日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 電子決済・ICカード国際情報局 > 2020年、日本の電子決済市場はどこまで広がるか?

連載コラム

2020年、日本の電子決済市場はどこまで広がるか?

[ 2016年2月15日 ]

今年は3月8日(火)~11日(金)の4日間にわたって、東京ビッグサイトを会場に開催される「リテールテックJAPAN 2016」。9日(水)以降の3日間では、当社が企画協力しているパネルディスカッションイベント「電子決済-Next」が予定されています。「将来(Next)」のテーマに迫る前に、今回は日本における電子決済の足元の状況をおさらいしておきましょう。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

●電子決済の「マーケティング活用」「2020年キャッシュレス」「FinTech」を議論する3日間

 このパネルディスカッション企画、昨年までは「NFCカンファレンス」として開催されていたものです。本リレー連載のパートナーであります山本正行さん(山本国際コンサルタンツ・代表)をモデレータに迎え、各日数名の有識者や事業に携わられる皆さまにパネリストとしてご登壇いただき、電子決済の将来について熱い議論を繰り広げていただこうというものです。
 各日の討論テーマは以下の通りですが、出演者の詳細や参加申し込みはリテールテックJAPANホームページ(https://messe.nikkei.co.jp/rt/seminar/)よりご確認ください。
 当日、会場で読者の皆さまとお会いできることを楽しみにしております。

■■「電子決済-Next」パネルディスカッション■■
3月9日(水)
「流通小売業における電子決済/マーケティング活用」
3月10日(木)
「2020年に向けたキャッシュレス動向」
3月11日(金)
「流通・小売業界のFintech最新事情」

●2020年の電子決済市場規模は最大82兆円に、個人消費の3割に迫る

 さて昨年の6月、これから来るべき2020年に向けて日本の電子決済市場がどのような推移を示すかを占う調査結果が発表になりました。電子決済研究所と山本国際コンサルタンツ、カード・ウェーブの3者は共同で、2015年から2020年までの日本国内における電子決済サービス(クレジット・デビット・プリペイド ※注)の市場規模推移予測を発表しました。
 調査の結果、日本国内における2020年の電子決済取扱高の合計は最大で約82兆円に迫ることが予想されています(図表1)。決済方式別に見ると、クレジットカード決済市場が46兆円(2015年)から最大65兆円(2020年)へ、デビットカード決済市場は7,320億円(2015年)から最大1.4兆円(2020年)へ、非接触IC型やサーバ管理型の電子マネーを含むプリペイドカード決済市場は約8兆円(2015年)から最大16兆円(2020年)へと利用規模が拡大するものと推定されています。
 2020年時点での電子決済の市場規模感を示す約82兆円という数字ですが、日本の「個人消費支出」全体の約30%に相当する規模になると見込まれています。

図表1 日本国内における電子決済サービスの普及予測(2015年、2020年)
図表1 日本国内における電子決済サービスの普及予測(2015年、2020年)
出典:『電子決済総覧2015~2016』
(電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ/カード・ウェーブ)

※注)同調査では「電子決済(ePayments)」という言葉について、「物品の購入、サービスを受けた際に発生する支払いについて、現金を用いずに、電子的なデータで処理すること」と定義し、使用しています。これに該当する決済サービスとしては、①クレジットカード決済、②デビットカード決済、③プリペイドカード決済、の3種類があります。なお、金融機関の預金口座からの自動引き落とし(口座振替)や銀行振込などは、「電子的な支払い」として区別し、原則として電子決済のカテゴリには含めておりません。

●カード決済比率では日本が世界最下位レベルに

 しかし、個人消費支出の「30%」を電子決済が占める、と言われても一般の方にはピンと来ないのではないでしょうか。そもそも世界的に見て、電子決済、すなわちキャッシュレス決済というのはどの程度まで普及し、どのくらい利用されているのでしょうか?
 先日、決済の国際ブランド会社であるVisaが興味深い調査結果を公開しました。諸外国における、個人消費支出に占めるカード決済の比率です(図表2)。

図表2 個人消費支出に占めるカード支払いの比率(2014年時点)
図表2 個人消費支出に占めるカード支払いの比率(2014年時点)
出典:2016年2月10日に開催されたビザ・ワールドワイドジャパンの戦略説明会発表資料より

 最上位は韓国で73%。カナダ68%、オーストラリア63%と続きます。銀聯カードが目覚ましい普及を遂げている中国でも55%を突破していますね。すでにその他の支払い手段、つまり現金を超えていることになりますから、日常の支払いのほとんどにカード決済が利用されている状況が伺えます。
 カード大国といわれたアメリカの41%ももの凄い数字ですが、こうして比較してみると、もはや中庸な感じがするくらいです。現在の日本は17%とありますから、諸外国と比べて著しくカード決済比率の低い状況を実感します。
 いわゆるカード先進国はいざしらず、すでにロシア(21%)に遅れを取り、後ろにはインド(5%)が控えるという事実は、意外にショッキングな結果といえるのではないでしょうか。
 ですから、先の電子決済普及予測にありました「2020年に30%達成」というペースは、決して悪くはありませんが、絶対値としては「それでも全然足りない」ことがわかります。

●キャッシュレス化を阻む最大の敵は...

 少し時間を遡りますが、日本政府が2014年6月に閣議決定した「日本再興戦略」改訂2014において、「2020年オリンピック・ パラリンピック東京大会等の開催等を踏まえ、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性の向上を図る」ことが明記されました。これが起点となって、現在、「2020年」に向けた電子決済普及拡大への取り組みは官民で非常に活発化しています。電子決済やキャッシュレスの関係者にとっては、かつてない追い風が吹いている状況ともいえます。
 また、その根拠となる社会環境として掲げられたのが国際的なイベント開催ですから、われわれ日本人以上に、訪日外国人(昨年の流行語にもなった「インバウンド」です)の決済時における利便性・効率性向上も重要視されています。
 本連載にもその傾向があることは否めませんが、ともすれば、電子決済のさらなる普及は新しい技術やサービスの投入がなければ始まらない、と受け止められるような風潮があるように感じることがあります。しかし、キャッシュレス化の本当のハードルは、技術で解決できること以上に、われわれ生活者の意識(現金しか信用しないとか、クレジットカードは使い過ぎが怖いとか...)に潜んでいることのほうが大きいのではないでしょうか。だとすれば、イギリスの英国決済協会(PaymentsUK)が取り組んでいるような、決済方法ごとの特性や安全性、使い方などを、消費者に向けて懇切丁寧に解説したリーフレットの作成・配布(http://www.payyourway.org.uk/special-focus/understanding-different-payment-methods-in-the-uk/)のように、施策としてやれることは他にもまだまだあるのではないか、と考えてしまいます(写真)。
 日本の業界関係者の皆様にも、2020年以降の日本社会を見据え、ぜひ生活者の目線を持っていただいて、本当に安心、便利な決済環境の整備に取り組んでいただきたいと、切に願います。

写真 英国決済協会が消費者啓蒙キャンペーンの一環として昨年公開した「pay_your way(UNDERSTANDING THE DIFFERENT PAYMENT METHODS IN THE UK)」のリーフレット。
写真 英国決済協会が消費者啓蒙キャンペーンの一環として昨年公開した「pay_your way(UNDERSTANDING THE DIFFERENT PAYMENT METHODS IN THE UK)」のリーフレット。
「非接触ICカード」「Paym(モバイル送金)」のような新しいサービスだけでなく、「現金」「小切手」「口座引き落とし」なども並べて解説している。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

バックナンバー

PAGE TOP