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連載コラム

第114回 「狭さ」を「楽しさ」に昇華させたワクワク感あふれるカフェ・クルミドコーヒー

[ 2013年6月5日 ]

 JR西国分寺駅から徒歩1分ほどのビルにあるカフェが以前からずっと気になっていた。外に面した壁は、ほとんどすべてガラス張りの明るそうな店で、店名の上に掲げられているワッペンのように見える看板に描かれているのは、「くるみわり人形」のイラストだ。ちょっとがんこそうなくるみわりのおじさんの顔が、店に入ってくる人たちを見下ろしている。

目に入る緑が心地よいカウンター席

 ある日曜日の午後、思い立ってこの店を訪ねてみた。なんと、外に並んで待っている親子連れがいる。店内もほとんど満席。かなりの人気店らしい。1人だけならなんとか入れるかも、と店をのぞいてみてビックリ! いわゆる1階には、客席がひとつもないのだ。

「1人なんですけど。」と告げると、2階の席に案内された。外向きにしつらえられたカウンターテーブルは、4人座れば満席だ。先客に気をつかいながら席についたが、目の前のガラス越しに外の緑が目に飛び込んできて、なんとも気分のいい席だ。

 どっしりとした木製のテーブルの上には、くるみとくるみわりと殻入れが置かれている。「クルミドコーヒー」だけ あって、このくるみは、食べていいらしい。メニューにひととおり目を通して、おいしそうな生姜サイダーを注文してから、改めてゆっくりと店内を見渡してみた。

 決して広々とした店ではない。しかし、その狭さゆえの楽しい空気を店内に漂っているのだ。

段差のある展望席にもカウンター?

 私が通された2階には、カウンターテーブルの背中側にもう1つ大きなダイニングテーブルがあるが、これも、座れてせいぜい8人だろうか。カウンターとの距離も近く、ちょっと声の大きなお客さんなら会話も聞こえてしまいそうだ。
 ふと見ると、一段高くなった展望席のような場所にもカウンターテーブルがあり、ダイニングテーブルを見下ろすようなかっこうになっている。なんだなんだ、この造り。段差のある2つのカウンターテーブルはともに外向きで、景色を楽しめるようになっていて、その2つのテーブルにはさまれるように、ダイニングテーブルがあるのだ。なんだかおもしろい。

 生姜サイダーは、期待とおりさわやかな甘さとしょうがの風味でかなりおいしかった。この日は、5月ながら夏日でかなり暑かったが、のどごしもすうっとしていて涼しい気分になれた。
 ちょうど、展望席のお客さんが帰られたので、すかさず私はその席を見に行った。
ここも座ってみると、背中のすぐ後ろは壁になっているが、その狭さゆえにとても落ち着く席なのだ。

3階にも隠し部屋のような客席が!

 さらに、この展望席から短い階段を上がったところに、なんと! もう1つ部屋があった。ちょっと天井も低く、隠し部屋のような雰囲気がまた楽しい! だいたい、入口のあるフロアには客席がないことからもわかるように、もとの敷地が狭い店なのだ。それなのに、フロアを立体的に重ねるようにして、けっこうな客席数を確保しているのだから、その工夫たるや、お見事だ。

 それも、単に「狭いけど、頑張って無理やり席を作りました」という感じではなく、その狭さが味になり、遊び心をも 感じさせる。そんな造りになっているのだ。

 すっかりこの店のとりこになり、会計をしようと1階に下りて、上を見上げてみて気づいた。いちばん上のフロアは、1階から見上げると、家の外壁が見えるように作られていた。それも、ツリーハウスのような、手作り感あふれる外壁だ。壁に飾られたくるみわり人形や、ステンドグラスの照明器具、壁面にもかわいらしくて、あったかみのある小物類があちこちに飾られていて、店全体がおもちゃ箱のように見えてくる。

子どものための秘密の部屋と、なんと地下にも部屋が!

 会計を待つ間、しばらく上を見上げていたが、ふと視線をおとすと、一見レンガ造りの暖炉ように見える小さなスペースがあることに気付いた。なんとそこは子どもが入って遊べる小さな部屋なのだ。本当に子どもじゃないと、入れそうもない広さだが、こりゃ子どもならたまらんだろう、という秘密めいた楽しい空間だ。

 帰る前にお手洗いを借りようと思ったら、地下にあるという。そして、その地下には、もう1フロア客席があった。このフロアはグループでの貸し切りなどによさそうな大きなテーブルを囲む形になっている。壁面には、この店の名物である 「水出しコーヒー」用のガラス器具が並んでいて、インテリアとしてもいい味を出している。
 ちなみに、トイレの中には、予備のトイレットペーパーを入れる棚があり、そこに置かれているペーパーの上には、 ちょこんとりすのマスコットがいたりする念の入れようだ。

 地下から数えれば、いわば5つの床面をもつこのカフェは、狭小住宅(店舗、だが)のおもしろさを存分に味あわせてくれる。
「狭い」という言葉は、決してほめ言葉ではないが、決して悪く言っているのではない。
 狭いからこそ、出せる味がある。あたたかみがある。この店に来てみて、改めてそう感じた。

 日本の国土は狭い。しかし、だからこそ、こういう工夫が生まれてきたのだと思えば、「狭くてけっこう」と言いたくなる。「クルミドコーヒー」は、そんな店だ。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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