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連載コラム

日本のNFCケータイ商用化時期は? 『IC CARD WORLD』で携帯3キャリアがパネル討論

[ 2011年3月17日 ]

***3月11日に発生いたしました東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆さまとご家族の方々に対し、心からお見舞い申し上げます。***


文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 『IC CARD WORLD』ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは。電子決済研究所の多田羅です。
 さて、当ウェブサイトの展示会『IC CARD WORLD』が、本年も大盛り上がりの中で幕を閉じました。出展社の展示内容や、来場者の関心も、例年になく注目を集めていたのは、やはり「NFC」。日本でも本格導入が期待される中、会場では特別企画として、国内の携帯3キャリアのご担当者を交えたパネル討論が行われました。今回は3月10日に行われた「NFCカンファレンス/モバイル3キャリアが語るNFCサービスの今後」の模様をレポートします。

モバイル業界の国際展示会でも、話題の中心はやはり・・・

 昨年に引き続いて行われた3キャリアによるパネル討論。国内でのNFCケータイの本格導入に関するキーパーソンの本音が聞けるとの期待もあってか、聴講希望者は会場に用意された100席では間に合わず、立ち見が出るほどの盛況ぶりとなりました。
 進行役(モデレータ)を務めたのは、こちらも昨年同様、山本国際コンサルタンツの山本正行氏。本連載コーナーでもおなじみの同氏ですが、決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、多方面で活躍されています。
  登壇されたお三方と山本氏は顔なじみなこともあってか、終始リラックスしたムードで討論は進行しました(写真①~④)。

写真①NTTドコモ フロンティアサービス部 おサイフケータイ事業推進担当部長 中村典生氏
写真②KDDI 新規ビジネス推進本部 事業開発部 モバイルIC企画グループ担当部長 阪東謙一氏
写真③ソフトバンクモバイル 海外事業推進本部 モバイルペイメント企画室室長 木下直樹氏
写真④パネル討論のモデレータを務めた山本正行氏(山本国際コンサルタンツ代表)

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 冒頭、話題になったのは、今年2月にスペイン・バルセロナで開催された『Mobile World Congress 2011(以下、MWC)』でのNFC関連の展示について。同展示会は、携帯キャリアの世界的な業界組織であるGSM協会(GSMA)が毎年開催している、携帯電話業界の見本市です。
 NTTドコモではこの数年、日本の携帯電話会社としては唯一、このMWCにブース出展していますが、パネリストのお三方はいずれも現地を訪れ、会場を視察したとのこと。そこで、ソフトバンクモバイルの木下氏が撮影した現地の写真をスクリーンに投影しながら、パネリストの間で今年の感想を歓談し合いました。
 NFC関連では、ICカードメーカー、チップメーカーなどのブース出展はもちろんとして、特にサムスン、SKテレコム、ZTE、HTC、ファーウェイといった中国・韓国系企業の力強さが目立ったそうです。「特に『ハンドセット(携帯電話端末)メーカー』については、日系企業の存在感がまったくなかった」とは、パネリストのお一人の正直な感想でした。
 木下氏はその後、ソフトバンクモバイルが今年1月から行っているNFCの実証実験について、構築システムやサービス内容について説明しました。同社ではクレジットカード会社やカードメーカーなどと連携し、NFCケータイ試作機での「MasterCard PayPass」(マスターカードの非接触IC決済)を試験導入しています。

FeliCaからNFCへの移行形態については、スタンスに違いも

 NTTドコモの中村氏は、同社が今年2月に発表した、韓国の携帯キャリアであるKT社との日韓共同トライアルの計画や、現在のFeliCaをベースとした日本おサイフケータイをNFCに対応させていく方法などについて説明しました。
 クーポン、交通、決済などの非接触ICサービスについて、日本と韓国の両国で使えるようにする「日韓NFCサービス・ローミング」は、2012年の実現を目指していくといいます。
 さらに中村氏は、FeliCaケータイからNFCケータイへの移行(英語では『マイグレーション』)に関連して、現在は携帯電話端末に内蔵されているFeliCaチップを、当初はNFCチップと直接接続することでNFC対応を実現、その次のステップとして、(TypeA/Bのアプリケーションと同様に)FeliCaチップを携帯電話の「UIMカード」上に搭載するとの構想を説明しました。この内容は、先のMWCで同社が披露していたものです。
 各社のスタンスに違いが見られたのは、この話題でした。各パネリストとも、現在提供しているFeliCaサービスからのスムーズな移行が重要であるという理解については一致していますが、その具体的な移行方法については、思いは少し異なるようです。
 問題の焦点は、中村氏のいう「まずは携帯電話に内蔵されているFeliCaチップを、NFCチップと直接接続する」ステップにあるようです(※注)。KDDIの阪東氏は、「(1個のNFCチップで)FeliCaチップとUIMカードの両方に対応するには、日本市場向けに改良された特殊なNFCチップが必要になるので、少し手間がかかる」と解説を加えました。

(※注:技術的な詳細については本連載の過去記事、「世界に広がるNFCケータイ」も参照ください。http://messe.nikkei.co.jp/nf/column/globaltrend/69173.html

 これに対してソフトバンクモバイルの木下氏は、それが高価なICチップとなるであろうことから、あまり関心を寄せていないとの心情を吐露しました。中村氏は、「コストについてはさほど大きな違いにはならないようだ」とコメントしましたが、NFCケータイでのFeliCa対応に向ける各社の視点には少し違いがあるように聞こえました。
 とはいえ、「(FeliCa専用端末からNFC端末へ)早く移行しようとするならば、必要なステップだ」と中村氏が話すように、FeliCaからNFCへの過渡期には、避けられないステップなのかもしれません。もっとも、その場合であっても、処理スピードの問題など課題は残るようです。

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ケータイのNFC対応は世界的な流れに

 KDDIの阪東氏は「現行のFeliCaと一緒にNFCサービスを提供しようとするなら、早くても2012年になるだろう」と、国内でNFCサービスを商用化する時期について言及しました。その上で、それをスピードアップさせるかもしれない最近の環境変化として、3つのポイントを挙げています。
 ①国内の携帯電話マーケットでスマートフォン化が進んだこと、②海外製の携帯電話端末が日本市場でも増えてきたこと(Android搭載によるユーザーインターフェースの改善を含む)、③海外製のスマートフォンには今年の秋以降、NFCの搭載が見込まれること――がそれです。
 これを受けてソフトバンクモバイルの木下氏は、「NFCではプレーヤー(ビジネスに関与する企業)が増える」とした上で、フランスの携帯キャリアがNFCケータイを100万台調達することを発表したことや、GSMAとIATA(国際航空運送協会)が空港のチェックインにNFCケータイを活用するテーマで議論を進めていることなどを紹介。「日本で、とか、韓国で、とかいうレベルを越えた世界的な流れになっている」と評価しました。
 その一方で、NTTドコモの中村氏からは、「そうはいっても、NFCを取り巻く状況は(日本でおサイフケータイの始まった)7年前の状況に過ぎない」と現実的な意見も。これには木下氏も同調し、「確かに今年、来年以降、5~6年ほどかけてNFCが広がっていくのではないか」とコメントしていました。
 ここでモデレータの山本氏から、海外の商用事例として、昨年から南フランスのニースで行われているNFCケータイの商用プロジェクト「Cityzi(シチジ)」の紹介が行われました。Cityziではスマートフォンではない、一世代前のフィーチャーフォン1機種(サムスン製)のみがNFCケータイとして採用されていますが、決済、交通、スマートポスターなどのサービスが実際に現地で利用できるようになっています。
 毎年、欧州視察に訪れている山本氏は、「(Cityziは)もともと2008年頃に計画されていたもので、ようやく始まったという印象」と述べ、その進展ぶりには一定の評価を与えていました。KDDIの阪東氏も、「Cityziは今年(2011年)、ニースから11都市に広がる。ただ、大票田であるパリでのスタートは2012年になる」との補足情報を提供しました。
 KDDIの阪東氏からは、今年2月にソフトバンクモバイルや韓国の携帯キャリアであるSKテレコムなどと共同で発表した、日韓NFCサービスに関する実証実験実施についての説明も行われました。カード決済では「MasterCard PayPass」、韓国で普及している電子マネー「T-Cash(T-money)」、それにスマートポスターの日韓共同トライアルを実施しています。またKDDIでは、国内の24社と提携し、決済、スマートポスター、IC運転免許証などの実証実験を展開中であることも紹介されました。

「黙っていても、海外製のNFCケータイが日本に入ってくる」

 パネル討論のまとめとして山本氏が各パネリストに投げかけたのは、「昨年はKDDI、ソフトバンクモバイルでトライアルを実施していますが、商用化の予定は?」という直球の質問でした。
 KDDIの阪東氏は、「近々、正式にリリースする予定だが、2012年くらいの時期には照準を合わせたい。しかし、海外製端末は黙っていても入ってきてしまうのではないか」と話し、サービスイン間近であることを感じさせてくれました。
 またソフトバンクモバイルの木下氏は、「基本的にはKDDIと同じだが、今年の夏以降、世界中のメーカーからNFCケータイが出てくるだろう」と回答。「NFC対応のAndroid端末やタブレットを決済端末として利用するようなイメージも、NFCではあり得る」として、従来の発想を超えたNFCケータイの利用シーンを連想させるコメントもありました。
 最後に、NTTドコモの中村氏は、「NFCの商用化は間近だと思っている。現在の端末内蔵FeliCaに対応するNFCチップの開発も進んでいると聞いているし、サムスン(のNFC対応)端末の導入も決まっている」ことを明かし、「目標として、2012年を実現できるように進めていきたい」と話しました。

 今回のパネル討論により、日本のNFCケータイ商用化時期は間近に迫っていることがわかりました。今年の『IC CARD WORLD』では、このNFCカンファレンス以外にも特別企画として、「NFCパビリオン」も登場しました(写真)が、ここで展示されていたNFCサービスイメージの数々や、NFCデバイスと人体通信の連動など、さまざまなビジネス可能性が開けてきたようです。
 そうなると今年、2011年は、NFCにとっては最後の準備期間になるのかもしれません。国内需要だけでなく、NFCは日本企業の海外展開において強力な武器になるでしょう。それだけに、大きな盛り上がりに期待したいところです。

「NFCパビリオン」 NFC関連の展示が一堂に会した「NFCパビリオン」

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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