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連載コラム

第83回 パクチーを合言葉につながる仲間。新・ビジネスの発祥地!?「パクチーハウス」

[ 2010年11月2日 ]

 パクチーっていう香草があるのは知っている。ちょっとクセがあって、好き嫌いのあるあの独特な葉っぱだ。私の中じゃ、料理のアクセントと言えばパセリかクレソンがいいところだけど「パクチー料理ばっかり出てきて、みんな友だちになっちゃう店があるんですよ」と聞けば、興味がわかないわけがない。客同士の仲をとりもってくれるの? それとも会員制? ......とにかく行ってみなくちゃわからないか。そこでスタッフとともに世田谷区は経堂にある「パクチーハウス」に行ってみたのだった。みんな友だちになっちゃうという、このユニークな店をご紹介しよう。

学生でにぎわう路地に、手描きメッセージがはためく!

 小田急線に乗るときは新宿直行の私、学生時代の思い出しかない経堂駅。が、降りてみると、駅前からすぐの農大通りはものすごい熱気。雑多な感じがするこの商店街は、居酒屋あり、コンビニあり、レストランあり......来るもの拒まずっていう雰囲気だ。
 そんな「農大通り」を5分ほど進んだところに、あったあった、白い文字で「paxi house」と描かれたガラス張りの店。ウッディな内装でなんだかおしゃれじゃん。......と思ったら何!? 窓から「地球を救うカレーライス」という手描きの布きれがたらりと下がっているじゃないの。なんか、無人島でSOSを叫びながら旗を振ってる、そんな感じの手描きのシロモノ。どう見てもフツーじゃないでしょ!?

 まあいい。とにかく入ってみよう。エレベーターで2階に上ると、パクチーハウスの入り口、扉があった。「地球を救う」のインパクトとは相反して、エントランスは意外に落ち着いた空間。ちょっとインターナショナルなテイストのハガキや告知があるけど、すごく入りやすい感じ。さて、いざ地球を救いに行ってみるとするか。

テーマは「旅と平和」。オーナーの想いがぎっしり詰まった店内はパワー全開

 扉を開けて入ってみると、思ってたよりずっと賑やかだ。お酒のせいか、盛り上がってるせいか? うーん、ぱっと見た感じ、食べてるより楽しく話してるっていう感じ。
 私たちふくめ予約客のテーブルにはエスニックな書体で書かれた名札が置かれている。これ、いいよね。「RESERVED」ってぼんと置かれるよりずっと、「あなたを待ってました」感があるじゃない?

 とりあえず飲み物を、とメニューを開くと、パクテルだのパク酒だの、パクチーをユニークにもじったドリンク類がこれでもかと並んでいる。もちろん「ノンパクチー」もあれば、薬膳茶のラインナップ、それから、あんまり見たことのない世界各国のビールの名前も......。どういう味なのかイマイチ想像しにくくて、何となく「コレでいいや」と頼んでみた。昔、ヨーロッパでビアハウスに行ったとき、まわりのガヤガヤと雰囲気に押されてテキトーにビールとおつまみをオーダーしたことがあるけど、そのときの感覚によく似てる。パクチー料理を食べに来た時点でもう何が出てきてもいいやって腹をくくってる自分がいるんだよね。旅の恥はかき捨て、じゃないけど、冒険もいいかな、と思えちゃう。もちろん、どれがどんな飲み物か、聞きたい人は聞けばいいんだけど。

 ドイツのビアハウスっていう私の第六感? は当たらずとも遠からず。この店のテーマは、「旅と平和」だそうだ。旅行好きなオーナー、佐谷恭さんが、「旅をしなくても旅ができるように」、「いろんな人との出会いがあるように」、「出会いが平和への第一歩になるように」という願いをこめてこの店を作ったのだという。「paxi house」という店名だって、そもそも造語だ。本当のパクチーは、タイ語で「phakchi」と書くんだもの。「pax」は、ラテン語で"平和"という意味(「passenger=旅人」の略でもあるのかも?)。「i」は人のカタチ。合わせて、「paxi」。オーナーの想いがばっちり文字になっているのだ。

 店内は薄いグリーンの壁に明るい木材を使用し、ナチュラル感たっぷり。天井からは紙貼りの照明がいくつもぶらさがっている。明るすぎず暗すぎず、溶け込みやすい感じだ。厨房のそばにはカウンター席や、樽をテーブルにした立ち飲みスペースもある。店がいっぱいで入れなかったお客さんにはこの立ち飲みスペースも使ったりして、とにかくパクチーを食べてもらえるようにしているそう。受け入れ体制できてるって感じだよね!

 また、なぜか奇妙な楽譜とともにボンゴ(ラテン系の太鼓)も置いてある。聞けばこれは「パクチーの歌」。着メロもあるんだそうだ......。こういう打楽器って、あるだけで陽気で開放的な気分になる。棚にはタイ料理、タイ式マッサージ、それにペーパーバックなんかも置いてあって、思わず手にとってみたくなる。適度な空間もあるから、立ち読みも許されそうな感じだ。

全席相席が出会いの種! 遠くの○○より近くの他人??

 ところで、どうしてこの店がこんなに賑やかなのか。......話し声が大きいのだ。店に入ったときには気づかなかったけど、この店のテーブルは大きく3つの島しかなく、それぞれが広い。でもって、妙に向かい側との距離がある。連れと話すときに「あのさー!」と腹から声を出さないと(というのはオーバーだけど)話が聞こえないのだ。
 それと忘れてならないのが「全席相席」。これこそがこの店の仕掛けだ。2人連れで案内されるときは向かい同士になるわけだけど、どう考えてもアカの他人が座る隣の席のほうが近くて話しやすい。「おいしそうですねそれ」なんてつい隣の他人に声をかけてしまいそうになる。食べ物をシェアするのも、前後より左右のほうが自然なような気さえ......する。他人が「近い」のだ。異業種交流会やイベントも頻繁にあるみたいだけど、そんな催しがなくてもかんたんに交流できそうな距離感じゃない?

「見つけた!」「ここにいた!」ツイッターで勝手に広がる知り合いの輪

 この店での交流には、ツイッターがひと役買っている。ツイッターで「パクチーハウスに来てま~す」とつぶやいている人を店内で探し、「見つけましたよ~」とフォローしあい、そこで会話が始まるのだ。共通のフォロワーを見つけたり、仕事や興味のあることを話したり、パクチー料理の話をしたり......。
 この日私もツイッターで、「パクチーのさつま揚げ」の写真をアップしたつぶやきを発見。キョロキョロ見回して、さつま揚げを探すと、なんと同じテーブルの若者じゃあないの! 「今ツイートしましたね?」と早速お互いにフォローしあって、軽く自己紹介。年齢も性別もバックグラウンドもぜんぜん違うけど、なぜか自然に溶け込める。4人でしかオーダーできない鍋を、初顔合わせのメンバーだけで食べるなんてこともあるそうだから驚きだ。

詳しくないから発見がある。異文化を持ち寄るから何かがうまれる!

 こんな雰囲気の店だから、誰かと交流したい人、してもいい人が集まってくるのもうなずける。そもそも、パクチー料理を食べに来ようという段階でかなりふるいにかけられそう。加えてこの「全席相席」を受け入れられる人、となると、残るのはかなりの物好きだろう。ここから新しいビジネスや、見たことのないコラボがうまれるとしたら、相当ユニークなものができるんじゃないだろうか。

 人ってやっぱり出会いが好きなんだと思う。でもその出会いって、目的が決まっちゃうと結構つまらなかったりするんだよね。音楽が好きな人、絵が好きな人。そういう着地点を決めた集め方ではなく、パクチーという食べ物が接点なだけだから、毛色なんてそろうわけがない。だからより無国籍で、より発見も多くなる、そりゃあ面白い化学反応が起きるだろう。パクチーを栄養にして育つ人の輪がもっともっと広がって、たくさんのビジネスが生まれたら面白いよね。ま、パクチーを選ぶっていうセンスには脱帽だけど!

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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