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リテールテックJAPAN 2020 | 2020年3月3日(火)〜6日(金) 幕張メッセ
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中国で飛躍するスマホ決済、注目される「信用スコア」のデータ利活用

今回は中国でスマホ決済が飛躍的に普及した理由と、その背景にあるキャッシュレスとビックデータの関係について考えてみたいと思います。

文・山本正行(山本国際コンサルタンツ)

銀聯からAlipay・WeChat Payに

 中国では2002年に新しい決済ブランド「銀聯(Union Pay)」が立ち上がり、中国国内の銀行はビザやマスターカードをやめて、全て銀聯カードのみしか発行しない体制となりました。銀聯は中国人民銀行によるカードシステムなので、正真正銘の中国公式決済サービスです。ビザやマスターカードは中国から追い出され、日本人などが持ち込むビザ、マスターカードなどは使えるものの、中国国内でのビザ、マスターカード発行は認められなくなりました。当時、私はその事態を見て、「さすが中国、やることが大胆だ!」と感心したものです。
 しかし、2013〜2014年ごろになると今度はAlipay(アリペイ)、WeChat Pay(ウィーチャットペイ)が一気に普及しているというニュースが飛び交うようになりました。親しい銀聯の知人に状況を聞きに行くと、
「アリペイ? 彼らは手数料を中抜きしており、われわれにとって迷惑な存在。でも人民銀行が禁止令を出すので、ほどなく無くなりますよ」
と強気でした。それを聞いて私はまたしても「さすが中国」と感心したものですが、今度はそうはいきませんでした。
 結局、Alipay(画像1)、WeChat Payは中国では誰もが使うキャッシュレス決済サービスとして定着してしまいました。一昨年の時点で、上海のコンビニエンスストアなどでは「見ていたらほぼ全員がスマホ決済で支払っていた」という報告もあり、相当普及していることは確かです。データを見ても、都市部では98%の人が3カ月に1回以上スマホ決済を利用しており、その普及は都市部(直轄市)で93.3%、地方の「郷、鎮」などで90.5%、農村でも85%と、相当な水準といえます。

画像1 Alipayアプリの画面例(CPMコード決済の画面)画像1 Alipayアプリの画面例(CPMコード決済の画面)

 それでも「本当だろうか?」という疑念が消えない私は、親しい何人かの中国の知人に聞いてみましたが、「みんなが使っていることは確か」とのこと。その普及は事実と見て間違いなさそうです。
 ただし、よく聞いてみれば、「60歳以上の高齢者はあまり使わない」とも話しており、老若男女全てが利用しているとするのは言い過ぎのようです。Alipayの利用者は5.2億、WeChat Payは6億といいますから、中国人の全員が利用しているわけではないことも事実です。

どうして中国人はスマホ決済を使うのか?

 では、どうして中国でそんなにスマホ決済が普及したのでしょうか。よく言われることは、中国に限らず、現金(お札)が汚くしわくちゃで、場合によって偽札もありうるような地域は少なくありません。中国はまさにそれで、そもそも現金を積極的に使いたいとは思えない環境です。でもそれならば、中国人のほぼ全員が持つといわれるデビット方式の銀聯カードで支払えば良いはずです。
 実際、中国ではほとんどの店で銀聯カードが使えるように決済環境が整備されています。もちろん、個人商店、フリマなどの個人取引では銀聯カードは使えないので、そういう場面はスマホ決済が有利です。しかし、銀聯カードが使えるお店でもスマホ決済を使う理由は何なのでしょうか。それにはどうやら2つの大きな理由がありそうです。
 1つは単純で、スマホが普及して誰もがスマホを持っていることです。しかし、より重要なことは、消費者にはAlipayやWeChat Payを使う強いインセンティブ(動機)があるということです。
 まずAlipayですが、今ではそのサービスは多岐に渡っており、総合金融サービスアプリといっても過言ではないようです。本来の機能としての送金・決済に加え、ネットバンキングとの連携(出入金や銀行送金など)、保険、投資銀行、資産運用、信用情報、などが1つのスマホアプリに収まっているわけです。
 信用情報はAlipayの支払履歴に加え、アリババ傘下のタオバオなどマーケットプレイスでの取引情報、公共料金の支払い状況、年収、学歴などが登録され、「スコア化(数値化)」されています。日本はポイント還元を目当てにクレジットカードを利用する人が多く、私もマイルを貯めるために航空会社の提携カードをせっせと使っています。しかし、中国ではそんな生易しい理由ではなく、個人の「信用スコア」を上げるためにAlipayを必死に利用するという理屈のようです。
 信用スコアは欧米のクレジットヒストリーとほぼ同様に機能しており、Alipayのアプリから融資を受ける場合の審査や保険料などに反映されます。つまりAlipayのスコアが低いと融資を受けられなかったり、高い保険料を支払うことになるわけです。結婚相手の条件に「信用スコア何点以上」と指定する人までいるといいます(画像2)。

画像2 Alipayアプリに搭載されている信用スコア(「芝麻信用」)の画面画像2 Alipayアプリに搭載されている信用スコア(「芝麻信用」)の画面

 このようにAlipayは総合金融を担う位置付けとなり、中国人にとってなくてはならないサービスの1つに成長したわけです。一方のWeChat Payは、個人間などでメッセージを送り合う「メッセンジャー(WeChat)」の付帯サービスです。開始当初はメッセージのついでに小口の送金などが便利という位置付けだったようですが、今ではAlipayとほぼ同様な水準のサービスが提供されており、これもまた重要な役割を担うようになりました。では中国人はAlipay とWeChat Payをどう使い分けているのでしょうか。中国人の親しい知人に聞いてみました。
「誰もがたいがい両方とも使っている。Alipayしか使えないサイト、WeChat Payしか使えないサイトもあるが、それ以外の理由で明確に意識して区別するわけではない。ビザとマスターカードをどうやって使い分けるか、という感覚と同じ」
 釈然としないところは残りますが、どうやら中国人は2つのサービスを強く意識して区別しているわけではないようです。

アリババ創業者ジャック・マーの「意外な事実」に納得

 昨年はアリババ創業者のジャック・マー氏が引退すると表明し、話題になりました。成功した経営者の早い引退は決して珍しいことではありません。ジャック・マー氏といえば、中国ばかりか世界でも成功した経営者の1人といって間違いありません。アリババは中国から世界市場に展開し、2014年にはニューヨーク証券市場に上場、2016年には販売額でウォルマート、コストコ、カルフールを上回るという輝かしい経歴を収めた企業でもあります。
 先にも触れた銀聯の発言からも、そもそも中国銀民銀行お墨付きの銀聯が中国公式での決済サービであり、Alipayは非公式という解釈が一般的で、私も長い間そのように捉えていました。しかし、非公式のAlipay・WeChat Payが実際には大きく普及したわけです。一部に銀聯カード用の決済端末の電源を切ってしまい、スマホ決済だけしか受け入れないという加盟店も確認されていますから、銀聯カードよりもスマホ決済のほうが優勢とも受け取れます。中国という難しい市場で、そこまでにアリババやAlipayを育てたジャック・マー氏の実力は相当なものといって良いでしょう。
 しかし、昨年引退を表明した後でジャック・マー氏に関する意外な事実が聞こえてきました。マー氏は実は、共産党員だったというのです。確かに、以前より中国政府とマー氏の関係に疑念を抱く人もおり、実は中国政府と蜜月という何やら怪しい噂もありました。共産圏では政治家ではない一般の著名人が共産党員ということはよくあることです。例えば、旧ソ連では経営者ばかりでなく音楽家やアーチストにも共産党員がおり、私が子供の頃から大好きだった著名なバイオリニストのダヴィッド・オイストラフ氏(故人)も、実は共産党員でした。
 ジャック・マー氏=共産党員、という事実はスマホ決済の普及の理由(仮説)を明快に説明します。つまり、アリババの発展もAlipayなどのスマホ決済の普及も、全て習近平氏による国家政策の一環だったと解釈すれば、全てが合理的なストーリーになるのです。中国政府はベンチャーの追い風にうまく乗り、アリババを利用して首尾よく5〜6億人分の信用情報を構築したわけです。

日本もスマホ決済でビックデータを利活用?

 キャッシュレス決済比率を現在の20%程度から、2025年までに40%へ高めようとする日本政府は、お隣である中国のスマホ決済の活況をみて、QRコードの体系標準化やデータ利活用を検討するとしています。この「データ利活用」こそ、Alipayが構築した信用情報を指しているわけです。しかし、実際に日本で中国ほど膨大で詳細な信用情報が構築できるのかといえば疑問です。QRコード決済サービスは乱立してしまい、それぞれの事業者が個別にデータの利活用を検討する限り、Alipayほどのスケールメリットは現れません。
 また、ビザ、マスターカード、JCBなど、従来の国際カードの取引ではAlipayほど詳細に取引データを入手することができないため、数(件数)は揃っても、取得項目が金額や取引種別程度に限られるためビックデータとして十分とはいえません。キャッシュレス決済とビックデータの関係は密接なのですが、実は日本ではまだキャッシュレス決済がビックデータに結びついていないのです。
 一方で、日本人のビックデータは、すでにアメリカ企業に抜き取られています。言うまでもなくGAFA(Google、amazon.com、Facebook、Apple)の存在ですが、私自身も自らの暮らしぶりや何をいくら買ったかまで全てを把握されています。この記事を書きながらGoogle 検索で調べた内容、今日amazonで購入した趣味の雑誌、Facebook に書き込んだ昨夜の食事内容、iPhoneで利用している有料アプリの種類・・・。しかし、GAFAは日本人の年収や経済状況までは把握していません。
 今後のキャッシュレス決済を、単なる利便性にとどまらず、いかにしてビックデータに紐付けるかは重要な課題です。しかし、日本にはまだ個人情報や信用情報にアレルギー反応を示す消費者も多いため、その実現は容易ではありません。それでも、2017年に施行された改正銀行法により公式に認められるようになった資産管理ソフトの「Money Forward」や、クラウド会計「freee」などの新しいFintechサービスは注目に値します。
 現段階ではまだ、キャッシュレスサービスとはいえないかもしれませんが、今後はネットバンキングと連携して、銀行口座間の送金やさまざまな支払いにも利用できるようになるでしょう。個人の預金残高ばかりでなく、事業主や企業の決算書、確定申告書の全てを把握しているわけですから、すでに銀行やクレジットカード会社よりも正確に、信用管理ができる状態にあります。実際にfreeeは会計情報を元に、クレジットカードを発行しています。
 日本も遅ればせながら、民間企業による信用情報の構築とその利活用が始まったといえるでしょう。

電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ
執筆者:電子決済研究所/山本国際コンサルタンツ

多田羅 政和 (写真左、Masakazu Tatara)
株式会社 電子決済研究所 代表取締役社長。
カードビジネス専門誌『カード・ウェーブ』編集長、『モバイルメディア・マガジン』編集長を歴任した後、(株)シーメディア・ITビジネス研究所でマーケット調査やコンサルティングに従事、『電子決済総覧』『ICカード総覧』等の研究レポートの編集・執筆にも携わった。2009年7月に独立し、電子決済(クレジットカード、eコマース、電子マネー・プリペイドカードなど)、ICカード技術、生体認証技術、CRM・マーケティング(ポイントカード、電子クーポンなど)、ITセキュリティ(3Dセキュア、PCI DSSなど)といった、いわゆるICT全般に関連したビジネスを手がける調査・研究機関として、電子決済研究所を設立。2011年6月に同事業を法人化した。近著(編集協力)に『NFC総覧2010-2011』『電子決済総覧2011-2012』(iResearch Japan発行)、『NFC最前線2012』(日経BP社)などがある。


山本 正行 (写真右、Masayuki Yamamoto)
山本国際コンサルタンツ 代表。
主に決済サービス事業の企画、戦略立案を専門とするコンサルタントとして、銀行、クレジットカード関連会社、通信キャリア、鉄道会社などの事業化、サービス企画などを支援。
山本国際コンサルタンツは、電子決済、ICカード、モバイル、認証、CRM・マーケティング、ITセキュリティなどの分野で活躍するコンサルタントから構成される組合組織(2009年7月開業)。電子決済・ICカード・モバイル等ICT関連ビジネスの事業支援をはじめ、マーケティング支援、コンサルティング、教育、調査、外資系企業の日本参入に関するビジネスモデル調査・支援(非会計分野)、日本企業の海外進出、海外向け製品販売の支援などのサービスを提供する。
他に、山本コマースITオフィス事業主、関東学院大学経済学部経営学科講師、株式会社 電子決済研究所 取締役、(一社)電波産業会 高度無線通信研究委員会特別委員(モバイルコマース担当)も務める。講演、執筆多数。近著に『カード決済業務のすべて〜ペイメントサービスの仕組みとルール〜』(一般社団法人 金融財政事情研究会)など。

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