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連載コラム

第65回「街おこし、店おこし、人おこし! 販促ツールを超えた、野毛飲兵衛ラリーの魅力とは!?」

[ 2009年5月8日 ]

 横浜に住んでいる友達から、「みんなで野毛飲兵衛ラリーに行こうよ」という誘いがあった。多摩マダムなこの私に「野毛」なんて響きはピンとこない。しかも飲兵衛ラリーって一体何モノ?
 夕方6時、桜木町駅に総勢6人が集合。目的の野毛は、JR京浜東北線をはさんで、みなとみらいと反対の位置にある。なーんだ、はじめから「桜木町で飲もう」って言ってくれたらわかりやすいのに、何で野毛って言うわけ? ...と、ぼやく私に友達いわく「だってここは桜木町じゃなくて、野毛だからね」。
 ハハーン、さては何かあるな? ベイサイドとは違う何かが...。 

面白くなくちゃラリーじゃない! 遊びゴコロ満載なパスポート

 好奇心のバロメーターが上昇するのを感じつつ、みんなで駅前のインフォメーションセンターへ。ここで、3600円を払ってパスポートを購入。おお、見た目は思いっきり日本国パスポート。サイズは今と同じだけど、色はレトロな赤じゃないの。なつかしいねー。表紙には金色で「野毛国旅券」の文字が。開くと、署名欄や性別、生年月日、ご丁寧に写真貼付欄までついているではないか。お店のガイドブックも兼ねているところをみると、これを片手にお店を回るってことらしい。
 システムはこうだ。前払いしたこのパスポートには、あらかじめ6枚のチケットがついている。この6枚のチケットを使って、好きな店に入れるのだ。明朗会計、これ以上のお金は不要。遊園地のアトラクション式と言ったらわかりやすいだろうか。必要なチケットの枚数は店によって1枚だったり、2枚だったり、3枚だったりする。出てくるのは基本的に、1フード1ドリンク。単純に考えて3600円で6枚入りだから、1枚使用の店では600円、2枚の店なら1200円分飲み食いできるというわけ。ただし! ことわっておくが「600円じゃなくて、600円以上のサービスが受けられる」とのこと。よっしゃ、了解。細かいけど、金額以上のサービスって、主婦的には大事なポイントだもんね! 
 チケットは航空券をまねていて、パスポートにはおあつらえむき。このチケット1枚を、1NGと呼ぶとか。NGとはなんだろうと聞いてみると、NG=ノゲだそう。いきなり笑わせてくれるな。こういうセンス、嫌いじゃないけど。
 もしかしてこれ、2枚使えば2枚、3枚使えば3枚級のヘビーな体験ができるのか? なーんて思わないでもなかったが、せっかくだからたくさんの店をのぞいてみたい。1枚で行ける店を6軒はしごすることにした。

野毛ちかみち インフォメーションセンター

ようこそ野毛国へ! 昔ながらの「街並み」と「人」

 桜木町駅から京急黄金町方面へと続く道は、通称「野毛大通り」。ここ野毛は、古くは戦後のヤミ市として栄え、今ではオフィス街、飲み屋街、場外馬券売り場まである、色々な顔をもった街だ。右へ左へ、ひょいと1本横の路地を入れば、超、下町。野毛山動物園へのぼる「動物園通り」でさえ、その名とはまるで違ったレトロな雰囲気。だけど振り返れば、洗練された街みなとみらいが見える。何だろう? このコントラスト。真逆じゃないか? この雑多な感じ。目の前の立て看板のウラにさえ何かが転がってそうで、つい探索したくなる。トタンの錆び具合も妙に懐かしい。なんだか、すっきりとした都会の建物がもったいなく思える。なるほど、ここが「野毛国」なわけね。
 すきっ腹にはしご酒はちと辛いので、「日本で最初に餃子を出した店」と言われている「萬里」で軽く腹ごしらえ。餃子を賞味し周りを観察してみる。ここで登場するのが、6枚セットになっていた航空券そっくりのチケット。このチケットを出すと、パスポートの中の査証ページにスタンプが押してもらえるのだ。まさに入国気分! こうして形に残すことで、記憶に残るお店になるのは間違いない。
 店内には、私たち同じ赤いパスポートを持った人がちらほら。みんな、どこへ行ってきたんだろう? これからどこへ行くんだろう? そんな興味がむくむく湧いてくる。パスポートのパワーを借りて、思い切って隣の席の人に話しかけてみると、なんと地元の人。この飲兵衛ラリーって、観光客向けってわけじゃないんだ? 自称ノゲラー(!)なそのおじさん、お店について野毛について、惜しむことなく語ってくれた。なんか、いいよねこういうの。人のあたたかさっていうか、親しみやすさっていうか...。しょっぱなからテンションが上がる。この先が楽しみになってきた!

動物園通り アーケード

店にとっての集客ツールは、客にとってのコミュニケーションツール!

 パスポートは期間内有効(今回は半年間だった)なので急ぐことはなかったのだが、勢いのとまらない私たちは、それから5件、次々とはしご酒をして歩いた。驚いたのは、店の雰囲気がどこも個性的なこと。通りを行き交う人との区切りがないくらいオープンな店や、いきなりジャズミニコンサートがはじまるレストランバー...。あるときは港ヨコハマを思わせ、またあるときはちょっといかがわしさも感じさせ、おしゃれな瞬間も野暮ったさもあり、バラエティ豊かなの何のって!! とにかく飽きないのだ。
 それに、複数で入るとその人数分の種類の料理を出してくれるのも、システマチックじゃなくていい。居酒屋のお通しみたいに、全員に同じものが出されるのかと思ってたのだが、6人行くと6様な料理が出てくるのだ!! 1回行くだけでいろんなメニューが楽しめて、その店を「知る」ことができる。
 小ぢんまりした店が多いから、店の人との距離感もまるで感じない。他のお客さんともそうだ。パスポートを見たらとにかく話しかけて情報交換。店に入るのも、人と話すのも、パスポートがあればこそ。お店にとっては集客ツールなこのパスポートも、客にとってはコミュニケーションツールなのだ。
 そんなわけで、飲み会の会費だと不公平感(?)がありがちな3600円、満足度がケタ違い! 何倍もの楽しみかたができる、魔法のパスポートだ。普段は気遅れして入れない店だって、このパスポートが水戸黄門の印籠よろしく背中を押してくれるから、いろんな店にチャレンジできるしね。ひとりじゃ決して開拓できない、店と人に出会えるチャンスなんだ。

のげ中央アーケード 遊びゴコロ満載なパスポート

点から線へ! 店も人も、つなげるためのパスポート!

 子どものころからおなじみの、○○ラリー。オリエンテーリングもそう、スタンプラリーもそう。お買いものごっこだっておんなじだ。コレクター魂って、人間の本能なのかもしれない。これが楽しくないわけがない! 街ごとラリー、しかも飲み屋なんて「やられた!」という感じ。
 平成16年、東急東横線桜木町駅がなくなって、横浜からみなとみらいへレールが敷かれた。人の流れが変わった桜木町で、古くからの面影を残す野毛はどうなっていくのか。そんな小難しい話もどこかで読んだっけ。ここに野毛あり、を見せつけるべく企画された、この野毛飲兵衛ラリー。昼の顔と夜の顔、平日の顔と土日の顔...いろんな顔がある、この野毛。思い思いのカタチでずっと小さな店が残ってきた街だから、どこかにきっと自分の居場所が見つかるはず。それをサポートしてくれるのが、遊び心をくすぐる「ラリー」、そしてあの赤いパスポートなのだ。
 主婦って誰とでもコミュニケーションが取れる生き物だと思われているかもしれないが、実は意外とそうではないのだ。デパートの抽選補助券が中途半端に余ったときだって、景品がもらえる補助券というツールがあって初めて、列の後ろの人と「あの...これ使います?」「あ、ありがとうございます。」というコミュニケーションがとれたりする。
 飲兵衛企画というと、主婦とは遠くあるものと思われがちだけど、PTAのお疲れ様会やら、打ち上げやら、居酒屋をジャックしているのはどうやら主婦が多いとの噂もある。実際、土日に居酒屋に行ってみると、ここはどこ!? と思うくらいの主婦率に驚くことだってあるのだ。
  ここがいい、あそこがいいと批評して終わるだけでなく、新しい店を開拓して、自分にぴったりの店を見つける醍醐味。お酒を共通語とした「自分探し」なんてのもオツじゃないか。新しい店さがしを無理なく後押ししてくれる、この野毛飲兵衛ラリー。パスポート販売は3月末で終了したものの、好評につき次回はさらにグレードアップした「野毛通行手形」を販売するとか。
 点から線へ、その広がりは店だけでなく、同時に人のつながりをも促進する。相席に慣れていない主婦たちだって、このパスポートがあれば乗り越えられるに違いない。
 客にも店にも新しい世界を見せてくれる、最強の販促ツールと言えるのではないだろうか。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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