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連載コラム

第105回 製品生産現場を体感できる「玉名牧場」の説得力に脱帽!

[ 2012年9月4日 ]

 久々に九州で「おしゃべり会」という会員参加型のイベントを行い、熊本に行ったときのこと。「おしゃべり会」に参加していた会員さんから、「ぜひ連れて行きたい店がある」と言われた。「おいしいピザ、食べに行きませんか?」というお誘いに、それはぜひ! とスケジュール調整をしたのだが、その店の名前を聞いて仰天した。
「玉名牧場」だというのだ。

 そう。イタリアンレストランでもカフェでもなく、牧場。
 しかも、玉名は熊本市から車で40分くらいの中都市だ。いわゆる「牧場」のありそうな山地でもないのだが、果たしてどんなところなんだろう? 興味津々の私に、ランチに誘ってくれた会員さんが、車を玉名へと走らせながら解説してくれた。

「玉名牧場は、脱サラで酪農を始めた方がやっている自然農法の牧場なんですよ。すごく自然な方法で牛や鶏を飼っていて、そこで作られた乳製品はネット販売でもすごい人気なんです。有名なシェフの御用達だったりもするんですよ。」

「レストラン」ではなく、本物の「牧場」。ランチは牧場見学つき。

 新幹線の「新玉名駅」を近くに見たあと、車はどんどん山の中に入っていき、標高も上がっていく。みかん畑が広がる山を車で進んでいくと、町がだんだん下に見えてくる。「ずい分、高くまで上るんですね。」とその絶景に感動したが、じつは決して高い山ではなく、標高200メートルくらいなのだそうだ。「アルプスの少女ハイジ」などでイメージするような「牧場=高原」というわけではないようだ。

 熊本市からだと小1時間くらい車でかかっただろうか。みかん畑を抜けた山の上に、「玉名牧場」はあった。たしかにレストランという外観ではなく、まさにそこは牧場だった。

 ランチは完全予約制なので、この日は、私たちのために席が用意されていた。ウッドデッキに面した日当たりのいい気持ちのいい部屋だが、とてもアットホームな雰囲気で、お店に来たというよりも、友人の家にお邪魔したという気分になる。

 しかし、特筆すべきはそこではない。「玉名牧場」では、ランチの前に牧場の見学をさせてくれる(ほぼセットになっているらしい)。人あたりのいい代表の矢野希実氏は、私たちを出迎えてくれ、手荷物を食事する部屋に置くやいなや、「じゃあ、行きましょう」とまず豚舎に案内してくれた。正直、私は「ピザを食べに行く」くらいの気持ちで来てしまったので、「豚舎に行く」と聞いて、少し戸惑ってしまった。臭いんだろうなあ、と覚悟を決めなければならなかったからだ。

 矢野さんにすすめられるままに豚舎に入ると、すぐに青々とした葉っぱを手渡され、「豚にあげてください」と言われ面食らった。私が? 豚にえさをあげるんですか? おそるおそる葉っぱを豚に向かって差し出すと、豚は人なつっこく寄ってきておいしそうに食べ始めた。なんか、かわいい。そして、ふと気付いたことには、そこはまったく臭くないのだ。驚いて矢野さんに聞いてみると、この豚はチーズの製造過程で出るホエイ(乳清)を処理するために飼っているので、頭数をむやみに増やさず自然飼料だけで育てているのだそうだ。そうすると豚につきものと思われている匂いがまったくなく、家畜というより、語弊はあるかもしれないが「ペット」という感じなのだ。これなら初めて訪れたお客を豚舎に入れても、えさをあげさせても平気なわけだ。

自然に近い状態で育つ元気な牛と鶏に感激!

 豚舎ですっかり味をしめていたら、「じゃあ次は鶏と仔牛のほうに行きましょう」と矢野さんから促された。豚舎の少し奥に、まだ小さめの牛が放されているスペースがあり、その横に鶏舎が建っている。私達が行ったときには鶏はその中に入っていたのだが、矢野さんが扉を開けると鶏達は元気いっぱいに外に出てきた。そして、牛と鶏が共存する、なんとも不思議な光景がそこに展開されたのだ。「あ、あの。鶏と牛って一緒に放し飼いできるものなんですか?」と思わず聞いてみると、矢野さんは「これが自然な姿」だと言う。そして、ここにいる鶏と仔牛達もやはり臭くない。さらに、スリムだ。人間が食べるため、卵を産ませるために育てている家畜ではなく、きわめて自然に近い状態で育っている「動物」なのだと感じた。

 最後に、乳牛を放牧している丘にも連れて行ってもらったが、そこにいた牛達も「乳牛」のでっぷりしたイメージとはまるで違った。まるでサラブレットのように締まったつやのある体をしているのだ。私が矢野さんに話を聞いているといつの間にか周りに牛達が集まってきた。それなのに話に夢中になっていると牛に囲まれていることに気づかなかったくらい、匂いもなく穏やかな気質の牛達だ。「なでてやってください」と言われ、体に触ってみても、まったく嫌がることもない。ストレスの少ない中で育ち、人間との信頼関係も築けているのだ。

牧場を見学したあとに食べる乳製品は格別!

 牧場見学を終えて、やっとランチタイムになった。
 最初に自家製季節の野菜とチーズをたっぷり使ったサラダが出て、そのあとしっかりボリュームのあるピザが1人1枚出てくる。チーズはもちろん自家製、のっている野菜も自家製だ。徹底した自然農法のため、玉名牧場のチーズは生産量が少なく、その分、お値段は安くはない。それなのに、このピザには惜しげもなくその貴重なチーズがのっていておいしいことこのうえない。そのうえ、食べごたえ十分な量があり、さらに、デザートにアイスとシフォンケーキもついてくる。こちらも、自家製の牛乳や卵がふんだんに使われているから、ピザでいくら満腹になっていても食べないわけにはいかない。1500円という価格ではどう考えても採算がとれないと思うのだが、「地元の人に来てもらうにはこのくらいじゃないと」と矢野さんは言う。

 しかし、このピザやデザートを食べてしまったら、誰だってお土産にここの乳製品を買って帰りたくなってしまう。それが普段スーパーで買うものより割高であってもだ。そう思わせるだけの風味があり、また本当に体にいいものなのだ、という説得力がある。

 この「玉名牧場」を「ショップビズ」で紹介していいものかどうか? これを「ショップ」と呼べるのか? は微妙だが、レストランとして、また自家製品を売るショップとして、こういうあり方も興味深いと思う。

 手前みそだが、消費者、もとい、主婦はするどい。モノが溢れている世の中で、何がよくて何が悪いか、どうして信用できるかを見極める、確かな目をもっている。
「玉名牧場」のように、商品のバックボーンを見て、触れることができれば、そこで提供される商品の価値を実感できよう。多少高くてもそこに価値が見出せればリピーターにもなるだろうし、クチコミの原動力になる可能性だってある。

 こういった体験型の施設ショップというのはきっとこれから増えるだろう。今、食の安全性への関心は高まる一方なので、農業、酪農関連では、安心・安全を体感できる「玉名牧場」のような形態は大いにありだと思う。事実、玉名牧場はすでにかなり注目を集めていて、年間1500人もの見学者が訪れているそうだ。

 めったに行けない九州だが、行けばやはり収穫はある。さすがに食べきれなかったピザをテイクアウトさせてもらい、ほくほくしながら帰路についた私だった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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