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連載コラム

欧州視察報告(2) スマートカードからスマートフォンへ~開催25年目を迎えたCARTES展示会

[ 2011年1月31日 ]

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 『IC CARD WORLD』ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは。電子決済研究所の多田羅です。
 前回の山本さんによるニース(Cityziプロジェクト)報告に続いて、今回は昨年12月にパリで開催された『CARTES & IDentification 2010』の模様をレポートいたします。記念すべき25回目の開催となった「カード」の国際展示会ですが、その主役ともいうべき存在感を放っていたのは意外にも・・・?

開催25周年を迎えた伝統的なカード・ショー

 昨年12月に開催された『CARTES & IDentification 2010』(以下、『CARTES 2010』)は、今年で記念すべき25周年を迎えました。毎年フランスはパリで開催されており、カードビジネス関連では世界最大級の国際展示会です。
 『CARTES』とは、そのものずばり「カード」を指し、『IDentification』は「身分証明(書)」を意味します。クレジットカードや運転免許証カードなど、世にあまたあるいろいろなカードにとって、その持ち主を証明することは基本中の基本的な機能ですから、それをテーマとした展示会であることがわかります。ICカードに限らず、昔ながらの紙カードや磁気カードなども対象としている点で、『IC CARD WORLD』よりもひと回り大きな概念で開催されている伝統的な展示会です。
 ちなみに、フランス政府の公式な日本語表記によると、『CARTES & IDentification』は「カルト・アンド・イドントフィカシオン」と読むそうです。フランス語の発音は日本人には新鮮で、私の耳には「うどんと菓子折り」と聞こえてしまうのですが、それはそれで少し覚えやすくなりました(笑)。いずれにしても、フランス語ではカードのことを「カルト」と読む(発音する)わけですね。日本にも古来から「かるた」なんていう遊びがありますが、意外とその起源は同じなのかもしれません。

 さて、例年は11月に開催されているCARTESですが、今年はなぜか年も押し迫った12月7日~9日という変則的な日程で行われました。しかも、この時期、ヨーロッパは大寒波に襲われ、各地で氷点下を記録、ヒースロー、フランクフルト、シャルル・ド・ゴールなど名立たる国際空港が閉鎖に追い込まれ、空港に3日間も寝泊まりする乗客の映像が日本のテレビでも報じられました。昨年、2010年は、アイスランドの噴火(4月)に続いて、空の便では災難続きとなったヨーロッパでした。

大荒れな天候も、熱気溢れる場内

 そんな中で開催された『CARTES 2010』も、寒波の影響は避けられませんでした。会場(ノール・ヴィルパント展示会場)は20数年ぶりといわれる大雪に見舞われ、市内の道路は凍結、自動車は大渋滞という有り様に。来場者の足にも大きな影響が出ました。

20110131_ic-denshi_会場入口.JPG 展示会場の入り口は吹雪に

 しかし、展示会事務局の公式発表によると、2010年の来場者数は1万8,768人で、前回実績からは微減にとどまることができたようです(2009年の来場者数は1万9,883人)。
 一方、出展企業数は432社・団体で、2009年の427社・団体と比べて増加しています。悪天候での開催にしては、成功といえるのではないでしょうか。

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 これほどまでに今回の『CARTES 2010』が盛り上がっていたのはなぜでしょう。展示会場を周り、企業担当者の熱のこもった説明を聞いているうちに、その答えがわかってきました。それは、いよいよヨーロッパでも本格導入・商用化が見えてきたNFC搭載携帯電話(NFCケータイ)にかける各社の意気込みの表れでした。そして、そのきっかけになったのは、あの「Google」による1つの発表でした。

『ジンジャーブレッド』、『Nexus S』、そして『iPhone』

 実は、『CARTES 2010』に先立つこと約1カ月前、11月中旬に米国で開催された「Web 2.0 Summit 2010」の会場で、Google社のエリック・シュミットCEOがスマートフォン(高機能携帯電話)向けOSであるAndroidの次期バージョンを紹介し、世界中に大きな話題を振りまきました。
 最近は日本でもスマートフォン・ブームといえる状況にありますが、その中心は言わずもがな、アップルの「iPhone」と、GoogleのAndroid OSを搭載したスマートフォンの2系統に集約されています。
 その一翼を占めるGoogleが、次期OSであるAndroid2.3(コードネーム『ジンジャーブレッド』)の標準機能として、NFCについてサポートすることを正式に発表しました。このことは、今後数年のうちに世界中でNFC対応のスマートフォンが使われ始めることを意味します。当然、関連業界にはまたたく間に期待感が広がりました。
 その結果、『CARTES 2010』はNFCケータイへの注目が最高潮に高まっていた時期の開催となり、必然的に各社のNFC関連出展にも熱が入ることになりました。(しかも開催初日に当たる12月7日には、Googleが自ら販売するAndroid2.3対応スマートフォン『Nexus S』を正式発表するというオマケまで付きました)
 会場では、NFCケータイに必要なICチップを供給する半導体メーカーや、NFCでも重要な役割を果たすSIMカードの関連メーカー、さらには決済や交通といったNFCサービスのバックエンドのシステム構築を担う事業者などが軒を連ね、製品や技術を競いました。

20110131_ic-denshi_ST.JPG NFCチップの新製品も多数展示された(STマイクロエレクトロニクス)

 NFCに初めて対応したGoogleフォン、『Nexus S』の製造元と(当時は)噂されていた韓国・サムスン電子も出展し、NFC関連のICチップやNFC対応スマートフォンの試作機を展示。また、決済カードの国際ブランドであるVisaでは、既存の携帯電話に装着することでNFCに対応できる、特殊なマイクロSDカードを出展し、携帯電話で実現するVisaの非接触決済サービスなどをデモンストレーションしていました。

20110131_ic-denshi_Samsung.JPG サムスン電子のNFCフォン試作機

20110131_ic-denshi_Visa.JPG iPhoneでVisaの非接触決済を実現するデモ

 開催25年目の節目を迎えたカードの展示会の主役は、皮肉にも、カードの機能を持った携帯電話だったのです。

そして、日本企業の存在感は・・・

 最後に、展示会場で面白いコーナーを見つけましたのでご紹介します。世界中で発行されているカードビジネス業界誌の無料配布コーナーです。
 合わせて20種類ほどの雑誌が発行国の国旗とともに陳列されており、カードビジネスのマーケットの幅広さを感じました。フランス、イギリス、ドイツ、アメリカなどはもちろんのこと、チェコ、中国、インド、マレーシア、ブラジル、ウルグアイなどの雑誌が並びます。

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 フランス語やポルトガル語など一部例外はありますが、基本的にはどのカード雑誌も英語で記述されており、現地の動向を身近に感じることができます。
 しかし、その場に立ってわが日本を振りかえってみると、あらためて淋しい気持ちになりました。おそらく日本で発行されているカードや金融関連の雑誌で、英語で出版されているものはないのでしょう。
 読者のほとんどが日本人で、その母国語が日本語ですから、日本語で出版されるのはある意味当たり前の話です。しかし、その内容や取り扱うテーマが世界の市場をも見据えたものである以上、日本の情報が英語で発信されていないことは、その産業にとってある意味で不幸であることには違いありません。
 それと関連するのかはわかりませんが、展示会の出展企業としても、日本企業の存在感は非常に小さいものでした(427社中、3ブース)。もちろん、展示会で目立つだけではなく、実ビジネスを見据えた上で海外市場に取り組むことは言わずもがなですが、最低でも名前や製品を世界中の業界人に知っていただく必要はあるでしょう。
 日本のカード産業にとって、海外マーケットの重要性は今後、さらに増すことは間違いありません。今こそ、日本発の企画や技術を海外に売り込むべき時です。世界標準であるNFCケータイの本格導入が、そのきっかけとなることを願ってやみません。

(次回の『CARTES & IDentification 2011』は、2011年11月15日~17日に開催されます。電子決済研究所では同展に向け、本年も視察団を実施予定ですので、ご参加を検討される方はお気軽にお問い合わせください)

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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