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連載コラム

第132回 「一人暮らしの常識を変える」!? 高齢化社会にもマッチする、ソーシャルアパートメントという住み方

[ 2014年12月1日 ]

 私が立川に出かけ、たまたま新しいベーカリー&カフェを見つけて、事務所へのおみやげにおいしそうなパンを見つくろって買ってきたときのことだ。事務所にいたみんなで少しずつパンをつまんでいたら、わが社の取締役が「あ、私、このカフェ知ってる」と言い出した。車で通る大通りから少し奥まったところにある『NEIGHBORS BRUNCH with パンとエスプレッソと』を、なぜ彼女が知っているのか。不思議に思って聞いてみたところ、なんでもこのカフェ、ただのカフェではないのだという。
 私が行ったときには気づかなかったが、カフェのあるビルの上階はマンションになっていて、そのエントランスが、カフェの隣にあるのだそうだ。いや、それだけなら、単にマンションの1階にあるカフェだが、このカフェとマンションはただならぬ関係にある。

 なんとここは、「カフェつきマンション」なのだ。しかも、ただのマンションではない。「ソーシャルアパートメント」! いわゆる個人の居住空間と、共用のリビングルーム、キッチン、水回りなどを備えたいわゆる「シェアハウス」的な賃貸住宅なのだという。
 わが取締役は、いち早くこの「ソーシャルアパートメント」という形態に関心をもち、すでに内覧会にも行っていたのだ。さすが! としか言いようがない。
カフェでお茶して、おみやげのパンを買ってきただけの私は、取締役にその「ソーシャルアパートメント」とやらの感想を聞いてみた。彼女はクールに、「なかなかいいんじゃない。面白い試みだなと思ったわよ」と言って、「一度、自分で見てみたらどうかしら?」と、個別に内覧させてもらえるよう手はずを整えてくれた。ますますもってさすが! である。

カフェレストランのような共用LDK! 共用ならではのハイスペックなキッチンも料理好きには魅力!

 私はもう一度、『NEIGHBORS BRUNCH with パンとエスプレッソと』に出かけた。いつもは、一人で気ままに観察して記事を書いているが、マンション内には勝手に入ることができないので、この「ソーシャルアパートメント」の発案者である株式会社グローバルエージェンツさんに案内してもらう。
 カフェの隣にあるエントランスを入ると、すぐに広々としたリビングダイニングルームが現れる。というか、この空間、ステキすぎるでしょー! とちょっと目を丸くしてしまった。部屋の真ん中には白木の大きなダイニングテーブルがあり、窓際には、ボックス席。ソファ席もあるし、大画面のテレビの前には、ソファや椅子が設えられたリビングスペースも確保されている。まだ入居が始まったばかりという新しさを差し引いても、どこもかしこもきれいだし、どこかのカフェレストランのように心地よい空間なのだ。

 自分の家(マンション)に帰ってきて、こんなところで食事をとったり、テレビを観たりできるなんて、かなりいいんじゃない! と興奮してしまった。キッチンに回ってみて、その思いはますます強くなった。共用でなければありえないくらいの広々としたキッチン。それもかなりのハイスペックなのだ。単に流しやコンロがあるだけでなく、もちろん冷蔵庫もあるし、食器や鍋などの調理用具も揃っている。食材さえ持ち込めば、ここでたいていのものが作れそうだ。実際、ここの住民でも、料理が得意な人は、このキッチンで多めに料理を作っては、他の住民にふるまったりしているという。
 同じマンションに住んでいる人々が、単にここでそれぞれの食事をとる、というのではなく、食事を通じて交流し、親しくなる。そんなことが可能なのが、この「ソーシャルアパートメント」なのだ。

あくまで自室はシンプルに。くつろぎ&仕事は共用スペースで

 もちろん、人との交流があまり得意ではない人、「今はそんな気分じゃない」という人は、基本的に自室で過ごせばいい。モデルルームを見せてもらったが、居住空間は極めてシンプルだ。いわゆるワンルームマンション、という広さだが、一般的なワンルームマンションでスペースを占領してしまうキッチン、バス・トイレなどがない。さらに洗濯機を置く場所もない。コインランドリーや共用のトイレ、シャワールームが完備されているからだ。なので、決して部屋の面積が広いわけではないが、広々としている。

 自室にキッチンやバス・トイレがないことを不自由と感じる人もいるだろうが、私には、それはとても実用的に感じられた。今は、子どももいて、「家庭」の体をなしているので、キッチンに立つ時間もそれなりにあるし、子どものいる暮らしでバス・トイレがないというのは考えられないが、たとえば学生のころや独身で働いているころだったら? と考えると、部屋にはほぼ寝に帰るだけだ。ワンルームマンションにつきものの狭いキッチン、バス・トイレはたいして活用されることもなくスペースをとっていたものだ。

 実際、この物件も、入居しているのは、20~30代の働いている人がもっとも多いとのことだった。たしかにそうだ。そのくらいの年齢、生活パターンの人にとっては、部屋=生活の場である必要はないのだから。

 ただ、もちろん、「家には帰って寝るだけ」の生活では、寂しい。ところが、ここにはあのリビングがある。ダイニングがあり、キッチンがある。ほどほどの社交性、協調性があれば、あの空間で隣人たちと親しくなることができるだろう。そうすれば、マンションで過ごす時間の多くを、自室ではなく共用スペースで過ごすことも苦にならないだろう。いや、それが楽しみにもなってくるのではないか。

 「自室」だけを見れば、一般のワンルームマンション以上に殺風景にも見えるかもしれないが、ここでの暮らしにおいて「自室」の占めるウエイトは決して重くない。リビング、ダイニングはもちろんだが、共用のワークスペースもある。備え付けのパソコンも一台あり、自分のパソコンを持ち込んでの作業ももちろんできる。Wi-Fi完備でネットは当然繋がる。ワークスペースは仕事をするための空間なので、交流の場にはならないはずだが、住民同士、同じ空間で仕事に励んでいたら、言葉はなくても親近感がわいてくるに違いない。おまけに、自室で一人で仕事しているよりも、程よく人目があればさぼりにくいという利点もある。

住民たちのダイニングルーム ベーカリー&カフェ

 ちなみに、隣接するカフェ『NEIGHBORS BRUNCH with パンとエスプレッソと』は、単に隣にあるというだけではない。朝7時から夜8時まで開いているこのカフェでの飲食代12,000円分が、家賃にあらかじめ含まれているのだ。なので、ここの住民たちはほとんどこのカフェで朝食をとる。少なくともコーヒーを飲む。ときには、ディナーを食べる。
 そんなデイリーユーズに応えるために、カフェのメニューは健康にも留意したものを用意している。ここは、ただの「隣接するカフェ」ではなく、住民たちのダイニングルームなのだ。

 なにからなにまで、私にとってはいいことづくめの物件に思えてきた。いや、もちろん、今は面倒をみなければならない子どもがいるので、現実的には住めないのだが、子どもたちが独立したら、こういうところに住むのも楽しいだろうな、と思う。
私にとって、だけではない。
 この「ソーシャルアパートメント」という形態は、今は、最先端の若い世代向けな印象があるが、じつは、迫りくる超高齢化社会にもマッチするのではないだろうか。本格的な介護が必要なわけではないが、一人で暮らすのはちょっと心配。そんな高齢者にとっては、この程度に公共性のある集合住宅は、心強いに違いない。

 公共のダイニングキッチンで得意料理を教え合ったり、昔なつかしい映画をみんなで見たりする。たまにはパーティーなんかもする。もちろん、そのころは少しくらい年をとっても、ネット環境とパソコンがあればできる仕事も増えているだろうから、ワークスペースは大賑わい。インターネットを使ったビジネスの可能性を広げてきた私たち世代のシニアたちが、元気よく仕事にも取り組み、充実したプライベートを過ごすのだ。

 思えば私たちは、「そんな夢みたいなこと」と言われるようなことが、あっという間に現実になるという経験をたくさんしてきた。だから、「夢をもつこと」が現実を変えていく最大の力だということを知っている。
 ソーシャルアパートメント。それが、若い世代のみならず、自分たちの近い未来を、いい方向に変えてくれるんじゃないか。このマンションが、そんな「夢」をもたせてくれた。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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