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連載コラム

「カルテ(CARTES)」から「トラステック(TRUSTECH)」へ 開催30周年で転機を迎えた世界最大級のカードビジネス展

[ 2015年12月14日 ]

11月13日の金曜日、日本時間では14日土曜日の未明にパリで発生した同時多発テロ事件の影響を受け、そのわずか3日後の11月17日(火)から19日(木)までの開催を予定していた「CARTES 2015」展示会は、規模を縮小して実施することを余儀なくされました。本来であれば記念すべき30周年を祝うはずだった世界最大級のカードビジネス展示会は、当然お祝いムードにあるはずもなく、しかしながら、本来の予定通りにショーを続行することこそが今のパリ市民にできること、と言わんばかりにイベントを完遂しようとする力強い姿が見られました。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

●痛ましいパリでの事件、その翌週に開催

 同展には毎年足を運んでいるわれわれ欧州視察団(団長は本連載でもおなじみの山本正行さん)ですが、今年の出発予定日はまさに11月14日の朝。羽田空港の出発ロビーには、ニュース速報を食い入るように見つめるパリ行き便の搭乗客がありました。詰めかけた報道陣のフラッシュに一時騒然となったり、急きょ渡航を取り止めた乗客の預け荷物の回収などで若干の出発遅れはあったものの、結局パリ便は予定通り離陸しました。

 フランスのオランド大統領が非常事態宣言を発令し、「国境の封鎖を命じた」との一報もあり、出発前には「離陸したものの着陸できない可能性も・・・」との観測も流れましたが、実際には大きな影響もなく、ほぼ予定通りにパリはシャルルドゴール空港へ着陸、あっさりと入国できました。

 とはいえパリ市内は厳戒態勢ですから、われわれ視察団は宿泊ホテルに逗留することとし、移動は最低限にとどめ、人の多く集まる場所や公共交通機関は避けるなど、緊張感をもって行動しました。

 何しろ非常事態宣言ですから、その週末は観光客の多く集まる美術館やエッフェル塔などの観光施設、百貨店、シャンゼリゼ通りに立ち並ぶショップなど、軒並みどこも閉店となり、出歩く場所もない状況だったわけです。(写真1)

写真1 週末にも関わらず、人通りの少ないパリの夜
写真1 週末にも関わらず、人通りの少ないパリの夜

 しかし、週が明けて16日の月曜日になると徐々にパリ市内は平静を取り戻してきました。美術館もお店も営業を再開、当時フランスの国外で報道されていたような緊迫した状況は、実際のパリの様相とは少し異なっていたようです。どれだけ悲劇的なことが起きようと、そこで暮らしているパリ市民には普段の生活がありますから、当然といえば当然のことかもしれません。

●厳戒態勢下での開催、参加者は例年の4分の3程度に

 こうなると視察団の次の関心事は、「CARTESは開催されるのか」に移ろっていきます。

 今年のCARTESの日程から、この週末にパリ入りを予定していた業界関係者は多く、筆者もすでにSNS等を通じて各地の関係者が今回の事件をどう受け止め、CARTES参加の是非についてはどう判断するのかといった動静を見守りつつ、情報共有を図るなどしていました。

 CARTESのWebサイトを通じて主催者の見解が出たのが日本時間14日の夜、セキュリティ監視体制を強化して、予定通り17日より開催するとの方針でした(写真2)。しかし、この時点で自国からの出発前だったCARTESの出展者や参加者の中には、急きょ渡航をキャンセルし、今年の参加を断念する方も多く見られました。誰も保障はできませんし、正解もありません。すべて自身の判断、自己責任により、参加の可否を決断したことになります。

写真2 CARTESホームページを通じ、予定通り開催する方針がアナウンスされた(告知文は当時掲載されたものを筆者がSNSで引用したもの)
写真2 CARTESホームページを通じ、予定通り開催する方針がアナウンスされた
(告知文は当時掲載されたものを筆者がSNSで引用したもの)

 そして、すでにパリ入りを果たしていたわれわれ視察団は、最善の注意を払いつつ、当初の予定通りCARTES 2015の会場へ向かうことになりました。

 主催者のアナウンス通り、展示会の入場口ではセキュリティスタッフによる手荷物検査やボディチェックが入念に行われていましたが、それによる大きな混乱もなく展示会はオープンしました。

 とはいえこのような情勢ですから、当然、来場者の数は例年と同じとは行かず、また出展企業の中にも渡航中止の判断により、無人ブースの出展となってしまった企業も目立ちました。(写真3)

写真3-0    写真3-1    写真3-2

写真3-3    写真3-4    写真3-5

写真3-6    写真3-7    写真3-8
写真3 人だかりができ、例年とあまり変わらない会場の雰囲気に見える展示ブースも多かったが、やむなく欠席(ABSENT EXHIBITOR)となってしまった出展者の姿も目立った

 3日間に渡った会期の終了後に主催者が発表した開催結果は、以下の通りです。

<CARTES 2015の開催結果>  ※括弧内は昨年の実績
参加者:1万5,090名(1万9,156名)
参加国:135カ国(163カ国)
出展者:394社・団体(460社・団体)
カンファレンスセッション数:110講演(145講演)
カンファレンススピーカー数:160名(139名)

 公式発表では昨年度の4分の3ほどの参加者数でしたが、会場での体感ではもう少し人の少ない印象が否めませんでした。カンファレンス(セミナー)では講演者の中にも欠席がありましたから、お目当てのスピーカーの講演に参加できなかった方もいたことでしょう。それでも、展示会としての体裁を保てていたことは、立派というべきかもしれません。(写真4、写真5)

 今年のCARTESの出展では、特に際立ったキーワードやテーマでの商品、サービスの展示はありませんでしたが、強いて挙げるとすれば、決済端末の出展が目立っていたようです。特にスマートフォンやタブレットに接続して使用する「MPOS(モバイルPOS)」が多くのブースで目立って展示されていました。

写真4-0    写真4-1    写真4-2
写真4 例年、満員になる基調講演の会場にも空席が・・・

写真5 CARTESの3日目(11月19日)のカンファレンスにはオリエント総合研究所の山口 朗氏が登壇し、日本の非接触決済事情を紹介した
写真5 CARTESの3日目(11月19日)のカンファレンスにはオリエント総合研究所の山口 朗氏が登壇し、日本の非接触決済事情を紹介した

●新しい展示会名称は「信頼」+「技術」の造語

 今年30周年を迎えたCARTES展(CARTES SECURE CONNEXIONS)、実はその名称を今回から「TRUSTECH(トラステック)」に変更していました。実際には「CARTES」の名があまりになじみ深いことに配慮したのか、今年は2つの名称を併記。しかも、どちらかといえば「CARTES」ロゴのほうが大きくフィーチャー(写真6)されており、展示会が名称変更になっ(てい)た事実はほとんど誰からも認知されていなかったように思います。

写真6 CARTESブランドでは最後の開催となる
写真6 CARTESブランドでは最後の開催となる

 対象分野が「決済、ID、モビリティ分野のセキュアソリューション」であることに変わりはないのですが、30年の間に時代は変わり、技術や利用シーン、そして産業のあり方は「チップ・カード(ICカード)」から大きな変容を遂げつつあります。それを反映した名称が「TRUST(信頼)」+「TECH(技術)」の造語、「TRUSTECH」に賭けた主催者の思いなのでしょう。

 TRUSTECH展は来年、2016年11月15日〜17日の3日間に渡り、開催されることが決定しています。果たして次回、「CARTES」からのブランド移行はどこまで進んでいるでしょうか?(写真7)

写真7-0    写真7-1
写真7 来年は新名称「TRUSTECH」が全面に押し出される予定。新URLも発表に

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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