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連載コラム

八重山・宮古キャッシュレスの旅で、「現金」のご先祖さまに出会う

[ 2018年11月15日 ]

めんそーれ! 電子決済研究所の多田羅です。半年ぶりの連載再開は南国の楽園、沖縄の自然たっぷりでお送りいたします。ご紹介するのは、沖縄本島からさらに南西へ下った石垣島と宮古島。ほぼ日本最南端に当たるこれらの地域でもキャッシュレスへの注目は日に日に高まっています。果てしなく続きそうなエメラルドブルーのビーチで、筆者が見つけたものとは?

文・多田羅 政和(電子決済研究所)

沖縄の離島でも、いまキャッシュレスが熱い!

 11月の上旬に訪れた沖縄は、まだまだ暑い日々が続いており、実に28度を超える真夏日を体験することができました。石垣島ではまだセミがミンミン鳴いているくらいですから、ついつい勢いで海に浸かってしまっても許されるレベルです(写真1、2)。

写真1 ハイビスカスの真っ赤な花弁が、11月でも常夏を連想させてくれる写真1 ハイビスカスの真っ赤な花弁が、11月でも常夏を連想させてくれる

写真2 エメラルドブルーの川平湾(石垣島北西部)。どこまで行っても海の中が見え過ぎちゃって困るほど写真2 エメラルドブルーの川平湾(石垣島北西部)。
どこまで行っても海の中が見え過ぎちゃって困るほど

 わざわざこの時期を選んで筆者が沖縄を訪れたのには理由があります。沖縄県さんと沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)さんからのお誘いで、八重山諸島・宮古諸島で商業を営む皆さんに向けて、キャッシュレスの導入意義を感じていただく「キャッシュレスセミナー」でお話しするというのがきっかけでした。
 全国的にキャッシュレスブームに沸く昨今の日本列島ですから、セミナーの機会自体は決して珍しくありません。しかし、今回の聴講対象者は、キャッシュレスの普及進展には決して欠かすことのできない「お店さん」でした。
 お店がキャッシュレスを導入する意味はどこにあるのか。どんな効果があるのか。そして、具体的にどのようにすればお店に電子決済を導入できるのか。そんな疑問を1つ1つ解きほぐしていってほしいというのが筆者に与えられたミッションでした(写真3)。
 このセミナーを通じて私が一番お伝えしたかったことは、キャッシュレスは決して難しい仕組みではないということ。そして、お店がキャッシュレスの導入を判断する際に、「キャッシュレス比率で日本が他の国に負けているのでこれを挽回するんだ」とか、反対に「カード決済は手数料がかかるから導入しない。うちは料理の味で勝負してるから現金だけで問題ない(きっぱり)。」といった、実は根拠のない意見や感情だけで判断してもらいたくないということでした。お店にしっかりとキャッシュレスの利点や意義を理解してもらい、その上で目的を持って、自ら積極的に導入してもらいたいと考えています。そうでなければ、せっかくカード決済や電子マネーを導入してもその本領は発揮されません。
 そして、キャッシュレスは人間の仕事を奪うための道具でも、お店の利益を減らすための道具でもなく、人間と人間の間のコミュニケーションを円滑にするためのものだということも、ぜひキャッシュレスの「現場」であるお店の皆さんにお伝えしたかったことです。

写真3 お仕事中の筆者写真3 お仕事中の筆者

タクシーのカード決済対応は訪日観光客にも好評

 石垣島の次に訪れた宮古島で筆者がぜひ体験したかったのが、最近新たに対応したというタクシーでのカード決済でした。宮古島市、宮古島商工会議所、宮古タクシー事業協同組合、沖縄銀行、琉球銀行、銀聯国際、リンク・プロセシング、NTTドコモの8者が合同で、今年の7月から来年2月末まで、宮古島を訪れる観光客に向けてカード決済環境を提供しています。
 宮古タクシー事業協同組合を通じて全13社のタクシー会社が対応しているということですので、筆者も実際に乗車してみました。カード決済に使用するのは計3台の端末。決済用アプリのインストールされたスマートフォン、ICカードを挿入したり暗証番号を入力するための決済端末本体(写真4)、モバイルプリンタにより構成され、これらがBluetoothの無線通信によりつながっています。
 タクシーが降車目的地に着くと、運転手さんがタクシーメーターを見てスマホに決済金額を入力。運転手さんの指示で、決済端末に自分でICカードを挿入します。しばらくすると決済端末が反応して「PINパッドで暗証番号を入力してください」と自動で音声が流れます。ここで暗証番号を入力して緑色の「実行」ボタンを押すと、スマートフォンとモバイルプリンタが反応して、紙のレシートが出力されました。ICカードを自分で抜き取り、レシートを受け取って、支払完了です。
 見る限り、操作手順もわかりやすく、使い勝手は上々のようでした。ただ、スマホと決済端末とモバイルプリンタの3台それぞれに充電が必要になる点などは少し注意が必要かもしれません。また、スマホには決済とは関係のない機能として「翻訳アプリ」が入っているそうで、これが外国人が利用する時にとっても便利なんだと運転手さんが教えてくれました。
 宮古島滞在中に何回かタクシーを利用しましたが、決済端末のセットアップが終わっておらず利用できないタクシーや、現金にしか対応していないタクシーにも遭遇しました。しかし、運転手さんにお話を聴く限り、所属する全台のタクシーに決済端末が支給された会社が多いとのことでした。スマホの操作に慣れない、とか、そもそも面倒とか言ったコメントも聞こえてきましたが、これは運転手さんのご年齢とも関係がありそうだなと思いました。
 特に宮古島では、訪日外国人といっても、中国、台湾からの旅行者が圧倒的に多いとのことで、銀聯(UnionPay)カードや、Visa・Mastercardといった国際カードで支払いたいとの声が寄せられていたとのこと。決済端末の導入後はこれらのカードが利用される機会は増えているそうで、早くも導入効果が表れているようです。

写真4 宮古島のタクシーに導入されている決済端末はスマホとつなげて利用するタイプのいわゆる「mPOS端末」。リンク・プロセシング社が提供し、通信はドコモ回線を使用写真4 宮古島のタクシーに導入されている決済端末はスマホとつなげて利用するタイプのいわゆる「mPOS端末」。
リンク・プロセシング社が提供し、通信はドコモ回線を使用

昔の現金は、特別な貝だった・・・

 ところで皆さんは「宝貝(タカラガイ)」を知っていますか? ぷっくりとした柔らかい印象で、表面のつやつやしたとっても美しい貝です。宮古島はこのタカラガイの産地としても有名です。
 タカラガイは、硬貨や紙幣といった現代の「現金」が流通する遙か以前の古来から、日本だけでなく世界中の幅広い地域で「お金」として使用されていたことが伝わっています(参考注※)。
 そうとあっては黙ってはいられません。何としてもタカラガイを砂浜で見つけて、セミナー会場で皆さんに披露したい。そこで、沖縄観光コンベンションビューローの優しいスタッフの皆さんを巻き込み、タカラガイ探しへと出掛けました。
 たかだか貝殻をひとつ、海で拾う仕事です。簡単に思えるじゃないですか。ところがこれが難しくって、巻き貝やアサリのような貝、波に打ちつけられて砕けてしまった貝片こそそこら中にあるものの、タカラガイがなかなか見つかりません(写真5)。
 結局、3箇所のビーチを周り、「駄目か・・・」と諦めムードが漂った矢先、「見つけましたー!」と高らかな声がわれわれ一行を包みました。ご覧ください、念願のタカラガイ様の姿を(写真6)。半日仕事が報われる美しさだと思いませんか?
 キャッシュレスセミナーが、まさか現金のご先祖さまから始まるとは、宮古島の皆さんも想像できなかったのではないでしょうか。かくいう筆者もほんの出来心で始めたものの、発見できたことがこんなに嬉しいとは、大満足の経験でした。

写真5 タカラガイを探す筆者写真5 タカラガイを探す筆者

写真6 宮古サンセットビーチでついに見つけたタカラガイ!写真6 宮古サンセットビーチでついに見つけたタカラガイ!

※宝貝の歴史について詳しく知りたい方は、「貨幣の条件〜タカラガイの文明史(上田 信・著、筑摩選書)」をお読みください。

離島に広がるカード決済環境整備には立役者が

 さて、沖縄離島での国際カードや電子マネーの加盟店開拓では、地場の金融機関である琉球銀行さんがアクワイアリング(加盟店契約管理)業務に参入して、がんばっておられます。とはいえ、地理的にも頻繁に通い詰めることがままならない離島とあって、いくら銀行とはいえ、一手にカード取扱店舗の開拓を引き受けることには限界があります。そこで琉球銀行さんでは、現地の座間味村(ざまみそん)観光協会さんや西表島(いりおもてじま)交通さんなどに業務を委託することで、カード加盟店拡大のスピードアップを図っています。(2018年11月15日付けの日本経済新聞朝刊には、琉球銀行さんがさらに石垣島、宮古島、久米島の観光協会や商工会議所など5団体とカード加盟店業務で提携した、とのニュースが掲載されています)
 先のセミナー会場にもありがたいことに、西表島交通の玉盛 雅治社長や、琉球銀行のご担当者にご出席いただき、現地で利用されている決済端末の実機を見せていただくこともできました。島内の路線バス車内でも実際にこの決済端末が利用されているそうです(写真7)。

写真7-1 琉球銀行が提供するモバイル型の決済端末。国際カードや非接触IC電子マネーに加えて、アリペイ、ウィーチャットペイにも対応が可能    写真7-2 琉球銀行が提供するモバイル型の決済端末。国際カードや非接触IC電子マネーに加えて、アリペイ、ウィーチャットペイにも対応が可能写真7 琉球銀行が提供するモバイル型の決済端末。
国際カードや非接触IC電子マネーに加えて、アリペイ、ウィーチャットペイにも対応が可能

 ただ、西表島からセミナーに参加いただいた他の出席者からは「島内には通信回線が不安定で、決済端末での通信が難しい場所がある」との声も聞かれました。固定回線、無線回線とを問わず、雨天時などには通信障害が起こって利用ができなくなるというのです。キャッシュレス推進派である筆者も、この課題にはぐうの音も出ませんでした。現代の決済端末は「通信」を前提としており、これなしにカード決済を継続的に行うことはできません。
 こうした通信環境の課題には行政側も気が付いており、環境整備に向けた検討がまさに進んでいるところだそうですが、根本的な要因として、通信環境の整備にかかる投資負担に対する事業採算性の問題が立ちはだかっていることは想像に難くありません。通信事業者さんからすれば、離島の隅々にまで通信網を敷設することには事業上の難しさがあるのではないでしょうか。
 しかし、日本政府が旗を振ってまでキャッシュレスを推し進めようとするこんな時代。観光客も多く訪れる西表島で不自由なくカード決済が使えないとすれば、これはもう日本人にとっての損失です。ここで求められている通信環境とはまさしく「社会インフラ」なのですから、早期に安定した回線が敷設されることが望まれます。そして、まさしくこれこそが、官民を挙げてキャッシュレスを推進する意義なのではないでしょうか。

 今回は読者の皆さんの目の保養を兼ねて、八重山・宮古キャッシュレスの旅をレポートしました。皆さんもぜひ、「キャッシュ」の原点に立ち戻る気持ちで、タカラガイを探しに八重山諸島・宮古諸島を訪れてみてはいかがでしょうか?

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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