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連載コラム

第66回「オーナーの生き様」が垣間見えるこだわりの珈琲店は、郊外ならではのいやしスポットだ!

[ 2009年6月2日 ]

なぜ? 多摩ニュータウンに目立つ「自家焙煎珈琲」の看板

 前から気になっていたことがある。うちの事務所界隈、つまり多摩ニュータウン界隈には「自家焙煎珈琲」の店が多いということだ。

 ただ、「自家焙煎珈琲」って、それほど売れないんじゃないか? 経営は成り立つのか? なんてことも気になってくる。だって今、ファーストフード店では1杯200円以下でコーヒーが飲めるんだもの。コーヒー豆だって、すこしでも安いものをと選んで買っている人も多い、ような気がするんだけど。

 それなのに、あちこちで目につく「自家焙煎珈琲」の文字! どんな店なのかちょっと探ってみることにした。

 そう決意した私に、会社のスタッフが忠告してきた。「コーヒー豆売ってるとこのマスターは、コーヒーおたくみたいな人が多くて、ウンチク聞かされますよ~」。えっ? そうなの? しからば、と比較的時間に余裕がある日を選んで、出かけてみた。

多摩ニュータウンに目立つ「自家焙煎珈琲」の看板 多摩ニュータウンに目立つ「自家焙煎珈琲」の看板

ブルーマウンテン東京で、コーヒーと人生を学ぶ!

 目指すは八王子市下柚木の「ブルーマウンテン東京」! かなり以前から前を通るたびに気になっていた店だ。外観は、煉瓦造りのログハウス風。道路に面した壁には、ブルーの看板に、大きくコーヒーカップの絵が描かれている。この看板がなかったら「珈琲店」だとは気づかずに通りすぎてしまいそうな店がまえだ。

 店内に足を踏み入れてみると、まさしくログハウスの中、という雰囲気。オーナーの三田さんがあたたかい笑顔で迎えてくれる。「いつから、なぜ珈琲店を始めたんですか?」と話を聞いてみると、まあ、そのしゃべりが止まらない。

 しかし、決して「コーヒーおたく」的な話ばかりではない。この店を始めたいきさつや、コーヒーとの出会い、家族の話まで。もちろん、コーヒーに関するうんちくもひとしきりあったが、どれも「へえっ」と納得させられる話ばかり。家でコーヒーをいれるときもちょっと気をつけてみよう、なーんて思える。それに、話をしていて「この人、商売してないな」って気がしてくる。なんだか、普通に知り合いのおっちゃんの家で、おいしいコーヒーをいい意味で「飲まされてる」感覚だ。

ブルーマウンテン東京で、コーヒーと人生を学ぶ ブルーマウンテン東京で、コーヒーと人生を学ぶ

 三田さんにとって、この店は「セカンドライフ」だ。すこし早目に勤めをリタイアして、職住接近のこの場所に店を構えたのだというが、もちろん(!)そう儲かっているわけではないらしい。確かに、これだけ商売度外視してれば、儲かることが目的でないことはよくわかる。しかし、「おいしいコーヒーをだしたときに、おいしそうに飲むお客さんの顔を見るとやった! と思うしね。それに、ここが地域の人の交流の場になっていけばいいと思ってる」と三田さんは話す。そうか、さっきの「商売してない感覚」も「今どきおしゃれカフェ」でないのも、ここは地域のコミュニティーセンターであり、そこでノドの乾いた人に実費でおいしいコーヒーのサービスがついてるからなんだ、と納得。

 いわゆる団塊世代の三田さんは、「自分たちは、贅沢ないい時代の日本で生きてきた」と言う。そんな自分たちだからこそ、現役を引退してからやれること、やるべきことがあると思うと語る三田さん。その思いを体現しているのがこの珈琲店なのだろう。そんな風に気づいたら、急にコーヒーの苦味がまろやかに感じられてきた。

 コーヒー豆の中でも最高級品のブルーマウンテンばかり、さまざまな種類が陳列ケースに並ぶカウンターは圧巻だが、それ以外は、きわめて親しみやすい雰囲気の店内だ。手書きのPOPなども多く「おしゃれ」とは言い切れない面もあるが、そのやや雑然とした感じも「地域の交流の場」を目指す店にはふさわしいと言える。ここなら普段着で来て、お三時を楽しむ遠慮は全然いらない。

 たとえば、ここで週に5日(火曜日木曜日以外)、18時から24時という仕事帰りの人には嬉しい時間帯で行っているタイ古式マッサージ「スワイナ」や、定期的に行っている陶器への絵付け教室、ヨガのレッスンなど。これらも、ビジネスよりも、「交流」という色合いが強いようだ。この店に集まる仲間たちがお互いのスキルを提供し合い、教え合い、そこからまた交流の輪が広がっていく。求めているのはそこなのだろうと思える。

 人が主役で、美味いコーヒーはいわば名脇役。うーむ、深い。

ブルーマウンテン東京で、コーヒーと人生を学ぶ

うんちく=「コーヒーへの愛情」だ。

 親しみやすい店、親しみやすいオーナー、それでいて、出しているコーヒーはまさに一級品。ファーストフードのコーヒーを飲みなれてしまった私にも、「あ、たしかに違う」とわかる香りと味。某Mの4倍のお金を払うだけの価値は十分あると思わせてくれるコーヒーだ。

 思わず豆もすこし買ってみた。いれるときのアドバイスもしっかりしてくれる。アイスコーヒー用の豆を買ったものだから、氷のつくり方まで教えてもらった。これを「口うるさい」と思う人は思うのかもしれないが、決して悪い印象はない。青春時代からずっとコーヒーとともに過ごしてきたというオーナーの、コーヒーに対する愛情と、知恵を分けてもらった、と思える。

 こだわりを感じさせる珈琲店は、ただコーヒーを提供しているだけではないのだ。そこにあるのは、オーナーの「仕事」であり「生き方」でさえある。それに触れることができるから、今ドキの節約志向からは高価すぎると思うような値段でも、ここでコーヒーを飲み、豆を買う人がいるのだろう。

うんちく=「コーヒーへの愛情」だ。

珈琲店に共通する「余裕」に癒される

 今まで前を素通りするだけだった「自家焙煎珈琲」の店にがぜん興味がわいてきた私は、ブルーマウンテンを出て、事務所に向かう間に、寄れる店すべてに立ち寄った。そして、どの店でもすこしずつ豆を買ってみた。

 どこでも感じたのは、やはり店主のコーヒーに対する愛情と、「ゆとり」だった。どの店も「これだけで生計をたてている」とは思えない。あくまでコーヒー豆の販売は「趣味が高じて」なのではないかと思わせるものがあるのだ。

 多摩ニュータウンに、やけに自家焙煎珈琲店が多い理由がわかった気がした。これが都心の一等地だったらこういう商売は成り立ちにくい。賃料や土地代が安く抑えられる地区だからこそ「趣味が高じた」ような店でもやっていけるのではないか。

 おかげで、私たちがおいしいコーヒーに接するチャンスが多いのだから、それは幸運なことだと言えるだろう。そして、どの店でも共通しているのは、過剰な自己主張はしていないこと、それでいて「コーヒーが好きな人」なら思わずひきつけられるオーラを放っていることだ。

 これからは多摩ニュータウンの外でも、「自家焙煎珈琲」の店を気にして探してみよう。だって、そこには上質な仕事と、余裕のある生き方との出会いがあるから。こんな時代だからこそ、コーヒーくらいすこしは贅沢するのもいい。そのくらいの余裕を持ちたい、そう思うのだ。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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