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連載コラム

第54回「大正ロマンの妙。長い歴史が生きづいている和洋折衷様式」

[ 2008年6月2日 ]

●「大正ロマン」は日本が生み出した独特の文化なのかも
 本を何気なくペラペラめくっていたら、モダンな建物の写真が目にとまった。「へぇ、すてきな建物。デザインも際だっているし、これって新しいの?」などとつぶやいたら息子が「お母さん、これは80年前の大正時代の建築様式なんだよ」と教えてくれた。え〜っ、大正時代? 今でも十分通用するほど斬新なデザインだよ?

 大正といえば、明治と昭和にはさまれた15年間のこと。短い時代だったけれど、19世紀に西洋で展開したロマン主義の影響をかなり受けた時代でもあったのよね。吉野作造が民本主義社会の実現をめざそうと唱えたり、平塚雷鳥が「女性も政治に参加するべき」と運動していたのも、ちょうどこの頃。そういえば袴姿がよく似合う、おてんばな女学生「はいからさん」っていうマンガもあったね。

 そうか、その頃の時代を表わすように、どこかに女性の強さを忍ばせながら、伝統的な和と洋が混ざり合い日本独特のものへと進化した文化のことを「大正ロマン」と人は呼んだんじゃないかな。

 もしかするとそれって和洋折衷ってこと? でもそんな建築を今見ても斬新なデザインと感じるのだからすごいぞ! 時を超え、だれからも美しいと称されるというのは半端なことじゃないからな。よし、今回はそんな「大正ロマン」を感じられる建物を探してみることにしよう。


●90年間、守り続けてきたそばの老舗「寿庵」

 江戸時代、江戸から京都まで旅人が歩んだ東海道。その9つ目の宿場として栄えたのが小田原なんだって。小田急線を降りると、駅のコンコースに大きな提灯が! うーん、やるなあ小田原駅。なかなか風情があるじゃない。

 そんな小田原駅から徒歩2分、かまぼこやお土産が並ぶ駅前の商店街に、昔ながらの趣の蔵屋敷を発見。大正9年小田原駅の開業とともに創業し、90年間この外観を守り続けてきたというそば処「寿庵」だ。玄関先には灯籠や赤い布で覆われた縁台があり、江戸の情緒を肌で感じられる。きっと疲れた旅人がこうやって休憩したんだろうなあ…なんて一人、昔に思いを馳せてみる。

 

 重厚さを感じる外観にも驚いたけれど、入ってみてさらにびっくり! 外側は江戸時代からそのままそっくり抜け出できたような渋さなんだけど、内側はとってもおしゃれなのだ。上からぶら下がっている半円型の電球の笠もさることながら、一つひとつに仕切られたスペースに取り付けられている細い木枠のランプがすてき。ところどころに置かれている観葉植物の緑色が、蔵屋敷をくぐってきたとは思えないほど鮮やかなのだ。

 さらに、入り口そばにある2階への階段を登ってみた。1階のランプと同様に木枠の桟の間から、垣間見える黄色のランプを見ていたら、なんだかノスタルジックな気分に。西洋から到来したモダンなものへの憧れを、こんな蔵家屋敷の中でこっそり楽しんでいたのかも〜なんて勝手に想像しちゃったよ。

 せっかくなので、東海道にある9つのそれぞれの宿場をイメージしたという「宿場そば」をいただくことにした。9つの椀の違った味が楽しめるから、なんだかおトクな気分。箸休めに、かまぼこが添えてあるというのも小田原らしい。

 


●和を意識した大正ロマン調のおしゃれなカフェ「カフェ中野屋」

 小田急線町田駅からほど近いところに、昭和8年に創業してから現在まで、手作りで和菓子を作り続けている「中野屋」という老舗があるのだ。私もよく大福を買いに行ったりしているんだけど、そこが大正ロマン調のカフェ「カフェ中野屋」をオーブンしたのだ。和菓子屋が作ったカフェって、なんだか興味あるでしょ。

 創業したころの「中野屋」は、お団子を食べながら蓄音機でレコードを聴くという、昭和初期にしてはかなり珍しい甘味処だったらしい。先代のハイカラなイメージを「カフェ中野屋」では復元したってお店の人が言っていた。黒御影石に赤いラインをいれた外壁は、まるで女性の進出が盛んになりつつある時代を彷彿させるよう。赤ってさ、なんだか強い意志を持つ女性の色って感じしない? 芯が通っている女性を表現しているような感じがするのよね。

 入り口に設置されているウエルカムボードも外壁とお揃いの黒に赤の縁取り。ガス燈こそないけれど、サイフォンコーヒー、床に敷き詰められたレンガや植栽に引き寄せられるように、気がつけばついフラフラっ…といっても過言じゃないのよ。なんか時代を一気に飛び越えられそうな不思議な空間がここにはあるのだ。

 

 店内には籐の椅子が並び、ゆったりとしていて、いつまででもしゃべっていられそう。一つひとつ違った顔を持つ器に盛られていたり、コースターの素材が日本古来のちりめんだったり、些細なところにもこだわりが感じられる。こんなモダンな店内でいただけるのはなんと、「焙じ茶のあんみつ風パフェ」や「わらび餅と白玉のパフェ」、熱々の「みたらし団子」と、まさに和と洋の良さを取り入れた合わせ技! この取り合わせにはまいったね。また、2階の工場で打っているという手作りうどんもあり「うどんに和菓子にパフェに団子をおしゃれに食べたい!」という、欲ばりな女性の心理を巧みにとらえていると思わない?


●時代を超えても新鮮に感じるのが本当の文化なのかも

 来年は横浜開港150周年! 1853年にペリー率いる黒船が来日して開国を迫り、タウンゼント=ハリスが1858年に日米修好通商条約を結び、翌年に横浜が開港されたのよね。来年、横浜では大々的なお祭りをするらしいよ。

 西洋の新しい文化がはいってきたことによって、日本は衣食住にわたり生活が大きく様変わりしたのは確か。政治や文化から学問まで海外から新しいものを取り入れ、日本独自のものを創り作り出だそうと、がんばってきたからこそ今があるのよ。和洋折衷は、過去にいろいろな人が日本らしさを残しつつ、変えていこうと努力してきた証しなんじゃないかな。人の心を打つ文化はいつの時代でも生き残っていけると思うのだ。新しいものばかりを模索するのもいいけれど、かつての文化や生活をもう一度見直してみない? 今でも大正ロマンのように新鮮に感じるものが見つかるかもしれない。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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