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連載コラム

第14回 決済カードのEMV化、開始10年でその成果は?

[ 2011年5月31日 ]

 

文・山本 正行(山本国際コンサルタンツ 代表)

 山本国際コンサルタンツの山本です。こちらへの寄稿はしばらくぶりとなってしまいました。
 最近、決済やICカードにまつわる話題といえば、NFC(Near Field Communication)、モバイル、スマートフォンなどに染まった感が強いのですが、私個人の感覚を言えば、「ICカード」はEMV、接触型、Javaカード、GlobalPlatform、ネーティブ、、、などの言葉のほうがより身近に感じます。
 今回は、そんな「枯れた」?言葉の中でも最近めっきり登場の機会が少なくなった「EMV」について見直したいと思います。

EMVの本格導入は2001年から EUは2010年に終了

 ご存じの方も多いと思いますが、「EMV」はVisa、MasterCardが策定した決済カードのためのICカード仕様です。Visa、MasterCardによるものなので本来は「VM」でよかったのでしょうが、当時欧州でMasterCardブランドを管理・運営していたEuropay International社の頭文字「E」を加えてそうなりました。
 EMVは1990年代後半に仕様が固まり、2001年のイギリス、日本を皮切りに世界各地で商用化が始まりました。EMVの導入は今年でちょうど10年目ということになります。  日本でのEMV化はずいぶん進みましたが、それでもまだ磁気カードが多く残っており、加盟店端末もPOSの対応がなかなか進まない状況です。それに対してイギリス、フランスは商用化開始から5年以内にほぼ100%のEMV化を達成しました。
 さらにEU(欧州連合)も、SEPA(Single Euro Payments Area:単一ユーロ支払地域)に属する国は昨年末(2010年12月末)をもってEMV化(カード、ATM、決済端末の全てが対象)を完全に終了するという明確な計画の下で導入が進みました。その結果はまだ報告されていませんが、EUではECB(欧州中央銀行)が指導的立場に立ってEMV化を進めることで、10年越しの一大プロジェクトに終了のめどが立ったのです。

セキュリティ強化の半面、コスト増の課題も

 EMVの目的は、偽造防止などの「セキュリティ」にあります。しかしEMV化は磁気カードを接触型ICカードに更新するだけにとどまらず、加盟店の決済端末の置き換え、カード発行システムの更新、オーソリ(カード利用承認)システムや売上処理の更新、など決済カードに関連する業務システムの広範囲に及び、設備投資もばかになりません。
 そのため、世界各地でカードを発行しているイシュアー(世界的には銀行が多いですが、日本ではほとんどが専門のクレジットカード会社です)の中には、「セキュリティ」の強化には総論賛成するものの、もっと低廉に対策できないものかと疑問を呈する向きもありました。
 それでもセキュリティ対策を必須として国や地域をあげてEMV化を進めたのが前述のEUです。EUではEMV化の始まる当時、偽造カードなどによるカードの不正被害に悩んでおり、その解決が喫緊の課題だったのです。それに対して世界で最大のカード取引があるといわれるアメリカでは、「磁気カードでも十分に対策が可能」と主張するイシュアーが多く、EMV推進派のVisaやMasterCardと対立しました。下図にもあるように、現在に至ってもなお、アメリカでは未だEMV化が本格的に始まらないのです。

icrt_0531_01_01.jpg世界のEMV導入状況

中国銀聯でも磁気カードからICカードへ移行

 2002年に設立され、瞬く間に世界中に広がった中国銀聯(China UnionPay)は、すでにEMVが商用化された後にも関わらず、当初は磁気カードでの導入を進めました。とはいえ、これまでの磁気クレジット、デビットカード取引とは異なり、全ての取引においてPIN(暗証番号)によるオンライン認証を必須とするなど、安全面に十分配慮した上での決定だったようです。
 しかし、その中国銀聯でもすでにICカード化(接触型)の導入が始まっています。中国銀聯が採用する仕様はPBOC仕様(People's Bank of China:中国人民銀行の略)と呼ばれるもので、EMV対応とは言わないまでも、EMVと同等のセキュリティ水準を満たすものです。
 現在、中国銀聯では決済端末のIC化対応を進めており、カードについても今後5年以内に、新規に発行するカードの全てをICカード化すると発表しています。

日本も早期に100%EMV化の達成を

 私は現在の日本のEMV化率は50%程度と見積もっていますが、これはカードや決済端末の数で見た評価です。この「成績」は、10年の歳月を考えれば不振と言えなくもありません。
 それでも最近はEMV対応カードや決済端末は増えており、カードで買い物をする際にはEMVならではの「PIN入力」をする機会が増えました。日本のカード会社では売上の多い繁忙店を優先するなどして、効率よくEMVの導入を進めています。そのため、EMVカードとEMV対応の決済端末を、数ではなく、それらを利用した取引の比率でみれば、おそらく50%ははるかに上回るものと推測します。
 先にも述べた通り、日本では非接触ICカード決済やモバイル決済も進んでおり、NFCやスマートフォンの今後の動向がとても気になる状況にあります。しかし、セキュリティと相互運用性に優れたEMVの導入は、世界が決めた重要な施策であり、決済サービスにとって必要不可欠なものだと思います。
 EMVは単純な偽造対策に加え、PKI技術を用いた高度な認証機能を備えており、リアル加盟店における決済手段としては現時点で最も高いセキュリティ水準の維持に寄与するものです。もっとも、これから歳月を重ねることで技術の陳腐化も懸念されますが、EMVでは暗号化に用いる鍵の長さや方式を更新するなどの方法により、セキュリティ水準を高めていくことにも配慮しています。
 日本はこれからもEMVの地道な導入を続けることが重要であり、出来る限り早く100%の導入を達成すべきと考えています。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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