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連載コラム

〇〇ペイの勝者は誰か? ――フィンテック進展で見えてきた送金・決済サービスの潮流変化

[ 2018年10月17日 ]

毎年10月から半年間にわたってお送りしている季節連載が今年も始まりました。今回は最近やたらと騒がれるようになってきたフィンテックや、QRコードなどを使った「〇〇ペイ」について考えてみたいと思います。

文・山本正行(山本国際コンサルタンツ)

フィンテックに合わせて銀行法が改正に

 本連載で以前に取り上げた記事「資金決済法、割賦販売法の改正で「キャッシュレス」はどう変わる?」(2017年12月15日掲載)でも述べましたが、フィンテック普及を見据えて周辺の法律が少しずつ変わってきています。今年の6月にはクレジットカードを規制する割賦販売法が改正されましたが、それに先立って昨年5月に改正された銀行法はフィンテックに向けて重要な意味を持ちますので、簡単に解説しておきましょう。
 一言で言えば、「小遣い帳・資産管理アプリ」や「クラウド会計ソフト」などが、利用者に代わって銀行のシステムにアクセスして口座情報を取得したり、アプリを通じて振込などの手続きを行うことが正式に認められたのです。
 それまでは、事前にID/パスワードなどのログイン情報を利用者がアプリに登録しておき、アプリが利用者に代わって銀行やクレジットカード会社に自動ログインしてこれらの情報を取得していました。これは銀行から見れば不正アクセスと区別することが難しく、できればそういう勝手なアクセスはやめてほしかったと思います。しかし小遣い帳アプリなどの利用が増えてきたことと、世界的なフィンテックの潮流に鑑みて、銀行が安全にアクセス可能なAPIを開放し、フィンテック事業者にはAPIを使ってもらうことで、より安全かつ確実に銀行とつないでもらおう、ということになったわけです。
 少し専門的な話をしますと、改正銀行法によって新たに「電子決済等代行業」という制度が新たに設けられました。例えば、小遣い帳アプリの「マネーフォワード」やクラウド会計ソフトの「フリー(freee)」のように口座情報をアプリが取得するような場合、サービスの提供会社はこの登録を受ける必要があります。
 電子決済等代行業者として登録を受けた事業者は、まず、ロボットなどの自動プログラムにより勝手にネットバンキングにアクセスしていた後ろめたさから解放されます。それに加えて、口座情報取得の際に銀行APIを使うことで、銀行にアクセスする際の利用者のログイン情報をアプリに登録する必要もなくなり、より安全になることも重要なポイントです。
 さらにオプションとして、アプリを通じて銀行口座からの振込(送金の指図など)も可能になります。今はまだサポートされていませんが、今後は経費を業者に銀行振込する手続きから伝票登録までを会計ソフト一本ですべて可能になるなど、事業者の経理部門にも便利な機能などが提供されるでしょう。一般の利用者向けにも、小遣い帳アプリだけで預金残高を確認して給与口座からクレジットカード支払口座に直接送金し、ついでに確定申告に必要な帳簿まで付けてくれる機能・・・などが提供されると思います。
 これだけではピンと来ない人も多いと思いますが、実は別の意味でこの機能が今後のネットバンキングなどを大きく変えていくかもしれません。銀行には申し訳ないのですが、スマホのインターネットバンキングアプリやウェブサイトはお世辞にもよくできているとは言えないものばかりです。今後はフィンテック事業者が、得意のスマホアプリを通じて優秀な「UX」(ユーザー体験)を利用者に提供し、利用者はインターネットバンキングではなく、フィンテックアプリを使って残高管理や銀行振込などを行った方が便利になるということなのです。
 実はすでに銀行が自らコストを負担してインターネットバンキングのアプリを開発する時代は終わり、優秀なフィンテック事業者と組んでいく体制に変えていくべき時代なのかもしれません。そのためにも銀行はAPIを充実させていくわけです。

〇〇ペイの覇者は?

 さて、フィンテックの盛り上がりと並行して、最近よく耳にするようになったサービス名に「〇〇ペイ」(〇〇にはいろいろな名称が入ります)があります。
 もともとは中国から来たAlipayとWeChat Payが発端ですが、その後、日本にもたくさんのサービスが現れました。LINE Pay、Origami Pay、pring(プリン)、楽天ペイ、d払い、ペイペイ、Air Pay、amazon pay・・・いずれもいわゆるQRコード決済ですが、広い意味ではApple Pay、Google PayなどのNFCを使った決済も同類に当てはまります。
 残念ながらいずれのサービスも十分に普及しておらず百花繚乱とはいえない状態です。現状は、やたらたくさん芽が出て来た、とでもいったところでしょうか。とはいえ、スマホさえあれば便利に支払えるサービスと、それを受け入れる場所が増えてきたことは良いことです。
 例えば、私は日常の少額の支払いにはApple PayのSuicaを使っており、QRコード決済についてはまだ頻繁に使うほどではありません。それでも、Suicaは高額利用になると残高や上限金額(2万円)が気になってくるので、クレジットカードを登録して支払うQRコード決済が便利と思うことがあります。例えば羽田空港から自宅までタクシーで帰るような場合、料金は9,000円を超えます。Suicaで払えなくもない金額ですが、Origami Payが便利と思いました。自宅前に車が止まった際にも財布をまさぐる必要がなく、スマホで支払える(Apple PayのSuicaと同じ)利便性と、アプリ内にレシート情報が保存され、クレジットカードの利用明細にもタクシー利用と明確にわかるように記載されるので、経費処理にも便利です。
 こうして私の日常も〇〇ペイが侵食し始め、実際に利用する消費者の1人という立場になってきたわけです。しかし、私の周りにはまだ「〇〇ペイをよく利用している」というような人はめったにいません。なぜでしょう。
 これだけ種類が増え、スマホの〇〇ペイが登場する以前からカードタイプのクレジットカードや電子マネーがあるわけですから、消費者にとって〇〇ペイは追加的な選択肢に過ぎません。しかも先にも述べたとおり、〇〇ペイだけでもたくさんの種類があるわけです。種類が多すぎて消費者が追い付いて来られないことが問題としてあり、さらに利用できる店舗が少ないことが大きな課題となっています。
 それでは、仮に使える場所が劇的に増えて、消費者が実際に利用し始めたとしたらどうでしょう。冷静に考えてみれば、それでもサービスが多すぎるため、一つ一つのサービスごとに見れば十分な利用が見込めるとは言えないと思うのです。そしてそれらの中には離脱していくサービスもあることは容易に想像できます。
 そこで、次のような疑問が湧いてきます。

「数ある〇〇ペイの中で、どのサービスが生き残るのか?」

 コンサルティング業を営む私には、日頃からこの件についてたくさんのお問い合わせを頂いています。今、明確な答えを出せるほどの環境や状況が整うわけではありませんが、私なりの答えはこうです。

「どれも大して普及はしないが、一定の利用者に支えられて無くなることはない。しかしいくつかのサービスは撤退するだろう」

 いささか無責任な意見とも言えますが、全体を俯瞰してみればこう言わざるをえないのです。
 もう少し詳しく見ると、LINE Payのように巨大な利用者層を抱えるサービスと、amazon.comのように巨大なマーケットプレイス(プラス利用者)を抱えるサービスが相対的に有利と言える状態です。
 Origami payはあらかじめ利用者層を抱えていない点では不利ですが、銀行などにアプリを開放していくという他の〇〇ペイには無い新しいビジネスモデルに踏み出していく様子も伺えます。いずれも勝敗を決定付けるほどの要素とまでは言えず、今後の動向を探るにはしばらく様子を見ていく必要がありそうです。
 他方でこれを流通業の立場から見れば、「消費者が求めるキャッシュレス決済の多様性にどう対応するべきか?」という悩ましい課題がはっきりと見えてきます。この問題は特に流通業にとって大きな課題です。日本にAlipayが入ってきた当初、多くの流通業はQRコード決済を比較的好意的にとらえていました。非接触ICタイプなど、他の決済手段よりもQRコード決済はPOSの開発・改修などが簡単、というのがその主な理由です。しかし最近は、

「種類が増えてどれに対応したらよいのかわからない」
「複数の種類に対応するとかえってコストがかかる」

など、決して前向きとは言えない意見が多数を占めるようになってきました。
 これに対して、今年7月に設立されたキャッシュレス推進協議会の活動などによりQRコードの統一仕様を決める動きも出ています。QRコードに関しては、

  • (1)事業者がQRコード決済で用いるID(英数字)の割り当て
  • (2)POSシステムやスマホアプリへ向けた共通APIの準備

などの議論が進み、複数のQRコード決済への対応は今後、これまでよりもハードルが下がる方向にあるでしょう。それでも、国際決済カードのIC化対応や、非接触ICタイプの電子マネーなどに加え、さらにさまざまなQRコード決済に対応していこうとするのですから、流通業の悩みは消えません。

フィンテックや〇〇ペイがもたらすもの

 課題はこれくらいにして、フィンテックや〇〇ペイが何をもたらすのかについて考えてみましょう。
 QRコード自体は店舗と利用者の間でID番号などをやりとりするインターフェースに過ぎず、今後これは場面によってNFCや他の方式に置き換わることも視野に入るでしょう。重要な点は、インターフェースの種類ではなく、いわゆるスマホアプリ(スマホウォレット)を使って決済するというフレームワークです。
 現在、送金や決済に対応するスマホウォレットには、事前に登録したクレジットカードに代金が請求されるタイプ、事前にチャージしてから利用するプリペイドタイプ、銀行口座に紐付けておき決済金額を直接銀行口座から引き落とすデビットタイプ、などいくつかの方式があります。例えば、LINE Payは事前にチャージして使うプリペイドタイプ、Origami payはクレジットカードや銀行口座に紐付けるタイプです。さらに、先にも触れた通り、今後は小遣い帳アプリや会計ソフトなどが高機能化し、振込に加えて店舗での支払いなどにも使えるようになっていく可能性があります。
 スマホウォレットや小遣い帳アプリなどのサービスがより充実し普及していくと、スマホなどに対するITリテラシーの高い利用者などを中心に、より便利なスマホアプリを使った送金や決済を行う機会は増えていくでしょう。そういう利用者は、銀行のATMまで行って振込を行ったり、店舗でカードを出して支払う機会が減っていくことになります。そうした利用者の増加は、最終的に、銀行やクレジットカード会社のビジネスモデルを大きく変えることにもつながりかねません。銀行やクレジットカード会社が直接、消費者や小売業と接点を持たず、フィンテックサービスの影に隠れた存在になっていく――金融機関の黒衣化が進んでいく可能性が指摘されるのです。
 もちろん、すべての利用者がそのような先端サービスを利用するわけではありませんから、今ただちに送金や決済のすべてがそうなると考えるのは早計です。当面そうなる比率も一定以下にとどまるでしょう。重要なことは、送金や決済サービスの潮流の変化が明らかに見えてきた、ということなのです。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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