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連載コラム

スマホ決済について思うこと・・・Apple Payを機種変更してみた結果

[ 2017年10月12日 ]

読者の皆さんもご存じの通り、アップルがこの9月と10月末、続けざまに新しい「iPhone」を発売します。せんだって私は「iPhone 8 Plus」を入手しましたが、iPhone 7Plus に登録していた「Apple Pay(アップルペイ)」サービス(写真1)を新機種に設定変更してみて気づいたことなどを述べたいと思います。

(文中iPhone 8 Plus、iPhone 7 Plusは長いので単にiPhone 8、iPhone 7と略して記述します。おそらくPlus とそうでない機種との間で移行などの操作に違いはないため、問題はないはずです)

文・山本正行(山本国際コンサルタンツ)

Apple Payのメニュー画面(筆者撮影)
Apple Payのメニュー画面(筆者撮影)

iOS 11の「自動セットアップ」は簡単で「すばらしい」の一言

 まず、冒頭からアップルを褒めたいと思います。「何を?」と問われれば、極めて簡単になった機種移行作業について、です。「自動セットアップ」などと称する機能ですが、iOS11を搭載したiPhone 8の設定は極めて簡単で、率直に言って驚きました。
 新しいiPhone 8の電源を入れ、使用中のiPhone 7をiPhone 8 の上にかざすと自動的にペアリングされ、機種の設定が自動的にiPhone 7 から 8に移行した上でセットアップされるというものです。私の場合10分程度でiPhone 8の基本設定が済み、あとはiCloudからアプリ本体やデータがダウンロードされるのを待つだけでした。
 iCloudからダウンロードが済んでしまえば、iPhone 8はすぐに使える状態になります。しかし、メッセージサービスやメーラーなどにログインするなどの軽微な作業は残ります。Apple Payはどうかといえば、各機種の「デバイスID」なるものを使ってカード情報を暗号化している関係から、同じiPhoneでも機種個体が変わればカードの再登録が必要になります。最初は「やはり面倒だ」と感じましたが、実際にやってみると思いのほか簡単でした。
 というのも、Apple Payからカードを登録しようとすると、以前のiPhoneに登録済みのカードの一覧が自動で表示されますので(写真2)、各カードをクリックしてセキュリティコードなどで認証すれば再登録が可能です。満点とは言えないまでも、過去のおサイフケータイでの機種変更の後処理の大変さを思い起こせば、相当な進歩です。

機種変更後も登録していたカードが自動で表示される(筆者撮影)
機種変更後も登録していたカードが自動で表示される(筆者撮影)

Apple Pay移行の簡単さは及第点

 私はガラケー時代におサイフケータイを利用していましたが、機種変更の際、設定の移行が面倒なあまりに利用をやめてしまったことがあります。その経験からApple Payも一世代限りではないかと半信半疑でした。しかしなんとか乗り切れたのは、以前のおサイフケータイに比べて、機種変更時のサービス移行手続きが簡単だったからです。
 ガラケーやアンドロイドのおサイフケータイ機能の機種移行には問題もありました。例えば、OSを初期化しても「iD(アイディ)」、「QUICPay(クイックペイ)」の設定が残ってしまうことがあります。各サービスの説明にはOSや端末初期化とは別に決済サービスに登録されたデータを別途消去するよう注意事項が記されています。決済データがOSやアプリの領域とは別のセキュリティ領域に記録されているためですが、消さないまま本体を下取りに出してしまうと大変です。新しい保有者が購入した中古端末でiDやQUICPayをそのまま利用すると、元の保有者に請求されてしまうという可能性があるのです。この問題は決して珍しいとは言えない程度に発生しており、国民生活センターも注意を促しています。
 最近は端末初期化の際に注意を促すメッセージが表示されるスマホもあるようですが、そもそもApple Payではこのような心配がありません。この一点だけ取り上げてみても、従来のおサイフケータイよりもApple Pay は優秀と言えるでしょう。
 いずれにせよ、面倒な作業が減ったことは良いことで、今後の普及に拍車がかかるのではないかと期待したくなります。

スマホ依存の若者に期待?

 スマホの利用には一定以上のリテラシーが求められると思います。しかし、スマホに強く依存しリテラシーの高い若年層ならば、Apple Payなどのサービスも積極的に利用するだろう、とする楽観的な発想があります。しかし、それには疑問の余地があります。
 大学で教えるなどして、私は毎年100人以上の大学生と接しています。毎年アンケートを行っていますが、過去3年間、受講生の99%以上がスマホ保有者でした。今年は200人を超える大所帯を担当しましたが、受講生の100%がスマホ利用者で、しかも90%がiPhoneの利用者でした。
 学生たちはスマホをよく使いこなしています。コミュニケーションは「LINE(ライン)」が前提で、ゼミなどの集まりでは、指示するまでもなくリーダー格の学生がLINEの「グループ」を設定します。彼らはスマホが持つ本来の通話機能は全く利用しません。LINEでやりとりし、会話が必要な場合にはLINE通話を使います。通話機能が不要なため、データ通信のみ可能な無線ルーターのテザリング機能を利用して「iPod touch」を利用するというハイテク? な学生もいます。LINEと「Instagram(インスタグラム)」を多用し、移動の際には乗り換え案内で検索して行き方を調べ、飲み会の予約もスマホから行います。  このような学生たちですが、おサイフケータイやApple Payの利用者は、ほぼいない状態なのです。なぜなのでしょう。
 最大の理由は、iPhone 7と8を持っている学生がまだ少ないことでしょう。しかし、根本的には彼らにとってApple Payは必要ないのです。そもそも、「使い過ぎが怖い」などと言ってクレジットカードを積極的に使いたがらない学生たちです。彼らにとって、タッチするだけで支払いができ、代金は紐付いたクレジットカードに請求されるというApple Payの便利さは必要ないのです。前払い方式のSuicaならば使い過ぎの心配がないのでぜひ使ってほしいと考えますが、面倒なのか、金目のものをスマホに入れたくないのか、SuicaでもApple Payには興味を示してはくれません。
 iOS 11やApple Payの設定が簡単になったことで、面倒な作業は相当に減りました。この変化は重要で評価に値します。それによってApple Payやおサイフケータイに関心を持つ層の利用が進むと考えて良いと思います。しかし、そもそも必要ないと考えている人たちにとって、Apple Payは無用とまでは言わないまでも、無くても別に困らないものなのです。この問題は全く別と考えるべきでしょう。

LINE を使う学生もLINE Payは使わない

 コミュニケーションのほとんどをLINEに依存する学生ならば、その上で利用できる決済サービス「LINE Pay(ラインペイ)」を使っているのではないかと思うのですが、これもまたそうではないのです。親から子に小遣いを送る際など便利な面もあるだけに、残念なことです。スマホのほぼ全機種で利用可能なLINE Payであっても学生が積極的に利用しないところを見れば、LINE Payもまた学生にとって「無くても別に困らないもの」ということなのでしょう。
 私はゼミ生に相談員向けセミナーなどでのお手伝いを頼むことがあります。最近、せっかくなのでその際の小口経費や謝金の一部をLINE Payで支払うことにしました。必然性があれば学生たちもLINE Payを使い始めます。微力ながら私もLINE Payの利用促進に一役買っているというわけです。

スマホ決済嫌いの相談員がOrigami Pay を使ったワケ

 先日、スマホ決済サービスである「Origami Pay(オリガミペイ)」を提供する、株式会社Origami 社長の康井 義貴氏と話をする機会がありました。康井氏も「学生にスマホ決済を使ってもらうのにはもう一段ハードルがある」と同意見でした。
 康井氏は「加盟店への送客と利用促進」などで普及を図る考えで、対応する加盟店側のニーズである「送客」と、顧客ニーズの「お得感」の両面で攻める考えのようです。
 そのOrigami Payですが、最近利用可能な店舗が増えており、都内では日本交通のタクシーでも支払うことができます。私もタクシーで使ってみました。わずかながら割引があり、現金や電子マネーで支払うよりもお得。後部座席の目前に掲げられたサイネージにスマホをかざすだけで支払えるため簡単。領収書が自動的に保存されるので紙のレシートが不要。業務で利用するクレジットカードを登録しておけば会計処理も楽。などなど、良い点が多々あり、実際に利用してみればこれはこれで便利で快適なのです。Apple PayとOrigami Payのどちらを使おうか、と悩むことになりそうです。実際に「タクシーでの利用は多く、継続して使う人が多い」そうです。
 私は全国に4000人ほどいらっしゃる消費生活相談員向けに決済サービスのしくみなどの講義を行っています。なかでもスマホ決済に対する関心は高く、Apple PayやLINE Pay、Origami Payなどの新しい仕組みは人気テーマにもなっています。しかし、それらの各サービスを実際に利用している相談員は極めて少ない状態です。なぜなら、相談員にとって、スマホ決済はそもそも必要性がない上に、「危ない」、「あやしい」、「だまされそう」、など偏見と言えなくもない悪いイメージがつきまとう厄介者なのです。
 それでも、先日Origami Payを使ったという相談員がいて驚きました。よく聞けば、割引があるので使い始めたと言うのです。また、お年玉がもらえるのでLINE Payに登録した、という相談員も存在します。ご存じの方も多いと思いますが、LINE は今年の正月にLINE Payに登録するとお年玉が受け取れるキャンペーンを実施しています。
 話は少し飛びますが、かつて東京でオリンピックが開催された1964年に、東京-新大阪間に東海道新幹線が開業しました。便利な新幹線ですから、誰もが利用して当然と考えがちですが、当時はまだ在来線でも東京から大阪に移動することができたため、料金の高い新幹線を敬遠する人も多かったようです。確か、JR東海初代社長に就任された須田寛氏の話と記憶していますが、国鉄は新幹線開業後も宣伝やパッケージツアーを誘致するなど積極的にPRを続ける努力を怠らなかったそうです。示唆に富んだ話です。

利用促進策不足は明らか さらに足らないものは何か?

 Apple Pay、LINE Pay、Origami Payなどの新しいスマホ決済は、便利で良いサービスであることは間違いありません。サービスが増えることで、利用者に選択の余地が広がることも悪いことではありません。このような状態を一言でいえば、決済サービスの多様化であり、今後もその多様化が進む傾向にあると考えるべきでしょう。
 しかし、利用者にとってみれば、「無くても別に困らない」サービスが増えるばかりとも受け取れます。さらに、仮にサービスが増えても消費者の認知が広がらなければ意味がありません。同業ではない友人にApple PayやLINE Payを知っているかと聞いてみることがありますが、残念ながら答えは大概「知らない!」の一言です。
 各サービスを提供する事業者が本気で利用促進を考えるのならば、PRと利用促進の不足は否めないでしょう。日本と事情が異なるとはいえ、中国でアリペイやウィーチャットペイが一気に普及した理由もよく分析してみたいところです。

スマホ決済が新幹線のように当たり前となるには

 iOS11のお陰でApple Payばかりでなく、LINE PayやOrigami Pay の移行も簡単に完了しました。とりあえず、私はスマホ決済の先進的利用者の一人でい続けることができそうです。
 ところでiPhone 8はiPhone 7とほとんど変わらないように見えますが、よく見ればガラス張りの裏面がきれいです。そんなiPhone 8を眺めながら、

「スマホ決済が新幹線のように当たり前となるためには何が必要なのか?」

というテーマをより広い視野から考えみたいという思いに至りました。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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