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連載コラム

第56回「昔ながらの量り売りが復活のきざし!? 少スペース、かつ環境に優しいその魅力とは?」

[ 2008年8月1日 ]

 私がおさげ髪が似合うかわいい女の子だったころのこと。アナログ表示の秤は大きな時計だと信じて疑わなかった。八百屋さんも肉屋さんも乾物屋さんも、いつもいつも12時を指しているのを見て不思議だなあって思っていた。買い物するごとに物を乗せた針がびょ〜んと右に振れると「時間って一気に動かせるんだ」と、カウンターの向こうにいるおばさんが一瞬で魔法使いになったような気もした。そうやって秤をどきどきわくわくしながら見ていたのは私だけではなかったんじゃないかな。

 デパ地下やスーパーの精肉売場は、今でも対面式の量り売り形式が多い。一時期、人件費を削減しようとセルフ方式が増えたけど、最近また復活しているみたい。同じ商品でも白い発泡スチロールに入っているより自分のためだけに新たに量ってくれたほうが、なんだか新鮮でおいしそうな感じがするじゃない。だから私も買い物に行くと、陳列ケースには見向きもせずに、つい対面式の方に足が向いてしまうのだ。これって人間の心理をうまくとらえた商売のような気がしない? 今回はそんな量り売りをメインにしているお店を覗いて、成功しているヒミツを勝手に分析してみることにした。

創業から53年間変わらずスタイルで商売を続けている菓子問屋「千石屋」

 小田急線本厚木駅から歩いて2分のところにある菓子問屋「千石屋」。駅前は今どきのおしゃれなファッションビルが建ち並んでいるのに、この店だけはまるで昭和の1ページからそっくりそのまま抜け出してきたよう。赤白ストライプのビニール製のひさしや天井からぶら下がっているおもちゃなど、当時のままの販売スタイルを見ても信念を貫いているのがよくわかる。こんな風情のある菓子問屋は、神奈川周辺ではもうここ1軒だけになってしまったんだって。駄菓子屋に行くたびにワクワクした、くすぐったいようなほっとするような気分を、久々に思い出した。

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 湿気にくいと言われている桐箱の中には、「バターせん」や「五家宝」、「ライスチョコ」など約60種類がぎっしりと詰められていた。「あっ、懐かしい。動物ヨーチだ! これ大好きだったのよね」。なんだか小学校の同窓会で旧友に会ったように私のテンションはどんどん上昇していく。「いもけんぴ」も透明パックに詰められたものより、揚げサツマイモに絡まる水飴が金色に輝いておいしそうに見えるから不思議だ。

 懐かしい菓子の数々を200グラムずつ量ってもらうことにした。店のおじさんは桐箱のガラス戸を開けると、銀色のシャベルで1度だけ菓子を大雑把にすくいあげ、昔ながらのアナログ秤の台座に乗せた。うわっ惜しい。190グラムだ! 少しずつ足しながらすべての菓子をぴったり200グラムに量り終えると、湿気ないように手早く封をした。そんなおじさんの熟練された手さばきに、ひっきりなしに訪れる買い物客の視線は皆釘付け。子どもたちも珍しいのか、食い入るように見つめていた。

少スペースながら奥深いマグロ専門店「築地魚がし まぐろや町田」

 小田急線町田駅第2踏切近くにマグロの専門店が最近オープンした。線路ぎわの三角になった角地に建つ本当にほんとうに小さな店。店の道路と店を隔てるのは、1メートルぐらいの幅の冷蔵ケースだけ。対面販売そのままが店になっちゃったって感じかな。ちっちゃな冷蔵ケースにはサンプル程度に商品が並び、デジタル秤が1つ置かれていた。

 ここの店の奥深さは、店構えだけでは計れない。だって「当店のまぐろは全て天然物です」と自信たっぷりに掲げられた看板の横には、築地直送の天然本マグロ、天然生本マグロ、天然インドマグロ、天然生メバチマグロ、メバチマグロの文字が並ぶ。毎日築地に仕入れに行くというんだから、到底この小さな冷蔵ケースに納まるわけがない。どうやら店の中にある大きな冷蔵庫の中に保存しているみたい。仲買人が脂ののり具合を見極めるために切るというテール(尾)やカマやアゴまで販売するというその本格さに驚いた!

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 「マグロ300グラムくださーい」
 すぐに冷蔵庫からマグロの塊を取り出してくれた。今切ったばかりのマグロは色鮮やかで、こんもりと盛られた赤い塊がおいしそう。もちろん、ドリップという肉や魚を解凍するときに出る赤い液体だって出てないぞ。"おいしいものをおいしいうちに"というこの店のコンセプトが伝わってくるのだ。切ったり量ったり包装したりと、若干買うのに時間と手間はかかるけど、これなら店が狭くても十分商売として成りたつ。現在マグロ漁業は、昨今の漁船の燃料高騰により休漁に追い込まれて水揚げ量が少ないらしいから、こうやって販売する分だけ切り分けた方が、切ってしまったものの売れずに廃棄することがないぶん環境にも優しそうだ。

視覚的にも環境的にもグー! な量り売り

 秤の台座から落ちないよう肉や魚を積み上げる立体型にもヒミツが隠されているような気がするのだ。だって発泡スチロールに平たく伸ばされているより、こんもりと浮き上がるように盛られているほうが見た目にもおいしそうに見えるじゃない! それを自分のためだけに量ってくれているっていう小市民的な優越感もうれしい。

 また量り売りだからできるこんな工夫もあるぞ。名古屋のレストラン「キッチンブンペイ」では、"残り物を出したくない"からと、お客さんに食べる分だけカレーをよそってもらい、1グラム1円で販売している。これなら自分で調節できるから、無理して食べてあとで苦しい思いをすることも、残すことに対する罪悪感もない。そしてなにより、廃棄する量が少なくてすむから貴重な食料を無駄使いしなくていい。飲食店でありながら、生ゴミもほとんど出ないそうだ。店員さんとの何気ない会話も楽しかったりして。

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(左)ポスターでアイキャッチ/(右)これでなんと310円!

 スピードを追求するあまり物を溢れさせ、それによって廃棄する量を増やしてしまう悪循環はもう止めない? もう一度食の原点に立ち、昔ながらの量り売りを見直してみてはどうだろう。人件費がかかるっていう意見もあるかもしれないけれど、お客さんは新鮮なものが買えるし、お店にとっても廃棄するものが減るというのは賢い商売のありかただと思うんだけどね。陳列ケースの数も少ないからスペースだっていらないわけだ。ちょっと時間がかかるのはおいしくなるための時間と割り切って、スローライフを楽しんじゃおうよ。
 必要とする物を必要な量だけ買うことができ、廃棄量も販売スペースも少なくてすむ量り売りは、もしかしたら今後のマーケットにおいて最も主流となるかもしれないぞ。要チェックだ!

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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