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連載コラム

「決済なんていらない」? 開催2年目の『電子決済-Next』が出したまさかの結論

[ 2017年4月5日 ]

本年3月7日から10日までの4日間、東京ビッグサイトにて「リテールテックJAPAN 2017」が開催されました。会場を訪れた方も多いのではないでしょうか? このうち8日〜10日の3日間は、展示会場内の特設ステージにて流通小売や電子決済関連の有識者にご登壇いただくパネルディスカッション『電子決済-Next』(企画協力:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ)が開催されました。モデレータは本連載のもう一人の筆者でもある山本正行氏。昨年に引き続き2回目となるこのイベント、今回も多くの方にご聴講いただきました。

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

●2017年3月8日(水)「リテール(小売)×電子決済」パネリスト

オイシックス
執行役員 統合マーケティング部 部長
Chief Omni-Channel Officer(COCO)
奥谷 孝司氏

スターバックス コーヒー ジャパン
デジタル戦略本部
デジタルマーケティング部 部長
長見 明氏

東急ハンズ
執行役員 オムニチャネル推進部長
ハンズラボ 代表取締役社長
長谷川 秀樹氏

写真左から、オイシックスの奥谷 孝司氏、スターバックス コーヒー ジャパンの長見 明氏、東急ハンズの長谷川 秀樹氏
▲写真左から、オイシックスの奥谷 孝司氏、スターバックス コーヒー ジャパンの長見 明氏、東急ハンズの長谷川 秀樹氏

 初日のテーマは「リテール(小売)×電子決済」。展示会の名称でもある小売、特に流通小売の現場が求める電子決済への要望について思う存分(?)語っていただきました。
 出演されたのは昨年大好評を頂いたお三方。オイシックスの奥谷さん、スターバックス コーヒー ジャパンの長見さん、そして、東急ハンズの長谷川さんに、揃って再登板いただくことができました。
 この日は「キャッシュレス派か現金派か」「Apple Payへの対応は?」「QRコード決済と非接触IC決済はどちらが便利か」といったまさしく電子決済業界どっぷりな話題から、「企業はITへの投資にどう臨むべきか」や「カード会社のビジネスモデル」まで、刺激的なトークが続きました。
 途中には、現在はまだアマゾン社の社員しか入場できない「Amazon GO」に対応したショップ店内の模様を、長谷川さんがわざわざシアトルまで足を運び、お店の外から(!)撮影されて来られた映像とともに紹介してくださる一幕も。最初に入場ゲートでスマートフォンを照合した後は、自由に商品を掴み取り、そのままお店を出るだけで、あらかじめアカウントに紐付けられた支払手段により決済まで済んでしまうという夢のような無人店舗スタイルです。映像でもあまり実物を見たことのないサービスだけに、会場の皆さんも目が釘付けなっていたようでした。
 皆さんの代表的なコメントを紹介すると、奥谷さんは「(オイシックスのEC決済では)クレジットカードをいったん登録すれば終わりで、お客さんが意識する必要がない。それよりも、オフラインでの購買体験を大事にしたい。セルフレジの増加を見てもそうだが、だんだんと決済の処理が店員の手を離れつつある。そうなると、店員はもっと接客に専念できるのはないか」と、小売業にとっては、決済は限りなく見えない存在になっていくことが望ましいと指摘しました。
 100種類を超えるバラエティ、バリエーションを誇るスターバックスカードや、非接触ICを搭載したキーホルダーなどを提供してきた長見さんは「『支払いで気分を変えられる』という体験はなかなかない。これからも楽しいものを考えていきたい」とエンターテインメント性を重視するご意見でした。
 長谷川さんは、ITサービス開発会社の経営を兼務されるお立場からの鋭い指摘で、「AI(人工知能)をどれだけ使おうと、加盟店から上がってくるクレジットカードの売上情報だけでは、CLOには十分に生かせないのではないか。そうであれば、お店の持っているレシート情報と上手に連携して、(カード会社とお店の)お互いにメリットがある仕組みを考えるべき」と提言されました。

●2017年3月9日(木)「コンタクトレス(非接触IC)×電子決済」パネリスト

NTTドコモ
スマートライフビジネス本部
金融ビジネス推進部 iD担当部長
大戸 豊氏

オリエント総合研究所
取締役兼専務執行役員
山口 朗氏

カード・ウェーブ
編集長
岩崎 純氏

写真左から、3日間のモデレータを務めた山本正行氏(山本国際コンサルタンツ)、NTTドコモの大戸 豊氏、オリエント総合研究所の山口 朗氏、カード・ウェーブの岩崎 純氏
▲写真左から、3日間のモデレータを務めた山本正行氏(山本国際コンサルタンツ)、NTTドコモの大戸 豊氏、
オリエント総合研究所の山口 朗氏、カード・ウェーブの岩崎 純氏

 イベント2日目のテーマは「コンタクトレス(非接触IC)×電子決済」。2016年はApple Pay、Android Payという2大グローバル決済サービスが日本上陸したこともあって、最近ではやや沈静化しつつあった非接触IC決済サービスに再び注目が集まりました。これらのサービスはいずれもスマートフォンに搭載される機能ですが、非接触IC決済自体はもちろんプラスチックカードでも利用できます。
 NTTドコモの大戸さんからは、同社が2005年12月から提供している非接触IC決済サービス、「iD」の最近の動向が紹介されました。昨年末時点での会員数は2,357万人、設置されたリーダライタの台数は68万台あまり。月に2,450万件(昨年9月末時点)の決済が行われています。最近は会員の「生活導線」を意識して、飲食店やドラッグストアなどの業種で対応するお店を積極的に増やそうと努力されているとのことですが、iDを搭載したプラスチックカード(クレジットカード)の観点で見ると、カード入会のきっかけになったり、カード利用の増加、利用単価の向上などにもつながっているそうです。
 オリエント総合研究所の山口さんからは、特に海外で利用されている非接触IC決済の動向について、世界各地の具体的な普及グラフなども披露いただきながら紹介いただきました。Apple Pay、Android Pay、Samsung Payなどのスマートフォンに搭載されるサービスも各国へ導入の裾野が広がりつつありますが、やはりアジア太平洋、ヨーロッパ、北中南米のいずれの地域でもプラスチックカード(既存のクレジットカードやデビットカードに非接触IC決済機能が搭載されたもの)の浸透度が目覚ましいとのこと。もちろん、それにつれて非接触IC決済に対応した決済端末の設置台数も着実に伸びています。
 メディアの立場から登壇されたカード・ウェーブの岩崎さんは、なかなか理解しにくいと言われる「日本のApple Pay」と「海外のApple Pay」の違いについてわかりやすく説明してくれました。ひと口に「非接触IC決済」と言っても、日本と海外の決済環境の違い、特に日本市場の特殊性をよくご存じの岩崎さんからは、最近流行のQRコード決済との機能的な比較なども交えて、セキュリティと利便性のバランスについて論点を整理いただきました。

●2017年3月10日(金)「フィンテック×電子決済」パネリスト

Origami
オペレーションズ責任者
伏見 慎剛氏

Square
カントリーマネージャー
水野 博商氏

PayPal Pte. Ltd. 東京支店
グローバル・コア・ペイメント ヘッド
松谷 徹氏

Origamiの伏見 慎剛氏
▲Origamiの伏見 慎剛氏

Squareの水野 博商氏
▲Squareの水野 博商氏

PayPal Pte. Ltd. 東京支店の松谷 徹氏
▲PayPal Pte. Ltd. 東京支店の松谷 徹氏

 3日目のタイトルは「フィンテック×電子決済」。電子決済のカテゴリは共通であっても、いずれもそれぞれユニークなサービスであり、「フィンテック」という言葉で一括りにするのは大変恐縮でしたが、時節柄、注目のキーワードとしてパネリストの皆さまにご容赦いただきました。
 当日は皆さんからサービスの状況についてご紹介いただきました。Origami(オリガミ)さんは今年の『電子決済-Next』に初登壇となりましたが、2012年に創業された、今回の登壇メンバーの中では新進気鋭の電子決済サービスです。  利用の際にはカードではなく、スマートフォンを利用する「Origami Pay(オリガミペイ)」ですが、お店での決済に加えてネット決済にも対応しています。このうちお店での決済には「iBeacon」と呼ばれるBluetooth通信技術を採用しているのが特徴で、お店に設置されたタブレットなどとの間で決済処理を行います。しかし最近では日本交通のタクシーに採用された事例をはじめ、Bluetoothではなく、QRコードに対応し始めているとのこと。タクシーの利用場面では、目的に着いて降車する際に、後部座席に設置されたタブレット画面にQRコードが映し出されます。利用者はオリガミアプリを起動してこのQRコードを読み取れば決済が完了します。オリガミの伏見さんによると、今後はこのQRコードをスマホで読み取る方式に加えて、スマホに表示したQRコードをお店側のタブレットで読み取る方式にも対応する予定とのこと。
 伏見さんは「決済は手段であって目的ではない」を持論とされており、「インターフェースは問題でなく、お客の購買情報を把握するためにアプリ決済に注力している。その上で、お店のメリットをいかに提供できるかを考えている」とコメントされました。
 Square(スクエア)さんは言わずと知れたmPOSサービスのパイオニア的存在。日本の代表を務める水野さんにもこのイベントには何度かご登壇いただいています。水野さんは、スクエアの誕生秘話として、ジャック・ドーシーさんと並ぶ共同創業者であったジム・マッケルビーさんの悩みを解決するために生まれたのがスクエアで、ガラス工芸作家だったジムさんが個人事業主であるという理由でなかなかカード加盟店の審査に通らなかったために開発された、というエピソードを披露してくれました。「カードの審査に落ちてしまうお店は皆さんが思っているよりも多い。日本でも8割9割が個人事業と言われるが、これをなんとかしていきたいよね、と考えたのが出発点だった」と水野さん。
 ショッキングだったのは「決済はなくなってしまえばいい」とのご発言。特に日本では、お客と店員が会話したり接点を持つのがほとんど支払いの時だけ、と感じておられるそうで、「お店はもっとお客とのコミュニケーションに時間を割きたいはず。そういうコミュニケーションを、例えば電子レシートに付けたアンケートなどを通じてサポートしていきたい」と意気込みを語ってくださいました。日本で最も標高の高いスクエア加盟店は穂高岳山荘、なんていうトリビアまで飛び出して、会場も大いに盛り上がりました。
 PayPal (ペイパル)の松谷さんも本イベントには何度かご登壇いただいていますが、日本のオフィスが2010年に立ち上がったこと、2015年7月にはebayから分離独立したことなど、同社の経緯をご説明いただきました。一見、複雑な仕組みに見えるペイパルですが、松谷さんのご説明は単純明快。「皆さんにアカウントを作ってもらって、そのアカウント間でお金が動く、単純な仕組み。ただ、200以上の地域で、100の通貨での決済に対応しているのがペイパルの特長になっている」(松谷さん)
 驚くなかれ、ペイパルのアカウント登録数はちょうどこのイベントの前週に2億人を突破。特に普及しているのは欧米とのことですが、オーストラリアでは消費者の5割〜6割がペイパルアカウントを持っているというからビックリです。さらに最近の傾向として、スマートフォンなどモバイルからの決済総額が1,000億ドルを超え、ペイパル全体に対してのモバイル比率がどんどん上がっているとのこと(2016年は3割がスマートフォン経由の取引)。
 松谷さんは「いかに簡単に、決済をいかに個人の日常生活に密着したサービスにできるかが大切」と括り、ペイパルのさらなるサービス向上に意欲をにじませておられました。

  *  *  *  *  *  *  

 開催2年目となった今年の『電子決済-Next』。こうして振り返ってみると、皆さんのご意見がまとまっていないようで、まとまっているようで、面白いですね。やはり印象的だったのでは「決済なんていらないんだ!」と主張されるパネリストが多かったこと(笑)。決済は決して主役ではないとの認識に立って、提供する事業者はお店や利用者に対してどんな付加価値を提供できるのかを考え尽くさねばならない、そんな境地に達しておられるのでしょうね。

 イベントにご登壇された皆さん、そして3日間、通しでモデレータを務められた山本さん、お疲れさまでした!

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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