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連載コラム

第46回「街にとけこむ自動販売機 店と融合しアートな街へ」

[ 2007年10月1日 ]

 昨日3歳の息子が、保育園で作った作品(?)をプレゼントしてくれた。空き缶を、ただ積み重ねただけのとってもシンプルなものだったけど、一生懸命に作ってくれた気持ちがうれしくて、母は一生大事にしようと思ったよ。…そういえば一昨年開催されていた「横浜トリエンナーレ」で、まわりにある身近なものが、ちょっと着眼点を変えただけで芸術になってしまうことを知り、衝撃的だったことを思い出した。これなら「私でもできそう」という作品もあり、決してお金をかけたものだけを芸術と呼ぶのではなく、その人の発想の豊富さと、芸術をいかに意識する気持ちが大切かということを知ったのよね。
 「街をアートする」って言葉を、最近よく耳にする。瀬戸内海に浮かぶ直島は、自然と現代アートに出会えるのが魅力で、旅行者が急上昇しているって話をニュースで聞いたことがあるし、ニューヨークは「街自体がアート」ってよく言うじゃない。この大都会すべてをアートするっていうのは、そもそも無理だと思うけど、ふとした瞬間にアートを感じることができたら、心が豊かになるかもね。子どもを叱る回数も減るってもんだわ。それに子どもの美的感覚が街を歩くたびごとに養える…なんてことになったら、日本の未来も明るくなるのになあ。

 なんて歩きながら考えていたら偶然、外壁が黒い大理石のビルに、外壁と同じ柄のシールを貼っている自販機をみつけた。ぱっと見ただけでは、自販機とは気がつきにくい。目立たなくてはいけない自販機を、わざわざ目立たなくしているのが、かえってビルと一体感を感じられて心地よい。逆転の発想か。あらっ? これこそ、もしかしたらアートなんじゃない? こういう創造力があれば、いまや街中の至るところにある自販機を使って街をアートすることも可能では? と思い、さっそく店にとけ込むアートな空間をウォッチしてみることにした。


●店自体が自販機!? 未来を彷彿させる店づくり

 原宿から歩いてすぐにある「UT STORE HARAJUKU」は、ユニクロが展開する未来型のTシャツ専門店だ。赤と白の文字で「UT」と大きく書かれた看板の横には、値段などを示す赤いLEDの文字が、右から左へと光りながら規則的な動きをしている。消えると同時にすぐ現れるこの動き、昔どこかで見たことがあるなあ。そうかインベーダーだ。見ているとなんだか打ち落としたくなってきたぞ。

 中に入ると、とってもシンプルな店内にびっくり。店の真ん中にサンプルのTシャツが行儀よく等間隔に並び、壁際にはコンビニのドリンク売場のようにボトル入りのTシャツがぎっしりと置かれていた。“Tシャツの未来のコンビニエンスストア“がコンセプトだそうだ。1階から3階まで、ドリンク売場のようなステンレスの陳列台が52台も整然と並んでいるというからすごい! 白い床や階段、シルバーの棚、そして差し色として入れられた赤い電飾。すべて計算しつくされたこの雰囲気は、まるでディズニーランドのスペースマウンテンのような“未来”を感じる。ここに人間の温かさはない。無機質で機械的な空間が規則的にずらりと広がっているのだ。未だ見たことのない異空間に大興奮し、原宿にいるだけで、おのぼりさんの私はわくわくしていたのに、なんだか心臓までばっくんばっくんしてきちゃったよ。

 

 ただ未来を感じさせたいだけで、このような陳列方法をしているわけではないみたいね。1枚1枚のTシャツをたたんで積み重ねておくよりも、ボトルにいれたほうが柄も見やすいし、汚れずに保管もできる。包装の手間だって省けるってもんだわ。実用性を考えているのか? それに、こんなにかわいいボトルなら、お土産としても喜ばれそうだから、ついつい手にとっちゃうのよね。「原宿のお土産だぞ」と、兄ちゃんに買っていってやることにするか。

 帰ろうとしたとき、階段奥のほうに店のロゴで装飾されたミネラルウォーターの自販機を見つけた。これもまた「UT」のロゴで統一されている。ここまで未来空間を意識した店に、飲料メーカーのロゴがついた自販機がどんと置かれていたら、なんだか急に現実に引き戻されちゃった感じがして、興ざめしちゃうものね。これで正解!


●そばを通り過ぎるだけで心が休まる自販機も

 渋谷駅を降り中央口から北口に向かう途中の通路に、珍しい自販機が設置しているのを発見! 清涼飲料水、お菓子、紙パック飲料の3台を横につなげ、レンガ調のビニールシールを貼っただけのとっても簡単なものなんだけど、屋根付きなので見ようによっては大草原の家にも、暖炉にも見えるのよね。殺伐とした大都会を小走りに駆け抜けるたびに、レンガの色彩が目にはいったら、ちょっとは心が休まりそうね。これでマイナスイオンでも発生してくれたら、だれもが自販機の前から離れないかも。

 また、「お〜いお茶」で有名な伊藤園は、世界遺産に登録されている真言宗醍醐派の総本山醍醐寺(京都市伏見区)の敷地内に、緑茶殻を原料とした「茶配合パネル」を装着した自販機を設置しているそうよ。茶殻を使っているので、環境への配慮もあるし、天然木のような優しい質感が緑豊かな寺院の境内の景観とあっているというから、なおさらグッド。派手な色合いの自販機は境内には不釣り合いだものね。こういう所には、日本独特の色が合うんじゃないかな。一見地味そうに見えるけれど、“浅黄色”や“鶯色”など、日本の伝統色には深い色合いがたくさんあるから、新しい日本の文化として根付いていくかもしれない。環境&アートを考えた自販機は、これからますます増えていく予感がするぞ。


●場所柄をうまくとらえた宣伝方法

 パソコンのパーツが欲しいというので、普段はあまり行くことのない秋葉原の電気街を夫と一緒に買い物していたときのこと。夫の買い物が長引きそうなので、珍しさも手伝ってそのへんをうろうろしていたら、パチンコ&スロットの店「アイオン秋葉原店」の店頭に巨大な人気アニメのポスター3枚を発見。そのうち1枚がコインロッカーと書いてあるのよ。えっ? うそ。ポスターでしょ、と思わず近寄って確認してしまったよ。だって隙間なくきれいに貼られているんだもの。遠くからだと切れ目があるなんて全然気がつかない。宣伝と同時に実用性も兼ねているなんて、“お主なかなかやるなあ”という感じ。

 お店のまわりはもちろん、至るところに主人公のキャラ、キャラ、キャラ。ここまでくると、店全体が巨大な広告塔の役割を果たし、目をつぶっても浮かび上がってくるようなインパクト効果があり思わず主題歌を口ずさんでしまったよ。

 「コミックとらのあな秋葉原店」のイメージカラーはビビッドなオレンジ。店の横側の外壁に沿うように設置されていたのは、その看板とまったく同じ色をしたオレンジ色の自販機だった。ダストボックスまで揃え、すべての自販機に同じマンガのキャラが描かれている。飲料メーカーによりいろいろな色や柄がある自販機は、いつも張り合っているように見えたけど、こうやって店のイメージと揃えて設置してあると、右向け右! と整列しているようで、見ていてなんかかわいいなあ。ばらばらに置かれてあるよりも、このほうが見やすく、すっきり見える。自販機はたくさん設置されているだけに、目にとまったところで購入する確率って、結構高いんじゃないかな。


●個性の出し合いではなく、共存し調和する自販機へ

 いまや自販機自体、ものすごく進化を遂げている。街を見守るための防犯ベルや回転灯などの機能付き、緊急時には飲料を提供してくれたり、AED(自動体外式除細動器)付きまで登場している。さまざまな地域のニーズにあわせて、機能をつけ加えようとしているメーカー側の努力もうかがえる。もし地域貢献や商店街活性化に自販機が役立っているのだとしたら、ソフト面としての地域や商店との融合は深まりつつあるのかも。

 形や色の変化も顕著だ。今までは、一つの自販機はすべて同じメーカーで、というのが普通だったのが、今は一つの自販機にさまざまな種類のメーカーがシェアしているものをよくみかけるようになった。店の雰囲気や街にあわせて自販機本体のデザインを、比較的自由にデザインできるようになったのはそのせいかもしれない。場所柄を上手くとらえ、その場にあったものを設置できたら、ハード面としても大成功なのではないか。

 外国に比べて、断然日本の普及率のほうが高い自販機。それだけに、個々が主張するだけではなく、一つのまとまりとして共存し、調和できるようになってほしい。自販機で街をアートすることができたら、人の心は変化するのかしら。もちろん私の答えはYES。だって芸術は心まで豊かにしてくれるでしょ。少年犯罪なんか起きないんじゃない? 来年「横浜トリエンナーレ2008(※1)」が開催されたら、息子が私のためにもっとすばらしい芸術作品を作ってくれるように、今度は一緒に出かけようっと。

(※1)参考サイト
http://www.yokohamatriennale.jp/2008/ja/

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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