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連載コラム

第109回 手作りの温かみあふれるデコレーションが乗客を幸せにしてくれる「横浜市営バスの奇跡」

[ 2012年12月27日 ]

手作りの温かみあふれるデコレーションが乗客を幸せにしてくれる「横浜市営バスの奇跡」

 2012年12月、クリスマスの2週間前くらいだったが、所用で横浜市綱島に出かけた私は、ひとりでランチをしながら、時間つぶしにTwitterをチェックしていた。そこに飛び込んできたのが「横浜市営バスのクリスマスに向けての浮かれっぷりがスゴイ!」という文字だった。リンクされている画像を見てみると、なんともきらびやかにデコレーションされたバスの内部! あらまあ、これは楽しいわ、と一人でにやにやしてしまった。

突如、「クリスマス仕様バス探し」の旅に出る

 その日は、たまたま午後からの予定がゆったりとしていたこともあり、「せっかく横浜にいるんだから、このバスに乗ってみたい!」という気持ちがむくむくとわいてきて、綱島駅でバスのりばを探してみた。が、残念ながら綱島駅からは横浜市営バスの路線は1本のみで、それもあまり本数が多くないのだ。ひとしきり待ってやっと来たバスは、なんの変哲もない普通の市営バス。「あれえ?」とがっくりきて、横浜市交通局のホームページを調べてみると、すべてのバスにデコレーションがされているわけではないらしい。

「うーん、このまま引き下がるのは悔しい!」と思ったものの、綱島駅のバス乗り場は、そのまま粘るには狭いし、寒かった。「多摩センターに移動する途中のどこかの駅で再チャレンジしてみよう!」と思った私が、次に目をつけたのは、港北ニュータウンのど真ん中にある「センター南駅」! ここなら、子ども人口も多いので、いかにもクリスマス仕様のバスが走っていそうだし、市営バスが3路線もある。
綱島から東急東横線で日吉に出て、日吉から横浜市営地下鉄のグリーンラインに乗り換え、センター南駅で降りると、バス乗り場に向かった。さすが港北ニュータウン、駅がかなり大きくて立派だ。そして......、駅が大きいだけあって、バス停までがちょっと遠い。これは誤算だった。
折しも少しばかり雨もぱらついてきて、ぐっと暗くなり、そして寒くなってきた。ちょっと泣きたくなりながら、私は、バスを待った。3路線あるので、横浜市営バスの姿はけっこう見受けられたので、「ここならきっと会える!」と思ったのだが、30分待ってもそれらしきバスは現れなかった。(それほど 本数が多いわけではないから、仕方ないのだが)もう少し粘りたい気持ちはあったが、なんせ寒い。風邪をひいては元も子もない、とあきらめて、再び市営地下 鉄の駅に戻り、中山駅に向かうことにした。

中山駅北口バスロータリー近くにファミレスがあることはマップで確認済み。私は中山駅に着くと、一目散に北口に向かい、ファミレスに入ってドリンクバーを注文した。座ったのは、バスロータリーが見下ろせる窓際の席だ。ここで、ドリンクバーで粘りながら、クリスマスバスを待つという算段だった。
眼下のバスロータリーには、横浜市営バスの姿が見えた。よしよし、ここなら! と窓の下を見ながら、温かい飲み物で暖をとった。ここには1時間くらいいたが、残念ながらそれらしきバスは来なかった。
そして、私ははたと我に返った! こんなにのんびりしている時間はないんだった!

あきらめかけたそのときに...中山駅での奇跡の出会い

 結局、クリスマスバスには出会えないまま、後ろ髪を引かれる思いで、帰る決断をし、とぼとぼと中山駅に向かった。横浜線で橋本まで出ようと改札付近に行くと、中山駅の反対側にもバス乗り場があるということがわかった。だめもとで最後に行ってみようかと、駅の階段を降りてみると、すぐ目の前がバス乗り場だった。北口の広々としたロータリーと違ってかなり狭いバス乗り場に、学校帰りの学生や買い物帰りの親子連れなどがあふれている。なんと、ここには市営バスが4路線もあるのだ! 「もしかして!」と、ドキドキしながら、バス乗り場を回ってみたが、そのとき停まっていたバスにはクリスマス仕様のものはなかった。
「やっぱりダメか...」と肩をおとして、駅に戻ろうとしたそのとき、するすると滑り混んできたバスのフロントガラスのあたりがやけにキラキラしているのが目に入った。そして、ナンバープレートの上には大きなバスの図体のわりにはちょっと小さめのクリスマスリース! 外から見ても、バスの天井部分がキラキラしているのが見える。「これだー! キター!」と一人で興奮しながら、そのバスが停まったのりばの列の最後尾に並んで、思わずバスに乗ってしまった。

手作り感あふれるデコレーションに乗客の反応さまざま

すでに夕方になっていたせいか、案外バスは混んでいて、後から並んだ私の席はなかった。でも、つり革につかまりながら、車内の飾りつけや乗客の様子をよく観察できてよかった。バスに乗った瞬間はそのきらびやかさにちょっと驚くが、よくよく見てみると、どの装飾品もお手頃そうなものを使っていて、手作り感があふれている。いい意味で素人くさいのだ。そして、その素人くささゆえに、温かみがある。

そして面白いのが、このバスに乗り込んでくる人々の反応だ。この日、私がなかなか巡り合えなかったように、実はこのバス、かなりのレア物だ。日によって、運行する路線も変わるそうなので、毎日同じバスを利用していても必ずあたるというものではないらしい。だから、おそらくたいていの人は、そのとき初めて「おっ、どうしたどうした? このバスは?」という感じなのだろうが、案外みんな冷静を装っている。とくに男性は。 
女性だと、若い子は「かわいい~!」だの「ウケる~!」だの賑やかにおしゃべりしながら、お決まりの写メ撮影など始めるし、年配の女性でも、「あらあ」と頬がゆるんだりしている。子どもはもちろん大興奮! が、一定の年齢以上の男性は、「それがなにか?」というような素知らぬ表情をくずさない人が多い。まるで、バスの中にサンタが飾られているのは、日常的なことである、とでも言うように。
それでも、よく観察していると、やはり男性も、ひそかにこのバスの浮かれっぷりを楽しんでいる、という様子が伝わってくる。やっぱり、クリスマスは、人を幸せな気分にさせてくれる魔法の日なんだな、と改めて思った。

不利を逆手にとった「レア感」「温かみ」が、話題に!

また、この横浜市営バスのイルミネーションバス(というのが正式名称だそうだ)は、たまにしかお目にかかれないこのレア感もいいのかもしれない。予想以上に苦労したあげくにやっと出会えたからこそ、そう思った。いや、正直、せっかくならもっと多くのバスに飾りつけをすれば、もっとたくさんの人が楽しめるのに、と思ったが、それでは飽きもくる。ありがたみも薄れてしまう。だったら、たまに遭遇できる! というレア感、サプライズ感も戦略のうちとも言えるだろう。
また、あとで聞いたのだが、バスの飾りつけは、職員のほか、地元の小学生にも協力してもらってやっているらしい。なるほど、だからこそのあの温かみだったのだ。

近年は、クリスマスシーズンになると、あちこちでイルミネーションの美しさを競う。著名な照明デザイナーが手掛けたイルミネーションなども話題になる。もちろん、それはそれでステキなのだが、それは、クリスマスに背伸びして出かける高級レストランのようなものだ。 横浜市営バスのイルミネーションバスは、幼いころは、どこの家にもあった、家族みんなで飾りつけをしたクリスマスツリーを思わせる。白い綿を雪に見立ててふんわりのせたアレだ。そして、お母さんの手作りケーキと、ローストチキン! 高級でもおしゃれでもないけれど、一番なつかしくて、一番幸せなクリスマスの形を思い出させてくれる。

台数が少ないのも、手作りっぽさも、実のところは、「予算の都合」なのかもしれない。たとえそうだとしても、そのマイナスをマイナスで終わらせていないところが、素晴らしい。恵まれた条件ではなくても、自分たちにできる範囲の工夫で、乗客に少しでも楽しんでもらいたいというホスピタリティあってこその企画が、Twitterなどでも話題になっているのだから。これはかなりの宣伝効果だ。なんというローコストハイリターン!

突然思い立ってから、約5時間でなんとかこのバスに出会えたことも奇跡なら、そのバスに見られた横浜市営バスの「創意工夫」「不屈のスピリット」は、まさにクリスマスの奇跡のようだった。
2013年も、こういった工夫のある店作りに対するアンテナを、常に張っておきたいと思う。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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