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連載コラム

資金決済法、割賦販売法の改正で「キャッシュレス」はどう変わる?

[ 2017年12月15日 ]

来年(2018年)の6月1日に割賦販売法が改正されることになり、規制対象となるクレジットカード会社、決済代行会社、クレジットカードを扱う加盟店などは現在、対応に追われているところです。それに先立って、今年の4月には資金決済法(資金決済に関する法律)が改正されています。仮想通貨交換業者(一般に仮想通貨取引所など、仮想通貨の売買や取引を仲介する企業)が規制の対象となりました。そこで今回は、「法律の改正によってキャッシュレスがどう変わるのか」という難しいテーマについて考えてみたいと思います。
(なお、本稿では法律の専門ではない人が知ったかぶりをしても恥をかかない程度の内容について述べることにします。レポートや白書ではなくコラムですので、あくまで筆者の私見に基づく概略的な内容であることをご了承ください)

文・山本正行(山本国際コンサルタンツ)

資金決済法はプリペイド・送金・仮想通貨に関する法律

 資金決済法は、(1)プリペイドカード、ギフトカードなどのいわゆる「プリカ」を発行する事業者、(2)送金サービスを提供する銀行以外の事業者、(3)仮想通貨の売買や取引を仲介する事業者、を規制する法律です。それぞれ、法律上では(1)を「前払式支払手段発行者」、(2)を「資金移動業者」、(3)を「仮想通貨交換業者」、と表記します。
 簡単にその規制内容を説明しますと、いずれの事業者も一部の例外を除き、金融庁による登録を受けることが義務付けられています。(1)の前払式支払手段発行者には、プリカの発行にあたり発行済バリューの未使用残高の50%を供託することや、加盟店の管理、苦情処理なども義務付けられます。SuicaなどのIC交通乗車券(兼電子マネー)、waon、nanaco、楽天EdyなどのIC型電子マネー、アマゾンギフト、iTunesギフト、Google Play ギフト、百貨店の商品券、ウェブマネー、ビットキャッシュ、などがこの法制度に当てはまります。
 (2)の資金移動業者に関し、送金サービスの提供にあたっては、マネロン、テロ対策が義務付けられ、関連する他の法律によって厳格な本人確認も義務付けられます。比較的ゆるいプリカの規制に比べ、送金サービスの規制は厳しいものとなっています。国内ではPayPal、LINE Payなどがこの規制を受けています。
 今年の4月に改正され新たに規制対象となった(3)の仮想通貨交換業者は、仮想通貨と日本円などの通貨の交換や、利用者の金銭、仮想通貨を管理するサービスを提供します。その際に、利用者への適切な情報提供、利用者から預かった財産と事業者の財産を明確に区別して管理すること、口座開設時、高額取引などの際には公的証明書の確認(本人確認)、などが義務付けられます。仮想通貨交換業者として、国内ではおよそ30社程度の事業者が登録を受ける予定です。
 これについて、資金決済法では2017年9月末までの登録を義務付けています。余談ですが実はこの登録手続きが間に合わず、10月に入った時点で登録の終了した事業者は11社のみという状況でした。その後12月に入っても残りの19社が審査中のまま暫定営業を続けるという事態となったのです。(※その後、12月7日までに4社の追加登録が完了し、残りは15社になっています)
 その間にも仮想通貨の代表銘柄であるビットコインの相場は上昇を続け、1年で10倍以上にその相場が跳ね上がりました。1年前にこれほどの相場高騰を誰が予測できたでしょうか。しかし、私にとってそれ以上に予測できなかったことは、法律で義務付けられたにもかかわらず大半の事業者が期日までに登録できなかったことです。大学講義のレポートを期日までに提出しない学生に対してならば、「単位をやらないぞ!」と声を掛ければ済みますが、仮想通貨交換業者ともなればそうもいきません。仮想通貨交換業者に未登録の15社は12月7日時点でもまだ審査中とのこと。法律で義務付けられたのですから1日も早く登録を済ませてほしいものです。
 いずれにせよ、仮想通貨は予測不能なことが多いのです。本コラムのテーマ、法改正でキャッシュレスはどう変わる? の答えの1つは、「仮想通貨は予測不能!」という現実です。

割賦販売法はリボや分割払いに関する法律

 割賦販売法はクレジットカードのリボ払いや、信販会社の分割払いを規制する法律で、2018年6月に改正が予定されています。改正内容はすでに確定しており、2017年12月現在では政令、ガイドラインなどの整備を進めている状態です。
 今回の改正では、(1)加盟店と契約しクレジットカード決済を行うクレジットカード会社、決済代行会社の一部に登録を義務付け、(2)クレジットカードを扱う事業者に対し、IC化対応、PCIDSS対応、認証強化などのセキュリティ対策を義務付け、などが大きな変更点です。(1)では、アクワイアラーと呼ばれる、加盟店と契約を結ぶクレジットカード会社の全てが対象となり、海外のアクワイアラーと契約して国内の加盟店と契約を結ぶ決済代行会社(越境型決済代行業者)には登録が義務付けられます。アクワイアラーは、そもそもクレジットカード会社であり、リボ払いや分割払いを提供する限り従来の割賦販売法においても規制を受けてきました。それに加えて今回の改正では、アクワイアラーとしての業務に対し、新たに登録を義務付けることになりました。クレジットカード会社は前回(平成21年)の割賦販売法改正の際にも規制が強化され、対応に追われましたが、今回もまたアクワイアラーとしての登録対応に追われることになります。
 より大きな影響を受ける事業者は、越境型決済代行業者です。これまでの法制度では規制対象ではないために自由に営業できました。多くの参入があり、カード決済をより多くのシーンにまで広げたことなどは評価できますが、加盟店管理が十分でなく、一部の悪質詐欺業者や不良取引の温床となる不適切な加盟店を抱える業者もありました。その結果クレジットカード決済が絡む消費者問題を広げてしまい、大きな問題となりました。消費者問題に対応する行政機関や消費者団体、法曹などから避難を浴び、今回の改正に至ったという残念な経緯もあります。
 対象となる決済代行会社(越境型決済代行業者)は来年の6月に改正割賦販売法が施行された後、半年程度の猶予期間を置いて登録が義務付けられ、厳しい法規制の下におかれます。登録にあたり日本クレジット協会への加盟も義務付けられるため、従来から厳しい規制の下で営業していたクレジットカード会社と同レベルの制約を受けることになります。
 (2)のセキュリティ対策については、関心の高い読者も多いと思いますので、次項で少し詳しく解説しましょう。

割賦販売法の改正によって厳格化されるセキュリティ対策とは

 割賦販売法の改正により、(1)カード情報の漏えい対策、(2)偽造カードによる不正使用対策、(3)ECにおける不正使用対策、が義務付けられることになりました。
 まず、(1)の「カード情報の漏えい対策」から見ていきましょう。クレジットカード会社、アクワイアラー、決済代行会社、ECサイトを含む加盟店などで、カード情報を自社システム上に保存、処理する場合には、カード情報の厳格な管理方法を具体的に定めたセキュリティ規格であるPCIDSS(Payment Card Industry Data Security Standard)に準拠することが義務付けられます。カード情報が自社のシステムを通過するだけでもこれが適用されますので、これまでPOSシステムなどにカード情報を保存していた流通業は大変です。
 この影響は今後、顕著に表れるでしょう。どうなるかといえば、ECサイトや店舗を持つ加盟店では今後カード情報を扱わず、アクワイアラーや決済代行会社に全てを任せる方式が主流化していくのです。なぜかといえば、そもそもカード情報を自社システムで処理しなければ、PCIDSSに準拠する必要がないからです。
 少し具体的に言いますと、例えばPOSではカードを扱わず、POSに接続した外付け決済端末で全てのカード決済処理を行う、という方式です。カード情報は決済端末からPOSを経由せず直接アクワイアラーや決済代行会社に流れますから、店舗のシステムには全くカード情報が残らないばかりか、処理も通過もしないというわけです。ECサイトでも決済代行会社が提供するプラグインなどを使って、カード情報は一切扱わず、取引に振られたID番号などで精算処理、取消処理などを行う方式となるでしょう。
 世界各地でカード情報の漏えい事故が多発していることを考えれば、この対応は避けられないことなのでしょう。しかし、驚くべきことは、実はその対応期限が法の施行よりも以前の日取りである2018年3月末(対面販売の加盟店のみ2020年3月が期限)とされていることです。ECサイトなど該当する事業者は、改正割賦販売法が施行される2018年6月になってから考えよう、などと悠長なことを言っていられないわけです。
 次に、(2)の「偽造カードによる不正使用対策」とは、言うまでもなくクレジットカードと加盟店の決済端末の全てをIC化することです。IC化とはこのコラムでも何度も解説してきたEMV方式に対応することを言います。方式として接触型と非接触型(コンタクトレス)がありますが、制度上は接触型への対応が義務付けられます。クレジットカード会社、加盟店の対応期限が2020年3月となっていますので、東京オリンピック前には全ての対応が終わっているはずです。
 最後に、(3)の「ECにおける不正使用対策」ですが、簡単に言えば、ECサイトなどでの認証をより強化せよという内容です。例えば3Dセキュア方式による本人認証、セキュリティコードなどカード取引時の認証方式の強化や、属性・行動分析、配送先情報などのECサイトが持つ情報を活用し、多面的、重層的に対応することが義務付けられました。
 例示はあっても具体的な対策が示されているわけではないので、少々わかりにくい内容です。具体的な対応内容を指定しなかった背景として、クレジットカード会社が導入を進めている3Dセキュア方式がECサイト事業者には決して好評とは言えない現実や、大手ECサイトなどでは独自に属性・行動分析、などのセキュリティ対策をすでに行っている状況に配慮した結果と言えます。
 対応期限はまもなくで、2018年3月末となっています。

法規制の対象とならないサービスも

 コンビニ後払い決済、ツケ払い、割り勘、などECサイトの決済サービスが多様化して便利になってきています。しかし、このような新しい決済サービスを規制する法制度は明確に存在しません。一部に、本来ならば割賦販売法の適用を受けるべきところ、支払い期限を短く設定することで規制に当たらないようにしているものや、解釈のしかたによっては送金とみなされかねないサービスもあります。
 ただ、私としてはそうしたサービスを責めるつもりではなく、新しいキャッシュレスサービスの登場は歓迎すべきことだと思います。しかし、微妙に法制度に当たらないような仕組みは今後、法改正の際に、一気に厳しい規制下に置かれるようにもなりかねません。新しいキャッシュレスサービスを始める際には注意が必要だということです。

フィンテック普及を見据えて法制度もガラガラポンか?

 1つの大きな流れとして、資金決済法で規制されるプリカ、送金、などは銀行法の傘下に統合されて一本化される可能性も見えてきました。例えば、ビザ、マスターカード、JCBなどの国際カードでは、クレジット方式のものは割賦販売法、デビット方式は銀行法、プリペイド方式は資金決済法の規制対象となりますが、1つの仕組みを共有する各サービスがそれぞれまったく異なる法律で規制されることは、制度面から見て不便を伴います。とはいえ、経済産業省が管轄する割賦販売法と、金融庁が管轄する銀行法を1つにまとめることができるかと言えば、それはそれで無理難題でもあるわけです。しかし、同じ金融庁が管轄する法律なのに、銀行法と資金決済法に分かれているのはどうして? という素朴な疑問が生じていることも事実です。
 さらに、最近はスマートフォン(スマホ)ウォレットや仮想通貨を使ったキャッシュレスの応用が広がる可能性が高まってきています。流行り言葉ではありますが、FinTech(フィンテック)がキャッシュレスの上位概念になってきたことも事実です。このような情勢から、金融庁はスマホなどの情報技術をも統合し、例えば「フィンテック新法」などという新しい法律に全てを統合する検討を進めています。

 あくまで個人的な見解ですが、おそらく割賦販売法まで含めた統合は難しいと考えています。しかし、フィンテック新法なる法律が、銀行のサービスに加え、これまで資金決済法の規制を受けていたプリカや送金サービス、仮想通貨を網羅していく可能性はあると思います。
 東京オリンピックが開催される2020年には、キャッシュレス環境ばかりでなくそれを支える法制度も大きく変化していることになるでしょう。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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