連載コラム

IC乗車券の国際標準仕様「CALYPSO」

[ 2010年1月19日 ]

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

 『IC CARD WORLD』ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは。山本国際コンサルタンツの山本です。

 前回の連載(電子決済研究所の多田羅さん担当分)では、パリ地下鉄のIC乗車券「NAVIGO(ナビゴ)」で使えるUSBタイプの乗車券が紹介されていました。昨年11月の欧州視察では、それを視察団に配ってくださった「RATP」(日本でいえば、東京メトロのような事業者)から、乗車券の国際標準仕様である「CALYPSO(カリュプソ)」についてお聞きしてきましたので、今回はそれについて触れたいと思います。

念願のRATP事務所を訪問

 RATPの事務所はリヨン駅と呼ばれるTGVの始発駅の隣にある一棟建ての立派なビルにあります。ビルには「RATP」の大きな看板が。

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RATPのビル

 海外視察では行った先の事務所が小さかったり、応対が適切でなかったりなど不安を覚えることもありますが、今回はひと安心しました。

 建物に入ると、さすがは鉄道会社。パリで使われた歴代のバスや鉄道車両の本物が置いてあるではないですか! さながらパリの鉄道博物館(ちょっと大げさですが)です。

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パリ市内を走った歴代のバス・鉄道車両が展示

 RATPでは、CALYPSO協議会の委員長のほか、技術のご担当者、加えてドイツの鉄道会社から協議会に出向中のご担当者らが歓迎してくれました。

 委員長のご挨拶は社交辞令、技術者の説明は難しすぎて分からずと、内容は消化不良ぎみでした。しかし活発に質疑応答を交わして私なりに収穫がありました。

 CALYPSOはTypeA、B方式を用いたIC交通乗車券の基本仕様で、モバイル(NFC)にも対応し、将来は携帯電話やトークンなどに乗車券情報をダウンロードしても使えるというものです。詳しい仕様は別の機会や紙面などに譲り、ここではそのエッセンスだけ簡単に紹介したいと思います。

CALYPSO仕様はGPベース

 CALYPSO仕様は、IC交通乗車券に必要な技術的な仕様で、GP(GlobalPlatform)をベースに定められています。日本ではSuicaなどで採用されているサイバネ仕様がありますが、それに比べると定義される領域は比較的限定的です。

 しかし、CALYPSO仕様に対応することで、カード形状のみならず、今回視察団に配られたUSBメモリ付き乗車券や、NFCケータイ(おサイフケータイの海外版)でIC乗車券の利用ができ、それも基本的には世界中のCALYPSO対応乗車券で使える(乗車券アプリの互換性が別途求められますが)ことは特筆される点でしょう。

 しかし、乗車券アプリの中身や課金方法など、詳細については各鉄道事業者に任されており、その点には疑問が残ります。例えばSuicaではSF(ストアード・フェア)方式ですが、CALYPSOでは何に対応しているのか? サイバネ規格で求められるような厳しい「認定」のハードルはないか? と聞いても、「事業者次第」の答えばかりでした。

日本と海外で異なる交通乗車券の仕組み

 現在80箇所で導入されているCALYPSO仕様に対応した交通乗車券は、そのほとんどがゾーン方式などの固定運賃制を用いています。

 IC乗車券に限定せずにお話ししますと、海外で一般的な地下鉄などの乗車券はゾーン制など「固定運賃制」が圧倒的に多いです。例えばパリ市内の交通乗車券は利用区間はゾーンで定められており、中心エリアからゾーン1、2...と外側にエリアが広がっており、乗る路線や区間が完全に含まれるエリア(ゾーン)ごとに必要な運賃を支払います。この方式は運賃はゾーンの数だけ設ければよく、それに利用回数や期間(1回、1日、期限付きなど)のバリエーションを掛け合わせて販売しています。この方式は販売するチケットの種類も限定され処理が楽なようです。そのためCALYPSOに対応したIC乗車券の導入は、その仕組みをそのままIC乗車券に移行すればよく、比較的単純なようです。

 それに対して日本の交通乗車券の仕組みはとても複雑です。古く明治時代に制定された鉄道営業法などに規定される内容を引きずっており、

・運賃を事前に払わない者を乗せてはいけない(現在は後払いも認められています)

・乗った距離に応じて従量課金

・特急やグリーン車の利用は別の料金を徴収

など、法的根拠はともかく慣習としてとても複雑な仕組みを継承しています。そのためにSuicaではSFを事前にチャージしておいて、そこから乗るつど減額する仕組みや、発駅と着駅との距離をベースに運賃計算する仕組み(従量課金)などが導入されています。

 それに加えてSuicaでは、新幹線の特急券(指定席券)や普通列車のグリーン券などにも対応していますから、日本のIC乗車券システムは諸外国に比べ進んでいると筆者は思います。

無事、会議が終わり...

 RATPの会議の後、応対してくれた3人も視察団と一緒にCartes2009の会場に移動することになりました。もちろんNAVIGOを使って。

 車中、私はドイツからきた担当者と親しく話す機会がありました。彼は鉄道会社に勤めるだけあって大の鉄道マニア。実は私も鉄道ネタはいけるほうで、車中、鉄道談義に大いに盛り上がりました。

 彼曰く、
「ジャパニーズシンカンセンには乗ったことがある。また絶対に乗りたい」

 しかし、私のお薦めは、上野発札幌行きの「カシオペア」。
その理由はここで取り上げるべき内容ではないので遠慮しておきます...。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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