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連載コラム

第48回「文字数と自信は反比例か!? 塾のチラシ大検証!」

[ 2007年12月5日 ]

●百花繚乱、玉石混合……今、塾のチラシが熱い!
 いよいよ年末である。「押し迫った感」は、いずれの世界にもある年末だが、一段と押し迫っている人々…それは受験生ではないだろうか。それも、最近は大学、高校だけではなく、中学入試なんてのも大ブームだ。東京・神奈川地区の中学入試は、2月1日からの1週間に集中している。つまり、この年末年始は小6生にとっては天王山、剣が峰、崖っぷち、そしてラストスパートなのである。
 その後おしをする役目を担っているのが塾。そう、塾にとってもこの年末年始は稼ぎどき、勝負どきに違いない。となると、塾のチラシもさぞかし力が入っている時期だろう、と、この10〜11月に新聞に折り込まれてきた塾のチラシを収集してみた。

 集めてみてわかったこと。その1:塾のチラシは多い! その2:塾のチラシには文字が多い! その3:塾は冬より春・夏に勝負をかけている! ということだった。
 正直言って、夏前に少し調査してみたときに比べると、秋、今ごろの塾のチラシはそれほど多くなかった。いわゆる季節講習(夏期講習や冬期講習)前という意味では同じはずだが、夏期講習や春期講習、または2月にあたる新学期生募集に比べると、冬期講習で会員増! を狙っている塾は少ないのかもしれない、という印象だ。

 たしかに考えてみれば、中学入試も高校入試も本番目前のこの時期、塾としては今いる生徒のことで手いっぱい! には違いない。また、クリスマスやお正月がかぶる冬期講習時期に、わざわざ「塾に通わせよう」と思い立つ家庭は少数派なのだろう。どっかん、どっかん、花火を打ち上げているかのようだった夏期講習のチラシに比べると、冬期講習は「一応やってます」的な扱いのところが多かった。
 しかし、冬期講習を前面に押し出してはいなくても、塾のチラシはやはり多い。そして、塾のチラシはとにかく情報量が多いので、老眼が入ってきた人にはおそらくつらい。それはたしかである。


●急伸中の個別指導。明光義塾 vs TOMAS(トーマス)の対照的なチラシ戦略

 一斉指導の塾が、ここまで本番が迫ってきている時期の新規会員獲得には、それほど熱意が見られないのとは対照的に熱いのが個別指導塾だ。特に個別指導では実績ナンバーワンを誇るTOMASの『ラスト90日』キャンペーンは、なかなか親の気持ちをそそる。目の前に入試が迫ってきたら、親ならだれだってわが子の特徴、わが子の志望校の傾向に合わせて「最短距離を走らせたい」と思うだろう。「最後の90日間で、それをやりますよー!」 と、TOMASのチラシは誘ってくるのだから、今までは別の塾に通っていた子でも、最後の90日はTOMASに賭けてみたい、と思うんじゃないか。しかも、TOMASのチラシには講師の出身大学が明記されている。平常時なら「講師の出身校なんて関係ないわ」と思えるかもしれないが、最後の最後になると、やっぱりそういうことにもすがりたくなる気持ちはわかる。TOMASのチラシには料金が出ていない。平常時ならそれもありえないことだ。しかし、まさに「金に糸目はつけない」状態のときなら、料金が出ていないことさえも一流の寿司屋の「時価」のようにプレミア感が感じられる。どうしてなのか?機会があったら是非聞いてみたい。

 

 一方、教室数ではナンバーワンの明光義塾は、様々なキャンペーンを行っており、月額費用も明記している。そして、これが個別指導としては、かなりお安いのだ。一斉指導の塾と大差がない(いや、安い場合もある)。そして、明光義塾のチラシは表面が非常にスッキリしていて、デザイン的だ。これは塾のチラシとしてはかなり珍しい。裏面には、さすがにかなり小さい文字で授業の様子や体験記なども載っているが、それでも見やすいレイアウトで必要なことが記されていて、ごちゃごちゃ感がない。必要以上に理念的ではなく、「個別指導だから1人ひとりに合わせられる」ことを打ち出すことに特化しているからこその、スマートなチラシ作りができていると言えるだろう。このわかりやすいチラシが、明光義塾の会員数増の大きな要因になっているのではないかと思える。

 


●自信の現れが文字数に反映? 日能研・SAPIX(サピックス)の横綱相撲チラシ

 中学受験塾といえば無関係な人でも、日能研・SAPIXの名前くらいは聞いたことがあるだろう。関東では、実績ナンバーワンを競っていると言えるこの2校のチラシには、なんというか王者の風格がある。まず、チラシの文字数が少ない。大きな文字で自校の理念や方針をズバッと打ち出している。そして、その文章の切れ味がいい。中学受験のための塾、それも実績を出している塾なのだから、実際には子どもにはかなり負担が大きいはずだと思う。本当に楽しく通える子どもなんてそう多くはないのでは、とも思う。

 だけど、日能研にしてもSAPIXにしても、そんな厳しい受験勉強をしながらも、「子どもたちの未来を考えている」という姿勢は感じられる。たとえそれが絵に描いた餅だとしても、上手に描いてあれば手を伸ばしたくなるのが人情だ。中学受験界の王者とも言える日能研・SAPIXのチラシは、チラシを見る人がすでに「いいらしいよ」と思って見ていることを前提にしているように思える。キャッチセールスのように多弁にならなくても、店の前で立ち止まって扉を押そうとしている人に「いらっしゃいませ」と笑顔を見せるだけで十分、というようなチラシだ。SAPIXのチラシは、裏面にカラーのグラフ等を活用し、興味深い情報が満載だし、日能研は「無料」の全国テストの文字以外は字も少なく「両A面」という印象作りになっている。実際に息子が中学受験経験者の私としては、SAPIXのチラシの方に興味をひかれるが、どこの教室も充実したホームページを持っている今、受験すら迷っている親子にとってはあくまでもチラシはアイキャッチととらえる日能研のようなやり方もアリだろう。


●全方向に撃ちまくるマシンガン的チラシの数々

 チラシを収集したのが多摩地区だったので、登場する塾名には地域性があるかとは思うが、そのほか今回収集できた一斉指導塾のチラシは、「市進学院・陵南セミナー・進学舎・栄光ゼミナール・代々木進学ゼミナール・志學舎」などがあった。ひとまとめにしては申し訳ないが、これらの塾のチラシに共通しているのは、なんと言っても文字数の多さである。教育理念であったり、カリキュラムの説明であったり、イベント告知、合格実績、これでもかこれでもかと文字で訴えかけてくる。写真やイラストも入ってはいても小さい。
 さまざまなイベントをうったり、進学コースもあれば、補習コースもあったり、小学生部門も中学生部門もあったり、個別指導もできます、作文教室やってます、実験教室やってます、などなど、あらゆるニーズに応えることで業績を伸ばし生き残りをはかっているのだろう。まだ、「うちはこういう塾です!」とだけ打ち出して商売するわけにはいかない懸命さの現れなのだろう。

 いや、だからこそ、「うちはこういう教育方針です」と強く出しているチラシもある。日能研やSAPIXほどの知名度もなく、浸透していない塾が理念でPRしようと思えば、長々と文章で訴えるしかないのだな、と感じられるチラシで、それはそれですこしイタい。
 テレビCMや看板でも、情報量は最小限で検索窓を表示して「詳しい情報はホームページで見てね!」という広告が増えている現代に、ここまでチラシに多くの情報を入れようとする塾という業界が、なんだかすこし不思議なものに見えてくる。
 もしかして、今どきの保護者たちの多くは、たいていのことをインターネットですませてるということを知らないとか? そんなことないと思いたいのだけど…ちょっぴり心配になってしまった今回の検証であった。

 ところで、夏期講習前にチラシをチェックしたときも感じたことだが、塾のチラシには季節感の演出がほとんどない。「夏期講習」なのか「冬期講習」なのかの文字の違いくらいだ。夏期講習のチラシでも講師は長袖のスーツ姿なんてチラシもあった。
 そんな中、市進学院のチラシは夏にはカニ、冬には雪だるまなど、ささやかではあるが確実に季節感が盛り込まれていた。そんなところにちょっとホッとするものを感じたのだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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