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連載コラム

いま「カード+α(プラスアルファ)」が面白い 技術進化が迫る次世代カードの姿とは?

[ 2015年2月26日 ]

電子決済研究所の多田羅です。しばしの間、旅に出ておりまして、今月は少し遅れての更新となりました。 気がつけばリテールテック JAPAN 2015目前(!)、読者の皆さんの気もそぞろかと思いますが、今回は筆者の注目する「カード+α(プラスアルファ)」の動向を紹介いたします。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

2陣営が合流へ、米国でNFCペイメントの"関ヶ原"開戦か?

 本記事の締切もすっかり過ぎてしまった(!)2月23日、NFCビジネスの関係者に大きな衝撃となるニュースが飛び込んできました。Google Wallet(グーグル・ウォレット)で米国におけるNFCペイメントの扉を開いたグーグルが、同じく米国でのNFCペイメントを推進してきたSoftcard(ソフトカード)社と業務提携したというものです。
 ソフトカードは米国を拠点とする通信キャリア3社(AT&T Mobility, T-Mobile USA、Verizon Wireless)の共同ベンチャーとして2010年に設立され、いわばグーグル・ウォレットの好敵手として、米国の一部エリアからNFCペイメントサービスをスタートしていました。この業務提携によりグーグルは、加盟店ネットワークをはじめソフトカードが構築してきたさまざまな「資産」を手に入れることとなり、グーグル・ウォレットの拡大に弾みが付くことが予想されます。
 もともと「グーグルがソフトカード買収に向けて交渉中らしい」という報道は2月中旬くらいから出ていましたが、3月の第1週にスペイン・バルセロナで開催されるモバイル業界のグローバルイベント「Mobile World Congress」を目前に、業務提携が正式に発表された格好です。今後、数日の間は、バルセロナに集った世界中のモバイルビジネス関係者に向けた大きな発表が相次ぐことも予想され、NFCに関しても新しいソリューションや提携の発表に期待が高まります。
 ともあれ、グーグルとソフトカードの業務提携は、米国内のNFCペイメント展開における"関ヶ原"の開戦に向けて、Apple Pay(アップルペイ)対抗陣営の一角が終結しつつあることを示すニュースとなりました。他にも米国では、小売業を中心として設立されたMCX社が、NFCの読み取り端末にかかる設置コストを嫌って店頭でのバーコード決済サービスを志向する「CurrentC(カレンシー)」を提供するなど、モバイルペイメントをめぐる争いは熾烈化しています。

ICカード単体で指紋認証が可能に

 さて、Apple Payの登場に世間が沸いていた頃、カード業界ではある発表が注目を集めました。それが、ノルウェーのZwipe(ズワイプ)社が開発した指紋認証機能付きの非接触ICカードです(写真1)。


写真1 Zwipeの非接触ICカードはMasterCardのコンタクトレス決済に対応。右の黒い部分が指紋センサー
(「CARTES 2014」の同社ブースより)

 昨年11月に開催されたカードビジネス関連の展示会イベント「CARTES 2014」でも披露され、多数の関係者が興味津々なお顔で同社ブースを覗いていましたが、カードを利用する際に今までのように暗証番号やサインを併用するのではなく、カード所有者の指紋情報を用いて認証する、いわゆるバイオメトリクス(生体認証)技術を応用したカードとなります。
 キャッシュカードをはじめとして、 日本では民間のサービスでも、指紋や、掌・指の静脈などの情報を使った生体認証が採用されていますので、本連載の読者には新しさが伝わりにくいかもしれません。
 Zwipeの新しさは、カード所有者の指紋の読み取りと、あらかじめICチップ内に登録された指紋情報との照合を「ICカード単体で」やってしまおうというところにあります。これによりカードの読み取り端末側に特殊な指紋センサーを設置しなくてよいなどのメリットがあります。 Zwipeでは指紋センサーを、何と、あの限られたカードの券面スペースに載せてしまいました。
 セキュリティの高いことが自慢のICカードですが、「そのカードを確かに本人が提示しているか」の確認についてはこれまで、署名(筆跡)や4桁の暗証番号に頼ってきました。この部分を電子化することで、カード所有者認証の精度を上げたい、同時に複数の暗証番号やパスワードを人間が記憶しておく不便を解消したいという発想は、カード業界としてもごく自然なアプローチといえます。指紋認証と決済の組み合わせといえば、最近ではApple Payが有名ですが、近年、深刻化しているネットバンキングの不正(なりすまし)被害などの動向も、こうした新サービス登場に拍車をかけているといっても過言ではありません。

ボタン1つで別のカードに早変わり!

 NFCやBeaconへの対応など、スマートフォンの技術進歩が盛り上がりを見せる一方で、Zwipeのように、カードの進化の中にも見逃せない動きが出てきています。筆者の知る限り、そうした変わり種カードのパイオニア的な存在ともいえるのが、米・Dynamics(ダイナミクス)社です(写真2)。


写真2 カード右側にある数字ボタンが機能切り替えスイッチ。写真のバージョンは非接触ICにも対応
(「CARTES 2013」のダイナミクス社ブースより)

 こちらは、カード券面に配置された「ボタン」を指で押すことによって、カード上の磁気ストライプ情報が書き換わり(切り替わり)、例えばクレジットカードとポイントカードのように、1枚のカードでありながら用途に応じて異なる機能を切り替えて使うことができます。初期には2つだった切り替えボタン(機能)も、最近ではより多くの数に対応したり、また磁気ストライプに代えてICカードに対応したりと、着々とバージョンアップを続けています。
 米国では実際にCitiグループなどで採用事例があるようですが、昨年末には国際ブランド会社のMasterCardなどがダイナミクス社に対して7,000万ドルの出資を行い、大きな注目を集めました。
 本稿では詳細は省きますが、ダイナミクス社のように1枚あるいは1台で、複数種類のカードに成り代わることのできるカード型デバイスの提案が最近になって相次いでいます。同様のコンセプトを掲げる米・Coin社の「コイン」には、今年1月に日本のクレジットカード大手であるクレディセゾンが出資するなど、カード会社や銀行などにとっても見逃せない動きと映っているようです。
 また日本のソニーは今年、「インタラクティブFeliCaカード」なる製品を発表し、2015年度中の商用化を目指しています(写真3)。こちらは1枚で複数の電子マネーカードやポイントカードを格納できるだけでなく、内蔵するBluetoothを通じてスマートフォンと連動することで電子マネーのチャージや利用履歴の確認などをできるようになるそうです。


写真3 昨年7月にソニーが発表した「インタラクティブFeliCaカード」(コンセプトモデル)
(「FeliCa Connect 2014」の展示より)

スマートフォンが「磁気カード」に変身!?

 変わり種カードとして最後に紹介したいのが、専用のスマートフォンアプリとアタッチメントを使ってカードの磁気ストライプ情報を読み取り、以降はお店のカード読み取り端末に向けてカード情報を「発信」することのできる「LoopPay(ループペイ)」(写真4)です。
 「発信」と括弧付きで書きましたのは、驚くなかれ、ループペイでは蓄えておいた磁気ストライプ情報を、お店のカード読み取り端末の磁気読み取り部分に対して、特殊な電波に変換して(非接触で)送り込みます。
 磁気カードを利用する際には通常、カードを端末にスワイプする(こする)のが普通ですが、ループペイは実態として、「磁気カード」を「かざす」ことをスマートフォンによって実現したことになります。こうなってくるともはや、技術的には何でもありなのではないかと思えてきます。
 なお、同サービスを提供する米・LoopPay社は、これも本記事の執筆中の出来事でしたが、韓国のサムスンに買収されてしまいました。同社のウェブサイトを見ると、「LoopPay vs Apple Pay」として、使えるお店の数では圧倒的にLoopPayが優っていることがアピールされています。磁気カードが使えるお店であれば基本的に利用可能なのですから、それはそうですよね!


写真4  ループペイは写真のようなアタッチメント型だけでなくスマートフォンカバー一体型も提供
(※現在のサービス提供範囲は米国内に限られているため、日本では使用できません)

「決済」と「IT技術」の組み合わせが生み出す未来

 以上、今回は変わり種カードのいくつかを紹介いたしました。
 お気づきでしょうか? ほとんどの技術アイディアが米国のベンチャーから生まれていて、それをカード・電子決済業界の誰もが知るような大手企業が出資や買収により取り込んでいく構図が実に鮮明に表れています。金融の世界では最近、金融(Finance)とIT技術(Technology)の組み合わせが「FinTech(フィンテック)」としてフィーチャーされていますが、語呂を合わせるならば、その中でも決済とIT技術の組み合わせについては「PayTech(ペイテック)」(?)などと呼んで区別してみても面白いのではないかと思いました。
 果たして、3月3日から始まるリテールテックJAPAN 2015でも、こうした技術進化の流れの一端を垣間見ることはできるでしょうか?

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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