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連載コラム

第127回 古びた団地商店街を変える新しい風 「DELICA & BAR MAY.」の可能性

[ 2014年7月1日 ]

 キャリア・マムのホームタウンである多摩市は、多摩ニュータウンという巨大ベッドタウンの一角にある。高度成長期には、多くのファミリーがコミュニティーを形成していたこのニュータウンは、かつては憧れとも言われていた。
 しかし、今や少子高齢化が進み、ニュータウン内の団地には空き家も目立ち、居住者の高齢者率は増加の一途をたどっている。それに伴って、団地内の商店街も「シャッター商店街」化しているところが多い。30年前には、子連れの主婦や、放課後の子どもたちなどで活気あふれていたスーパーも閉店し、個人商店もどんどん撤退、多摩ニュータウンも例外ではない。
 おとなりの八王子市・南大沢も同様だ。南大沢は、最初に住宅開発が進んだ京王線の南側にあたる南大沢3~4丁目の高齢化が深刻になっている。南大沢3丁目商店街も、スーパーが数年前に撤退し、ますます寂れてしまった......と思っていた。
 ところが、その南大沢の商店街で、ちょっと面白い動きが始まっているんだそうだ。

 発端は、スタッフからの情報だった。
 彼女は、おいしいパンのためなら遠出も厭わずという無類のパン好き。その彼女が、興奮気味に報告してきたのだ。「南大沢3丁目商店街に、有名なベーカリーがカフェをオープンしてるんですが、その界隈、やけに賑わっていて面白いことになってます。」と言うのだ。

 なんでも、その有名ベーカリー(チクテベーカリー)がまずかなり繁盛していて、パンを買いに来た人たちが行列をなしているというのだ。さらには、そのベーカリーの並びにおしゃれなカフェもできているという。
 南大沢3丁目商店街には、何回か行ったことがあるが、スーパーがあるころでさえ、かなりさびしい感じだったし......、と、にわかには信じがたい。私はよほど怪訝な顔をしていたのだろう。スタッフから、「絶対に一度行ってみてください」と言われ、ある土曜日に立ち寄ってみた。

 その日は、天気がよかったため、噂のチクテベーカリーのカフェは、屋外に設えられた席も満席で、評判通り繁盛していた。かなりの台数分用意されている3丁目商店街用の駐車場もほぼ満車になっていたほどだ。
 そして、ベーカリーの前の空きスペースでは、小規模なフリーマーケットのようなものが催されていた。のぞいてみると、子ども向けの絵本やアクセサリー、雑貨など。案外、おしゃれ感のあるものを並んでいて、そこではチキンなどのフード、ビールも売っていて、その場で飲食もできるようになっていた。ごく小規模ではあるが、なんだか楽しそうな雰囲気で、つい足を止めてしまった。

あえて古さを生かした外観と内装で、アンティーク家具が生きる

 そのフリーマーケットを主催していたのが、「DELICA&BAR MAY.」だった。うちのスタッフが報告してくれたおしゃれカフェ、だ。
 正直、外観だけ見ると、そこまで「おしゃれ」な印象はない。オープンしてまだそれほど経っていないはずだが、やや古びた感じに見える。

 が、中をのぞいてみてビックリ! そして、中を見れば、外観のやや「古びた感じ」にも納得がいく。

 「DELICA&BAR MAY.」の店内は、床や壁面は、打ちっぱなし。お世辞にもお金がかかっている感じはしない。しかし、その打ちっぱなしのコンクリートの床の上に敷かれた絨毯や、そこに置かれている家具は、こだわりのあるものだ。いわゆるアンティーク家具で、どれも味わいがあり、センスのいいものばかり。この内装を見れば、一見「古びて」見えた外観も、コンセプトに沿ったものであることがわかる。

 客席に使っているソファやチェア、テーブルもそうだが、キッチン周りの冷蔵ケースやワゴンテーブル、食器棚などもアンティークで、中には昔の病院にあったような雰囲気のものもある。それぞれのテイストはバラバラなのに、店全体でみると、「古きよき時代感」で統一されていて、なんだかとても居心地がいい。

 

 もとは団地内商店街の空き店舗なのだから、新しい物件ではない。それに、やろうと思えばいくらでもぴかぴかに新しく見せることはできただろう。しかし、この店はそれをしなかった。古いものは古いなりの良さがあり、味がある、ということを武器にしている。古民家でこそないが、今、流行の「古民家カフェ」に通じるものがある。いや、古民家はいわば文化財的な価値がわかりやすいが、団地内の商店には、もともとそんな価値はない。ともすれば味気なく、安っぽいものになりかねない。
 それを、「センス」と「こだわり」で、独特な世界観のあるカフェにしてしまったところに、オーナーの力量が感じられる。

自分の育った団地に新しいコミュニティーを作りたい

 「DELICA&BAR MAY.」のオーナーである町田綾子さんは、子どものころから南大沢の住民だったそうだ。まさに、この南大沢の団地で育ってきて、この商店街が賑やかだったころのこともよく知っている。
 それだけに、シャッターのおりた店が増えてしまったことをさびしくは感じていたというが、チクテベーカリーがオープンして、店の前に行列ができるのを見て、「この商店街でも行きたい店があれば、人は来る」と確信した。そして、以前から考えていたカフェを、2013年11月にオープンしたのだそうだ。
 店で出す料理は、もともと、飲食店に勤務していた町田さんの経験とこだわりを生かした多国籍感のあるもの。食事だけでなく、スイーツ類も手作りで、最近、ランチタイムなどは若いママたちでけっこう賑わっているという。

 

 ファミレスやファーストフードではない飲食店が案外少ない南大沢では、こういったオリジナリティーのあるカフェは貴重だ。ここならわざわざ車で来る人もいるだろう、というのも納得がいくが、それだけでなく、この団地の住民が気軽に立ち寄れる店にしていきたい、と町田さんは言う。
 「自分の育った街だから、ただ寂れていくのはいやだなと思って。南大沢は高齢化しているだけでなく、新しく引っ越してきている若い人たちもたくさんいるので、また新しいコミュニティーができる可能性はあると思うんです。」

 この日、表でやっていたフリーマーケットは、町田さんの発案で初めて開催したものだった。「ここに来ればなにかやっている、みたいなものを、この先、どんどん仕掛けていければいいなと思って。とりあえず知り合いに声かけてやってみました」......町田さんはかなり行動派だ。

 

 聞いてみると、この商店街からはスーパーは撤退してしまったが、その代わりに、曜日ごとに大手スーパーの移動店舗が出たり、移動販売の八百屋さんが店開きしたりしているそうだ。チクテベーカリーでも定期的に「マルシェ」を開いていて、雑貨や植物、お菓子などの出店で賑わっているという。

 「スーパーも撤退した団地商店街」だからと言って、ただ廃れていくだけではない。そこで始められる「なにか」を求めて奮闘する人がいれば、きっと新しい風は起きる! そして、それは、なにも南大沢に限らない。日本中の多くの似たような問題を抱えた地方の商店街でもできるんじゃないか。「DELICA&BAR MAY.」と町田さんが、そんな希望を感じさせてくれた土曜の昼下がりだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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