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連載コラム

第95回 格子の向こうには、「珈琲=モダン」だった時代の空気があった!

[ 2011年11月1日 ]

街そのものが「雅」な京都。その中でも、「老舗感漂う外観、内装が秀逸!」と評判のイノダコーヒ本店を訪ねてみた。

外観から漂うタイムスリップ感が期待を盛り上げる

せっかく行くなら、とモーニングをやっている時間に行ってみたのだが、私が降りた烏丸御池駅からはしばし歩く。慣れない土地なうえになんせ京都。まだ、ほとんど店が開店前なのだが、店がまえを見て回るだけでも興味深く、つい写真など撮りたくなってしまう。おかげで、店につくまでにやたらと時間がかかってしまった。まあ、おかげで程よくお腹が減って、モーニングを堪能するにはちょうどよかったのだが。

地図を見ると、この先に「イノダコーヒ本店があるはず」という路地に入り、向かって右手を眺めながら歩くと、時代劇に出てくる「越後屋さん」的なたたずまいの古めかしい建物が見えてくる。店の前になぜか自転車がたくさん停まっているのも、なんだかタイムスリップしたような気分にさせられる。

のれんをくぐって(コーヒー店でのれんって新鮮!)店内に入ると、そこはもう「古きよき時代」の雰囲気に満ちていた。カフェではなく、「珈琲店」の香りが漂っているのだ。
席に案内してくれるウエイターの方の服装や立ち居振る舞いもなんとなく由緒正しい感じがする。言ってしまえば「古臭い」とも言えるのだが、この店にはその「古臭さ」がよく似合っているのだ。

「古さ=磨かれてきた時間」と感じさせる重厚な室内と感動のモーニング

店は外観だけでなく、内装も時代がかっている。ただ、「老化」「劣化」という意味での古さはまったく感じられず長年大切に磨かれてきたという重厚感がある。なんとも......いい店だ。ましてや、これが「京都」という街にあるのだからたまらない。

店内のテーブルにかかっているクロスは、白と赤みがかったオレンジ色の大きなチェック柄で、これも、とうてい「今風」とは言えないのだが、それだけに1940年創業の「イノダコーヒ」ならではの風格が感じられる。

イノダ名物だと聞いているモーングを注文してみると、本当にしぼりたてのオレンジの生果汁、すこしもちっとした歯ごたえのある焼きたてクロワッサン、手作り感あふれるハム、ふんわり焼きあがったスクランブルエッグにたっぷりの生野菜が添えられて出てきた。
もちろん、コーヒーはイノダ伝統の「アラビアの真珠」。これが......絶妙に美味なのだ! とにかくすべてが「ていねいに作られている」感がある。

とくにスクランブルエッグは、ファミレスのモーニングで出てくるのとは完全に別モノだ。クロワッサンも、思わず買って帰りたいと思ったが、なんとモーニング用にしか焼いていないのだそう。なんたる贅沢! この贅沢さが、イノダコーヒならではなのだろう。
1200円と価格は決して安くないが、この「誇り高いモーニング」にはふさわしい価格に思える。そして、こういうものを提供しているからこそ、イノダコーヒという店は、その「古臭さ」をも、「伝統」や「格式」に昇華させることができているのだ、と思った。

今風のおしゃれな店にすることなんていつでもできただろうが、あえてそうはしないで、守ってきたものがこれだ! という自負が感じられる店内の造りであり、モーニングなのだ。

普段づかいの人も、わざわざ訪ねる人も裏切らない「誇り高き古さ」を守る店

モーニングを食べ終えてから、店内をすこし探検してみた。雰囲気は、昭和初期のお金持ちの洋館、という感じだ。私の通された一角には、暖炉もあり、いわゆる応接間風だった。
さらに、大きなガラス張りの窓から見える外には、緑豊かな庭もあり、そこにもテーブルと椅子が並べられている。この屋外の席でもコーヒーを楽しめるようだが、気候のいい時期ならさぞかし心地よいだろう。

そして、この庭も、いかにも家庭の庭風なのだ。庭の片隅には、納屋風の建物があり、その前には、大きなコーヒーミルが鎮座している。実用性はないのだろうが、こういうものが誇らしげに飾られているところが、いかにも終戦前から、日本のコーヒー文化を支えてきたんだというプライドが感じられる。

 

この日、かなり朝早く行ったにもかかわらず、店内はかなりの盛況だった。ご近所のおなじみさんのようなお客さんもいる一方で、半分以上は、私同様、遠くからわざわざ訪ねてきたお客さんだ。大きなリュックを背負った人もいれば、キャリーバックを引いて入ってきた人もいる。「いつものイノダ」客と「わざわざイノダ」客の両方を惹きつけるものが、この店にはあるということだ。

おそらく、「コーヒー」に代表される海外の食文化が、戦後の日本に夢と希望を与えることを信じて歩んできた店なのではないか。だからこそ、必要以上に新しいものに変えることなく、「これを日本に届けたい!」という熱意を持っていたときのそのままのスタイルをかたくなに守っているのではないだろうか。その思いが伝わってくるからこそ、どうしても日々の生活の中では忘れがちな大切なもの、それをこの空間は思い出させてくれる。
だからきっと。
スタバができても、ドトールができても、イノダはイノダで支持され続けるのだろう。

次に京都に行く機会があったら、きっとこの店にモーニングを食べに行く。そう思わせてくれる店だった。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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