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連載コラム

第70回 だれもが敬遠する時間帯を、稼ぎどきに変えた店「Osteria Labbra」

[ 2009年9月30日 ]

夜には店が開いてない街・伊勢市の隠れ家的名店

 所用で先日、三重県に何泊かしてきた。泊まったホテルは近鉄、JR伊勢市駅から徒歩圏内。お伊勢参りの観光客が乗り降りする駅だというので、地方都市とはいえそれなりに賑やかなのかな、と思っていた。が......この駅界隈、夜になるとまったく店が開いてない。開いているのはコンビニかファミレスくらいだが、だいたいそのコンビニやファミレス自体があまりないのだ。
 これには困った。昼間の外出がままならない用だったため、1日目はホテルに戻ったのは22時近く。駅前あたりまで行ってみたが、ほとんどの店が閉まっていた。「22時過ぎだから仕方ない」とその日は思ったのだが、その翌日、19時半ころに通ってみたら、それでもかなりの店が閉まっていた。
 なんだこれ~! 今夜くらいはホテルから出て、地元のお店で夕食でもと思ってたのに......。と、愕然としながら歩き回っていた私の目に飛び込んできた、1軒の店の灯り。それが、イタリアンレストラン「Osteria Labbra」だった。やった、まだ開いてる! 営業時間を確認してみると、なんと! 26時まで~? 20時にはもう暗くなる街で、このレストランはなんと午前2時までやっているんだから、びっくりだ。

Osteria Labbra

隠れ家的外観+明るい地中海風の内装は、都心並みのおしゃれ感

 おまけにこの店、外観がかなりおしゃれ! 店の前面につくられている土壁風のウォールが「隠れ家」感を演出している。間口はやや狭めだが、それもなんだか「隠れ名店」の空気があっていい感じ。だけどな~~~、なんせこれだけ夜にはどの店も開いてない街でぽつんと営業している店だ。大丈夫かなあ、という不安がありつつも入ってみた。店の入口では、ステンドグラス風のちょっとアンティークな照明が温かみのある灯りで迎えてくれる。右手は開放感のあるキッチンでシェフが腕をふるっている雄姿や、プロっぽい道具類も目に飛び込んできて、まずは目でごちそうをいただける。すっきりした白い内壁には、お客さんからのメッセージやイベント告知などが貼られたコルクボードが設置され、ほどよく猥雑な雰囲気になっている。気取った店ではなく、地元の人達のコミュニケーションの場なのだな、という感じが伝わってくる。おしゃれすぎず清潔感のある内装は、イタリアンというか地中海風というか、なんとなく海の香りがしてくるような、そんな感じだ。
 間口は狭いけど、奥行きはけっこうあり、テーブル席は丸テーブル、四角テーブルと設置されているが、ウッディなテーブルとイスには、どこかのお家のダイニングルームに招かれたような、ほっとできるぬくもりを感じる。
 そして、予想以上にお客さんも入ってる! なんと、「カウンター席でいいですか」と言われてしまった。テーブル席は満席なのだ。カウンターとその椅子は、テーブル席と違ってちょっとモダンなデザインだ。この椅子がまた変わっている。慣れないと座りにくい感じがするが、長く座っているとその座り心地のよさがくせになりそうな、「人にやさしいイス」だ。
 店の真ん中に下がっているシャンデリアが目を引くが、このシャンデリアとの出会いが店のコンセプトを決めさせたのだとか。イエローとブルーの灯りからオーナーがイメージした「夜のカフェテラス」。それを、この店は目指しているという。
 伊勢市駅界隈では「開いている店が少ないから」という理由だけでも、利用価値のある店だろうに、そこに甘んじない志の高さを感じる。「開いてるから」だけでなく、「ここだから」来たいと言われる店を目指しているのだという意気込みが、店の造りや雰囲気からびしばし伝わってくる。夜遅くやっているけれど、あくまでも明るく健康的、開放的!
 それがOsteria Labbraなのだ。

Osteria Labbra Osteria Labbra

味も価格も妥協してない! その意気込みに脱帽

 その意気込みはメニューと料理からもしっかり感じられた。正直、この立地でのこの価格にはちょっと驚いた。安くはない......。むしろ、私が普段地元でちょっと食事するような店よりはずっと高い! 地方都市でこの値段でやっていけるの? とちょっと心配になってしまったのだが、食べてみてその不安は吹き飛んだ。かけ値なしにおいしいのだ!
 値段も都心並みだが、味も都心並みというか、ものすごく洗練されているし、こだわっている。
 素材も厳選した産地のものを使っていて、野菜がすべてイキイキしているサラダ類、紀州牛やイベリコ豚を使ったグリル料理、煮込み料理、もちろん、パスタやピザも超一級品。なんと、エスカルゴ料理までメニューにあるというこだわりよう。六本木で修業していたというオーナーシェフの腕はかなりのものだ。これなら、少々高めのお値段でも、払う価値ありと思えるだろう。
 ワインも豊富に取りそろえていて、どれにしようか迷っているとカメリエーレ(給仕さん)がすかさず相談にのってくれる。それもさりげなく、気さくに、それでいてとっても信頼できる感じなのがいい! 「あなたが薦めるんだったら間違いないね!」 という気分にさせてくれるのだ。

Osteria Labbra Osteria Labbra

「必要な場所」という信念が、店の吸引力になっている

 ここは間違いなくいい店だ。しかし、またなんで伊勢市、なぜに夜間のみ営業だったのだろう。という疑問を、失礼は承知で、くだんのカメリエーレにぶつけてみた。「夜がさびしいこの街でやっていけてるんですか?」と。
 答えは明快だった。「おかげさまでやれています。お客様も増えていて、ほかの店がなぜこの時間帯に営業しないのか不思議なくらいです。」それはよかった。夜には人が出歩かない街→営業してもお客は来ない→店が早く閉まる→ますます夜は出歩かない、そんな悪循環に陥っているであろう街で孤軍奮闘するこんな店には、ぜひ頑張ってほしいから。
 この店のホームページに掲げられているコンセプトに「伊勢の夜の街に光をともす」という言葉があった。仕事帰りに仲間と立ち寄って、おいしいワインを飲み、食事とおしゃべりを楽しむ、そんな時間をもってほしい、そんな場を提供したい、オーナーやスタッフのそういう思いが、この店にはあふれている。
 だから、おしゃれな外観、内装、こだわりのワイン、フードとそろっていながら、気取っていない。いい意味での「居酒屋」感が根付いている。飲食業はビジネスだ。それだけに、「夜の営業は難しい」だれもがそう考える場所で、あえて夜をメインの営業時間にする(以前はランチもやっていたそうだが、夜に集中するためにやめたそうだ)という英断は、ビジネス感覚だけではできなかったのではないかと思う。それでも、「夜が寂しいこの街の人たちに、夜が楽しくなる店が必要なのだ」という、思いはきっとビジネス感覚とはまた別のところにあったのではないか。そして、その思いこそがこの店に人をひきつけている。そんな気がした。
 旅先でこんな店に出会えると、とても「得した」気分になれる。お土産に買いたかった赤福が売り切れで残念な思いもしたけれど、この店のおかげで三重の印象は大幅アップしたのだった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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