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連載コラム

「NFCカンファレンス 2015」を終えて 〜3日間のパネルディスカッションを振り返る

[ 2015年3月17日 ]

3月4〜6日の3日間、「リテールテックJAPAN 2015」会場内の特設ステージにてNFCカンファレンスが開催されました。今回はその内容についてご報告させていただきたいと思います。

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

今年のNFCカンファレンスを総括して

 昨年まで、本カンファレンスはリテールテック内の「NFC & Smart WORLD」の一イベントと位置づけられていました。しかし、今年は「NFC & Smart WORLD」が開催されなかったため、リテールテックのイベントと位置づけが変更になりました。そのため、これまでのNFC中心の全体の流れから、流通小売(リテール)中心とした流れにテーマの仕立てを変更しています。
 今年のカンファレンスの内容の概略は次の通りです。今回のレポートはやや長文ですので、お読みいただく時間のない方はここだけお読みください。

【1日目(3/4)テーマ:流通小売業における電子マネーの活用展開】
・電子マネーは決済が目的ではなく物を売る手段
・電子マネーはクレジットカードなどとの連携により利用が伸びる
・NFCの意義はレジ前の行列を早くさばく「処理の速さ」

【2日目(3/5)テーマ:モバイルNFC決済サービスの現状と将来(payWave/PayPass)】
・「2020年に向けて電子決済環境を整備」とする政府方針はpayWave、PayPass普及のチャンス
・今後、payWave/PayPassに併せてセキュリティ対策・トークナイゼーションの普及を図る方針
・Apple PayはpayWave/PayPass・トークナイゼーションの利用環境が整えば、日本でも利用可能

【3日目(3/6)テーマ:流通小売と新決済サービスの行方】
・"FinTech"の言葉通りスマホやクラウドなどのテクノロジーが金融サービスを担う傾向が明らか
・新決済ではネット、通信、GPSなどのテクノロジーを活かし、これまでのクレジットカード決済とは異なる方法でセキュリティ対策を強化


NFCカンファレンス・モデレータ 山本 正行

プリペイドカードの導入目的には「ブランド貢献」も

 ここからは、カンファレンス各日の内容をまとめています。本内容はあくまで私のコラムですので、重要なポイントをまとめたものであることをご了承願います。

【1日目:流通小売業における電子マネーの活用展開】


スターバックス コーヒー ジャパン マーケティング・カテゴリー本部
マーケティングコミュニケーション部 Web/CRMグループ グループマネージャー
長見 明 氏


セブン・カードサービス 執行役員 電子マネー開発部担当
礒邊 俊宏 氏


楽天Edy 執行役員 渉外・法務部担当
宮沢 和正 氏

 初日には、本カンファレンスではおなじみの楽天Edy(楽天Edy 宮沢さん)、nanaco(セブン・カードサービス 磯邊さん)に加え、今年はスターバックスから長見さんにご参加いただきました。
 「お財布の中に"コーヒー体験"を」と、スターバックスの長見さんは、プリペイドカードの導入は、まず顧客の購買欲を高めることで売上に貢献し、次にCRMの一環としてスターバックスブランドに寄与すること、が目的と発言されました。特に2点目のブランド貢献の視点は、決済サービスの提供を目的とする大手クレジットカード会社などと異なる点です。
 決済専業のクレジットカード会社や電子マネー事業者は、一見大量のデータを持つように思われがちですが、実際に決済で得られる情報の項目が少なく、何をどこで購入したか、などの情報を正確に把握することが難しいのです。そのために決済データのビッグデータ化が難しく、CRMの効果も薄いという問題を抱えます。それに対して、今回ご登壇いただいた3事業者はスターバックス、セブン-イレブン(イトーヨーカドー)、楽天、という大きなマーケットプレイスを持ち、顧客の購入パターンから嗜好を把握できるなど、データ分析がしやすく、それを効果的にCRMに活用できるというメリットがあります。
 長見さんによれば、プリペイドカードの利用は3年で3倍増えたそうですが、それでも今後さまざまな決済サービスの導入や展開を考えてはいないそうです。売上貢献という実質的なメリットもさることながら、スターバックスにとって「ブランド貢献」がより重要である、ということを強く感じる発言でした。

汎用マネーに成長したnanaco 楽天Edy機能が楽天カードの利用を後押し

 導入当初からnanaco の責任者、まさにnanacoの生みの親でもある礒邊さんは、「電子マネーはレジ回りのツールに過ぎません」と謙遜します。しかし、今ではnanacoはセブン&アイグループ内の電子マネー(ハウスカード)の域を超えて、グループ外にも使える「汎用マネー」に成長しました。礒邊さんによればnanacoの利用は過去3年で2.5倍に増えたとのことです。この背景には、以前はセブン-イレブン以外に使える場所が少なかったものが、イトーヨーカドーなどのグループ内スーパーや、グループ外の店舗でも利用できるようになったことが大きいそうです。今ではイトーヨーカドーの全販売額の2割を超える利用があるそうで、これには驚きました。電子マネーの利用が思った以上に進んでいることを実感しました。
 アクワイアラー(他の決済事業者)によるnanaco加盟店の展開も功を奏したようで、最近ではグループ内の店舗に限らず、一般のクリーニング屋や美容院などでnanacoを利用する人が増えたそうです。
 楽天EdyはFeliCaを使った最初の本格的な電子マネーですが、後に楽天グループに吸収されたことはご存知の通りと思います。宮沢さんはそのEdyの生みの親でありEdyを象徴する人物です。しかし、今宮沢さんは楽天Edyのみならず、その見識を活かし楽天の決済サービス全般を見渡す立場で仕事をされています。今回の発表も楽天Edyに限定せず、楽天グループ全体を担う内容で興味深いものでした。
 かつて専業の電子マネーだったEdyですが、今では楽天カード(クレジットカード)、Rポイントカードなどと共に、楽天にとって重要な決済サービスに位置付けられています。
 宮沢さんによれば、楽天カード(クレジットカード)では、単体のクレジットカードよりも、楽天Edy機能付きのカードのほうが利用が多い傾向にあるそうです。一般に、IC交通乗車券との一体型クレジットカードや、ポイント連携機能がついたクレジットカードの利用のほうが単機能のクレジットカードに比べ利用が多いのですが、電子マネーの老舗でもある楽天Edyには古くからのファンも多く、クレジットの利用にも大きく寄与するようです。
 宮沢さんからはこれに加えて、「Apple Payは話題を呼んでいるが決済サービスの展開は容易ではない、必ず"踊り場"が来るだろう」、「スマホ決済サービスの中では楽天スマートペイが最も普及している」などの興味深い発言がありました。Apple Payについては2日目にも議論しましたので、後で解説します。

電子マネーは収益ビジネスになるか?

 ディスカッションが終盤に差し掛かったころ、長見さんから「電子マネーは収益ビジネスではないと考えているが、他の方はどうお考えか」と質問がありました。収益ビジネスではない点について実は私もまったく同意見です。それに対し、「それなりの規模になると単独事業としてもそこそこですよ」と、nanacoの礒邊さんの答えは対比的でした。
 一般論として、決済ビジネスは設備投資や運用コストに対して手数料収入が小さく、余程の規模を伴わない限り収益化が難しい事業です。しかし、クレジットカードで有名なビザやマスターカードのように、世界規模にまで成長して設備投資が一巡すると、今度は収益性が高く安定したビジネスになる例もあります。nanacoはその領域に達した、ということなのかもしれません。
 最後に、NFCについてほとんど触れられなかったためパネリストの3人に問いかけたところ、
 「レジの行列をさばくためにも処理が速いことが極めて重要」
という点で意見が一致しました。当然と言えば当然のことですが、各位がプリペイドカード、電子マネーに磁気カードではなくコンタクトレス(非接触型IC)方式のカードを選択した理由はそこにあるわけです。これについては最後にまた触れたいと思います。

日本政府の後押しで、payWave/PayPassの普及は進むか?

【2日目:モバイルNFC決済サービスの現状と将来(payWave/PayPass)】


オリエントコーポレーション 執行役員 顧客営業推進グループ
個人金融およびクレジットカード担当
山口 朗 氏


ビザ・ワールドワイド・ジャパン 新技術推進部 部長
鈴木 章五 氏


マスターカード・ジャパンオフィス マーケットデベロップメント
エキスパートセールス ディレクター
中原 美奈子 氏

 カンファレンス2日目は、昨年に引き続き「payWave/PayPass」をテーマとしました。昨年は、オーストラリアなどアジア各国でpayWave/PayPassの導入が近年急激に進んでいることなどが話題となりましたが、日本での導入については具体的な話がありませんでした。
 そのため、今年は「日本でのpayWave/PayPass展開」を中心にディスカッションを進めることにしました。
 日本でのpayWave/PayPassの導入(特に利用できる店舗を増やすという視点で)を考えるにあたり、重要な影響を与える政府の発表がありました。政府が進める訪日外国人向けの利便性向上等に関する施策がそれで、広い意味では成長戦略の一環と位置付けられます。発表では、
  1.訪日外国人向けの利便性向上等
  2.クレジットカード等を安全に利用できる環境整備
などがそのポイントで、中でも注目すべき項目は、「2020年までにクレジットカードおよびクレジットカード決済端末の全てをEMVに対応する」という内容です。
 EMV化の方針はpayWave/PayPassの導入にとって極めて重要な意味を持ちます。なぜならpayWave/PayPassがそもそもEMVに対応しているからです。しかし、国際決済ブランドはEMV化の際に接触型IC方式のみを義務付けており、コンタクトレスのpayWave/PayPassは任意対応(オプション)としています。そのため政府が言うEMV化は、それだけでは接触型のみと解釈されてしまうのです。
 例えば、アメリカでは接触型に加えてコンタクトレスのpayWave/PayPassにも同時対応するという方針を打ち出しました。アメリカは2015〜2017年にかけてEMV化をほぼ終了させる見通しですが、現時点ですでに全米の50%程度のビザ、マスターカード加盟店でpayWave/PayPassが利用できるようになったとの情報もあります。
 せっかくの政府方針ですが、このままでは接触型のみの導入に留まってしまいます。ここは是非アメリカに習い、接触型に加えてコンタクトレスのpayWave/PayPass対応も同時に進めるべきだという考えです。
 そもそもEMV化はPOSなどを改修する必要に迫られる流通小売が導入を嫌がる傾向が強く、今回のように政府主導の施策でEMV化推進計画に火がつかない限りなかなか進みません。日本はEMV化(特に店舗の決済端末)が遅れており、今では「EMV後進国」とまで揶揄される始末です。今こそ、せっかく動き始めたEMV化の機会に乗じて、アメリカのようにコンタクトレスのpayWave/PayPassまで一気に対応してしまおうではありませんか。

東京オリンピックに向け多くの訪日外国人がpayWave/PayPassカードを持参

 オリエントコーポレーションの山口さんも、この案の支持者の一人です。さらに山口さんは、そのためには国際決済ブランドのビザやマスターカードの積極的な協力が不可欠と主張します。
 オリエントコーポレーションはこれまで10年にわたりPayPassを日本国内で発行し、千葉県の某商業施設にその利用環境を整備しました。その仕掛人はもちろん山口さんで、日本ではpayWave/PayPassの第一人者といえる人です。その山口さんが今回、
 「EMVとはいえ今さら接触型への対応を始めるのは無駄で、むしろ接触型を省略して、一足飛びにコンタクトレスのpayWave/PayPassに対応しては?」
と発言し、日本の決済環境の整備の遅れに苛立ちを隠せない一面を見せました。・・・もっとも、これは識者でいらっしゃる山口さんならではの皮肉です。
 国際決済ブランドルールではEMVは接触型が義務付けられており、コンタクトレス対応は接触型の対応を前提にオプションとして認められるものです。ですから、接触型の対応をしない、という選択肢はないのです。
 ビザの鈴木さん、マスターカードの中原さんも、国際決済ブランドの立場から、payWave/PayPassの導入をサポートするというスタンスは共通しています。「payWave/PayPasseは特にアジア、北アメリカ、一部のヨーロッパなどで順調に導入が進んでおり、東京オリンピックに向けて増える訪日外国人の多くがpayWave/PayPassのカードを持ち込むことが予想されるので、国内のpayWave対応は極めて重要」(ビザの鈴木さん)と、payWaveの導入には前向きです。
 マスターカードの中原さんは、EMV(接触型)への対応が一巡したヨーロッパで、「今年から接触型に加えてコンタクトレスの対応を義務付ける方針」とのことで、世界規模でコンタクトレス(PayPass)に対応する姿勢を示しました。

Apple Payが使えるお店は日本でも増える?

 2日目のセッションでは、注目度の高い「Apple Pay」についても意見交換しました。Apple Payは、実態としてその中身はpayWave/PayPassであること、それに加えてビザ、マスターカードが推進するトークナイゼーションにも対応しているなどが重要なポイントです。
 トークナイゼーションについてはビザの鈴木さんから詳しい説明がありました。トークナイゼーションはアメリカの大手小売で相次いだPOSへの攻撃によるカード番号漏洩事故を受けて、ビザ、マスターカードが開発した仕組みです。
 トークナイゼーションはカード決済時に、本来のカード番号に代わりランダムな数字(トークン)を使って決済する仕組みです。プラスチックカードには対応しておらず、カードのかわりにNFC機能付きのスマートフォンを利用します。それに加えて決済データ(オーソリゼーション、売上処理)が必ずビザ、マスターカードのいずれかの決済ネットワークを通る必要があります。
 トークナイゼーションはカード発行会社(イシュアー)に多少の対応が必要ですが、カード受け入れ会社(アクワイアラー)のシステムへの影響は少なく、すでにアメリカでは一部の店舗で利用可能となっています。日本も今後、利用可能な店舗を増やす方向にあるようで、これを受けてApple Payの利用可能な店舗が日本国内にも現れるものと思われます。
 なお、マスターカードの中原さんから、トークナイゼーションの仕組みをサポートする同社のサービス「MDES」について説明がありました。MDESはアップルとサムスンに採用されたとのことで、私はこれを、今後NFCスマホ版PayPassにはトークナイゼーションが標準搭載される方向性の示唆、と受け取りました。

初登壇パネリスト揃い踏みの3日目 キーワードは"FinTech"

【3日目:流通小売と新決済サービスの行方】


Square カントリーマネージャー
水野 博商 氏


PayPal Pte. Ltd. 東京支店 グローバル・コア・ペイメント ヘッド
松谷 徹 氏


ベリトランス 代表取締役 執行役員CEO
沖田 貴史 氏

 3日目のパネリストはNFCカンファレンスでは初の新メンバーで構成しました。「流通小売に必要な決済サービスの新たな担い手」が今回ご登壇いただいた各企業の選定基準です。
 3社共通するキーワードはもはやNFCではなく、"FinTech"です。最近アメリカで流行り始めたこの言葉は、FinanceとTechnologyの造語で、平たく言えば、銀行ではなくテクノロジーカンパニーによる金融サービスということです。
 これまで議論してきた電子マネーやpayWave/PayPassは、金融サービスとしてみれば部分的な要素にすぎず、欧米では小口決済などと呼ばれる狭い領域です。Financeは決済だけでなく資金の融通(融資やファクタリング)などの総合的な金融サービスを指すので、より広い概念を示します。
 もう一つ、この3社に共通する点は、「グローバル」な戦略です。いうまでもなくスクエアとペイパルはアメリカに本部を置く企業で、世界展開の一環として日本で事業を進めています。ベリトランスはその逆で、日本企業(厳密にいえば親会社は香港籍)ながらアジアを中心に世界展開を進める企業です。
 スマホ決済のスクエア、送金+新決済のペイパル、に対し、ベリトランスは国内のネット決済で多くのシェアを持つ決済会社です。エンドユーザーとは直接接点のない企業ですが、国内のECサイトで商品を購入したことのある人であれば、かなりの確率で同社の決済システムを利用しているものと思われます。

スマホやネットを活かした新決済サービスは、総合ファイナンス事業へと進化?

 さて、パネリストの発表から興味深い点をいくつか紹介しましょう。
 最初に私が興味を持ったのは、スクエアの水野さんによるアメリカで始めた売り手(店舗・商店)に対する融資サービスです。スクエアはアメリカでスマホを用いたカード決済に加えて、資金の貸し付け(融資)をスタートしています。現在すでにその残高が100億円(日本円)を超える状態だそうです。この金額自体まだ驚くほどの水準ではありませんが、私は今後これが増えると直感しました。
 スクエアのスマホ決済はPOS機能が充実しています。今後は従来の販売管理に加えて商品の仕入や調達もサポートするなどの機能拡張があってもおかしくありません。それに連携して店舗が資金調達(融資)も行うという流れは自然で違和感がありません。私の憶測ですが、スクエアにとって利益率の低い加盟店手数料よりも、融資から得られる金利収入がより魅力的に映る可能性も否定はできません。
 松谷さんにご登壇いただいたペイパルは、送金+決済サービスとして有名ですが、資金がいったんペイパル口座に貯め置かれるため、金利こそつかないものの実質的に銀行口座に近い機能が提供されています。松谷さんから直接の発言はありませんでしたが、ペイパルが今後ファイナンスに本格参入するとしても違和感はありません。ただし、ペイパルは現状の決済サービスで十分な収益を確保できる体制にあるため、単に収益を目的としたファイナンス事業ではなく、あるとすれば決済サービス拡張の一環と位置づけられるではないかと思いました。
 アジア展開に積極的で中国Alipayとも関係が深いベリトランスの沖田さんの話も興味深いものでした。中国でAlipayが販売事業者への貸し付けを行っており、その残高がなんと1兆円というのです。当局の規制が厳しい中国で、堂々と貸し付けをすることがそもそも驚きです。その背景には急速に普及が進むECマーケットがあることは間違いありません。
 それにしても最近のAlipayの積極的な動きには感心させられます。当局規制の厳しい中国でスマホ決済を普及させ、Appleとも単独提携し、さらに金融サービスも展開となると、Alipayの今後の動きを見放せません。
 いずれにせよ、FinTechの言葉が示すとおりスマホやネットを活かした決済サービスでは、今後、決済だけではなく総合的なファイナンスに成長する傾向が明らかです。

P to P時代の決済サービスでは加盟店審査の手法が変わる

 次に、共通的な事象として指摘されるのが、決済サービスの C to C (C:consumer) 化です。これまで決済サービスはその多くが、

  <販売者=店舗事業者やECサイト> -対- <消費者=主に個人>

という形で取引していました。ところがスクエアやペイパルでは、

  <売り手=企業・個人問わず> -対- <買い手=企業・個人問わず>

という形に変化しています。このようなスタイルはAlipay、ネッテラー(Netteler)、ガムロード(Gumroad)などにも共通します。
 実際に、スクエア、ペイパルの利用申請時をみると、書類上は申請者の個人/法人を区別するものの、提供されるサービスや機能はほぼ同一です。売り手と買い手がお互いに相手の素性を(法人か個人か)確認してから取引をするようなこともありません。相手が必ず個人というわけでもないことから、「C to C」というよりも、デバイス間の取引を意味する「P to P」 (P=peer) と表現するほうがしっくりくるかもしれません。
 ここで問題となるのが、売り手の信用です。これまでクレジットカードが利用できる店舗やECサイトはクレジットカード会社(アクワイアラー)が厳しく審査していましたので、ある程度以上の信用は保証されていました。ところが、スクエア、ペイパルでは、売り手は企業から個人まで幅広く、従来はクレジットカードを扱えなかった中小店舗や個人まで売り手になり得るわけです。この状態で買い手が安心してカード払いでモノを買うことができるのでしょうか。
 この点について、多くのECサイトを加盟店に持つベリトランスの沖田さんは、「今後は加盟店審査の手法が変わっていく」と指摘します。
 また、以前、三井住友カードに在籍していたペイパルの松谷さんは、「クレジットカード会社は、買い手にあたるカード保有者の行動・決済状況をモニターし、怪しい取引を未然に防ぐ不正検知の仕組みを導入している。それに対しペイパルは買い手に加えて売り手(加盟店/アクワイアラー)の取引状態を常時監視し、何か問題があれば売り手の取引をすぐに停止できる仕組みとなっている。そもそもその手法は異なるものだ」と説明します。
 専門的には、売り手(加盟店)を常時監視し何か問題があれば取引を停止する、という管理方法を、「加盟店途上管理」や「加盟店途上調査」などと呼んでいます。

最新テクノロジーで加盟店途上管理の仕組みを改善

 ネットだけでなく実店舗での販売が行われるスクエアでは、加盟店(売り手)途上管理をサービス開始当初から運用しています。水野さんから、スクエアが実際に加盟店をモニターする実例の解説がありました。美容院の例ですが、店舗でのカード取引を常時モニターし、「同じカードが複数回に渡って使用された」、「美容院には不自然な高額決済が行われた」、などの場合にその利用を即刻停止する仕組みをスライドで解説いただきました。また、決済が行われた場所をGPS機能で確認できることも不正検知に役立っているようです。
 一見これは簡単なことのように思えるかもしれませんが、実は従来のクレジットカード加盟店を管理するアクワイアラーにとってこれは意外に難しいことなのです。
 従来の仕組みではアクワイアラーが店舗の取引を常時監視する仕組みがなく、遅れてバッチ処理される売上データを見て初めて気づくという状況です。そのため加盟店で発生した事故や不正に気付くのが遅れる傾向にありますが、それを加盟審査で未然に排除しようとするために審査が厳しくなるわけです。スクエアは加盟店途上管理の仕組みを大きく改善することでセキュリティ(取引の安全性)を維持し、それを理由に初期の加盟審査は厳しくせず、より多くの加盟店(個人)に利用してもらえるようにした、ということなのです。
 残念ながら3日目はNFCに関する話題がほとんどないままディスカッションは終わりました。その代わりと言っては何ですが、"FinTech"や「加盟店途上管理」などの、最新のキーワードについて活発に意見交換できてとても有意義なディスカッションができたと思っています。

カンファレンスを終えて

 今回のNFCカンファレンスを終えた感想として、まず、「NFCというキーワードを軸に議論する意義は何か?」 と率直に疑問に思いました。
 初日の電子マネーのセッションで、コンタクトレス方式の採用理由が「処理速度」と指摘された点は、いまさらながら極めて重要であると認識しています。これは、FeliCaやType A/B方式などに象徴されるNFCの最大の特長が活かされていることを示す根拠です。
 しかし、昨年までのセッションで通信キャリアのパネリストたちと論じた、
 ・グローバルスタンダード(Type A/B) 対 日本独自仕様(FeliCa)という論点
 ・Type A/B方式がサポートするセキュリティ領域は公開鍵暗号方式にも対応し、セキュリティ水準が高い
などの専門的な要素が議題に上がることはなくなりました。
 考えてみれば、これらの要素は供給者視点であって利用者視点ではありません。コンタクトレス・サービスの普及へ向けて大切なことは、その機能性や安全性を論じることもさることながら、それをどう使うのか、利用者にとって何が大切なのか、利用者はどう使っているのか、などについてもっと論じることでしょう。そういう点で、今年は利用者(採用する事業者)の視点から議論できたことは良かったと思いました。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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