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連載コラム

第19回 ちょっと気になる、海外旅行とクレジットカード、そして為替について

[ 2011年11月25日 ]

文・多田羅 政和(電子決済研究所 代表)

 NFC & Smart WORLDのWebサイトをご覧の皆さま、こんにちは。電子決済研究所の多田羅です。
 11月15日に開幕する『Cartes & Identification 2011』へ参加すべく、現在、ヨーロッパへ向かう機内にて今回のエントリーを書いています(Webで公開される頃にはすでに終わっていると思いますが。。)。
 今回は旅の途中ということで、海外旅行には付きもののクレジットカード、そして為替をテーマに、周辺事情をご紹介してみたいと思います。

クレジットカードは海外旅行の必須アイテム

 海外旅行に行く際、必ず忘れずに持っていくものといえば何でしょうか。パスポートは当たり前ですね。近年ではその次くらいに大事なアイテムとなっているのがクレジットカードではないでしょうか。
 VISAやMasterCard、AMEXなどの言わゆる国際ブランドのマークが付いたカードさえ持っていれば、いまや世界中どこの国へ行こうとも現地での支払いに困ることはないでしょう。現地通貨への両替が必要になる現金に比べれば、手間が少なく、安全な決済手段と言えます。
 ひと昔前では現金に代わる海外旅行向け商品として「トラベラーズチェック」がありました。読んで字のごとく、旅行者向けに限定された小切手のようなサービスですが、国際ブランド付きのクレジットカードを持つのが当たり前となった現在では、あえて持参する旅行者はかなり少なくなったのではないでしょうか。

ほとんどクレジットカード? 国際ブランド付きプリペイドの実力

 万能に見えるクレジットカードですが、ひとつ課題がありました。それは、未成年者や何らかの理由でクレジットカードを持ちにくい、あるいは持ちたくないという人たちにとっては使うことができない(持参できない)という問題です。
 従来、そうした人々は現金を現地通貨に両替して持参するか、前述のトラベラーズチェックを利用するくらいしか選択肢がありませんでした。ところがつい最近になって、クレジットカード非利用者であっても使いやすい新しいカードが登場しています。それが、クレジットカード会社のクレディセゾンが発行する『NEO MONEY』(VISAブランド)や、トラベレックスの『キャッシュパスポート』(MasterCardブランド、銀聯ブランド)といったプリペイドカードです。
 プリペイドカードというジャンルは、これまでの考え方では事前にお金を入金しておき、その残高の範囲内に限りお店などでの支払いに使えるというものでした。電子マネーのSuicaなどでもなじみのある、昔ながらの方式ですね。
 これに対して先述した新しいタイプのプリペイドカードは、利用イメージが少し違っています。その最大の理由は、いずれのカード券面にもクレジットカードとまったく同様にVISA、MasterCardなどの国際ブランドマークが付いていることです。
 これにより、プリペイド口座に対して事前に残高を入金しておくことは変わりませんが、VISA、MasterCardなどのロゴマークを掲げたお店ではクレジットカードと同様に支払いに使えるようになっています。また現地のキャッシュマシーン(ATM)から残高の範囲内で現地通貨を引き出せるという特長があります。
 この利便性は、海外でクレジットカードを使ったことのある方であれば一目瞭然、他に代え難い魅力を持ったカード商品と言えます。
 ちなみにこれらの新サービスが最近相次いで登場している背景には、プリペイドカードを含む従来の法規制の緩和があります。2010年に施行された「資金決済法」という法律がそれです。この法律の制定により、『NEO MONEY』や『キャッシュパスポート』のようなカードが誕生するに至った訳ですが、このように現金での残高の引き出しができるプリペイドカードを発行する事業者は"資金移動業者"(資金決済法により規定)としての登録が必要になっています。

(写真1)『NEO MONEY』
(出典:クレディセゾンのWebページ)

両替は日本ですべきか、現地ですべきか、それが問題だ

 さて、海外では国内に比べてクレジットカードの使える場所が多いとは言っても、タクシーやちょっとした売店など、ちょっとした少額の支払用途に備えて現金も持参される方がほとんどだと思います。
 このとき、われわれ一般市民は、ふだんあまり意識していない為替の問題に向き合うことになります。果たして手元の1万円が渡航先の現地通貨に換算するといくらになるのか。経済ニュースなどの終わりに毎日掲出される為替レートの意味が、突然自分の問題として降りかかってきます。
 この日本円から外貨への両替ですが、多くの方はおそらく日本を出国する前に、空港に出店している銀行の窓口で両替を済ませてしまうパターンが多いのではないでしょうか。
 実は海外の多くの都市では、複数の通貨を取り扱う両替商の店舗を街中でよく見かけます。日本のコンビニエンスストアと同じくらいの比率でお店が立ち並ぶ国も少なくありません。
 これに対して日本では、ふだん通貨を両替するニーズはあまりありませんから、海外旅行の出発直前に自身が通過する空港を利用するのは必然とも言えます。しかし、渡航先の街中にある両替商に張り出された為替レート表示を見て、自分が空港で両替してもらったレートよりもはるかにお得な料率が適用されているのを見つけて驚かれた経験はないでしょうか。
 この、両替は日本国内で済ませるべきか、あるいは渡航先でするべきか、という問題ですが、筆者が日銀(日本銀行)関係者の方に伺った話では、為替レートの損得(有利不利)を考えれば、両替は日本国内(の空港など)ではなくて、渡航先(現地)で行うのが正解だそうです。これは銀行と言えども、日本国内で外貨をストックすることにはリスクがあるからです。そう言われてみれば当たり前のような気がしてきますね。
 とはいえ、長いフライトを終えて現地に着くと、今度は預け荷物を受け取ったりホテルに向かったりと忙しいので、多少の為替損はあっても日本の空港で両替を済ませてしまう方も多いのではないでしょうか。かくいう筆者も実はこのパターンです。
 ではクレジットカードで支払った場合の為替レートはどうなるのでしょうか。これはVISAやMasterCardなどの国際ブランドが参照する交換レートに一定の手数料を加えた額に決まっており、カード発行会社によって若干の差があったりします。買い物などの際には現地通貨の販売金額を確認し、サインもしくは暗証番号を入力して決済を承認しますが、後日、カード会社に売り上げが伝わった後に前記のレートが適用された日本円換算の支払金額が確定し、利用明細に上がってくるという流れになります。
 ですから、実際の引き落とし金額がいくらになるのかは、明細が届いてみなければわかりませんでした。

カードの支払い金額が日本円でわかれば・・・

 クレジットカードの為替換算といえば、つい最近まですべて上記の方式で処理されていました。しかし、最近はこれに加えてカード利用者にとって非常に便利な仕組みが登場しています。「ダイナミック・カレンシー・コンバージョン(Dynamic Currency Conversion:DCC)」と名付けられた仕組みがそれです。DCCとは読んで字のごとく、お店で支払いをしたその瞬間に直接為替交換を行うことにより、カード利用者の自国通貨での実際に支払う金額を確定するため、カード利用者にとってはわかりやすいサービスと言えます。
 写真3、4は筆者がそれぞれ別の国でカード支払いを行った際の利用伝票です。DCCのシステムでは、DCCを適用して自国通貨で支払うか、あるいは従来のカード取引と同じく現地通貨で支払うかを、カード利用者が選択できるのも特徴です。

(写真2)DCCにより日本円で確定したクレジット明細書(ロンドンの例)

(写真3)DCCにより日本円で確定したクレジット明細書(香港の例)

 実際には店員さんに「どちらの通貨で支払いますか?」と聞かれますので、口頭で応えたり、伝票に表示されたいずれかの金額をペンなどでチェックすると、選んだほうの通貨で引き落としが行われるようになります。
 このサービス、日本で発行されたクレジットカードを日本で使っている限りは目にすることはありません(当たり前ですね)。しかし、海外旅行に出かけたりしますとかなり高い頻度で出会うことが多くなりました。
 もちろん、日本のカード会社の中にも外国人旅行者などを対象として、このDCCを提供している会社はありますが、少ないのが現状です。海外の導入例では、カード利用者が店員さんから十分な説明を受けないまま結果的に不利な通貨での支払いを選んでしまった、などのトラブルもあるようで、DCCには技術面や運用面などでさまざまな課題が残っていることも事実です。しかし、観光立国を声高にうたう日本としては、外国人旅行者へのサービス向上の一環としてぜひ拡大してほしいサービスだと思います。

 さて最後に、海外でカードを使う場合、現地通貨と日本円のどちらを選択するほうが有利なレートになると思いますか? 筆者自身は経験則からの回答を持っていますが、ぜひご自身で考えてみてください。

電子決済・ICカード国際情報局
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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