連載コラム

世界に広がるNFCケータイ

[ 2010年11月17日 ]

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 『IC CARD WORLD』ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは。電子決済研究所の多田羅です。
 海外のICカード関連情報を中心にお届けしてきたこの連載コーナー、今回からは装いも新たに、タイトルを『海外』から『国際』に変更して再開することになりました。
 この『国際』化で何が変わるのかといえば、『海外』には含まれなかった「日本」の話題もこちらで取り上げることができるようになります。(日経ご担当者さまの妙案に感謝いたします)
 そんなわけで、今回はここ日本でも大きく注目され、海外でも広がりを見せ始めているNFCケータイの動向についてご紹介します。

日本のおサイフケータイが変わる?

 今月2日の日本経済新聞に、「ドコモ、携帯マネー乗り換え容易、SIMカードに記録。」の見出しの付いた記事が掲載されました。
http://messe.nikkei.co.jp/nf/news/68722.html
 記事中には「13年にもおサイフケータイの記録方式を『フェリカ』から『NFC』と呼ぶ次世代規格に切り替えるのに合わせて実施する。」とあるのですが、「SIMカード」の話と、日本のおサイフケータイに採用されている「フェリカ(FeliCa)」、そして「NFC」の単語が立て続けに出てくるので、業界の詳しい方以外にはチンプンカンプンだったかもしれません。
 文章の主旨は、携帯電話の機種を変えてもSIMカードを差し替えるだけで、電子マネーのようなサービスが簡単に移行できるようになるという点ですから、理解はしやすかったと思いますが、せっかくなのでもう少し突っ込んで内容を整理してみましょう。
 まず携帯電話でSuicaカードのような非接触IC機能を利用するためには、通信のためのアンテナとICチップを搭載する必要があります。ここで特に重要なのはICチップです。
 ICチップは、携帯電話1台ごとにそれぞれ機能の異なる2種類が搭載され、それらが連携して動作します。その1つが非接触IC通信を制御する「RFチップ」(Radio Frequency)、もう1つはパソコンのOSのように各サービスアプリケーションを制御する「SEチップ」(Secure Elements)です。
 おサイフケータイのようなサービスを実現するためには、「RF」と「SE」が必要。まずはこれを覚えてください。

通信は携帯電話本体に、セキュリティはSIMカードに

 次に、これらのICチップをどうやって携帯電話に搭載するかが問題になります。
 まず、非接触IC通信を制御するRFチップおよびアンテナですが、これは携帯電話本体に内蔵されるのが一般的です。
 一方、SEチップには、電子マネーや交通乗車券、ポイントカードといった各提供サービスの登録情報が安全に格納される必要があります。このように、SEチップはサービスの心臓ともいえる重要な役割を担うことから、過去数年間にわたって関係者間での議論が喧々諤々行われました。
 このような世界的な議論が行われる以前から先行して展開していた日本のおサイフケータイの場合には、SEチップを携帯電話本体に内蔵する形で提供しています(図1)。
 ところが世界の議論の行方は、欧州の携帯電話会社の集まりであるGSM協会(GSMA)が主導する形で、SIMカード(3G以降の正式名称はUIMですが、本稿ではわかりやすくSIMと表記)の中に内蔵することに決まったのです。
 こうした経緯で、RFチップは携帯電話本体に、SEチップはSIMカードに、という形態が、特に世界のNFCケータイでは主流となりました。
 もうおわかりでしょう。冒頭の記事にあった「携帯マネー乗り換え容易」とは、日本のおサイフケータイでも、SEチップが携帯電話本体への内蔵から、SIMカードに内蔵される方式へ移行することを意味しています。

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図1 SEとRFの搭載方法の違い

6年前に始まった日本の経験が、いよいよ世界へ

 ところで、上記のNFCケータイの解説ではあえて言及しませんでしたが、NFCの売りといえば、日本で普及している「FeliCa」だけでなく、海外で普及している「TypeA」や「TypeB」のような異なる方式(規格)も、同じ1台の端末で読み取りできることにありました。
 実際、上で解説したRFチップに相当するNFCチップは、お店のカード読み取り機(リーダーライター)やテレビ、カメラなどのデジタル家電に組み込まれたりすることが想定されていますが、特に世界的に注目されているのが携帯電話への搭載です。
 なぜならば、日本ではすでに6年も前からとっくに実現しているおサイフケータイですが、海外の大半の国では、NFCチップを携帯電話に載せたNFCケータイ(NFC-Phone)で初めてそれを経験することになるからです。
 注目すべきは、それら多くの国にとって「複数規格間での相互利用」というNFC本来のメリットは薄れていることです。
 日本のおサイフケータイが始まった当初と同じように、少なくともNFCケータイのユーザーは、お店や鉄道の改札口でかざして使える便利な携帯電話くらいの認識しか持ちえていないのではないかと想像されます。

フランスのおサイフケータイは、ニースから

 最後に海外ネタを1つご紹介しましょう。
 NFCケータイは、ICカード先進エリアであるヨーロッパでも導入が拡大していますが、今年の5月下旬からはリゾート地としても有名な、南仏のニースを舞台としてNFCケータイの準商用化プロジェクトが始まっています。
 プロジェクトの名前は「Cityzi」(日本語での発音はシチヂ)で、日本の「おサイフケータイ」に相当するサービス名になります(図2)。ロゴマークもどことなく・・・ですね(笑)。

 CityziはAFSCM(Association Francaise du Sans Contact Mobile)という業界団体が推進していますが、携帯電話会社ではオレンジ、SFR、ブイグテレコム、NRJモバイルが参加しています。これらの会社から販売されるCityzi対応の携帯電話(Cityzi-phone、写真1)を契約すれば、誰でも Visa、MasterCardの非接触決済や、現地のトラム(路面電車)などの交通乗車券、商店でのロイヤルティ(ポイント)サービスなどのアプリケーションが利用できるようになっています。
 なお、プロジェクトには銀行や流通小売業に加えて、博物館や大学なども加わっており、現地の約4,000名の市民が参加する予定です。Cityziは、フランスでのNFC全国展開に向けた最後の調整・検証プロジェクトとしても位置付けられておりますので、その責任は重大です。

 電子決済研究所ではこの12月にパリで開催されるCartes展示会に合わせて、ニースのCityziプロジェクトも見学してくる予定ですので、最新状況はまたこちらのページでご紹介したいと思います。どうぞご期待ください。

図2
図2 「Cityzi」のブランドマーク

写真1
写真1 Cityziでも利用されている「Cozyphone」(出典:Sagem Wireless)

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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