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連載コラム

第118回 「魚介類に自信あり!」 を無言で示す、魚屋風たたずまいの居酒屋「大庄水産」の素朴な魅力

[ 2013年10月1日 ]

 このコラムを毎月書いていると、どうも「いつもステキなお店を探している」「主婦好みのおしゃれな店を目ざとく発見する」なんて思われているようだが、じつは、私のアンテナにひっかかってくるのは、おしゃれな、いかにも女性好みな雰囲気の店ばかりではない。

 今回紹介する店も、大変失礼なのだが、決して「おしゃれ」な店ではない、と思う。しかし、この店の前を車で通りかかるたびに、ずっと気になっていた。「いつかは入ってみたい!」そう思っていたのだ。

店名からも伝わる「魚介類ならおまかせ」感

 その店の名は、「大庄水産」。なんだか店名がすでに飲食店らしくない。社名? という感じだが、うちの事務所からはほど近い橋本駅界隈にある、「多分」居酒屋。店の外観も、「わあ、こんなところに昔ながらの魚屋さんが!」という雰囲気だ。店内に入るときっと、床は土間で水でびしょびしょで、従業員はみんなゴム長靴に防水の長い前掛けをして働いているんだろう、と。そんな想像がふくらむ店だ。

 入ってみると、店内にも、売りである魚介類推しの演出がしっかりしてあった。壁には大漁旗が掲げられ、靴箱の目隠しにはござがかけられ、天井や間仕切りには地引網や浮きがディスプレイされている。しかし、狭い間口からは想像できないくらい広々とした店内に関していえば、店の外観に比べると、案外普通、という感じはする。


 もっとも、本当に店内まで魚市場のような造りだったら、それはそれで落ち着いて飲食することはできないだろうから、ナイスバランスと言えるだろう。もちろん、従業員もゴム長ではなく、威勢のよさは市場風ではあるが、清潔感のあるはっぴ姿だった。

 むしろ、店内は普通の居酒屋でありながら、外観と入口近辺の演出で、まるで「築地市場の中にある刺身定食が絶品のめしや」、のような雰囲気を醸し出し、ちょっと魚好きな人なら、思わず入ってみたくなる訴求力を持たせていることがすごいと思う。なにしろ、私も、ただこの店の前を通りかかるだけで、「一度入ってみたい」とずっと思わされていたのだから。

 

白地に黒! 一見そっけない看板の主張

 この店でなんと言ってもインパクトがあるのは、店名「大庄水産」を掲げた看板だ。この看板が、やたらと大きくて、地が真っ白。そこに筆文字風の書体で「大庄水産」。店名の上には「鮮魚・貝類」の文字。魚を模したロゴやイラストが入っているわけでもなく、白地に黒と赤という、今どきそんな......な、そっけない看板なのだが、これが、「居酒屋ではなく魚屋?」と思わせる力をもっている。つまり、「魚介類に自信あり!」なんだな、と、提供されるフードに対する期待も高まるというものだ。

 

 さらに、店の前の歩道に対してオープンになっている場所に大きな水槽があり、そこには貝類がどっさり。エアーがぶくぶくいっている水槽なだけに、いかにも「鮮度いいです!」という感じがする。水槽の上には、大きな魚の燻製? がぶらさがっている(これは模型のようだが)。店の前には、写真入りのメニューが大きく掲示してあるが、日替わり定食は実物が出してある。このへんも、とても「めしや」感がある。

 ちなみに、私が行った日は、メニューの上に、「マグロ解体ショー」の告知チラシが斜めに貼り付けてあった。まさに、居酒屋というよりは「魚屋」だ。歩道側からは、水槽だけでなく、炭火で貝を焼いている様子が見えるようになっている。これは、視覚的な魅力が大きい。仕事帰りのお父さんたちなんて、ついつい入りたくなってしまうに違いない。

巧みな小物使いで、漁師小屋の雰囲気のエントランスに

 水槽の前にあたるエントランスも、天井の梁がむきだしで、そこに網や浮きがかけてあったり、照明が裸電球だったり、まるであの「あまちゃん」の世界に足を踏み入れたような、漁師小屋の雰囲気だ。店内に入ると、すぐ右手は、寿司屋のようなガラスケースのあるカウンターになっているが、ここは客席ではなく、配膳台として使っているようだ。このカウンターの上部の壁面は、なぜかアルミの板がはりつけてあり、ますます漁師小屋のように見えてくる。

 うまい! と思う。工夫されている、と思う。

 この店は、外観とこのエントランス周辺の演出で十二分に店のコンセプトを表現しつくしているのだ。だから、魚介好きなら無視できない魅力が、歩道のみならず店の前を走っている車にまで届いているのではないか。

 

 この日、念願かなって、店内に入った私は、昼だったのでランチを食べてみた。刺身がたっぷり のった「四色丼」は、500円というリーズナブルな価格だが、ボリュームも十分でおいしかった。セットでついてくるみそ汁は、希望によってはあら汁に変更もできる(変更は無料)というサービスも、ファミレスや定食屋とは一線を画していてよい感じだ。ランチタイムは、夜ほどは混んでいないようだったが、「魚好き」が多そうな中高年世代のお客さんがかなり入っていた。

「やっぱ魚よね」世代には昼も夜も最適!

 私もご多分にもれずだが、なぜか年齢が上がってくると、肉より魚。イタリアンやフレンチよりは和食。それも刺身や焼き魚、といった嗜好になってくる。バブル華やかりし時代に、おしゃれ~なランチを堪能しつくした仲間たちも、すでに「やっぱ魚でしょ」という年齢になってきている今、こういう店には居酒屋としてだけでなく、食事を提供する店としての需要も多くなりそうだ。

 そして、若いころには、「おしゃれな店」であることがなによりも大切だった私たち世代も、こういう「魚屋か?」的な素朴さのある店に安心感を得るようになったのだ。あいにくお酒はほとんど飲めない私なのだが、ここならたまには「お魚ランチ」しにきてもいいな、と思ったのだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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