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連載コラム

第77回 見えない、見せない作戦は、リアル・ファンタジーの世界へのプレリュード?

[ 2010年5月7日 ]

「迷宮の国のアリス」は、映画を超えるワンダーランド!

ファンタジーダイニングってなに?

 映画「アリス・イン・ワンダーランド」がすごい人気だ。ここまで人気が出るほど、「不思議の国のアリス」好きな人って多いかぁ? とちょっと首をかしげたくなるくらいの人気ぶり。私自身、小さいころからアリスのお話ってどこか不気味で怖い感じがして「わあ、かわいいー!」とは思えなかったのだが。
 それでも、すでに映画を観てきて「よかったですよ~!」と言うスタッフもいるので、まあ、おもしろい映画なのだろう。そして、この「アリス・イン・ワンダーランド」を、自分で体感できる店がある! なんてことも、最近、スタッフの間で話題になっている。
 「銀座に~、迷宮の国のアリスって店があるんです。ファンタジーダイニングというコンセプトで、店内がワンダーランドになってるらしいです! これは行くしかないですよ!」なんだ、それ? ダイニング(つまり飲食店)がワンダーランドって?
 百聞は一見にしかず。見に行ってみることにした。
 場所は銀座8丁目。大人の街・銀座である。ここに「迷宮の国のアリス」なんていうメルヘンちっくなネーミングの店が存在すること自体、ミスマッチな感じさえするのだが......。その店は、ビルの5階にあった。通りからではどんな店なのかまったくわからないまま、エレベーターに乗り込む。そして、そのエレベーターを降りると、そこには夢の国が広がって......は、いなかった。

エントランス

店内がまるで見えないエントランスの不思議

 エレベーターを降りても、店の様子はまったくわからない。店のエントランスから見えるのは入口の受付だけだ。壁も黒で「わあ、アリスの世界だ! かっわいー!」という感じはまったくない。むしろ、なにかの秘密クラブのような隠微ささえ感じてしまう。そんな店構えだから、「ワンダーランド」には程遠いのだが。
なんとなく気軽にお茶だけでは入れない銀座的な店かと思いきや、カルトのみの注文も可能だという。この際だから、入店してみる。すると、「こちらへどうぞ」とエントランスの右手の壁が開いた。「うわ、ここが入口なんだ!」というちょっとしたサプライズに、一気にわくわく感が盛り上がってきた。店全体の様子がわからないまま、ワンダーランドへの扉を開いた。
 目の前には、黒っぽい壁に囲まれた狭い廊下があるのみ。ただ、その壁にはアリスの世界が描かれていて、たしかにアリスの世界に入り込んできたぞ、という感じはある。「闇夜に光る? チェシャ猫のミックスベリーパフェ」とか「イカレ帽子やさんのマグロとアボカドのタルタル」なんてかわいらしすぎるネーミングのフードを提供している店にしては、なんとも妖しい雰囲気なのだ。

「鉄カフェ・レトロ」 「鉄カフェ・レトロ」

扉の向こうにひそむ夢の国

ところが、この暗い廊下もただの廊下ではなかった! ということがすぐにわかった。一見廊下の壁に見える部分が個室の入口になっていて、その扉を開けると......そこにはついに夢の国が広がっているのだった。「白ウサギのお部屋」や「チェシャ猫のファニールーム」など人数に応じて利用できる個室は、それぞれに個性あふれる、まさにワンダーランドだ。壁一面に描かれたうっそうとしたカラフルな森の絵を見ていると、本当に森の中にいるような気分になる。パーティールームの天井からは、あーら不思議! ティーカップがたくさんぶら下がっているじゃないですか! くぅ~~~~、まさにアリスの世界!
 廊下はちょうどぐるっと店内を回るように作られているようで、高校の文化祭のおばけ屋敷みたいだ。もちろん、そんなものと並べては申し訳ないくらいに出来はよいのだが、「え、え、次はどんなお部屋があるの?」とドキドキしながら、進む感じが、ある意味、おばけ屋敷というか。そんな感じだ。(ただし、個室を利用している人がいる場合は、開けて見せてもらうことはできないはずだが)

「鉄カフェ・レトロ」 「鉄カフェ・レトロ」

インパクト抜群! のティーカップルーム

 いくつかの個室をのぞかせてもらい、気分が盛り上がってきたところで、やっとメインフロアにたどりつく。するとそこには!!! なんだこれーーーー! と思わず声があがりそうなものが鎮座していた。そう、巨大なティーカップがあるのだ。遊園地などのアトラクションのティーカップをイメージしてもらえばよいのだが、あれよりもずっと大きい(6~8名用とのこと)。ティーカップの中にすっぽり入ってお友だちとわいわい盛り上がるのはさぞかし楽しいだろうし、カップルでも人目を忍べる感じがいいかも(ちょっと広すぎるけど)。
 このティーカップルームは、予約で埋まっていることも多いそうだが、ぜひ一度使ってみたい。「いいですよ~、ここで会議とかやりませんか?」とはうちのスタッフの言葉だが、会議するにはどうだろう? 頭の中もワンダーランドになるんじゃないかという気がする。
 全体的に薄暗い店内で、これがアリスの世界だとするならば、やはり幼少期に私が感じていた「どこか不気味で怖い感じ」というのもあながちはずれてはいなかったんじゃないかと思う。だけど、その怖さがあるからこそ、アリスの世界は大人をも熱狂させるのかもしれないな、と、この店を見て思った。
 同じ内装でも、全体に流れる空気がもっと明るかったなら、ひと昔前の清里駅前みたいなけばけばしいメルヘンの世界になってしまったに違いない。それが、仮にもここ銀座に店を構えられるのは、この妖しさがゴージャスな雰囲気をかもし出すことに成功しているからだろう。

「鉄カフェ・レトロ」 「鉄カフェ・レトロ」

見えない、いや、見せない戦略がアリスワールドを支える

 しかし、せっかくのこれほど凝った内装が、店の外からはまったく見えないというのが惜しい気がする。ティーカップルームなど、ガラス張りで外から見えるようにしたら、子どもやギャルが放っておかないだろうに。いや、違う。こうやって、エレベーターで上がってきて、中の様子が見えないようなエントランス、メインフロアまでの長い廊下、だからこそ、入ってきた人々は徐々にこの世界観に引き込まれていくのだ。「きゃあ、かわいい~!」という嬌声であふれかえっていないから、妖しいアリスの世界が保たれているのではないだろうか。
 「不思議の国のアリス」は、やはり女こどものためのファンタジーではない。それがこの店に来るとよくわかる。映画もしかり。だって、ジョニー・ディップがあのメイクだもの。ただのかわいいファンタジーじゃないでしょう。
 簡単には全容を見せてくれないことでかえって魅力を増している不思議の国「迷宮の国のアリス」は、「アリス・イン.ワンダーランド」を観た帰りにでも、ぜひ寄ってみたい謎めいた店である。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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