日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 電子決済・ICカード国際情報局 > ICカード化でアメリカからカード決済時のサインは消滅する!?

連載コラム

ICカード化でアメリカからカード決済時のサインは消滅する!?

[ 2018年2月16日 ]

2月の上旬、厳冬で雪に見舞われたニューヨークを訪れましたので(写真①)、現地のカード決済の様子などをお伝えします。

写真① ニューヨークの町並み写真① ニューヨークの町並み

文・山本正行(山本国際コンサルタンツ)

アメリカ滞在には現金が必須

 ニューヨークのJFK空港から滞在先のタイムズスクエアまで、今流行りのUber(ウーバー)ではなくイエローキャブに乗りました。JFKから各地へのタクシー料金は定額制で、空港でタクシーに乗車する際に乗り場にいるスタッフが目的地を聞いて料金を知らせてくれるので安心です。さらに、イエローキャブは全車カード決済に対応しているので(写真①)、入国後も現金(ドル)がなくても大丈夫、と言いたいところなのですが、実はそうはいきません。チップのせいで、タクシー料金をカードで支払ってもチップを現金で手渡す必要があるからです。さらにホテルに到着した際にポーターが荷物を運んでくれたりした場合、1、2ドル程度をさっと手渡すのがたしなみのようで、慣れない日本人にはとても厄介です(写真②)。
 最近、レストランなどではチップ金額を上乗せしてカードで支払えるところもありますが、実際にチップ金額を上乗せしてカード決済しても、あとで請求額を確認するとチップが含まれていないこともあります。チップは現金で支払うほうが確実で、タクシーやポーターとの関係ではチップを渡す際のコミュニケーションも大切なようです。

写真② イエローキャブの車内に据え付けられたカード決済端末写真② イエローキャブの車内に据え付けられたカード決済端末

写真③ ホテルの支払明細には「心づけは含まれていません」の文字写真③ ホテルの支払明細には「心づけは含まれていません」の文字

ICカード化が一気に進んだアメリカ

 話は少し変わりますが、アメリカは長らくICカード化が遅れていたことでも有名です。しかし、2013年に大統領令が発布され、カードのセキュリティ対策の一環としてICカード化を進めることになりました。対応期限を2017年9月末に設定し、順調に導入が進みました。現在では基本的にほぼ全ての加盟店や券売機などがICカードに対応しています。私は毎年この時期(2月頃)にニューヨークを訪れていますが、3年前の2016年の時点で少なくとも私がカードを使った店舗は全てIC対応が終了していました。
 ただし、2016年の段階では、スーパーなどのレジを覗いてみますと、決済端末が顧客側に向けて設置されているIC対応済みの決済端末とは別に、POS側に従来の磁気カード用の処理機能が残っていました。そのために多くの店舗で、支払いの際には店員がカードを受け取り、POS側で磁気処理をしていたのです。ICカードでサイン(署名)どころか、そもそも磁気カードとして処理してしまい、さらに少額のためサインも不要という状態でした。
 しかし、その状況も昨年2017年には解消し、ICカードで支払う場合は「暗証番号を入れて!」と店員に言われ、毎回暗証番号を打ち込む正真正銘のICカード決済となっていました。もちろん今年もニューヨークでのカード決済はICカードと暗証番号(Chip & PIN)です。

ICカードでもサインが求められる?

 ところが、アメリカにはICカードになっても引き続きサインを求められる場面が残っています。該当するパターンは大きく2つあり、1つは渡航した日本人がICカードを使う場合にも当てはまります。
 まず1つは、レストランなどに多いのですが、店員がカードをキャッシャーなどに持っていって処理する(面前決済ではない)店舗の場合で、そのような場所ではサインが必要です。決済端末がICカードに対応していても、離れていて利用者が暗証番号を打ち込むことができないからです。このような店舗では暗証番号を省略する「PIN Bypass(ピン・バイパス)」と呼ばれる機能を使っています。今回ニューヨークの滞在中では、いつも立ち寄るレストランが面前決済に対応していないままでした。
 面前決済ではない従来の方式は、ICカード化が進んだヨーロッパでは少なく、特にフランスやイギリスはこのタイプがほぼ全滅しています。今はハンディ端末をテーブルまで持ってきてカードを処理する面前決済が主流です。
 アメリカ同様、日本にも百貨店やレストランなど面前決済に対応していない加盟店は多数存在しますので、経済産業省ではICカード化に際して、面前決済への対応を強く推奨しています。
 次のパターンは、アメリカ人のみ該当する特殊なケースです。アメリカ人向けに発行されたICカードには暗証番号が設定されていないものがあり、そのようなカードを所有しているアメリカ人はICカードを利用する際にも磁気カードと同様にサインが必要です。先にも述べた通りアメリカでは2012年ごろから急にICカード化が進みましたが、当初アメリカで発行されたICカードには暗証番号が設定されておらず、ICカードでもサインが必要でした。急に「暗証番号を使用しなさい」と言われても利用者が混乱するのではないか、あるいは、銀行がカードを発行する際にランダムに暗証番号が設定されるシステムも多いためカードの暗証番号を覚えられない、などさまざまな理由があってのことですが、サインに対する依存度が強いお国柄も表れています。しかし、今ではアメリカ人向けのICカードのほとんどに暗証番号が設定されるようになりました。

アメリカからサインが消える!?

 長年サインに依存してきたアメリカにも、サインと決別する日がやってきたようです。ビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレスなどの国際決済ブランド会社が今年(2018年)の4月以降、カード決済時にサインを求めることを一斉にやめる、という決定を下しました。サインを求めないということは、当然のことながらそれに変わる方式として暗証番号による確認が必須となります。今は例外的に認められているPIN Bypass機能の使用も原則として認められなくなるはずです。
 先にも述べたレストランなどが急に対応できるものなのか、など細かな点には疑問が残ります。しかし、店員による確認が難しいサインではなく、確実な暗証番号を使うことはICカードに移行する大きなメリットの一つです。さらにアメリカ以外のほぼ全ての国で発行されるICカードに暗証番号が設定されている状況を考えれば、当然の成り行きとも言えるでしょう。当初はサインで運用を始め、後から全て暗証番号に以降したのはアメリカだけではありません。イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなども同様な運用を行い、ICカードの導入開始後3、4年程度経過した段階で、サインによるICカードの利用を禁止し、全て暗証番号へ統一しています。
 2000年頃、ヨーロッパや日本でICカード化を検討していた際、暗証番号の有効性については議論がありました。例えば、イギリスではカード決済の際に店員がサインをあまり確認しないので、暗証番号の有効性が強調されました。日本もカード決済の際にサインをチェックする店員はまずいないので同様といえます。韓国はもっと大胆で、カード決済の際のサインはほとんどの人が「 ---- 」(横に線を引くだけ)で済ませてしまうので、なおさら暗証番号のほうが良いというわけです。
 ところがアメリカでは、「店員がサインをよく確認しているので暗証番号にする意味はない」とよく言われました。サイン確認の徹底は、ICカード化の効果の一部を否定するものでもあるため、アメリカのICカード化を遅らせる一つの理由にもなりました。実際に、アメリカでカードを使おうとした日本人が「漢字のサインは読めないのでダメ」と利用を断られた、という話を聞いたことがあります。
 しかし、このようなアメリカのサイン文化も変化しているようで、近年サインを重要視しなくなったとする指摘があります。実際、今回のニューヨーク滞在中に私がサインしたのは入国書類と、先にも述べたレストランでの食事の精算時のみで、ホテルではチェックインからチェックアウトまでの間、一度もサインを求められることはありませんでした。
 アメリカのウォール・ストリートジャーナル紙にもこの問題を指摘する記事が掲載されました。そこには、カード決済の際にちゃんとしたサインではなく「△△(三角形を二つ)」や「スマイルマーク」を書くという利用者が紹介されていました。韓国の「 ---- 」もそれに近いものと言えるでしょう。日本人は真面目な性分なのか、いい加減にサインする人はまずいませんが、それを加盟店が確認していないので、やはり意味がないわけです。いずれにせよサイン文化が根強かったアメリカでも、すでにサインが形骸化してきたということなのです。

実はアメリカの75%のカード取引はサインレスだった

 ICカード化に伴ってサインを廃止し、暗証番号に移行する話題を紹介してきました。実はアメリカではおおむね30ドル程度までは、磁気カードの利用にあたってそもそもサインを不要としている店舗がほとんどです。そのため、実際にサインが求められるカード決済は4回に1回程度とも言われています。では、その4回中3回というサインレスの決済について、ICカードへ完全移行後には暗証番号を省略できるのでしょうか?
 ICカード化が遅れている日本では、今でもスーパーやコンビニのカード決済はまだ磁気カード処理が主流です。アメリカと同じように少額のカード決済ではサインレスが認められています。遅ればせながら、日本も2020年3月を期限に全ての加盟店がICカードに対応することが決まり、対応が進んでいます。その際に、サインレスの運用を行う多くの店舗から、「ICカードになって暗証番号が必須となると処理が面倒、お客さんがカードを使わなくなるのでは」などの指摘がありました。この問題は深刻に捉えられ、結局日本ではICカードでも一定範囲の少額については暗証番号の省略を認める運用が決まっています。
 しかしアメリカでは少し違う議論になっています。日本で面倒とされる「ICカード+暗証番号入力」を、アメリカでは「レシートにサインするよりも簡単」と好意的に捉える意見が多く、カードの利用を阻むという発想はあまりないようです。実際にスーパーなどでは、磁気カードではサインレスだった少額でもICカードには暗証番号を求めるところが多く、むしろセキュリティ対策を強化する動きもあるようです。この運用が今後変わる可能性は否定できませんが、少なくとも今回のニューヨーク滞在でよく利用した大手スーパーでは、少額の支払いでも暗証番号の入力が求められるように設定されていました。

大雪のニューヨークから大雪の九州へ

 難しい話はこれくらいにして、後日談です。
 日頃の行いが悪いのか、ニューヨークから帰国するころになって大雪が降り始めました。帰国便は機材の故障と雪による機材繰りの影響で6時間以上遅れ、午後5時に着くはずのフライトが実際に羽田空港に着いたのは深夜0時近くでした。
 そしてニューヨーク出張の疲れも取れない2日後、今度は九州に出張しました。快晴の東京を飛び立った飛行機が福岡に向けて降下し始めると機体はガタガタと揺れ、機窓が真っ白に。吹雪です!
 大雪の福岡でなんとか用事を済ませ、その日のうちに新幹線で鹿児島に移動しました。到着した時点ではすでに雨に変わっていましたが、その日、鹿児島のタクシーがスノータイヤに履き替えたというから驚きです。
 無事ホテルに着きチェックインする際、カードを出すと係員は読み取り機をこちらに向けて、
 
   「暗証番号はご存じですか・・・・?」
 
と確認してきました。日本ではよくあるカード決済の風景です。
 もちろん、私は暗証番号を打ち込むわけですが、この声かけには強い違和感を感じます。ご存じの方も多いと思いますが、日本は2002年頃に始まったICカード化に際して、暗証番号を知らない利用者が多く、カードの利用離れが進む可能性が指摘されました。そこで、利用者の保護を目的として、暗証番号が設定されているICカードもサインで支払うことを暫定的に認めているのです(俗に言う「PINスキップ」のこと)。
 ここまでは先にも触れたアメリカやイギリスと同じ話です。問題は、この暫定策が10年以上経った現在でもまだ有効なことです。アメリカからも消えようとしているサイン取引を、元よりサイン文化のない日本がまだ認め続けている矛盾。これ、早急に解消すべき日本の課題の一つだと思います。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

バックナンバー

PAGE TOP