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連載コラム

第91回  昔ながらの普段着のたたずまいに、ホンモノのすごみが漂う古民家食事処「いろり」

[ 2011年7月7日 ]

 「うちの田舎、絶対一度来てみてください! 絶対気に入ります! ショップビズにもうってつけの店も紹介しますよ!」と、かねてよりスタッフの1人から言われてはいたのだが、なんせ彼女の実家は九州! 気軽には行けないから、と延び延びになっていた。しかし、話題になった幻の九州新幹線のCMを見て、私はにわかに九州に行ってみたくなっていたのだった。

 彼女によると「うちの実家は九州新幹線の新八代駅が最寄り駅なんですよ!」とのこと。その言葉に後押しされて、試乗!?もかねて行くことにした。九州新幹線は、新しいだけあってきれいだし、木目をいかした内装も落ち着いた感じでいい。そして、速い! 博多から南に行くのもこれならかなり気やすくなるなあ、というのが正直な感想だ。そうして九州新幹線の旅を満喫して新八代駅につくと、スタッフの実家のお母さんが車で迎えに来てくれていた。

九州新幹線「新八代駅」から、高速に乗って1時間+30分の絶景ドライブ

 「あ、車で行くのかー。新八代が最寄り駅だと聞いてたけど」と思いつつ、助手席に乗せてもらうと、お母さんはすぐに高速道路に向かった。「高速ですか? その店までは遠いんですか?」「いや、高速だと1時間もかからんけん」......うわ! 1時間っ! やられた~! 地方の「すぐそこ」侮れず!

 というわけで、予想外のドライブになってしまったが、車で八代インターから入り、人吉インターで降りる。たしかに1時間かからない程度だが、インターを降りた時点でかなり山が近くなっているのを感じる。だいたい、ここまで通ってきた高速道路の景色がすごかったし。

 「そろそろつきますか?」「こぎゃん都会にはなかもん。車であと30分くらいかな。」
 さ、さらに30分!!! この際どこまでも連れて行っていただこうじゃないの! 私は覚悟を決めた。

人吉盆地を取り囲む山に向かって突き進んだ先に古民家食事処「いろり」があった!

 車はどんどん山に向かって走って行った。人吉市は盆地なので、どこを見ても山だ。そして、その山がどんどん目の前に迫ってくるのだ。
 水上町という看板があり、小さな町役場の前を通った。「ここまで来ればもうすぐだけん」とお母さん。でも、ドライブしている間に、こののどかで美しい景色がすっかり気に入ってしまった私は、もうしばらくこのまま車を走らせてもらってもいいなあ、という気分になっていた。

 「つきました」と言われて、少しばかり残念な思いで、車を降りた私の目の前にあったのは、正真正銘の古民家だった。見事な筆文字で「いろり」と書かれた看板があるので、商売されていることがわかるが、それがなければ、なんとも風情のあるお宅だなあと思ってしまいそうな、昔ながらの「おうち」だ。日本昔話に出てきそうな、と言えばよいだろうか。

ダイニングルームの真ん中にある「いろり」は存在感満点!

 中に入ると、そこは土間だった。土間特有のちょっとひんやりした空気や薄暗さも、古きよき日本そのものだ。その土間の真ん中にこれもホンモノ感漂ういろりが鎮座している。すでに火が燃えていて、近寄れば普通に暖かい。
 いろりのまわりには石の風合いをそのまま生かした野趣あふれるテーブルといすが並んでいるが、この店の女将であるスガ子さんに言わせると「拾ってきて使ってる」ものなんだとか。

 この店の中のものは、そういうものばかりだ。自然に恵まれた山の中で拾ったものや、見つけたもの、育ったもの、そういうものに囲まれている。第一、この建物自体がそうなのだから。
この場所に、まるで隠れているように存在している。いい意味で時の流れから取り残されような風情で、ここに在る。

 スガ子さんの作る料理もこの店そのものの素朴さと自然の恵みに満ちていた。つくしやふきのとうや山菜など、私には珍しく貴重な食材もこの店では「そこにあったもの」として、普段着のまま出てくる。たけのこや菜の花の炊きこみご飯は、鉄釜を火にかけて炊いているので底が焦げている。そのおこげがなつかしく、おいしいのだ。汁物は、名物のいのしし汁! いのししと聞いて少し抵抗があったが、刻んだねぎをたっぷり入れていただくと臭みもなくおいしい。

手作り感、ホンモノ感の漂う内装、造りに歴史とあたたかみが感じられる

 食事のあと、部屋の内外をじっくり観察させてもらったが、ここにあるものはなにもかもがホンモノであるということに感動するばかりだった。壁にかけられた農具や竹ざる、小さないすになりそうな切り株。そして、天井にびっしりはりついて黒光りするつやを出している煤。
 食後にスガ子さんが自慢のあくまきを振舞ってくださったが、このあくまきも
 「これはほかのところではできんと。うちのこのいろりの、この灰の中に入れるからよかあくが出るけん。この味になると。」と得意げに言われた。
 部屋の隅にあるストーブも、ドラム缶に煙突をつけて、「うちのお父ちゃんが作ったと」。きわめつけは、ダイニングルームになっている部屋に隣接している掘りごたつのある部屋だ。
窓から絶景が見下ろせるステキな部屋なのだが、これも「いつも飲みにくる仲間たちで建てらしたとよ」とスガ子さん。

 九州新幹線が開通したとはいえ、その駅からは車で3時間近くかかる、この場所では不便を数えればきりがないはずだ。でも、その不便さのおかげで、今の日本ではなかなかお目にかかれないものが、ここにはたくさん残っている。この「いろり」の内装や外観は、参考にはできても、とうてい真似はできない。
そこにはホンモノだけがもつ力があふれているからだ。

 ただ、どこに住んでいて、どこで店を構えていても「いろり」に学べることはたしかにある。自分の持っているものに自信をもって、堂々と提供すること、だ。そうすれば、それがかけがえのないその店の魅力になる。
 「いろり」の古さや素朴さがそうであるように。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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