日経メッセ > リテールテックJAPAN > 連載コラム > 今どき主婦のShopウォッチ > 第87回 主役は野菜! そして生産農家! 巨大「生産農家ポスター」からほとばしる野菜への情熱が『農家の台所』の野菜に力を与える

連載コラム

第87回 主役は野菜! そして生産農家! 巨大「生産農家ポスター」からほとばしる野菜への情熱が『農家の台所』の野菜に力を与える

[ 2011年3月3日 ]

本場モンの農家をよく知るお客様を連れて『農家の台所』へGO!

 「『農家の台所』のランチに行きませんか?」
とスタッフの一人から唐突に誘われた。
 「実は、九州の実家から母が出てくるんですけど、『農家の台所』の恵比寿店に行ってみたいと言うもので。」

 農家の台所は、国立や立川にもある人気の野菜レストランだが、この恵比寿店は、ディスプレーなどがひときわスゴイ! という噂は聞いていた。興味があったので、「行く!」と返事をしたのだが果たして、彼女の母親がなぜ『農家の台所』に行きたいのか? それはその時点ではわかっていなかった。

 ある日曜日、日曜にしてはずい分早い時間に、私はそのスタッフと多摩センターで待ち合わせて、恵比寿に向かった。彼女のお母さんとは現地で集合することになっていた。
 「うちの母、田舎でミニ生協みたいなことやっているんです。地元の農家から野菜を集荷して、注文してもらっている会員さんに宅配しているんですよ」と彼女が言った。
 「そうなんだ。農業やってらっしゃるの?」
 「農家ではないんですが、おいしい野菜、安全な野菜を自分が食べたくていろんな農家と親しくなっていくうちに、地元の農家の野菜を地元の方たちに届ける仕事をしたくなったらしくて......。」
 なんとまあ、つまりはお母さまが「起業」してしまったということらしい。

 そんなパワフルなお母さまと恵比寿駅で合流し、早速駅からすぐの『農家の台所』恵比寿店に向かった。11時開店だが、予約をしていないので開店時間には店の前にいないと、席がなくなってしまうかもしれないのだ。早足で歩き、11時10分前には、店の前についたが、もう2人並んでいる。私たちは2番手だった。

入店前に「生産農家ポスター」がお出迎え。秀逸コピーの数々に思わずうなる

 開店を待つ間、お母さまは、物珍しそうに店の外を見て回っていた。
 「こんなおしゃれな場所に、こんな店があるなんてねえ」と、感慨深そうだったが、店の外に貼ってあるポスターを見て
「おしゃれな店なのに、こんなところに選挙のポスターも貼らせてくれるんだね」としきりに感心している。
 選挙のポスター? なわけないよね? しかし、たしかにそこに貼ってあるのは、選挙のポスターそのもの、だが。よく見てみると、

 「日本新野菜の発信地 緑肥植物利用党」
 「香り高さは土つくりで決まる ニイクラハーブ党」
 「おいしい品種への興味から挑戦がはじまる 米ぬか堆肥党」

などの文字が躍っている。ん? これは政党、じゃないよね?
 そう。これらのポスターはすべて生産農家のポスターなのだ。

 最近はスーパーで売っている野菜でも「生産者の顔が見える」というのがウリになっていて、「●●さんの作ったきゅうり」「■■さんの育てたたまねぎ」などと銘打ったものをよく見かけるようになった。なかには生産者の似顔絵が袋に貼ってあるものもある。
 しかし、この『農家の台所 恵比寿店』のポスターこそは、まさに「生産者の顔がよ~~~~~く見える」ポスターである。
また、そこに綴られたキャッチコピーが秀逸だ。

「堆肥中のバランスが大事なんだ」
「やっぱり食育なんだよ」
「トマト一粒一粒が太陽の光を浴びれるように! 旨みが変わる!」

選挙ポスターではないことを理解してから、改めてポスターを見たお母さまは、
「ああ、これはいいねえ。生産者がどんな思いで野菜を育ているかが伝わるね~」と感心していた。

恵比寿店入口

冷蔵庫に入っていくような入口。古い農家を模した屋根など、不思議空間が広がる店内

 そうこうしているうちに開店時間となり、店のスタッフが店内に案内してくれたが、まず入口でめんくらった。
 店の正面のガラス扉の中には、重々しいシルバーの扉があり、なんだか冷蔵庫の中に入っていくような感じなのだ。そして、その奥にはレストランじゃなくて八百屋かい~? な勢いで野菜が並んでいる。それも、新鮮そのものの姿! また、普通のスーパーではあまり見かけないような変わった野菜もある。「ここでは野菜が主役!」という見事な演出だ。

 その八百屋スペースを抜けて、やっと客席のあるフロアに出る。店の外観はおしゃれなのだが、中に入るといい意味でおしゃれ感は薄く、素朴さ、泥くささのほうが強く感じられる。テーブルや椅子もきわめてシンプルだし、店内には巨木が生えている。さらに、存在感満点のサラダバーがあるが、上方は昔なつかしい感じの萱葺きの屋根がある。まさに、農家の軒先に野菜が並んでいる、というイメージなのだ。さらに空中を利用して、最大級のサイズで例の生産農家ポスターもディスプレーされている。

 私たちが座ったのは、1階だったが中2階にも席があり、そこからは、萱葺き屋根を見下ろすことができるので、とてもここが恵比寿だとは思えない風景だ。恵比寿って渋谷区だからね、普通この風景はない。どこまでいっても野菜・野菜・野菜! 
 この野菜主役感に、日ごろから直に生産農家とつき合っているお母さまはいたく感動している様子。注文もそそくさとすませ、この店の目玉であるサラダバーに、私たちは突撃した。

恵比寿店店内

まるでパフェ! おいしくて、美しい特選野菜のサラダバーに大満足

 サラダバーは、めちゃくちゃおしゃれだ。どの野菜も、「採れたまんま」の姿なのだが、衣装(容器)や着こなし(並べ方)が、とてもおしゃれ。化粧っ気のない美人さんが、上品な服を着たらそれだけで「なんてきれい!」みたいな感じだろうか。
 おなじみの野菜から目新しい野菜まで、目移りしそうなくらいの種類の野菜が並んでいるなかから、あれもこれもと少しずつ選んで、サラダバー用に渡されたパフェグラス(普通ならミニパフェなどに使われそうなガラスのグラス)にきれいに盛り付ける。このグラスだと、きれいに盛り付けたくなってしまうのだ。

 この日、私はえのきだけとかぼちゃを生まれて初めて生で食べた。野菜につけるのは、岩塩だったり、みそだれだったり。どれをつけても野菜本来の風味を損なうことなく、引き立ててくれる。本場・農家の野菜に常日頃接しているお母さまも、「うん、これなら田舎にも負けてない!」とご満悦だ。
開店前から並んでいたおかげですぐに入ることができたが、ものの30分もたたないうちに、ほぼ満席になった。それも、いかにも恵比寿らしい、若いおしゃれな人達で埋まっていた。この光景が、お母さまにはとても感動的だったようだ。
 「地方の農家の人たちは、自分たちの作っている野菜の価値をわかってない人も多いんですよ。でも、農家にとっては当たり前のものをこうやって喜んで食べてくれる人たちがこんなにいるってことにもっと自信もっていいわよね。」
お母さまは、そう言われた。

恵比寿店サラダバー 名物!特選野菜サラダバー

『農家の台所』は、農家に元気を届け、農家の元気を、消費者に届ける

 生産農家ポスターに使われている生産者の写真はどれもいきいきとして自信に満ちている。全国の農家が、みんなこんな顔になればどんなにいいだろう。そうなれば、私たちの食生活もいいほうにぐんと変わるに違いない。
 新鮮な野菜をメーンにしたレストラン。それは、ある意味、昨今の流行にのった店、時流にのった店、と言ってしまうこともできるのかもしれない。しかし、『農家の台所』の主体は、野菜ですらなく、生産農家なのだとこの店のディスプレーを見て実感した。野菜はもちろん、おいしくて新鮮だ。だけど、それは生産農家あってこそ。生産農家が元気になってこそ。そんな思いがこの店から伝わってきた。

 そして......。生産者から消費者に野菜を届けるために、今も毎日、自分でハンドルを握っている73歳のお母さまは、もともととてもお元気だったのだが、
 「これからも頑張るわ~、うちの近くにもこういう店、作りたいわ」
とさらにパワーアップして帰って行かれた。

 私ももちろん、この店の野菜の元気力を充電しに、これからもときどきここに立ち寄ってみようと思った。だけどふと、この野菜たちがわが社の抱えてる10万人の主婦にどうしても見えてきてしまった(笑)のだ。当面は、主婦と、主婦たちのもつ元気力をひきだすのが先!? この店と、競争でもするか!

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

バックナンバー

PAGE TOP