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連載コラム

第96回 廃校が蘇り、アーティスティックかつアットホームな地域振興の空間に!

[ 2011年12月2日 ]


2011年度グッドデザイン賞を受賞した店舗が青森にあると聞いて、行ってみた。その名は「王余魚沢倶楽部」。一応、カフェなのだが、グッドデザイン賞の対象になったのは、このカフェだけではなく、カフェを含む「旧王余魚沢小学校」跡地の廃校プロジェクトのようだ。

青森駅から車で30分くらいはかかっただろうか。途中で青森空港や、浪岡ダムの近くを通る。地元の人でも通りそうにない奥まったところに、王余魚沢倶楽部はある。かろうじて道端に案内看板が出ているのは親切で助かったが、つまりそうしておかないと行きつけそうもない場所、なのだ。

山小屋のような暖かみとモダンが共存するカフェの外観

なんとか目的地らしきところに着いたが、そこはまるっきり昔ながらの小学校といった趣きの建物だった。白い壁に殺風景な四角い窓、赤い屋根の平屋建て。建物から一段下がったところにある運動場が、今は駐車場になっている。
その運動場の一角にカフェ「王余魚沢倶楽部」は、建っていた。正面は全面ガラス張りで中が完全に見えている外観は、こんな山奥には似つかわしくないくらいモダンだ。それでいて、むき出しの窓枠や梁などはすべてシックなダークブラウンの木造りのため、山小屋のような暖かみもある。もしもこの店がもっと人通りの多い場所にあったなら、ふらっと入ってみるお客は多いんじゃないか、そう思える外観だ。店の入口の脇には薪が積み上げられていて、それもまた素朴な雰囲気を演出している(ただの演出ではなく、店内のストーブで使われていた)。

そんなシックで素朴な印象の外観の店なのだが、店内に入ってみると、そのポップな壁に驚く。おそらくこの模様は壁紙じゃない。なにしろ、絵の具の流れた痕跡もそのままなのだから。店中の白壁一面に、じつにカラフルでアートなペインティングがほどこされているが、壁の白は生かした絶妙なバランスがまたいいのだ。描いているときの様子が思い浮かぶような生き生きとした筆の跡も、なんだか手作り感いっぱいだ。
店のスタッフさんに聞いたところ、壁のペインティングは、この王余魚沢倶楽部で展開している「アーティスト・イン・レジデンス」で招へいされたアーティストの作品なのだそうだ。「日々、変化しているんですよ。朝、来てみたら壁の模様が変わってたこともあります。」とスタッフさん。積極的にアーティストを受け入れている王余魚沢倶楽部ならではのユニークな内装だ。

テーブルスペースは、手作り感あふれる木製の広いテーブルで、座席によっては背もたれのない椅子ではあるが、広々としていてくつろげる空間だ。また、私が特に感動したのはキッチンスペースだ。まったく仕切りのないフルオープンのカウンターキッチンは、カウンターにまたペインティングがされていて、絵本の中に出てくるキッチンのようにかわいらしい。すべてがオープンになっているから調理器具も清潔にピカピカに磨きあげられていて、大きなガラス窓から光が差し込むと、このキッチン自体がアートに見えてくる。
冬は極寒になる青森だけあって、店内に鎮座する薪ストーブもかなり存在感があるが、パワーがありすぎて、ストーブの一番近くの席に座るのは勧められない、というのはご愛嬌だ。

店の裏口に出てみると、隣接してプールがあった。いかにも学校のプールだが、とても小さい。この小学校がかなりの小規模校だったことを物語っている。その小さな古びたプールには金魚がたくさん泳いでいた。もとは少しだけ放したのだそうだが、いつの間にかどんどん増えてしまったのだという。
こぢんまりしたカフェだけあって、メニューは少ないが、オリジナルのバターチキンカレーはていねいに作られた深みのある味だ。また、八戸市の地サイダーである「バナナサイダー」も置いてあり、同じ青森県でも八戸を離れて青森市に住んでいる人には懐かしさがうけているらしい。

隣接する旧校舎では、イベントが目白押し

このカフェだけでも、廃校利用の店舗としてかなりユニークでおしゃれだと感じたが、王余魚沢倶楽部の魅力はそれだけではなかった。私が訪ねた日は、ちょうどボックスショップをやっていたのだが、ここでは旧校舎を利用した催しが頻繁に行われているのだ。
もとは小学校の教室だった会場に足を踏み入れると、そこはまるっきり「小学校」の建物だった。すこし違うのは、入口に設置された下駄箱が、りんご箱を重ねたものだということくらいか。かつては、授業参観だ保護者会だと、この学校に足を運んでいたのだろう、地域の人たちが今は、この場所を利用したイベントのためにふらりと立ち寄っているらしい。いや、少々遠くからでも車でやってくるようで、そういう人たちは、ショップを見たあと、カフェにも立ち寄っているようだった。通りすがりのお客がほぼ期待できない立地ゆえ、果たしてやっていけるのだろうかと案じたが、廃校を利用して行われる様々な催しとリンクして、カフェも必要とされているようだ。
このスペースを利用して、「かれいざわアートICHIBA」や「全国藍染め工房展」のほか、コンサートやワークショップ、セミナーなどが行われている。こういったイベントは、王余魚沢地区から30分ほどの圏域内にある青森市や弘前市からたくさんの人を呼び込んでいる。この日行われていたボックスショップでは、手作りアクセサリー、革製品、輸入雑貨などがりんご箱に入れられて展示販売されていた。いずれも地元ゆかりの作家さんや業者さんだ。もとは教室だった部屋に、りんご箱を利用してぐるりと商品がディスプレーされた様は、なかなかおしゃれだし、いろいろなものが展示されているので、ちょっと学校の文化祭や学習発表会のような雰囲気もある。

こうして、廃校を活用することで、地域を活性化されることには意義がある。それと同時に、地域の多くの人たちにとっては、「思い出のつまった場所」である小学校をただの廃屋にしないで継承するという意味もあるのだ、と思った。だからこそ、この旧校舎内には、小学校時代の展示物などをあえてそのまま展示してあったり、王余魚沢小学校の歴史を記録するような展示があるのだろう。
たとえ、生徒はいなくなっても、地域のコミュニティの中心として、学校を存続させたいという地元の思いがこのプロジェクトを支えているのだ。

少子化の進む日本では、これからも各地にこういった廃校は増えていく。その利用方法は自治体で様々な工夫が凝らされているだろうが、この王余魚沢倶楽部の取り組みはじつに参考になる。青森に行く機会があったら、ぜひ足を運んでみてもらいたいスポットだ。


王余魚沢倶楽部 http://www.kareizawa-club.com
2011年冬季のカフェ営業は12月25日(日)まで。それ以降は、不定期で本校舎でのイベント実施予定。

今どき主婦のShopウォッチ
執筆者:堤 香苗

株式会社キャリア・マム代表取締役。1964年、兵庫県神戸市生まれ。早稲田大学第一文学部・演劇専攻卒業。
大学時代よりテレビ、ラジオのパーソナリティー等をつとめ、フリーアナウンサーとして活躍。結婚、出産後、子育ての経験を生かした仕事を志し、1995年4月、育児サークルPAO(キャリア・マムの前身)を設立。その後、ママの社会参加の機会を積極的に創出する活動母体として、「ママの元気と笑顔」を合言葉に、『キャリア・マム』を設立。現在、コーディネーターとして、主婦や育児中の女性、起業を目指す人へのアドバイスや、「女性の起業」「在宅ワーク」「ITビジネス」等のテーマで講演も行う。2007年1月「おしゃべり力〜主婦のホンネが常識を変える!〜」、5月「ヒット商品はこうしてできる!売れるマーケティングのしかけ」を出版。

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