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連載コラム

欧州視察報告(1) フランス・ニースの「Cityzi」プロジェクトを訪ねて

[ 2011年1月18日 ]

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

大雪に見舞われたCartes展示会

 毎年、ICカード関連事業者が集まる「Cartes & IDentification」という展示会(毎年11月にパリで開催)に合わせて欧州視察を行っています。今年も例年通り視察を実施しましたが、何故か今年は展示会の開催が12月となり、それにあわせて年末のツアーとなってしまいました。
 12月のヨーロッパといえば、「寒い」の一言で言いつくされます。しかも今年は大寒波に見舞われ、ヨーロッパの主要都市では大雪で交通機関がマヒ、空港は閉鎖され、大混乱でした。

ic-denshi2011-0118_01-01.jpg パリは25年振りの大雪に

 そんな最中の視察となりましたが、何事もなく無事に・・・と、都合よく行くわけはありません。何とか無事にパリには到着しましたが、パリ到着2日目に20数年ぶりという大雪に見舞われ、空港はもちろん高速道路も封鎖状態になりました。その日は、間引きしながらもかろうじて走り続けた電車を使って何とか移動することができましたが、3日目のニースへの移動は大変でした。飛行機がキャンセルされ、視察参加メンバーはばらばらに便を振り替える羽目に。それでも何とか全員ニースに到着出来た頃には、既に日付けが変わり、午前1時を回ってしまいました。

ニースのNFCケータイプロジェクト「Cityzi」

今回ニースを訪ねたのは、フランスでようやく始まったNFCケータイを使った各種サービス「Cityzi(シチジ)」を見学するためです。そのニースは、パリの大混乱をよそに快晴。しかも真冬とはいえ東京よりも少し暖かい気候で、とても快適に過ごすことができました。

ic-denshi2011-0118_01-02.jpg 真冬とは思えない真っ青なニースの空と海

 「Cityzi」という独特なブランド名が付いたこのサービスは、NFCケータイをトラムの乗車券、カード決済(MasterCardのPayPassなど)に加え、美術館では展示品付近に張られたタグにNFCケータイをかざすことでその説明を聞くことができるなど、一通りのサービスが実現されています。

ic-denshi2011-0118_01-03.jpg トラムの停留所にて(タグにケータイを翳してチケットを買う)

ic-denshi2011-0118_01-04.jpg Cityziのタグ。NFCタグに加えて2次元コードがプリントされている

ic-denshi2011-0118_01-05.jpg トラムの車両に貼られた派手なCityzi広告

ic-denshi2011-0118_01-06.jpg 美術館に貼られたタグにNFCケータイを翳すと、展示品の解説を聞くことができる

 「Cityzi」はフランスの業界団体「AFSCM(Association Francaise du Sans Contact Mobile)」によって運営されています。AFSCMのメンバーはフランスの通信キャリア、金融機関、流通業、システムインテグレーターなど19社が参加し、Cityziサービスのプロモーション、各種ロゴマークの作成、各種運用規定の策定などに尽力しています。
 Cityziの中心メンバーでもある通信キャリアのOrange(France Telecom)は、以前からNFCの採用には積極的で、2007年ごろから金融機関のCredit MutuelやICカード大手メーカーのGemalto社などと協力してNFCサービスの商用化を進めてきました。同社によればNFC商用化は「現状まだまだという状況かもしれないが、今後は全てのケータイにNFCを搭載し、翳すサービスを定着させたい」として、NFCの対応にとても前向きな姿勢を示しています。
 そんなCityziですが、今回は日本から総勢15名の視察メンバーが参加し、現地のサービスを実体験してきました。
 日本から来た参加者の多くは、「日本では実現済みのサービスばかり」といささか冷ややかな反応だったのですが、「いよいよヨーロッパでも始まるのか」と感慨深げに見守る人もありました。実際にCityziで実現されたサービスはどれも日本で実現済みのものばかりで、おサイフケータイのサービスにも特に詳しいような今回の視察参加者にとっては目新しいものはありませんでした。

ic-denshi2011-0118_01-07.jpg Cityziで使われているSamsung製のNFCケータイ

日本のおサイフケータイに学び、サービス改善の努力も

 しかし、Cityziは表面的に見れば確かに目新しさはないのですが、実現までの経緯と過程を見守ってきた私としては感慨深いものがあります。
 今回の中心メンバーでもあるOrangeはもとより、NFCの標準化を進めてきたNFCフォーラムの参加メンバーは、言うまでもなく日本のおサイフケータイを題材に取り上げ、研究を重ねてきています。彼らはおサイフケータイについてサービスとしての「先進性」を評価しましたが、一方で「独自仕様」「オープンでないモデル」などと厳しく査定する意見もありました。日本のおサイフケータイは良い見本であっても完璧な手本にはならなかったのです。
 Cityziの実現に至るまでの間、NFCの標準化や商用化に携わる関係者は、日本のおサイフケータイを見本に、良いところは学び悪いところは改善することで、総論としてより良いものを作りあげる努力をしてきたと思います。その過程では標準化をめぐり、事業者間の「かけひき」や「政治」もあって、立派とばかり言えない面も少なからずありました。しかもこのトライアルは、当初2008年に実現が予定されていたものが遅れに遅れ、ようやく今年になってスタートしたものなのです。
 それでも結果的に見れば、街中のトラムの停留所やお店のいたるところにNFCタグが貼られるなど、何とかさまになるものが出来上がったように思います。
 残念ながら今回はニース市民の方が実際にNFCケータイを利用しているシーンを見ることはできませんでした。NFCケータイの機種が限定され、普及台数がわずかな現状では致し方のないことかもしれませんが、今後はOrangeの言うように、NFCケータイが増えるにつれて利用者も増えることが予想されます。
 Cityziに対する視察参加者の感想は微妙でしたが、とりあえず、私はこの地を基にNFCサービスがヨーロッパ各地に広がるものと前向きに期待することとして、意外にも暖かかった真冬のニースを去りました。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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