようです。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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