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連載コラム

第99回 パンと森が主役の店 ベーカリーカフェ「木の葉」に流れる心地よい時間

[ 2012年3月5日 ]

ここ1年くらい、機会あるごとに地方の店を取り上げてきた。青森、盛岡、熊本、岡山などなど。やはり東京の外にも視線を向けないとね......と思っていたのだが、多摩エリア在住のスタッフが「いやいや~、多摩だって地方に負けていませんよ~」と挑戦的な態度で私に寄ってきた。
「多摩にいいお店、見つけたんです!」「どこ?」「青梅市なんですけどね。」
青梅!!! 確かに東京、確かに多摩。でも、けっこう距離あるよね......。ちゅうちょする私に、「薪窯で焼いたものすごくおいしいパンが食べられる、すごい人気のログハウス風ベーカリーカフェなんですけど」とさらに誘惑してくるスタッフ。じつはパンには目がない私。行かないわけないじゃない、青梅くらい! ええ、行ってやるわよ!

青梅市街からさらに山道に入り、薪窯のあるベーカリーに到着!

というわけで、見事な快晴に恵まれたある日、青梅市へと車を走らせた。うーん、けっこう遠い。多摩センターの事務所からだと1時間半くらいかかる。しかも、この話題のベーカリーカフェ、かなりの有名店らしいのだが、青梅市の中でも相当辺ぴな場所にある。事前にアクセスを調べてはいたが、進むにつれ不安がつのる。ほんとにこの道でいいの? この先に店なんてあるの? ......そんな山道を車で進むこと10分。確かにそこに「薪窯パン工房 木の葉」はあった。

青梅もここまで来ると、もう山がかなり目の前に迫ってきている。思わず住所を確認したが、正真正銘の「東京都青梅市」......東京、ではあるのだが、ありえないほどの緑、空気、そして店のすぐ脇には川まで流れている! このロケーションに、ログハウス風の店構えがぴったりはまっている。アルプスの高原か、日本なら長野あたりにいかにもありそうな建物だ。
道路から店に上がっていくスロープの脇には、壁面にレンガをはりつけたような小さな小屋が建っている。何かと思って裏に回ってみたら、そこがなんとパンを焼く窯だった。街中のパン屋でも「石焼き窯」の店は時折見かけるが、この店は「薪窯」つまり、薪(杉やひのきの端材)を燃やしてパンを焼いているのだという。この薪窯は、オーストリアから職人を招いて、再現したグレコ・ローマン式の由緒ある薪窯なのだそうだ。店頭には、ミッシュブロードなどオーストリア伝統のパンも並ぶ。アルプス・チロル地方の伝統が青梅に受け継がれているというのもなんだか、ロマンチックだ。

この立派な窯があえてのように店の前面に鎮座し、また、スロープの途中には、背の高いしゃもじのようなものに「木の葉」と店名が記されていたが、これも窯からパンを出すときに使う道具なのだった。
店の外側からして、「パン」が主役であることを、主張している。「木の葉」はそんな店だ。

切り株も商品として並ぶ「森と共存するベーカリー」

いや、主役はパンだけではない。
この店の母体は、株式会社多摩農林だという。名前のとおり、木材や木材製品を生産・販売している会社だ。その多摩農林がなぜベーカリーを? と思い調べてみたら、この店が、単においしいパンや料理を食べさせる店ではなく、「森との共存」を目指しているのだということがわかった。そして、以前はただ山に放置し、腐らせていた端材を有効利用する方法として、「薪窯でパンを焼く」ことにたどりついたのだとか。都心や埼玉からも買いに来るファンもいるというおいしいパンは、この青梅の豊かな森があってこそ生まれたもの。つまり、この店のもう1人の主役は森なのである。
店の入り口には、なんと! 切り株が売っていた。切りっぱなしではなく、ちゃんと表面は磨かれ、つやも出してある加工品だが、形も不揃いで極めてナチュラルだ。使い方も「お好きにどうぞ」といわんばかり。しかし、なんとも味があるので、私も「なにかに使えないかな?」と購入しようかと思ったくらいだが、こういう物が売られているあたり、「森も主役」のこの店らしいではないか。

高い天井のログハウスは、どこもかしこも木造り。テーブルもすべてこの青梅の森の木で作られているのだそうだ。そして、広々したガラス張りの壁から差し込む陽射しが、木造ならではの温かみをいっそう引き立てる。この日は、快晴だったこともあり、店内にいるだけでとても心地よい。それは、店の造りや内装による面もあるが、この大きなガラス越しに見える外の景色の力も大きいだろう。冬なので、かなり茶色混じりにはなっているが、春から夏にかけては濃い緑をたたえるという山が見え、そのバックには青い空。あ~~~~、なんだか身も心も幸せだ~という気分になる。
さらに、店内には焼きたてのパンの香りが漂ってくる。この日、私は、「スプレッドセット」のランチをいただいたが、薪窯で焼かれたおいしいパンはおかわり自由。季節の野菜や果物など旬の素材をペーストにしたスプレッド4種がついてくる。スプレッドはおかずとしては物足りなそうに見えるが、なんと言ってもパンがおいしいので、おかずでお腹いっぱいになるとパンがたくさん食べられなくてもったいない! という人にはおすすめだ。それに、スプレッドもそれぞれかなり美味! 果物やクリームチーズを使った甘いものもあれば、肉や野菜を使ったおかず風のものもあるので、おいしいパン×スプレッドの組み合わせを変えれば飽きずにたくさんパンを食べることができる。もちろん、ビーフシチューやコンビーフ、コールドポークといったしっかりしたおかずのついたランチセットもあり、どれもおいしいパンの盛り合わせがついている。

自然に囲まれ、ゆっくり流れる時間を楽しめる場所

木の香りがしそうなログハウスで、パンの焼きあがる香りに包まれて、お腹いっぱいになるまでランチをいただいて、満足このうえない気分を味わった私。お土産用のパンをいくつか買って店を出たあと、店の周りを探索してみた。すると、なんだかタイムスリップしたような気分になってきたのだ。「木の葉」の下を流れる川の向かい側に建っている古い建物は、今は何に使われているのかわからないが、昔の「工場」のようなたたずまいだ。工場といっても産業革命以前の、手工業時代の工場。そんな空気をまとった建物がすぐ近くにあり、道路の向かい側に用意されている駐車場は、まるでキャンプ場の駐車場のように木々に囲まれている。都心から車で2時間足らずで来られる青梅市に、こんなところがあったとは! 地方もいいが、たしかに多摩エリアもなかなか奥が深い。

そして、ただ「おいしいパンと料理」「ナチュラルテイストのおしゃれな店造り」を売りにしているのではなく、青梅の杜(里山)を守り、育てるという一大プロジェクトの一環として、こんな素敵なベーカリーカフェがある、ということが何よりすごい。森の緑が目に鮮やかな季節になったら、ぜひまた行ってみたいと思う店だった。


今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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