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連載コラム

第121回 不思議な空気の漂う隠れ家カフェ「サロナードカフェ」

[ 2014年1月6日 ]

 知人と渋谷で会うことになったとき、「ここは落ち着ける店だから」と待ち合わせ場所に指定されたのがこの「サロナードカフェ」だった。京王井之頭線の渋谷駅から徒歩3分くらいと駅近なので、さぞかし混んでいるのではないかと思ったのだが、「多分、大丈夫。知る人ぞ知るって感じの店だから。けっこう穴場なのよ。」と、知人は妙に自信満々だった。

 その理由は、行ってみてすぐにわかった。
 渋谷駅からこんなに近い好立地にもかかわらず、パッと見てそこにカフェがあるとはわからないのだ。離れたところから見えるのは真っ赤な「麻雀」の看板。なんの変哲もないちょっと古びたビルは、たしかに雀荘には似合うかもしれないが、カフェという感じではない。しかし、よくよく見ると、階段の脇に2階にカフェがあると示す立て看板がある。「ほんとにここにあるんだ......。」少し半信半疑な気持ちで、決してきれいでもおしゃれでもない階段を上っていった。

 すると、そこには両開きの緑の扉があり、「Tokyo Salonard Café」との文字がある。どうやらこの扉がカフェの入口らしいのだが、なんとも不思議な雰囲気の扉だ。両開きということもあり、この扉をきいーっと開けば、そこにはなんだか別世界が広がっているのでは? なんて気分になりながら、扉を押してみると......本当に、そこには別世界があった!

古びた壁とランプシェードが、別世界感を演出

 いや、言ってしまえば、ごく普通のカフェだ。バーも兼ねているので、少し薄暗く、大人の雰囲気はあるが、とりたてて特別な店ではない。

 と、思ったものの、いざ席についてメニューを眺めていると、なんだか妙な気分になってきた。映画「キャバレー」とか「ムーランルージュ」などで見たレトロで隠微な世界に自分が紛れ込んだような感じがするのだ。たしかに、このビル自体が古いし、内装もその古さをあえて活かしているように思える。天井や壁も少し黄ばんだような色をしているし、壁には大小の穴も開いている。何かを貼ってはがしたような跡もある。古いビルにしても、壁や天井はいくらでも塗り直したり、壁紙を貼ったりできるだろうに。この古びた感じはあえて残しているのだろう。いや、むしろ、いったんはクリーニングしてその後、わざわざ古びた感じに加工した可能性だってある。いずれにしても、この壁と天井だけでも、タイムスリップ効果を十分に果たしている。

 見回すと、店内のあちこちに布製のランプシェードのかかった照明があることに気づいた。それも、なつかしいオレンジ色の明かりを発する白熱灯のランプだ。明かりのオレンジ色と布のシェードの効果でいい感じに薄暗い。これが、この店のなんとなく漂う隠微な雰囲気の源なのかなあ、と思いながら、自家製ジンジャーエールを注文してみた。
 床もかなり年季の入ったフローリングで、色はダークブラウンというか黒に近い。そして、昔の木造の小学校の校舎の床のように、フローリングのあちこちがささくれだっている。こういう床を雑巾がけすると、ときどき指にとげが刺さって痛かったなあ、などと古い記憶がよみがえってくる。

 昨今、「レトロ」を売りにしている店は少なくないが、この店の「レトロ」感は、肝入りというか本物感がある。そのせいなのか、店内に置かれているテーブルといすはごく質素なものだし、ソファ席もあるが、決して高級感のあるソファでもない。それでも、ものすごく落ち着ける。私は待ち合わせ時間より早く着いて、仕事をいくつかたづけていたのだが、はかどることはかどること。それは、この店の静かで落ち着いた雰囲気のおかげのような気がした。

「古さ」ゆえに出せるリノベーションの味わい

 知人が到着して、私がこの店のことを、「落ちつけていい感じ」と言いつつ、「でも、なんとなく隠微な感じがするのはなぜ? 照明がオレンジ色だからかな。」と言うと、知人は、得意げに鼻をふくらませた。
 以前からここを愛用しているという知人が調べたところによると、ここはいわゆる「リノベーション物件」(古い物件をリフォームしたもの)なのだと言う。そして、この店が以前は、ストリップ劇場だったのだと教えてくれた。
 ストリップ劇場?
 もう久しく聞くことのなかった単語にちょっと面食らったが、言われてみれば、そんな雰囲気がそこここにある。よく店内を見渡してみると、「あ~、このへんにステージがあったのか。こっちが客席で」と、脳内復元図が浮かんでくる。店に入って右手にある禁煙フロアが、かつては踊り子さんたちの衣装部屋だったと聞いて見に行ってみると、たしかに、そんな雰囲気だ。喫煙フロアよりも何段か低くなったフロアには、かつてはたくさんの衣装が下げられていたんだろうという形跡もあり、まさに「キャバレー」の世界だった。

 今、こういったリノベーション物件の住宅や店舗が増えているようだ。この先もどんどん増えていくだろう築年数が経過した物件、さらには空き家などを有効利用するいい方法だとは思ってはいたが、このカフェに来てみて、その魅力が実感できたように思う。古い建物特有の空気は、なぜか温かみがある。だから、落ち着けるし、くつろげる。また、この店がかつてのストリップ劇場の名残をなんとなく残して隠微な雰囲気を醸し出しているように、やはり古い建物にはその過去の歴史がエッセンスとして残るのだろう。これは、決して人工的に造りだすことができないものだ。

 「サロナードカフェ」は、1度行っただけで、私のお気に入りのカフェになった。もしかしたら、数あるリノベーション店舗の中には、もっともっとお気に入りになりそうな店があるんじゃないか、そんな予感がする。
 今度、調べてあちこち行ってみよう、そう思いながら、物憂げな雰囲気の中で、一人にやにやしていた渋谷の昼下がりだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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