米・ラスベガスで電子決済関連のイベント『Money 20/20』が開催 モバイルウォレットの主役は決済事業者? それとも流通小売業?
[ 2016.12.15 ]
FinTechなど今が旬な注目キーワードであることも手伝って、この数年、毎年10月に米・ラスベガスで開催される電子決済分野のカンファレンス/展示会併設イベント『Money 20/20(マネー・トウェンティトウェンティ)』(写真1)の認知度が業界関係者の間で高まっています。今年(2016年)も10月23日から26日までの4日間に渡って開催された同イベントを取材する機会がありましたので、今回はその模様と、ついでに足を伸ばしてウォルマートのモバイルウォレットを紹介します。
写真1 派手な音楽と照明、映像に彩られた『Money 20/20』のステージ
文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)
世界中から1万人を超える関係者が参加
『Money 20/20』の開催会場は、ラスベガスの「ザ・ベネチアン・リゾートホテル・カジノ」および隣接する「サンズ・エクスポ・コンベンションセンター」(写真2)。日本でもまさに法案が成立したことで話題ですが、空港はもちろんのこと、ホテルのチェックインカウンター、そして『Money 20/20』の会場へもカジノを通過しなければたどり着けない(写真3)という"お家柄"なラスベガスの地での開催とあって、イベントは最初から豪華絢爛な雰囲気に充ち満ちていました。

写真2 カンファレンス会場のザ・ベネチアン・リゾート
ホテル・カジノに隣接する「サンズ・エクスポ・コンベ
ンションセンター」が展示会場に

写真3 ラスベガスのマッカラン国際空港に到着したら、
ホテルチェックインの前にまずカジノをどうぞ!と言わ
んばかりの洗礼を浴びることになります
前記した通り、『Money 20/20』は講演やパネル討論などのカンファレンスと、関連企業がブースを繰り広げる展示会の2つで構成されますが、際立っていたのはカンファレンスの規模です。(反対に展示会場の規模は、例えばヨーロッパで毎年冬に開催される『Cartes(現TrusTech)』などと比べると3分の2ほどと控え目な印象でした)
カンファレンスはホテル内の5つの宴会場を貸し切って行われましたが、何と1つの会場当たりの広さは1,000〜1,500人(!)ほど。これが4日間の毎日、朝8時30分から夜まで途切れなく講演セッションが続きますから参加者は大変です。議論された主なテーマを以下に列記してみます。
- デジタルバンキング&パーソナルファイナンス
- モバイルウォレット&ペイメント
- 次世代のリテール&コマース
- オルタナティブ・レンディング&クレジット
- 発行のイノベーション(クレジット、デビット&プリペイド)
- 法律&規制(ビジネス上の課題)
- B2Bペイメント&ファイナンス
- ブロックチェーン技術
- インシュランス(保険)・テック
- リスク、セキュリティ&不正使用
電子決済(ペイメント)を軸にしつつ、実に幅広い分野の課題を取り上げていることがおわかりいただけるのではないでしょうか。もちろんスタートアップ企業(写真4)やアントレプレナーへの投資といった面にも多くの時間が割かれていました。
写真4 最高賞金2万ドルのスタートアップ向けコンテストや、ハッカソンなどを実施
主催者発表によれば、世界中から1万人を超える業界関係者の参加があったそうですが、カンファレンス会場(写真5)、会場の外の交流風景(写真6)や展示会場の賑わい(写真7)を見る限り、十分にうなずける数字と言えます。

写真5 メイン会場は1,500名を収容可能な大会場

写真6 各カンファレンス会場の外フロアには自然と人が
溢れ、交流の場に
写真7 米国お膝元の企業に加えて、ヨーロッパ、アジアからの出展企業も目立った展示フロア
なお『Money20/20』(ラスベガス)は、来年(2017年)も10月22日〜25日に開催されますが、それより前の6月26日〜28日にはデンマーク・コペンハーゲンにて『Money20/20ヨーロッパ』を、また再来年(2018年)の3月13日〜3月15日はシンガポールのマリーナベイ・サンズにて『Money20/20アジア』を初開催する予定とのこと。その勢いはとどまることを知りません。
せっかくの訪米なので「ウォルマートペイ」を体験!
ところで、アメリカの流通業大手といえばウォルマート(写真8)の名前を連想する方も多いと思いますが、今回ラスベガスへ足を伸ばしたのを幸いと、同社が北米で提供しているモバイルウォレットサービス「ウォルマートペイ(Walmart Pay)」を自身で体験することができました。
写真8 いざ、ラスベガス郊外のウォルマートへ
ウォルマートペイは、ウォルマート店舗に加えて、ウォルマートのネット店舗での支払いにも利用できるスマートフォン向け「ウォルマートアプリ」の1つの機能で、利用登録に当たっては米国内で発行されたクレジットカード、デビットカードか、ウォルマートで販売しているギフトカード(プリペイドカード)が必要です。利用代金はそれら紐付けられた決済カードを通じて支払われます。ウォルマートは2015年12月にこのサービスを開始し、2016年7月には米国内での全店対応を完了したと発表しています。全店といえば5,000店舗を超えますから、かなりの本気度を感じますね。
さて、こちらのモバイルウォレットの最大の特徴は、レジでの支払いの際にApple Payのような非接触ICではなく、「QRコード」を利用していることです。他にQRコードを利用するサービスとしては中国のアリペイ(Alipay)やウィーチャットペイ(WeChat Pay)などが有名どころですが、それらのメインの使い方がお客のスマートフォン画面に表示されたQRコードをレジ側で店員さんが読み込むのに対して、ウォルマートペイではレジ側の画面に表示されたQRコードをお客がスマートフォンアプリのカメラ機能を使って読み込む点が異なっています。
では体験してみましょう。私の場合は米国内で発行されたクレジットカード、デビットカードを持っておりませんので、まずは下ごしらえとしてギフトカードを購入しました。その上でiPhoneにダウンロードしたウォルマートアプリを起動、必要な個人情報を入力して、最後にギフトカードのアカウントへの紐付けを行います(写真9)。
写真9 店内で磁気カード方式のギフトカードを購入し、ウォルマートアプリへ登録
その上で売り場に戻り、購入したい商品を選んで、向かったのはウォルマートのセルフレジコーナー。日本でも見覚えのある端末ですので操作に不安はありませんが、いきなりセルフレジの画面にQRコードが表示されています(写真10)。そこですかさずアプリを起動してこれをカメラ機能により読み取り(写真11)。何とこれだけでiPhoneでのウォルマートペイの操作は完了(!)なんです。

写真10 日本の西友と同じ型番のセルフレジですが、よく
見ると画面にQRコードが!

写真11 ウォルマートアプリでQRコード
を撮影すれば、その他はいつもの商品スキ
ャン手順で支払いまで完了する仕組み
後はいつものお買い物よろしく、購入したい商品のバーコードをセルフレジにスキャンしていき、最後にレジ画面から「スキャン完了」をタッチすればもう商品の精算は終わりです。直後、アプリにはきちんと電子レシートや購入履歴が反映されますので、不安もありません(写真12)。ちなみにウォルマートアプリからレジ画面のQRコードを読み取るタイミングはいつでも大丈夫で、通常の商慣習にならって商品をすべてスキャンした後に「ピッ」と読み取っても問題ありません。
写真12 紙のレシートに代わって電子レシートがスマートフォンに配信される
ウォルマートペイはウォルマート店舗での支払いに限らず、アプリと連携したネットショッピングにも対応しています(写真13)。また、ウォルマートからのプロモーション情報がアプリへ定期的に配信されるなど、マーケティングツールとしての側面ももちろん備えています。
写真13 アプリにはウォルマートのネットショップが統合されており、
ウォルマートペイに登録したのと同じカードを使ってネット決済が可能
そういえば『Money 20/20』のパネルディスカッションでも、「リテーラー(流通小売業)のモバイルウォレット」という言葉が飛び交っていました。彼らも、AppleやGoogleなどが提供するグローバルブランドのモバイルウォレット(Apple PayやAndroid Payなど)や、その後ろ盾にもなっているカード決済ブランドの非接触IC決済サービス(Visa payWaveやMastercard Contactlessなど)の普及に関心はあるものの、「それらは決済にサービスの焦点が当たり過ぎており、流通事業者が自らそれ以外の販促やマーケティングに利用しようとすると自由度があまりにも少ない」。そこで、決済に限らず、お客さんとの間のコミュニケーションのすべてをコントロールできる「自社のモバイルウォレット」が必要だ、となるわけですね。
ところで、ウォルマートペイで買い物を済ませて颯爽とお店を出ようとした矢先、入り口に構えていた大柄の警備の方から「商品の精算は済んでいますか? レシートを見せてください」と呼び止められてしまいました。さっとiPhoneを取り出して電子レシートを提示すれば格好良かったのですが、予期せぬ出来事に操作をモタモタしていたところ「もうわかった。OK〜」と通してくれました。
やっぱり「紙のレシートがないと不安」という店員さん、そしてお客さんの心理、こればっかりは万国共通なのだなぁ、との思いを遠い異国の地で馳せることになりました。
この記事を共有する

- 執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ
-
多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。
山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。
バックナンバー
- 10周年を迎えた『電子決済-Next』パネルディスカッション 目標値ありきでなく、あらためてキャッシュレス化の意義を考えた3日間 [ 2019.03.14 ]
- 中国で飛躍するスマホ決済、注目される「信用スコア」のデータ利活用 [ 2019.02.25 ]
- アリペイの故郷で『Money20/20』が初開催 キャッシュレスシティ中国・杭州市で見た現金不要な社会 [ 2019.01.15 ]
- 「キャッシュレス払いで利用額還元」ブームの裏で課題は山積み、日本のキャッシュレス化は本当に進むのか? [ 2018.12.17 ]
- 八重山・宮古キャッシュレスの旅で、「現金」のご先祖さまに出会う [ 2018.11.15 ]