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連載コラム

広がるキャッシュレスブーム、2025年に日本の電子決済市場はどこまで伸びる?

[ 2017年11月14日 ]

先週のプレミアムではない金曜日に「現金お断り」を看板に掲げたレストランにて、美味しいワインと食事を楽しんできました。日本政府も推進するキャッシュレスの導入効果について、課題を含めた実情を実測しようとする飲食店の野心的な試みですが、歓迎すべき動きといえるのではないでしょうか。今回はほろ酔い気分で、日本のキャッシュレスの行方を考えてみましょう。

文・多田羅政和(電子決済研究所)

現金の使えないレストランが都内に登場

 この11月初旬、東京・中央区のJR馬喰町駅からほど近い場所に、現金の使えないレストランが登場して話題になっています。お店の名前は「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリングテーブルパントリー)」。運営するのはファミリーレストラン「ロイヤルホスト」などで有名なロイヤルホールディングス社です。
 現金お断りのお店というのは世界的にもまだ珍しい部類に入りますが、飲食店で、しかも日本でそんなお店が開店したと聞いて、さっそく筆者も週末の金曜日に訪れてみました。
 「CASHLESS(キャッシュレス)」と店頭にデカデカと掲げられた入り口を入り(写真1)、案内されたテーブルにわくわくしながら着席すると、店員さんからお店の説明があります。「こんばんは。当店は現金ではお支払いいただけません。クレジットカードや電子マネーのみ利用できますが、よろしいですか?」。
 「もちろんです!」。そこは筆者としては面目躍如の場面なのですが、さらに説明を聞いていくと、支払いは食事を終えてお店を後にする際の「後払い」なのだそうです。
 「十分に入金しておいたつもりだが、呑み食べし過ぎて電子マネーの残高が足りなかったら?」
 「虎の子で持参したクレジットカードがうまく動作しなかったら?」
などなど頭の中に疑問符が浮かんでしまいますよね。そうした事態を想定すると、現金支払いを禁じる場合、自ずと支払いは食事の前、つまり「先払い」とする運用になりがちです。しかし、こちらのお店では一般的なレストランでの支払いの慣習を変えることを避け、あえて後払いの導入を選択しています。もちろん、運営店の中では実験店舗の位置付けでしょうから、まずはこれで実際に運営してみて現場の反応を見守っていく姿勢なのでしょう。
 カードや電子マネーでの支払いがうまくいかなかった場合にはどうするのか。この疑問はぜひ、読者の皆さんにもお店に足を運んでもらって、店員さんに聞いてみてください。

店舗入り口に掲げられた看板(筆者が撮影)
写真1 店舗入り口に掲げられた看板(筆者が撮影)

mPOS端末でクレカと電子マネー決済に対応

 このキャッシュレス・レストラン。普通のレストランと違っているのは支払いだけで、それも帰りに後払いするだけですから、着席して食事を楽しんでいる間は特にこれといったイベントはありません(もちろん、料理やドリンクは美味しく頂きました)。ではその他のオペレーションはどうでしょうか。
 居酒屋や回転寿司などではすでにおなじみですが、注文はすべてお客さんのテーブルに配られたタブレット端末(Apple社のiPadを採用)を使って行います。これなどはフロアで注文を取って回る店員さんの代わりとなって活躍してくれますから、お店にとっては運営の効率化につながる点でしょう。これに加えて、支払いに現金を扱わないキャッシュレスが徹底されますと、相乗効果が期待されます。究極的にはレストランが丸ごと自動販売機になるようなイメージといえます。
 ただ、筆者のように、店員さんとの会話がないとどこか味気ない食事に感じてしまう人や、かえってそれが心地良いと感じる人など、人の印象はさまざまです。店舗における無人化やキャッシュレス化の流れは今後、お店のTPOに合わせて、それぞれに適したサービスが導入されていくことになるのでしょう。
 さて、食事も終わっていよいよ支払いですが、こちらのお店にはスマートフォンをPOSレジ代わりに利用する「楽天ペイ(実店舗決済)」が導入されていました。対応する電子決済は、クレジットカード(Mastercard、JCB、Visa、American Express、Diners Club、Discover)、プリペイド電子マネー(「楽天Edy」・「Suica」・「PASMO」・「Kitaca」・「TOICA」・「manaca」・「ICOCA」・「SUGOCA」・「nimoca」・「はやかけん」、「nanaco」)、ポストペイ決済(「QUICPay+」、「iD」)と多くのサービスを網羅しています。日本の「Apple Pay」や「Android Pay」にも対応していまして、さらに「WAON」にも2018年には対応する予定とのことです。
 せっかくですから訪日外国人にも来店してもらって日本のキャッシュレス化を感じてほしいところ。今は未対応ですが、銀聯カードやアリペイをはじめ、その他さまざまな電子決済サービスについても今後の対応に期待してしまいます。
 なお楽天ペイ(実店舗決済)は、接触ICカード、非接触ICカード、磁気ストライプカードのいずれの方式にも対応しています。会計の際には店員さんがスマートフォンとカードリーダーを操作して案内してくれますが、複数名で来店した際には割り勘(個別決済)も可能になっていますので、いろいろな決済方法で支払いを使い分けてみるのも楽しいかもしれませんね。

利用できる電子決済サービス(筆者が撮影)
写真2 利用できる電子決済サービス(筆者が撮影)

キャッシュレスを2027年までに「さらに倍!!」

 さて、キャッシュレス・レストランの登場が物語るように、いま日本ではキャッシュレスブームがじわじわと進行しているように感じます。この数年はフィンテック(FinTech)ブームが先行していましたが、キャッシュレスブームのきっかけとなったのは日本政府が今年6月に行った発表(『未来投資戦略2017』)かもしれません。この中で政府は、数ある重点分野の中で「キャッシュレス決済比率」という指標に着目し、これを今後10年間(2027年6月まで)で現在(20%)の2倍、全体の40%程度まで上昇させることを目指すと明言しました。
 現在の20%へ至るまでに50年の歳月を要したとも言えるキャッシュレス決済比率ですが、これを10年で「倍率ドン!! さらに倍!!」させようとの思惑です。果たしてこのような目標は現実的なのでしょうか?
 折しも今年の8月、来るべき2020年、そして2025年に向けて日本の電子決済市場がどのような推移を示すかを占う調査結果が発表になりました。電子決済研究所と山本国際コンサルタンツ、カード・ウェーブの3者は共同で、2017年から2020年・2025年までの日本国内における電子決済サービス(クレジット・デビット・プリペイド ※注)の市場規模推移予測を発表しました(手前味噌でスミマセン)。

日本国内における電子決済サービスの普及予測(2017年、2020年)
図表1 日本国内における電子決済サービスの普及予測(2017年、2020年) 出典:『電子決済総覧2017〜2018』
(電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ/カード・ウェーブ)
※注)同調査では「電子決済(ePayments)」という言葉について、「物品の購入、サービスを受けた際に発生する支払いについて、現金を用いずに、電子的なデータで処理すること」と定義し、使用しています。これに該当する決済サービスとしては、(1)クレジットカード決済、(2)デビットカード決済、(3)プリペイドカード決済、の3種類があります。なお、金融機関の預金口座からの自動引き落とし(口座振替)や銀行振込などは、「電子的な支払い」として区別し、原則として電子決済のカテゴリには含めておりません。

 調査の結果、日本国内における2020年の電子決済取扱高の合計は最大で約87兆円に迫ることが予想されています(図表1)。決済方式別に見ると、クレジットカード決済市場が58兆円(2017年)から最大73兆円(2020年)へ、デビットカード決済市場は9,911億円(2017年)から最大1.5兆円(2020年)へ、非接触IC型やサーバ管理型の電子マネーを含むプリペイドカード決済市場は約9.6兆円(2017年)から最大12.6兆円(2020年)へと利用規模が拡大するものと推定されています。
 同調査ではあわせて、さらに5年後の2025年時点での電子決済の市場規模として約113兆円を予測しています。この数字は日本の「個人消費支出」全体の約37.9%に相当します。この予測数値を見ると、政府の掲げる「2027年に40%」もあながち夢物語ではないように感じられます。  この急成長の牽引役として、これまで一手に日本の電子決済市場を切り拓いてきたクレジットカード決済が担う役割は相変わらず重要ですが、現金市場を切り崩していく意味で、それ以上に注目されるのは他の決済サービスです。デビットカード決済やプリペイドカード決済といったジャンルがそれに当たりますが、これらはクレジットカードとは違い、利用する前提として信用調査や審査などを必要としない「非与信型」の電子決済サービスと括ることができます。
 加えて、最近になって日本の法制度が整備された「仮想通貨」や、銀行が発行する「デジタル法定通貨」などなど、従来のキャッシュレスの概念ではとらえきれない新しい商品やサービスが続々と発表され、現金の役割に取って代わろうとし始めています。
 今から10年後、誰も想像もできなかった便利なキャッシュレス社会が到来していることを夢に見つつ、極めて変化の著しい電子決済市場のあるべき姿について、今後も皆さまと考えていこうではありませんか!

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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